東北大学

黒﨑将広教授の論考「The AI Sovereignty Paradox」が米国の法政策専門メディア『Lawfare』に掲載されました。

法学部研究大学院法科大学院公共政策大学院研究成果・社会貢献

黒﨑将広教授の論考「The AI Sovereignty Paradox」が米国の法政策専門メディア『Lawfare』に掲載されました。また同教授は、米太平洋軍(U.S. PACOM)主催の国際法会議において、海戦法規における軍の支援船(naval auxiliaries)の地位について報告しました。

1. 『Lawfare』への掲載

法学研究科の黒﨑将広教授による英語論考「The AI Sovereignty Paradox: How Shifting Strategic Interests Are Reshaping Cyber Sovereignty in International Law」(AI主権のパラドックス――戦略的利益の変容は国際法上のサイバー主権をどのように再構成しているのか)が、2026年7月28日、米国の法政策・国家安全保障専門メディア『Lawfare』に掲載されました。
『Lawfare』は、法律、国家安全保障、外交、サイバーセキュリティなどを扱い、政府関係者、法律実務家、研究者、報道関係者に広く参照されてきた専門メディアです。英語圏では広く知られており、学術研究と現実の政策課題をつなぎ、欧米の政策形成に向けた議論が日々活発に行われるプラットフォームの一つとなっています。

本論考でいう「AI主権」とは、国家がAIシステムに加え、AIサプライチェーンを構成する訓練用データ群、計算基盤、モデルウェイトなどを、外国への依存や外部からの操作を受けずに開発・運用・管理する能力を指します。

一方、国際法上の「サイバー主権」をめぐっては、他国が国内の情報通信基盤に無断でアクセスすること自体が主権侵害となるのか、それとも物理的損害、機能喪失または政府機能への干渉といった一定の影響が生じた場合に限られるのかについて、各国の立場が分かれています。

黒﨑教授は、米国や英国などが、自国による国外での情報収集やサイバー活動の余地を確保するため、サイバー主権による法的保護を限定的に捉えてきたことに着目します。しかし、AIの訓練データやモデルが国家安全保障上の重要資産となるにつれ、その立場は、自国のAI基盤へのデータ窃取や不正な操作を国際法上の主権侵害として扱うことを難しくします。本論考は、この「国外で活動する自由」と「自国のAI資産を保護する必要性」との間に生じる矛盾を、「AI主権のパラドックス」として示しています。

さらに本論考は、各国の国際法上の立場が固定的なものではなく、技術環境、保有する能力、守るべき資産などの戦略的利益に応じて変化し得ることを示しています。AIの発展が国家の利害を変え、その変化が各国の行動や法的主張を通じて、将来の国際法規範の形成にも影響を及ぼす可能性を論じています。

黒﨑教授は、米国が直ちに、無断アクセスそれ自体を主権侵害とする特定の立場を採用すべきだと結論づけているわけではありません。むしろ、AI資産の保護を重視する米国の政策と、サイバー主権について明確な法的立場を避けてきた従来の姿勢との緊張を示し、この選択をこれ以上先送りすることはできないと、米国の政策・法律専門家に問いかけています。
同時に、この問題は米国だけに限られるものではありません。本論考は、AI基盤の保護と国外で活動する自由との均衡をどこに定めるかが各国に共通する課題となっており、今後のサイバー主権をめぐる国際法の展開にも影響を及ぼし得ることを示しています。


【関連リンク】
『Lawfare』
The AI Sovereignty Paradox: How Shifting Strategic Interests Are Reshaping Cyber Sovereignty in International Law
https://www.lawfaremedia.org/article/the-ai-sovereignty-paradox


2. 米軍主催国際法会議での報告

同教授は、2026年8月3日から6日にかけてマレーシア・クアラルンプールで行われた、米太平洋軍(U.S. PACOM)主催の第37回「国際軍事法規・作戦(MILOPS: International Military Law and Operations)」年次会議で、海戦法規における軍の支援船(naval auxiliaries)の法的地位について報告しました(報告題目は “Made and Unmade by Operational Needs: Naval Auxiliaries as an Unfinished Category in the Law of Naval Warfare”)。

本報告は、軍の支援船(補助艦)と呼ばれる海戦法規上のカテゴリーの成立過程と今後の展開に関する検討に基づき、同船舶の地位をめぐる従来の理解に対し新たな視点を提示することを目的としたものです。国際法において軍の支援船とは、敵による適法な攻撃の対象となるが交戦権を行使する手段とすることはできないという、軍艦でも商船でもない「第三のカテゴリー」の船舶とこれまで位置づけられてきました。しかしながら、同船舶については、国連海洋法条約等に存在する概念ではあっても、独自の定義や地位についてまで既存の条約では規定されていないことに加え、歴史的に見れば米海軍の運用上の必要性から米国を中心とする特定の国々の軍事マニュアルを通じて1980年代以降に構築されてきたものであることから、実定国際法上いまだ確立したものとは言い難い現状にあるとの分析がなされました。しかも無人化・遠隔指揮技術の急速な進歩によってそうした各国の部隊運用上の必要性さえなくなりつつある現在の技術的進展を踏まえると、海戦法規における軍の支援船の存在意義は今後さらに問われることになる、との見通しが示されました。
第37回MILOPS年次会議で報告する黒﨑将広教授

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