三塚 祐太郎さん

留学先:カリフォルニア大学デービス校、カリフォルニア大学ワシントン・センター(アメリカ合衆国)
期間:2012年9月~2013年6月

留学体験記 No.1

 私は東北大学の派遣交換留学制度を利用し、2012年9月から2013年6月にかけてアメリカ合衆国にあるカリフォルニア大学デービス校に留学をし、政治学を中心とする講義の受講を行いました。2013年3月から6月には同大学の持つワシントン・プログラムを利用して首都ワシントン・DCにあるカリフォルニア大学ワシントン・センターに派遣され、講義やゼミの受講をしながらインターンシップを行いました。
 このたび法学部より留学体験記執筆の機会をいただきまして、体験記を通じて留学の魅力を伝えることができればと思っております。今回は初回なので留学先の環境や留学先大学について書きたいと思います。
三塚 祐太郎 図1  デービスはアメリカ合衆国西海岸カリフォルニア州北部にある人口6万5千人ほどの都市です。サンフランシスコの北東に位置し、カリフォルニア州の州都であるサクラメントから20キロメートルほど離れたところにあります。地中海性気候に属するため夏は高温で乾燥していますが、冬は涼しく一定の降雨があります。海岸から離れているためビーチはないのですが、市が世界で最も自転車にやさしい街であることを目標に掲げており、車社会のアメリカには珍しく街中でたくさんの自転車を見かけます。田舎町ですが自転車専用道路が整備されており、通学がしやすく、住み心地の良い町でした。カリフォルニア大学デービス校は同大学バークレー校の農業専門学校として設立され、特に農業、畜産、獣医、生物、環境科学等の分野において優れた研究がなされています。いわゆるパブリック・アイビーの一つでカリフォルニア大学群の中ではバークレー校、ロサンゼルス校、サン・ディエゴ校に次ぐ評価を得ています。学部生の約4割が白人ですがアジア系アメリカ人も約4割おり、アジア系アメリカ人が多い印象を受けました。このほかキャンパス内には24時間利用可能な自習室や無料で利用可能な学生用の大規模のシムがあり、学習環境や運動施設が整っていることが印象的でした。キャンパス内の自転車の多さもまた同大学で印象的だったことの一つです。

三塚 祐太郎 図2  ワシントン・DCはアメリカ合衆国の首都であり、政治の中心地として国際的に強大な影響力を有しています。ホワイトハウス、連邦議会議事堂、連邦最高裁判所が所在し連邦の統治機関が集まるほか、記念建造物やスミソニアン博物館も置かれており、文化的な機能を有する都市でもあります。このほか、世界各国の大使館や世界銀行、IMFなどの国際機関の本部も存在しています。人口は60万人ほどでアメリカ合衆国には珍しく地下鉄やバスが発達しており、公共交通機関を利用して生活することが可能です。人口的な特徴としては約5割がアフリカンアメリカン、約4割が白人と言われており、アフリカンアメリカンが多く、アジア系アメリカ人が少ない印象を受けました。カリフォルニア大学ワシントン・センターは大都市DCの中心部ホワイトハウスの近くに位置しており、デービスとは全く異なる環境で刺激的な毎日を過ごすことができました。このセンターはカリフォルニア大学群が持つインターンシッププログラムのために存在しており、学生のための宿舎と講義室を兼ね備えています。10校あるカリフォルニア大学群のうちサンフランシスコ校を除く9校の学部生がここに集まり、1学期間生活を共にしながら講義の受講とインターンシップを行いました。一度に雰囲気の異なる西海岸の生活も東海岸の生活もできたことは良い経験になりました。

留学体験記 No.2

 留学体験記の第2回目は、留学した理由と留学先大学での学びについて書きたいと思います。
三塚 祐太郎 図3  私は入学直後から漠然と留学をしたいという気持ちは持っていましたが、9ヶ月間の交換留学に行くことは考えていませんでした。しかしながら、東北大学が持つStudy Abroad Program(SAP)を利用して、学部1年次の春休みに1カ月間、カリフォルニア大学サン・ディエゴ校に語学留学をしたことでより長期の留学に挑戦したいという気持ちになりました。国籍の異なる人と交流することに面白さを感じたことと、1カ月では語学力を伸ばすには不十分でもっと語学力を伸ばしたいと感じたのがその理由です。その後学習を進めるにつれて政治学分野の学問にも興味を持つようになり、また将来的にグローバルに活躍できるようなキャリア形成をしたいと考えるようになり、そのためには世界的に評価の高いカリフォルニア大学群のひとつで学習をすることが重要であると感じ、留学を決意しました。

