東北大学

2023(令和5)年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について(一般選抜(後期))

一般選抜(後期)

第2次選考:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)
問題 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法
出題趣旨 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法

一般選抜(後期)

第2次選考:3年間での修了を希望する者(法学未修者)に対する小論文試験
問題
出題趣旨

出題趣旨

<公法(憲法)>

問題1

一般に,集会の自由の意義は表現の自由の意義と同様に解されている(最大判平成4年7月1日民集46巻5号437頁参照)。これは,集会の自由に表現の自由の一形態としての側面があると解されているからであるが,多数人が特定の場所に集合するという行動を伴う点で言論や出版の場合とは異なる側面も有している。問題1では,表現の自由(この場合,言論・出版の自由には限られない)と集会の自由との共通点と相違点に触れつつ説明することが求められている。

 

問題2

集団示威運動については,「動く集会」と捉えるか,「表現」と捉えるか,という違いがあるが,憲法21条1項により保障されるという点に争いはない。「思想表現行為」としての「集団行進又は集団示威運動」は「参加する多数の者が,行進その他の一体的行動によってその共通の主張,要求,観念等を一般公衆等に強く印象づけるために行うもの」といえるが(最大判昭和50年9月10日刑集29巻8号489頁),問題2ではこうした集団示威運動の特徴にも触れつつ説明することが求められている。

 

問題3

いわゆる公安条例は,集団示威運動等については事前の許可または届出が必要であると定めるものである。問題3では,許可制というシステムの特徴を踏まえた上で,集団示威運動等についての許可制を採用している新潟県公安条例または東京都公安条例が問題となった判例(最大判昭和29年11月24日刑集8巻11号1866頁・最大判昭和35年7月20日刑集14巻9号1243頁)に触れつつ説明することが求められている。

 

問題4

問題4は泉佐野市民会館事件最高裁判決(最判平成7年3月7日民集49巻3号687頁)を素材としたものであるので,同判決に即して説明することが求められている。

<民事法(民法)>

1 第三者の詐欺と代理関係が絡む事実関係の下での意思表示の取消しの可否が問題となる比較的単純な事案を素材として、的確に適用条文を挙げ、事実に当てはめて結論を導くことができるかを試す、基本的な事例問題。

 

2 非典型担保である譲渡担保の利点を典型担保と比較して説明させることを通じて、制度の特色や機能に関して、他の制度との関係を意識した体系的・大局的な理解ができているかを試す、基本的な説明問題。

 

3 「財産権を目的としない行為」(民法424条2項)は詐害行為取消権の対象とならないとされることの意義が理解できているかどうかを、相続放棄を例に説明させることによって試す、やや発展的な説明問題。

 

4 親権者がその子を代理してした行為が利益相反行為に当たるか否かが問題となるやや複雑な事実関係について、民法826条を摘示し、利益相反の判断基準及び利益相反行為がなされた場合の効果について論じたうえで、自己の採用する判断基準に基づいて結論を導くことができるかを試す、やや発展的な事例問題。

<民事法(商法)>

第1問

事業譲渡は,going concernを移転する(現金化する)ものであって,将来の収益源を移転するものであるため,株主に対する影響が単なる財産譲渡に比べて遙かに大きいものであることが理解されているかどうかを問う出題である。

 

第2問

利益相反取引(直接取引)が行われた場合に,転得者の保護がどのように実現されるのか(判例によるのであれば,いわゆる相対的無効)を問う出題である。

 

第3問

計算書類承認に関する株主総会決議の取消の訴えが提起されている場合に,いわゆる「取消の連鎖」が発生し,訴えの利益が存続することになるかどうかを理解できているのかを問う出題である。

 

第4問

公開会社とは異なり,非公開会社においては,株主割当てでない新株発行が株主総会特別決議を経ずに行われた場合,その効力は無効となること,及び,無効とするためには,新株発行無効の訴えによることが必要であることを理解しているかどうかを問う出題である。

 

第5問

いわゆる使用人兼務取締役について,使用人としての給与部分と,取締役としての報酬部分について,報酬規制がどのように適用されることになるのかを理解しているかどうかを問う出題である。

<民事法(民事訴訟法)>

問1(1)裁判上の自白について、基本的理解を問うもの。

 

同(2)期日に臨む当事者の態度の違いがその後の審理に与える影響を問うもの。第1回期日における出頭(不出頭)、答弁書の提出(不提出)がもつ意味についての正確な理解が求められる。

 

問2(1)争点及び証拠の整理手続について、基本的理解を問うもの。手続の3類型とそれぞれの特徴について端的に指摘できているかを重視する。

 

同(2)争点及び証拠の整理手続のうち弁論準備手続を念頭に、書証と人証のそれぞれについて証拠調べの可否を問うもの。条文の正確な指摘があることは当然として、書証/人証の取調べのもつ特性を踏まえた論述ができている答案は高く評価する。

<刑事法(刑法)>

本問は、簡単な事案を素材にして、

①問題となる行為を的確に捉える能力の有無、

②知識を活用して事案を適切に解決する能力の有無、

③個々の問題に関連する判例の知識・理解の有無、

④暴行罪・傷害罪という身体に対する罪に関する正確な理解の有無、

⑤正当防衛・誤想防衛・誤想過剰防衛という各概念に関する正確な理解の有無、

⑥不法領得の意思なく財物を取得した後に、当該財物を領得した事案につきいかなる罪が成立するかを的確に論じる能力の有無、

等を確認することを目的としたものである。

刑事法刑事訴訟法)>

本問は、富山地決令和2・5・30判時2523号131頁、東京地決昭和55・8・13判時972号136頁をアレンジして作題したものであり、被疑者取調べの適法性、逮捕の違法と勾留請求の可否という問題に関する理解を問うものである。

<小論文>

東北大学法科大学院は,法的思考に対する適性と正義・公正の価値観を備えた者を学生として受け入れることを理念としている。小論文試験では,法的思考を身に付けるために必要不可欠な能力,すなわち,資料を正確に理解し,整理・分析してその要点をまとめ,それを文章へと構成する力を評価することを目的としている。なお,この試験は中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会「法科大学院法学未修者等選抜ガイドライン」(平成29年2月13日)において「小論文・筆記試験」に含まれるとされる内容を網羅するよう作成されている。

本問は、明治維新の原因をめぐる近時の論考を素材として、問1及び問2では、筆者の主張の前提となるこれまでの議論として傍線部が指し示す内容を正確に把握した上で、これを的確に説明することを求めたものであり、さらに問2では筆者の見解の説明も求められている。また、問3は、明治維新の原因として筆者が指摘する要因を理解し、これを簡潔に説明することを求めている。いずれにおいても、問に即した内容が指示された分量内で論理的にまとめられているかが評価の対象となっている。

 

このページのTOPへ