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国際シンポジウム「両性平等と積極的差別是正措置」
ÉGALITÉ DES SEXES ET DISCRIMINATION POSITIVE
---- ANALYSE JURIDIQUE COMPARATIVE

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■日本法における差別概念の考察

山元一(東北大学法学研究科教授)

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要旨

 差別に対する取組みは、日本では、依然として主要な政治的社会的争点である。――国家の近代化のための2度目の改革である――1946年の日本国憲法は、この問題について、かなりの前進をもたらしたが、その条文では、「差別」という言葉が単に2度用いられているに過ぎず、「差別」という言葉の定義はされていない。また、日本には、独立の権利章典は存在しない。確かに、重要な法律が制定され、それが適用される分野では、消極的差別が禁じられてはいる。さらに、外圧によって、「人権擁護施策推進法 」を、日本は制定した(1996年)。しかし、差別的な慣行に対処する法制度の実現を目指した法案が、国会で、非常に激しい反対にあったことは、象徴的な出来事である(「人権擁護法案」は、2002年に初めて国会に提出されたが廃案となり、2005年、改めて議論となっている)。
 ――(婚姻年齢に関する議論、女帝問題や強姦罪に関する論争が示すように、)特に、性別に基づく差別に関する――日本の学説と判例では、「合理的差別」と「非合理的な差別」とが区別されている。その他の議論としては、非嫡出子の相続分の問題が、差別を違憲と判断するための方法を明らかにし、我々に、日本法における差別のとらえ方を示している。これについては、実際の事件がないので、「積極的差別」という手法の合憲性の問題は、日本の裁判所ではまだ判断されていない。理論的には、クオータやパリテといった積極的差別という政策の採用には、憲法学説は、――差別状況の革新的な改善への期待と、「逆」差別の危険に対する漠然とした疑義が引き起こす不安とに引き裂かれており――依然として非常に慎重である。例えば、辻村みよ子教授によれば、積極的差別という政策は、「実質的平等確保のための特別な措置として、過渡的に、一定の明確な基準と範囲、…(すなわち)根拠や目的、手段が合理的な範囲に限って」合憲と認めることができる。最後に、――男女の雇用機会の均等に関する議論や夫婦の氏に関する議論が示すように――間接差別という概念が、学説上は違憲の推定が働く手がかりとして、ますます用いられてきている。
 このように、差別に対する取組みに前進が見られるのは確かだが、無為無策という姿勢は依然として根強い――まさに議会がその筆頭であり、裁判官もそれに異議を唱えることには消極的である――。ジャック・シュヴァリエ教授の言葉を借りるならば、おそらくとりわけ日本では、「法の力だけで、(差別を)根本的に解消しようとすることはできない」のである。