弁護士 氏家 和男
「司法制度改革をめぐる動きと今後の課題について」

一 司法制度改革をめぐる動き

 司法制度改革審議会の最終意見書の公表(平成一三年六月一二日)後一年四ヶ月の期間が経過した。司法制度改革は論議の段階から実践の段階(具体的な立法作業)へと移った。

 その内容は一〇〇年に一度の大改革というべきものである。司法制度の全般にわたり、一つ一つが極めて重く大きな問題が、同時並行で、集中的に検討されている。立法スケジュールが定められ、それに向け猛スピードで突き進んでいる。どういう姿でゴールするのか不透明な部分はあるが、いくつかの大きな制度改革がなされることは確実である。法曹三者は当然この制度改革に大きな関心を持たざるを得ないし、法曹養成制度の中核となる法科大学院を設置する大学もこの問題に無関心でいることはできない。

二 司法制度改革推進計画

 司改審の最終意見書を受け、平成一三年秋の臨時国会で司法改革推進法が制定され、同年一二月一日推進本部が発足した。内閣総理大臣が本部長となり、本部内には顧問会議、検討会、事務局が置かれている。

 平成一四年三月一九日、政府は、最終意見書の趣旨にのっとって行われる司法制度改革に関し、政府が講ずべき措置の全体像を示すとともに、推進本部の設置期限(平成一六年一一月三〇日)までの間に行うことを予定するものにつき、措置内容、実施時期等を明らかにした司法制度改革推進計画を閣議決定した。政府は、この計画に従って、司法制度改革を総合的かつ集中的に推進することにしているが、具体的な立法作業の中心となるのは検討会である。当初、本部事務局に置かれた検討会は、(1)労働検討会、(2)司法アクセス検討会、(3)ADR検討会、(4)仲裁検討会、(5)行政訴訟検討会、(6)裁判員制度・刑事検討会、(7)7公的弁護制度検討会、(8)国際化検討会、(9)法曹養成検討会、(10)法曹制度検討会であったが、平成一四年一〇月二日に⑪知的財産訴訟検討会が追加となった。

三 司法制度改革の内容と各検討会における検討状況

 司法制度改革推進計画に定められている「制度的基盤の整備」「人的基盤の拡充」「国民の司法参加」という三つの柱に沿って現在の検討状況を概観する。

1.制度的基盤の整備

(1)民事司法制度の改革
 〈民事裁判の充実・迅速化〉〈専門的知見を要する事件への対応強化〉〈知的財産権関係事件への総合的な対応強化〉〈家庭裁判所の機能の充実〉〈民事執行制度の強化〉については、法制審議会で検討が進められ、民事訴訟法改正、人事訴訟法改正、担保・執行法制の見直しに関する中間要綱試案が公表されている段階である。小泉首相の裁判二年発言を受けたとされる「裁判二年法案」(仮称)が次期通常国会に提出される見込みであるが、計画審理にからんで今後大きな問題となっていくことが予想される。

 〈労働関係事件への総合的な対応強化〉は労働検討会、〈簡裁の機能の充実〉と〈裁判所へのアクセスの拡充〉は司法アクセス検討会で検討されている。簡裁の事物管轄の上限引き上げと弁護士報酬の敗訴者負担の問題が大きな問題となっている。

 〈ADRの拡充・活性化〉はADR検討会で検討中であり、仲裁もADRの一つと考えられるが、これは、別途、仲裁検討会で検討されている。

(2)刑事司法制度の改革
 公的弁護制度検討会と裁判員制度・刑事検討会に分れて検討されているが、裁判員制度の検討(「国民の司法参加」の箇所参照)が先行して進んでいる状況である。

(3)国際化への対応
 国際化検討会で検討されている。

2.人的基盤の拡充

(1)法曹養成制度の改革
法科大学院創設、新司法試験、新司法修習などが法曹養成検討会で検討されているが、予備試験ルート(バイパスルート)の規模などに関し自民党の政治的影響力が強まっている。

(2)弁護士制度・検察官制度・裁判官制度の改革

  1. 弁護士制度の改革では綱紀・懲戒手続の見直しの問題が弁護士自治との関係で 問題となっている。また、副検事・簡裁判事に準弁護士資格を認めるかどうかと いう問題も出てきて、大きな問題となっている。
  2. 裁判官制度の改革では、人事制度の見直しが問題となっている。

3.国民の司法参加

 裁判員制度は、これまで例を見ない新たな制度なので、多 岐にわたる問題点があるが、主要な検討項目について述べる。

 (1)まず問題となるのは、裁判員が関与する事件の範囲(対象事件の範囲)である。裁判員に量刑判断への関与を認めるかどうかも注目点である。

 (2)次の問題は、被告人に裁判員が参加する裁判体からの辞退を認めるかどうかであり、日弁連では会を二分する論争となっている。

 (3)裁判員と裁判官の数も、極めて大きな問題である。その数如何によって裁判員の主体的・実質的関与が可能かどうかが決定づけられるとみられるだけに、今後その動向が注目される。

 (4)直接主義・口頭主義が徹底されるかどうかも大きな問題である。

四 今後の課題

 司法制度改革は、大半のものがここ一、二年の間に具体化される。平成一五年にその具体的な姿がほぼ見えてくる。それが今般の司法制度改革の理念に沿うものかどうか、法曹、大学関係者、利用者たる国民それぞれが考え、適切な対応をしなければならない大詰めの時期を迎えようとしている。
「司法制度改革の内容」