三塚 祐太郎 図4  カリフォルニア大学デービス校及びカリフォルニア大学ワシントン・センターにおいては政治学・国際政治学の講義を中心に履修しました。国際政治学の講義ではリアリズムやリベラリズムといった国際政治に関する基本的な理論、紛争原因論、正戦論等を学んだほか、世界的な経済格差の原因としての従属理論やテロリズム、環境問題、ルワンダにおけるジェノサイドの原因や、内戦原因論等幅広い事柄を学びました。これらの学習をもとに最終学期には民主主義促進の短期的な危険性について英文で6000字ほどのペーパーをまとめました。国際政治学とは直接関係はないものの、アメリカ社会に関することが授業で取り上げられることが多くあり、黒人差別の歴史的・法的背景を知ることができたこと、現在では形式的には差別はなくなったが、実質的には差が存在しており、経済的な面や、犯罪率の高さにおいてそれが見られることを知ることができたことは、日本ではあまり学ぶことのできない事柄であり、印象に残っています。

三塚 祐太郎 図5  アメリカの大学の学生と接していて印象的だったのは、どの学生も様々な問題に対して自分の意見を持っていてそれを他者に伝えることに秀でているということです。アメリカの大学では教授による講義に加えてTAによるディスカッションの授業も組み合わされていることが多いのですが、教授による講義においても学生による質問が良く出されますし、ディスカッションの授業では多くの学生が自分の意見を説得的に他の学生に伝えています。また、こちらの学生はよく勉強する人が多いです。政治学の場合1週間に1科目あたり100ページほどのリーディングの課題が課され、それを3~4科目受講するので、相当量の学習が必要とされることが一つの要因かもしれません。24時間利用可能な自習室もあり、期末試験前は日付が変わっても座席が満席であることもありました。他方で、週末は出かけたりパーティーをしたりすることも多いので、勉強とそれ以外のメリハリをうまくつけている学生が多いのかもしれません。私自身も留学したての頃は課題の多さや、東北大学より1学期の期間が5週間短い、1学期10週間で構成されるクォーター制を採用していることに起因する授業のペースの速さに圧倒され、平日は長時間図書館で学習をすることが多くありました。このため課外活動にはあまり精を出すことはできませんでした。最終学期はこれに加えてインターンシップも行っていたため時間的余裕がなかったのですが、必ずしも困難ではない道を、非母国語を用いて乗り越え良い結果を出すことができたことで、留学中の努力が報われました。

留学体験記 No.3

 留学体験記の第3回目は、インターンシップの経験と留学生活について書きたいと思います。
三塚 祐太郎 図6  留学期間の残りの3カ月はワシントン・DCでインターンシップを行いました。インターンシップは、International Law Instituteという途上国の社会人向けにガバナンスや法律の起草等に関する教育を行う非営利組織で行い、北米、南米、アジア、ヨーロッパ、中東、アフリカといった様々な国出身の従業員やインターン生とともに、セミナーの準備やセミナー参加者の募集のためのマーケティングに携わりました。具体的な仕事内容としては、セミナーで使う資料を印刷しバインダーに閉じる作業や、セミナー受講生の受け入れ通知書の作成、セミナー修了書の作成、インターネットを用いてセミナーと関連のある途上国の省庁や企業を探し、その電子メールアドレスをエクセルの一覧表にし、セミナーの情報が記載されたメールを送信するといったもので、事務的なものが多かったのですが、様々な国籍の人が集まる環境で働けた経験やそのような環境で物事を成し遂げた経験は大変貴重なものでした。また、インターン先で開かれているセミナーを聴講することができたので、途上国で国づくりをする際にどのようなことが課題とされているかについて具体的なイメージを持つことができましたし、セミナーに参加している中東やアフリカの社会人とも交流をすることで、異なる文化を有する様々な人と関わることの面白さを強く感じることができました。

三塚 祐太郎 図7  留学生活のもう一つの醍醐味は留学生や現地の学生と生活を共にすることにあると思います。日本では実家を離れて通学する学生は一人で一つの部屋に暮らすことが一般的ですが、アメリカでは部屋が共有の寮生活を行うか、民間アパートを複数人でシェアすることが一般的です。私はデービスでは民間アパートをオーストラリア人、中国人の留学生とシェアし、DCではアメリカ人3人と寮生活を送っていました。特にDCではリビングやキッチンを共有するだけでなく、個室もアメリカ人学生と2人で共有する必要があったので最初こそ抵抗がありましたが、カリフォルニア大学の他のキャンパスからの学生も含め200人ほどが一つの建物で暮らす中で、パーティーをしたり、明け方まで語り合ったりした経験はいまでも鮮明に覚えていますし、そのような寮生活を通じて多くの友人を作ることができました。帰国後も連絡を取り合っている友人も多く、かけがえのない留学体験となっています。

