2003年度の記録 >> 研究会報告

シャムシア・アーマッド委員 報告Aクラスター(政治参画)Eクラスター(人間の安全保障)
Cクラスター(家族)Dクラスター(身体)Bクラスター(雇用と社会保障)
アーマッド氏 回答[ 1234 ] ◆質疑応答終わりに

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A,B,C,D,Eクラスター共催 研究会

◇公開研究会(A,B,C,D,Eクラスター共催、担当:尾崎久仁子教授)

◇質疑応答

Q1.

 只今出ましたいろんな論説とはちょっと違うことでもよろしいでしょうか。関連ということで、私は法律家ではありませんので、その辺で解っていないところがあるかもしれませんが、一般的に出産について女性が自己決定の権利があるということが現実として言われておりますね、それと、女性差別撤廃条約の中で男性と女性が出産に関して同一の権利を有するというのと矛盾するのではないかと思うのですが、この点を法律的にどのように考えたらよいのか、どなたでも結構ですので教えていただければと思います。条約でいうことと一般的に法律でどうなっているのかということが知りたいのです。

A.1
辻村:
 アーマッドさんからお答えがあるかもしれませんが、とりあえず、私からお答えします。これは確かにそうで、ヒューマライツと対照させていう場合のウェメンズライツというのを、一般的、普遍的なヒューマンライツとは違った、まさに女性の人権と考えてリプロダクティブライツといっています。まさに今言われたとおり、女性の自己決定権が一番それにあたりますね。中絶の決定権も最終的には女性にあるということは、まさにウェメンズライツの本質、中核なのだという議論が日本でもあると思うのですね。ただこれに対して条約では男女の権利が、セイムライツであるというふうに言われています。カイロ宣言では、これも私が調べましたら避妊について知識を得たり、あるいは出産コントロールをする男女又はカップルの権利と書いてあるのです。ですからリプロダクティブライツの主体が誰かということは国際文書を見た限りでは非常に曖昧になっている。国際文書は、例えば女性に対する暴力の撤廃宣言なんかを見ましても、権利の扱い方については非常に曖昧なところがたくさんあると考えています。これはおそらく私の推測といいますか、条約の性格といいますか、例えば中絶のあたりに反対するイスラム諸国とかの反対があって、中絶する権利を明確に女性の権利だと書ききれないものがあって、その矛盾が多々残っているのだろうと思います。ですから、私も今言われたようにまったく同じ疑問を持っていまして、国際条約がまだそういうライツの中身について練りきれていないのではないか、国際機関がまだそこまで到達していないのではないか、という感じをもっていますのでアーマッドさんがお答え頂ければ有り難いのですが、あるいは国際人権法専門の尾崎先生がお答えいただければ有り難いのですがいかがでしょうか。

A.1
アーマッド:
 では、出産権のことから始めたいと思います。これも実質的な平等に入ると思います。出産機能は大部分女性が持っていて、その影響を女性は男性よりずっと多く受けるのですから、女性の方が安全であればその方がフェアであり、正義に適っていると思います。けれども、男性よりどれだけ安全であるべきなのでしょうか。それは事情によります。今は結婚外のことをお話しているわけではありません。私はただ、カップルが結婚して家庭を築こうと決めた場合には、いわば共同責任を負うことになるということを申し上げております。女性は出産機能による影響を男性よりはるかに多く被るのですから、共同責任こそがフェアだと思います。ですから本当に、実質的にフェアでありたいと望むのであれば、女性がより安全であることこそがフェアだと思います。出産機能は男性より女性の方に、はるかに多くの負担を強いるからです。妊娠だけではなく、授乳もそうです。現在世界では2年間の授乳期間を認めておりますが、これは子供にとって良いことです。子供は女の子だけではなく、男の子も女の子もいます。そういうわけで、出産や再生、つまり人類の存続という点に関して、女性は現実に男性よりずっと多く貢献しておりますから、女性の方が安全に守られることこそが本当にフェアなのです。法律にするべきだと申し上げているわけではありませんが、法律に規定すれば司法制度まで行った時に効果を発揮します。けれども本当に正直にならなければなりません。男性はまったく影響を被りませんが、女性を見てください。妊娠期間は9ヶ月ですが、その前からすでに毎月の生理があるのです。この点に敬意を表し、高く評価しなければなりません。これはお金で価値を量ることのできないものなので、お金をもらうべきだと言いたくなければ、仕事をしないで子供を育てている女性のための年金制度も設ける必要があります。かつて子供を育てた人たちなのですからそれを勘定に入れるべきですし、それで私は年金制度、社会保障といったものをすべてひっくるめて考えなければならないと言っているのです。女性にとってフェアにしたければ、これこそがフェアなことです。出産で生まれるのは女の子ばかりではありません。男の子も女の子も女性から生まれるのです。そして女性は9ヶ月間妊娠し、2年間授乳します。その前にも、毎月の生理が何年間あるでしょうか。
 そして現在でも、家族計画があります。一部の女性、すなわち世界中で言えば多くの女性が、男性ばかりとは申しません、男性も女性も共に感情のコントロールが出来ないために、重大な悪影響を被っております。私の経験をお話しますと、私の養女は何年間も生理が起きないようにする家族計画を行なっていましたが、そのために環状動脈性心臓病に罹ってしまいました。医者が調べた結果それが原因とのことでした。ですから、どれだけの女性が悪影響を被っているかお分かりでしょう。そういうわけですから、そういうことを望むかどうか決める権利を男性が女性に与えれば、それが本当にフェアなことなのです。いったん結婚したら一緒に決めるべきですし、一緒に責任を負うべきなのです。責任の無い権利など存在しないと私は思います。男性が女性の権利を侵害すれば、女性の権利は無くなるのです。夫婦にとって大変きわどい問題ではありますが、現実をよく考えて理解するよう努めなければなりません。正直になり、積極的に努力すれば問題を解決することが出来ると考えております。

