◆シャムシア・アーマッド委員 報告 ◆Aクラスター(政治参画) ◆Eクラスター(人間の安全保障)
◆Cクラスター(家族) ◆Dクラスター(身体) ◆Bクラスター(雇用と社会保障)
◆アーマッド氏 回答[ 1|2|3|4 ] ◆質疑応答 ◆終わりに

A,B,C,D,Eクラスター共催 研究会
◇公開研究会(A,B,C,D,Eクラスター共催、担当:尾崎久仁子教授)
12月15日(月)13:30〜16:00 アエルビル28階「エル・ソーラ仙台」大研修室
「女子差別撤廃条約と日本法」
女子差別撤廃条約委員会 シャムシア・アーマッド委員
パネリスト:辻村みよ子教授、水野紀子教授、植木俊哉教授、齊藤豊治教授、嵩さやか助教授
◇シャムシア・アーマッド委員 報告
まず「こんにちは」を申し上げてから、何よりもお招きいただいたことに感謝を申し上げたいと思います。おそらく、このグループが世界で初めてということになると思います。さて、私は皆様がご自分達の手段で、今なさっていることを実際にどんどん進めていかれるよう希望いたします。この雇用機会均等の研究拠点で、国際的に最先端の課題だと私が思っておりますジェンダーの問題や、人間の尊厳と人権の問題を取り上げようと皆様が行動を起こされましたのは、非常に特別なことだと私は理解しております。その点を賞賛しておりますので、お招きいただいたことを本当に光栄に感じております。申し上げておきますが、私は法律家ではありません。けれども私は、法律を今も教えている法律家や、法律を適用する人々と一緒に仕事をしてまいりましたし、また現役の弁護士や検事と意見交換をしたこともございます。現に私の父は、検察局の地区長をしております。
そういうわけですから、女子差別撤廃条約に関連してここに来られましたことは本当に素晴らしいことです。最初に強調しておきたいのですが、この女子差別撤廃条約を日本やインドネシアも含めて様々な国が批准したということは、国家(state)が法的道徳的にこの条約の諸原則の実行を自らに課したということを意味しております。国際条約を批准して相当な法律を作るという場合、それは皆でそうするということであって、国家とは政府だけではないのです。女子差別撤廃委員会と連絡を取るのは政府であっても、国家とはその国の個人一人一人のことなのです。ご存知の通り私は女子差別撤廃委員会のメンバーですが、この委員会は、締結国がこの条約をどこまで実行しているか、また実行していない部分をどこまで実行するかを監視するために創設されたものです。そのためにこの委員会は監視組織なのでありまして、私共は政府と対話を構築して特定の条項が実行できなければその理由を探し出し、可能であれば実行方法を話し合って助言を行なうことになっております。女子差別撤廃委員会はこのようなものです。
私が「国家」という言葉を使う場合、それは行政府と立法府と司法府を含めて指しております。また社会全般をも指しております。社会には個人や個人のグループや、また労働組合、雇用者組合、あらゆる種類の学会などの職業団体があります。ですから女子差別撤廃条約の実行に関する責任は、その一つ一つが現に負っているのです。憶えておいていただきたいのですが、私は今ここで女子差別撤廃委員会を代表してお話しているわけではなく、この委員会の元メンバーとしての個人的な見解をお伝えしているのです。私共は、インドネシアも含めた各国で合意を得ました。立法府は私に「それは政府の責任だ」と言っておりましたが、それに対して私は次のように言いました。「そうではありません、私達が話し合いをするのは政府ですが、これは国家の責任なのです」と。
さて、法律家ないし専門家のグループとして皆様の下した決定がいかに重要なものかということをお話したいと思います。皆様はすでにこの条約を批准なさっているのですから、法的に確約をしておられます。条約の第1条にはこの条約の趣旨、つまり定義が説明されており、第2条は締結国がそれを調停して法律を制定し、憲法を改正するよう実際に求めております。このこと全体が実は法的な部分から始まるのです。ですから皆様の決定はきわめて重要なものだと考えております。また法律を変えるためには非常によく熟慮する必要があります。結局のところ法律は、過去と現在、社会の市民が支持する信念と価値とを反映するものだと私は考えております。ここにお集まりの方は皆さん法律家ですから、間違っていれば言ってくださってかまいませんが、私はそのように理解しております。それだけではありません。どんどんグローバル化されていく今の世界で、情報通信技術は輸送も含めて非常に速くなっております。ですから国や国民を問わず、国境の内側に留まっていることはもはや出来ません。今ではあらゆることがオープンになりました。このような状況では、法律にも未来への備えを反映させなければなりません。法律もまた、浮上する数々の課題や難問に対処するべく、常に更新していかなければならないのです。ですから法律専門家にとっては本当に難問が増えておりますし、私が本日お招きいただいて大変嬉しく思っているのもそのためだと思っております。私は法律家のご意見を伺いたいと思っているからです。
そうなれば、政府つまり締結国はその法律を介して自国の政策を立案します。つまり、多くの国はプログラムや政策は変更しても法律は変えません。また他にも実施しなければならないことがたくさんあります。配布していただいた論点を読みますと、ここにお集まりの法学の先生方は、この国の社会保障制度、雇用制度、退職制度など、いろいろなことをすでに検討し始めておられるように見受けられます。女子差別撤廃条約を実行するという国家としての義務を果たすために、現在難問に直面しておられるようです。なるほど、法律もありますし、政策やプログラムもおありですね。それでしたら、次はこの政策やプログラムで皆さんの目標がどこまで達成されるかを評価するために、監視していかなければなりません。また指標も設けなければなりません。きわめて明確な指標を設けることなくして、条約の原則に沿ってすでに実行して来たすべてのことを、どうして確認することが出来るでしょうか。指標は皆さんが学問の世界で開発することが出来ます。これが非常に重要なことだと私は考えております。ただし、ご自分達だけでは出来ません。社会全体と協力して取り組まなければならないでしょう。
