学生へのメッセージ
私の担当している国際法は、主として国家と国家の間を規律する法です。国際社会では主権を持っている国家が併存しており、そこでの法のあり方と国内社会における法のあり方は大きく異なっています。国際紛争は法的に解決されるとは限らず、交渉を重ねて政治的な妥協によって決着したり、解決に至らないままに残されたりすることもあります。しかし、国際社会には政治体制や文化・社会的なあり方が様々な国家が存在する中で、国際法は意味のある対話・交渉を可能とする最小限の共通了解を提供しています。交渉が決裂し対立が先鋭化しても、現実には大国であっても国際法を完全に無視することはできず、国際法を基準として自国の主張を正当化し、国際法を基準として他国の主張を批判するという営みが日々真剣に行われています。他方で、現代の国際社会では国家間の相互交流と相互依存がますます深化しつつあり、対外的な問題についてはもちろんの
こと、国内的な法制度・政策の問題について国際法を考慮しなければならない場面も極めて多くなってきています。国際法を
「使う」場として最もイメージしやすいのは外交かもしれません。しかし、自国にとって重要な政策目標を実現するために他国との協力が不可欠な分野では、国内の行政を考える上でも国際法による規律を十分に理解する必要があり、また国内裁判所における訴訟で国際法の解釈・適用が問題となることも稀ではありません。国際関係に関心のある方はもちろんのこと、国内の法曹や国・地方自治体の行政官を志望されている方にも、国際法に関心を持っていただければと思います。
また、皆さんの中には、国際社会における大きな課題に取り組む仕事に就きたいと思っている方もいるはずです。法という道具を使うことによって国際社会の課題に取り組むのも一つのアプローチであり、国際裁判所はもちろん、国連をはじめとする国際組織では常に国際法の専門家が求められています。国際法の知識を活かして国際公務員になるためには、学部を卒業後、大学院に進学して国際法の学位を取得する必要があります。国際関係一般に関心がある方は、学部レベルでは国際関係に特化した学部で国際法を学ぶことも考えられますが、国際法も法学の一分野として発展してきており、国内法の考え方が基礎にあるため、国際法の専門家として実務で活躍するためには、法学部で法律学の基礎を習得することには利点もあります。
国際法の実務との関係では、東北大学法学部には伝統があり、名誉教授の小田滋先生、そして故山本草二先生はそれぞれ国際司法裁判所、国際海洋法裁判所の判事として国際的に活躍されました。こうした伝統を引き継いで、将来国際的に活躍したい!という方を国際法の授業でお待ちしています。また、授業以外で国際法を「使う」ということをより身近に感じられる場として、東北大学法学部では「倶楽部国際法」という自主ゼミが活動しています。架空の国際紛争を題材とした国際法模擬裁判の大会への出場を主として活動しており、国際法を使って問題に取り組む面白さが感じられると思いますので、是非覗いてみてください。
学歴および職歴
学歴
2003年 3月 東京大学法学部第二類卒業2005年 3月 東京大学大学院法学政治学研究科研究者養成コース修士課程修了
2011年 3月 東京大学大学院法学政治学研究科総合法政専攻博士課程修了
職歴
2010年 4月 東京大学グローバル COE 特任研究員2010年10月 東京大学大学院公共政策学連携研究部特任助教
2011年 4月 東京大学大学院公共政策学連携研究部特任講師
2012年 4月 東北大学大学院法学研究科准教授
学会及び社会における活動等
所属学会
・国際法学会・国際法協会日本支部
・世界法学会
・日本海洋政策学会
・日本空法学会
・American Society of International Law
社会における活動事項
・総合海洋政策本部参与会議「海域の利用の促進等の在り方PT」外部有識者(2016年7月~2017年3月)・外務省 国家管轄権外区域の海洋生物多様性(BBNJ)の保全と持続可能な利用に関する準備委員会会合日本代表団アドバイザー(2016年3月~2017年12月)