Q2.

 今日アーマッド先生のお話で指導の立場としてはテンポラリースペシャルメジャーが事実上の男女平等で必要であるというお話ですが、先生はこれが現在の社会の中でベストなメジャーだとお考えなのか、あるいは先生個人としてはこれ以外にもっとポスタライティブがあって本当はもっと良い制約があるんだけども、こういう状況が良いとお考えなのかご質問したい。例えば日本の場合は男女平等と言いましても実際は職場に置いては賃金差別が大変、あの、2分の1とか6割とかになっておりますし、役割分業というのがあるわけですね、ですからテンポラリースペシャルメジャーということがベストかどうかということについては、まだ議論があるのかなと思うので質問したいと思います。

A.2
アーマッド:
 条約に暫定的特別措置が入れられた理由は、法律によるこのような義務付けをしなければ、もっとずっと長い時間が掛かってしまうからです。なぜなら、私達は男性ばかりでなく女性の感じ方や考え方も変えていかなければならないからです。前に申し上げた通り、日本では憲法に明文化されておりますが、女性は意識の上でも心理的にもまだ準備が出来ておりません。男性も同じです。意志決定を行なう立場に女性を受け入れて対等とみなす準備がまだ出来ていないのです。男性だけでも女性だけでもなく、どちらもそうなのです。そこでそうするための一番良い方法は、差別撤廃措置やこの暫定的特別措置を法的に義務付けることなのです。
 それを守らない場合は、平行教育、訓練、唱導、社会化などのことをすべて同時に進行させなければなりません。インドネシアではそれを試みております。社会化も唱導も行なっております。というのは、社会化とは、いわば単に人々に目的をすべて教えて理解させることであり、唱導とは単に教えて理解させるだけではなく、励まして行動させることだからです。ですからこれらのことをすべて実施しなければなりません。それからまた教育制度、そしてすでに仕事をしている人々の訓練もあります。したがって同時に行なわなければならないことが山のようにあるのです。
 そこで私は協力関係、つまりネットワーク化の重要性を、特に訴えたいと思います。私が「日本女子差別撤廃条約NGOネットワーク」のネットワークを賞賛する理由はそのためです。私は実際に日本のNGOに挑戦してみた一人です。協力作業でやらなければうまくいきません。私が実地にやってみて分かりました。このインドネシア女性の平等ネットワークには女性の組織や機関が45あります。女性のためだけではありません。「政治における女性昇進のためのネットワーキング」です。つい最近、2つの決議に影響を与えました。一つは政党法であり、もう一つは選挙法です。前にも申し上げた通り、政党と選挙に影響を与えました。理由は、私共がこのようなネットワーク化を行なっているからであり、また「怒っているから」と言うべきではありません、議席を占める議員や政府の部局、司法制度、専門家などを支持しているからです。私共はワークショップを開催し、人々にセミナーを実施し、労働組合、雇用組合、また前に重要だと申し上げました法科大学院などを作っております。そういうわけで、皆様は本当に研究作業の中でこれを実際に行なわなければなりません。皆様は、政治に携わる女性にとって誰が戦略上の利害関係者かを分析することができます。私は、立法府、政府、司法制度、そして政党を確認します。なぜなら、これらの人々が有力な候補者だからです。そこで私共はセミナーやワークショップを開催いたします。けれどもただ話をするだけではなく、少なくとも国内外の資料を提供します。この国の事情はこれこれといったような資料で、これは大変大事なことです。これも学者の仕事です。分析、調査、統計を行ない、この統計を分析しなければなりません。
 またもっと重要なことは「年齢」で、これは非常に重要です。なぜなら、「(女性は)もういるではないか」と言われるからです。けれども、現在インドネシアの議会にいる女性はたいてい70歳以上です。高齢ですよね。ですから世代交替が必要です。若い人が参入しなければなりません。利害も異なります。年齢グループによっても利害は異なります。男性と女性だけではありません。
 このように、方法は他にもたくさんあります。法律的な方法はその一つに過ぎません。そしてもう一度、皆様に念を押したいと思います。法律を制定するプロセスは、真に参加型で透明で、建設的な対話を行なうものでなければなりません。実際には、話し合いをしているとどこにも辿りつきません。私の経験から言うとそうですが、なんとかある程度達成することが出来ました。
 そしてまた、家庭の教育、学校の教育、教師の教育をすることです。履修過程に性差が無くとも、教科書にはまだ性差に対する偏見があります。教師を教育できれば教師が行動してさらに実を上げることが出来ます。なぜなら父親が職場に行き、母親が食事を作るというイメージがあるため、学校にもそのイメージがあるのです。けれども教師が良ければ、教師が変えることができるはずです。そういうわけで、方法はたくさんあります。

