◆シャムシア・アーマッド委員 報告 ◆Aクラスター(政治参画) ◆Eクラスター(人間の安全保障)
◆Cクラスター(家族) ◆Dクラスター(身体) ◆Bクラスター(雇用と社会保障)
◆アーマッド氏 回答[ 1|2|3|4 ] ◆質疑応答 ◆終わりに

A,B,C,D,Eクラスター共催 研究会
◇公開研究会(A,B,C,D,Eクラスター共催、担当:尾崎久仁子教授)
◇パネリストの論点の説明
3.Cクラスター(家族) パネリスト:水野紀子 教授
民法を専攻している水野紀子でございます。専門の関係で家族法の立場でコメントをさせていただきます。主に民法改正についての論点です。女性差別撤廃委員会の最終コメントは371条で民法の改正、家族法の改正についてコメントしています。家族法の重要な目的は弱者を保護することであると思います。家庭は、子供、生まれたての赤ん坊という絶対的な弱者を生ずる場所でありますし、そこには介護とか家事とか育児とかいう多くのアンペイドワークを内包する場所であります。その結果そのようなアンペイドワークに従事している者に対して法律によって権利を与える必要があります。
このような家庭という場の性格を考えますと、機械的に男と女、夫と妻を完全に同じに扱えば足りるわけではありません。この両者の間の真の平等のためには、形式的に不平等となる場合であったとしても弱者を保護する必要があるかと思います。一方、機械的に完全に同じ権利を保障する条文が、実際には、それが社会の不平等を反映して、家庭の中での不平等を固定化してしまうという危険もあります。例えば氏の規定は夫婦平等に選択権が与えられていますけれども、それは社会の不平等を反映して、実際には非常に不平等な権利、妻が氏を失う結果を固定している例があげられます。もう一つの例として、これは委員会では指摘していませんが、協議離婚という日本の独特なあまりにも簡単な離婚制度がその例としてあげられるだろうと思います。日本民法の問題点としては、むしろこのような社会の不平等がそのまま当事者間に現れて合法的なものとして固定化しまう条文の問題のほうが、緊急な改正課題だと私は思います。
民法の改正点を指摘していただいたのは有り難いことですが、民法典のこのような性格、つまり機械的に男と女、夫と妻を同じにすることが、必ずしも真の平等の、真の弱者保護の為には働かないという懸念があります。その観点からは委員会の指摘はいかがなものかと思う点がいくつかございます。お手元の資料をご覧ください。
まず男女で婚姻適齢が異なることの改正を要求する指摘ですが、男性が18歳、女性が16歳という婚姻適齢の差につきまして、実際には合理性があるという実務家の見解が多いのです。民法の改正に関する平成8年法制審議会提案では、結論としては18歳に一致させることにいたしましたが、私も参加しておりました審議では反対意見がかなり多くありました。16歳から18歳の間に結婚している若い女性のケースを、家裁実務家は良く知っております。そのジェネレーションの少女達が結婚する必要性があるのは、彼女達が妊娠しているからです。このようなジェネレーションの女性達が生活を立て直して行くためには2つの重要な契機があり、それは「母親となる契機」、それから「結婚するという契機」だそうです。この2つの契機を利用して立ち直れる少女達は立ち直れるのだけども、その契機を失ってしまうと立ち直れないままであるという少女が多い。そして、16歳から18歳の間に妊娠した少女達にとっては、正規にその子供の父親と結婚することによって、立ち直らせる必要性が高いため、この期間のメリットは大きい。このメリットを考えずにもし男性と同じ18歳に合わせてしまうと、この少女達を救うことができなくなってしまうという見解を審議の過程で多くの実務家が表明しておりました。この条文は、妊娠するという女性の特性によって必要となる年齢差であって、必ずしも差別ではないと私は考えます。日本の母法でありますフランス法もこの点では日本より大きい18歳と15歳という年齢差をとっておりますがこれを差別という形で批判して改正しようという動きは少なくとも民法学者の間にはあまりございません。
それから、非嫡出子の相続分差別の点ですが、これはご存知のようにフランス2001年12月3日法の改正相続法が差別を撤廃しております。この点につきまして、委員会としては日本民法も相続権を平等にした方がよいという立場にたっておりますが、ただこの点だけを訂正することは、現実には女性にとって大きな不利益をもたらすだろうと、私は考えております。フランスの2001年法は、実際には、非嫡出子差別を撤廃すると同時に配偶者相続権を著しく大きく強く改定し、改正しました。このような改定が同時に必要だと思います。この必要性はフランス法よりもはるかに日本法の方が強いと思われます。と申しますのはフランスの場合には夫婦財産制の共有持ち分の精算として、妻が相続権以外に財産を取得しますし、居住家屋については、別途、家族の居住権を配慮して手当てしておりますが、日本は妻の保護が非常に不十分でございます。夫婦財産制と合わせて考えたときには、日本の妻の相続分の取り分はフランス人の妻が夫婦財産制の精算によって得るものだけですから、いわば日本の妻の相続分はゼロに等しい。そのような財産で妻の何年もの老後を守っていくことはできません。嫡出子は妻である母の老後の扶養義務者ですが、非嫡出子はそうではありませんから、たとえば妻の居住家屋だけが相続財産であったときに、妻が家を出て売却して分けなくてはいけないケースが増えるでしょう。ですから機械的に非嫡出子相続分だけを平等にすることを今、日本政府に迫ることは、むしろ日本の女性の地位を悪化させてしまうという結果をもたらすように危惧いたします。
3番目のテーマは、再婚禁止期間についてです。これは嫡出推定という民法の技術的な規定の結果としてもたらされる条文です。これも日本の母法でありますフランス法が日本よりも遥かに長い300日間の再婚禁止期間を持っておりますけれども、それもやはり差別ということで改正が問題になっている状況ではございません。これは説明が技術的な問題で長くなりますので、ここでは省略いたします。もし議論の中で必要となれば説明をいたしますが、これは平等というよりも子供に確実に父親を与えるためのやむをえない制度であると考えております。以上で私の方からは終わらせていただきます。

◆シャムシア・アーマッド委員 報告 ◆Aクラスター(政治参画) ◆Eクラスター(人間の安全保障)
◆Cクラスター(家族) ◆Dクラスター(身体) ◆Bクラスター(雇用と社会保障)
◆アーマッド氏 回答[ 1|2|3|4 ] ◆質疑応答 ◆終わりに