留学体験記 No.4

 留学体験記の締めくくりとして、最後に留学で得られた成果、発見した課題、将来のキャリアに生かせると考えることについて書きたいと思います。
 カリフォルニア大学での学びを通じて、国際政治の分野においてどのような研究業績が存在し問題がどのように議論されてきたかを知ることができたことは一つの成果であると感じていますし、そのような知識を得たことに加え、学習を通じて、研究者の執筆したやや難解な英文を読み、それを分析し、英語で文章にまとめる能力、アカデミックな場面において基本的な質疑応答を英語で行う力は身につけることができ、この点が学業面における大きな成果となったと考えています。
 インターンシップの経験を通しては、レジュメやカバーレターの書き方といったアメリカで職探しをする際に必要とされること、選考プロセスの日本との違いを知ることができたことは一つの成果であると考えています。また、就業体験により、将来私自身が何をやりたいかをより真剣に考えるようになりましたし、国際的なキャリア形成、途上国支援に関わるキャリアの形成をより身近にとらえられるようになったことは大変有益であったと考えています。
 また、9ヶ月間母国語ではない言語が公用語とされる環境で現地の学生と生活を共にし、現地の学生と同じ条件で学業に励んだ経験によって、私自身が異文化環境により適応できるようになったこと、積極的に行動を起こしたり、困難な状況を乗り越えたりする精神的な強さや、様々な国籍の人と英語でコミュニケーションをとる力も獲得することができたこと、尊敬できる世界中の友人を作ることができたことも一つの成果であると思います。さらに、現在の英語のレベルで現地に飛び込んだ際に自分がどこまで通用し何が足りないかが分かったことは大きな成果でした。具体的には例えば学業面においては比較的よい成績を修めることができ、ある程度現地の授業にはついていくことができました。しかし、現地の学生とグループで行動を起こす際には、より積極的に自分の意見を表明しない限り、仲間の信頼を得て物事を成し遂げることは難しいと感じました。
 そして、今回の留学は多くの課題が残るものとなったのもまた事実です。まず学業面においては事前の語学準備が思うように進まず、入門科目中心の科目選択となり、全般的・体系的な知識を得ることはできたものの、興味のある分野をより掘り下げて学ぶことができませんでした。次に、英語力の中でもとりわけスピーキングには多くの課題が残っており、アカデミックな場面において、周りの学生の意見を聞いたうえで自分の意見を英語でまとめ、他者を説得し英語がネイティブの学生と議論する際には今なお困難を感じていることもまた事実です。また、NPOでのインターン経験を通じては、会社のような組織の中でうまくプロジェクトをこなすことの難しさを感じ、より積極的なコミュニケーションを取ったり、プライベートな面においても自分の殻を破って考えを口に出したりしない限り相手にされず、評価もされないことを痛感しました。しかしながら、多くの課題が残ったものの、現在ではこのような課題に気付くことができたことそれ自体もまた留学の成果であると考えています。このような課題を解決していくことを今後の人生で達成してこそ交換留学を将来に生かすことができ、また今後の私自身の成長があると考えているので、留学を終えて発見した課題を解決していくことがこれからの目標の一つとなっています。
三塚 祐太郎 図8  私は、将来は法律の専門家としてグローバルに活躍することを希望しており、ひいては国際協力に携わることを考えています。したがって、留学中の勉学を通じて得た国際政治学に関する知識は、将来学生あるいは実務家として法律学と政治学が交錯する場面における問題に直面した際に、それを考察する基本的視点として利用することができると考えています。さらに、勉学を通じて向上させた英語力、すなわち、英語の文献を読み分析する力、分析したものを英語でまとめる力、国籍の異なる人が集まる中で英語を用いて議論をし、意見を言う力、自分の意見や案をプレゼンテーションする力は、例えば国際弁護士として海外案件に携わる上で生かすことができるでしょう。また留学で課題を発見したことは、今後アメリカの弁護士資格を取るために留学をする際、あるいは英語を用いて仕事をする際に意識的に解決を目指すことができるので、将来に生かすことができることの一つであると考えています。また、一定期間海外という全く環境の異なる場所で生活をし、異なる言語で課題や職務をこなしたという留学経験それ自体は、今後海外で生活をし、困難な局面を迎えた際の自信につながるはずであり、このような意味で留学経験を今後の生活に生かすことができるとも思います。
 全4回にわたって留学体験記を書いてきましたが、私の留学体験記によって留学の魅力を少しでも伝えることができたなら幸いです。これから留学に挑戦したいと考えている皆さんには臆することなくぜひ挑戦していただきたいと思いますし、留学や国際的なキャリア形成に少しでも興味のある高校生のみなさんには、交換留学制度が充実している東北大学をぜひ目指していただきたいと思います。
 最後になりますが、留学の機会を与えてくださった東北大学、様々なサポートをしていただいた本学留学生課、法学部教務課のみなさん、両親や友人に感謝の意を表したいと思います。ありがとうございました。