Q3.

齋藤:
 先程、植木先生が出されたのと同じ疑問を持っています。男女平等条約を見ますと、直接個人に権利を与えるというのではなくて、政府は措置をとるとするものが多いですね。司法は締約国政府の機能の一部なので、裁判所もその立場から措置を講じる義務を負う、と解していいのでしょうか。
 その場合、結局個人に権利を直接認めると解釈するかどうかという事はそれぞれの国に任せるという事なのでしょうか。その点を確認したいのですが。

A.3
アーマッド:
 私は現在、各種の国際条約を分析する仕事に着手しております。多くの場合は政府が強調されますが、私は本当に思うのです。国際条約や協定で出席するのは政府です。つまりすべての政府とは限りませんが、条約に参加して法令に署名をするのは政府や首相や大統領や大臣だと理解しております。でもいったん国家の名前を持ち出したからには、その国の社会の全構成員に対して自動的に責任が掛かると私は考えております。そして申し上げなければなりませんが、それぞれの社会には必ず議会があり、司法制度があり、大学があります。ですから、国家社会の構成要素の一つ一つが責任を負っていると私は考えます。国家が拘束されているからということではなく、また国内の制度がどのようになっているかということはその国の問題です。でもはっきりしていることは、出席するのは政府でも、それで学者の方々、法律家の方々などが責任を免れるわけではないということです。全員が、またすべての団体や機関が責任を負っていると私は信じております。私共はしばしば、「私はいま政府のNGOにいるのになぜですか」と言って政府を非難します。「私はNGOに所属していませんよ」と皆様がおっしゃるなら、それは違うと私は申します。私達も皆責任を負っているのです。そして私は、政府が私達の言うことに耳を傾けない場合は政府に呼びかけて、「私には政府と同じ位責任があるのです」と言いました。また政党にも呼びかけて、「あなた方には責任があるのですよ。逃げることは出来ないのです」と申しました。というのは、インドネシアの制度では、議会に人を送ることの出来るのは政党だけだからです。法律は誰が作るのでしょうか。ですから政党には責任があり、その責任から逃れることはできないのです。そういうわけですから、私たちが社会の中に育まなければならないのはこの点だとおもいます。全員に責任があるということです。役割分担はあっても全員に責任があるのです。それが理由です。

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シャムシア・アーマッド委員 報告Aクラスター(政治参画)Eクラスター(人間の安全保障)
Cクラスター(家族)Dクラスター(身体)Bクラスター(雇用と社会保障)
アーマッド氏 回答[ 1234 ] ◆質疑応答終わりに