私達全員で協力して実行方法を探り、実行する努力を行ない、達成度を測るための指標を開発することが出来るようにしなければなりません。女子差別撤廃委員会への報告書の作成に社会全体が貢献するべきなのはそのためです。委員会への報告書の作成が、この法律の目的であると私は考えております。原則よりもっと大事なのは、国内で実行されるということです。私共女子差別撤廃委員会は何をするのでしょうか。私共は政府の報告書を吟味して指導を行なわなければなりません。また民間団体からもそれぞれの報告書が提出されてくるのですが、政府の報告書とあまり明確に一致していない場合もよくあります。そのようなNGOの報告書にこそ大学がその役割を果たして、委員会に報告されてくることが実際に実施されているかどうかを確認していただきたいと考えております。つまり、政府が実施していることと実施していないこと、NGOが実施していることと実施していないことをです。政府にしか出来ないことがあり、NGOにしか出来ないことがあり、また大学にしか出来ないことがあります。皆様方は実に社会全体を動かす機械であり、原動力だと思います。そうあるべきなのです。皆様はあの国際会議のことをよくご存知でしょう。1999年に開催されたあの国際会議では日本もきわめて重要な役割を果たしましたが、そのテーマは21世紀に向けた社会の照準を定めております。その重要性を強調させていただきたいと思います。女子差別撤廃委員会のメンバーとしては、政府報告書の中にその国の大学関係者の仕事が反映されていることを期待するのですが、そのような反映はあまり見かけられません。多くは政府がすでに行なっていることの反映であり、政治的な議論です。NGOの報告からは得るものがあり、私共の尊敬を勝ち得ております。NGOが報告する事実は一般にきわめて詳細でよく調査されておりますが、稀有な事例しか報告されていないこともあり、そのような場合、私共はどうすることもできません。ですから、その国の実際の状況が反映されるよう、学会が重要な役割を果たすべきだと思っております。
第二に、司法の重要性も強調したいと思います。皆様の中で何人の方が司法関係でいらっしゃるのかは存じません。私はインドネシアの司法当局と仕事をしたことがありますが、司法当局の職員にこの条約のことを知ってもらわない限り非常に困難です。条約の存在さえ知らない場合も多くあります。国家がすでにこの条約に法的に拘束されていることさえ知らないのです。知らなければどうして実行することができるでしょうか。また司法当局だけでなく、そこで働くこのような人々は大学から来ているため、出身母体でありそこで教育を受けている法科大学院へと戻っていきます。インドネシアにおける私共の戦略的グループの一つは法科大学院で、ワークショップを開催したことがあります。法科大学院の学生は皆法律家や専門家になりますが、国がこの条約を批准したことを知らなければどうしてその原則を知り、実行するでしょうか。
ですから私は今、法律を変えるならさらに進んで司法当局で働く人々の考え方も変えなければならないし、また社会全体の考え方も当然変えなければならないと心底考えております。考え方を変えなければ順応してしまうからです。司法当局がこの規則や正義を支持できると期待することができるとは思いません。なぜなら、国際的な人権や人間の尊厳、すべての国が合意した条約のほかに、真実や正義もまた憲法と国民に反映されるべきものだからです。私たちは皆国連のメンバーですので、国際的な人権に何とか近づいていかなければならないと思います。私たちはまだそこに到達していない可能性があります。インドネシアもまだです。
ここには憲法の専門家、国際法の専門家、児童法の専門家、刑法の専門家、そして社会保障法の専門家がいらっしゃいます。そろそろ締めくくらなければなりませんが、私が強調したいのは、あらゆる場所で手を携えて仕事をしなければいけないということです。対話を築き、非難しあったり、相手のせいにしたりするのを止めなければなりません。責任を擦り付け合うと、一緒に座って腹を割って話し合うことが出来なくなることが多いのですが、実際にはそうしてしまうことがどれだけ多いことでしょう。これが契機となって、あらゆる専門家やすべての関係者の間で建設的な対話が進み、最善の方法が見つかることを心から願っております。
女性の人権のための性差別撤廃は、女性のためだけに行なうのではありません。一般的な平等と司法の平等は、年齢を問わず女性と男性のため、そして児童と高齢者のために行なわれます。私の母国ではまだ理解されていない場合も多く、ジェンダーとは女性のことだと考える人々も多いのですが、それはまったくの間違いです。性差別撤廃にしても司法の平等にしても、ただ単に平等だけを言うことは「2かける2は4」と言うのと同じであり、間違いです。男性と女性には違いがあります。私達は異なった扱いを受けていますから、ニーズも異なり、物の見方も異なり、行動も異なるのです。この点が、私達の取り組むべき課題です。法律家は、私達の未来、現在と未来を調整するための手助けをする人々なのです。
ご静聴いただき有難うございました。

◆シャムシア・アーマッド委員 報告 ◆Aクラスター(政治参画) ◆Eクラスター(人間の安全保障)
◆Cクラスター(家族) ◆Dクラスター(身体) ◆Bクラスター(雇用と社会保障)
◆アーマッド氏 回答[ 1|2|3|4 ] ◆質疑応答 ◆終わりに