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国際シンポジウム「両性平等と積極的差別是正措置」
ÉGALITÉ DES SEXES ET DISCRIMINATION POSITIVE
---- ANALYSE JURIDIQUE COMPARATIVE
内容|日時・場所|プログラム|タイムテーブル|挨拶|報告者|出版
■『手続型ポジティブ・アクション』理論の内省的考察
水町勇一郎(東京大学社会科学研究所助教授)

要旨
「ポジティブ・アクション」がいま世界中で注目を集めつつある。なかでも、「手続促進型ポジティブ・アクション」を推進してこうとする動きが強い。それは、社会の多様化・複雑化のなかで機能不全を来たしている従来型の法的アプローチ(「ルール強制型アプローチ」)に代わる新たな法的アプローチとの側面をもっている。
この新たな動きを支える法理論として2つのものが提唱されている。ひとつは、アメリカのSusan Sturn(コロンビア大学)によって主張されている「構造的アプローチ」の理論であり、もうひとつは、フランスのAntoine Lyon-Caenなどによって提唱されている「法の手続化」理論である。このふたつの法理論は、(1)社会の複雑化に対応する新たな法理論として提唱されたものである、(2)実体的ルールよりも手続(特に集団的で外部に開かれた交渉)を重視している、(3)法の役割はこの手続の公正さを事後的に判断することにある、としている点で共通点をもっている。しかし、「構造的アプローチ」は経済的思考にその基盤をもち、「法の手続化」は哲学的思考を基盤としている点で、両者には違いがみられる。そこには、哲学を基盤としつつ経済学的にも効率的な新たなアプローチを統合的・発展的に構築していく可能性を見出すこともできよう。
もっとも、これらの動きのなかにはひとつの重要な問題も潜んでいる。それは「前近代」への回帰の動きである。特に「近代」的制度が社会のなかに十分に根づいていない日本では、その危険性は深刻なものとなりうる。それを克服するためには、透明で開放的な交渉空間を形成し、そこで複合的な観点から内省的調整が行われることを促すような法制度を作っていくことが重要である。
未来は、そこに関わる人びとの英知と創造性にかかっている。