・海洋研究開発機構「IOC協力推進委員会 海洋法・国際協力国内専門部会」委員(2015年4月~)
・「大陸棚延長助言会議」構成員(2015年2月~)
・笹川平和財団「日中東シナ海安全対話検討委員会」委員(2014年10月〜)
・海上保安大学校 国際海洋政策研究センター客員研究員(2014年6月〜)
・日本国際問題研究所「『領土・海洋・空に関する国際法及び国際慣行』研究会」委員(2014年6月〜2015年3月)
・日本国際問題研究所「世界における『島』をめぐる領土問題等(国際判例の有無等)研究プロジェクト」委員
(2013年6月〜2014年3月)
・日本国際問題研究所「『日本の領土をめぐる関係国等の主張と国際世論』研究プロジェクト」委員(2013年6月〜2014年3月)
・日本水路協会「大陸棚延長に関する国際情報発信研究委員会」委員(2013年4月〜2016年3月)
研究業績等に関する事項
[論文][2017]
・「南シナ海仲裁判断の意義――国際法の観点から」『東北ローレビュー』第4号(2017年)15‐52頁
[2016]
・「国家管轄権外区域の海洋生物多様性の保全と持続可能な利用 : 新たな国際制度の形成とその国内的な影響」『論究ジュリスト』19号(2016年)7‐13頁
・「極海コード採択後の北極海の航行規制」『国際協力論集』24巻1号(2016年)57‐63頁
[2015]
・「国際海事機関(IMO)を通じた国連海洋法条約体制の発展」『国際問題』642号(2015年6月)28‐36頁
・「延長大陸棚における国内法令の適用・執行」『海上法執行活動に関する諸問題の調査研究 研究報告書』(海上保安大学校国際海洋政策研究センター、2015年)77‐87頁
[2014]
・“The Role of International Organizations in Disaster Response: A Case Study of Recent Earthquakes in Japan”, David D. Caron et al. (eds.), The International Law of Disaster Relief (Oxford University Press, 2014), pp.295-313
・「北極航路における沿岸国規制と国際海峡制度」『海洋政策研究』特別号(2014年)23-40頁
・「南シナ海における中国の主張と国際法上の評価」『法学』78巻3号(2014年)225-259頁
[2013]
・「スヴァールバル諸島周辺海域の国際法上の地位」奥脇直也・城山英明編『北極海のガバナンス』(東信堂、2013年)143-168頁
・「海洋管轄権の歴史的展開(六・完)」『国家学会雑誌』126巻3・4号(2013年)246-296頁
・「海洋管轄権の歴史的展開(五)」『国家学会雑誌』126巻1・2号(2013年)55-111頁
[2012]
・「海洋管轄権の歴史的展開(四)」『国家学会雑誌』125巻11・12号(2012年)551-609頁
・「海洋管轄権の歴史的展開(三)」『国家学会雑誌』125巻9・10号(2012年)413-476頁
・「海洋管轄権の歴史的展開(二)」『国家学会雑誌』125巻7・8号(2012年)283-336頁
・「海洋管轄権の歴史的展開(一)」『国家学会雑誌』125巻5・6号(2012年)159-209頁
[2008]
・「海洋秩序の維持におけるソフトローの機能――漁業資源の保存管理と海洋環境の保護」小寺彰・道垣内正人編『国際社会とソフトロー』(有斐閣、2008年)59-85頁(奥脇直也と共著)
[2005]
・「便宜置籍船問題」の再検討」本郷法政紀要14号(2005年)195-227頁
[判例評釈]
・「南シナ海仲裁」『平成28年重要判例解説』(2017年)304‐306頁
[その他]
・森川幸一ほか『国際法で世界がわかる<ニュースを読み解く32講>』(岩波書店、2016年)(第18章執筆)
・小笠原高雪・栗栖薫子・広瀬佳一・宮坂直史・森川幸一編『国際関係・安全保障用語辞典』(ミネルヴァ書房、2013年)