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ジェンダー法・政策研究叢書第8巻
『政治参画とジェンダー』(川人貞史・山元一編)
はしがき
本書は,東北大学21世紀COEプログラム「男女共同参画社会の法と政策」における「政治参画とジェンダー」の研究成果の一部を,「ジェンダー法・政策研究叢書」の第8巻として編集したものである。すなわち,ディシプリン横断的な研究クラスター制(全6クラスター)をとる本研究プログラムにおいて,研究クラスターA(政治参画)の活動を中心とした研究成果である。
国民の政治へのかかわり方には,有権者として投票やその他の政治活動に参加したりすること,国・地方の公職に立候補して政治家として活動することをめざすこと,そして,国・地方の公務に関連する役職(公務員,司法官,審議会委員など)に就任することなどがある。これらの広い意味での「政治参画」において,わが国の女性の進出は,他の先進諸国と比較すると,遅れている。
女性の進出があまり進んでいないことは,女性がさまざまな分野において過少代表されていることを意味し,そのこと自体が女性の利益や権利が必ずしも守られていないことを示唆している。他方で,女性の利益が女性の代表のみによって守られるわけでもない。そこで,女性の政治参画および公務への進出には,なぜそれが求められているかという規範的問題とともに,それがどのような形で促進されるべきかという法政策と密接に結びついた実践的問題が存在する。また,同時に,アクターとしての女性が現行の法制度の中でどのような理由にもとづいて政治参画するか否かを意思決定しているのか,という理論的・実証的な問題は,低調な女性の政治参画を促進するためにどのような法政策が効果的であるかを推定する上できわめて重要である。
本書は,こうした「政治参画」にかかわる問題点を規範的・実践的な観点および理論的・実証的な観点から分析する諸論文から構成されている。
第1部では,「政治参画」および「公共空間」に関わる法政策が規範的・実践的観点から分析されている。
ここではまず,政治参画におけるクォータ制の採用の合憲性を検討している(辻村論文)。それ以降の4論文では,研究対象としてフランスが取り扱われている。これは,本研究プログラムがパリに拠点のひとつをおき,そこで研究活動を行ったことに由来している。積極的差別是正措置に対応する言葉としてこの国で用いられている「積極的差別」の分析や(山元論文),いわゆるパリテに関わる1999年憲法改正のもたらした積極的含意──「具体的普遍主義」──の主張(ルソー論文),また年金改革を素材として,性や母たることを基準とする積極的措置の合憲性について,アメリカ法との比較を通した検討や(カルヴェス論文),司法官職への女性の進出の現時点での問題点について憲法裁判機関の判例を中心とした分析と検討(ジロドウ論文)がなされている。最後に,公務員や議員に関わる女性問題のほか,広く行政法学におけるジェンダーの視点からの公共空間の法的規律の問題が検討されている(小幡論文)。
第2部は,政治参画の実態を,主として,既存研究のリビューを通して展望する諸論文から構成されている。これらの論文は,アメリカにおける「女性と政治」研究(相内論文)や女性議員に関する研究(大海論文)および世界において実施されているクォータ制の実証研究の概観(岩本論文)を行うとともに,日本の政治参画の実態および研究の現状をきびしく問いなおしている。
東北大学21世紀COEプログラムでは,女性の政治参加に関するさまざまな理論的・実証的研究課題を分析するために,全国有権者から無作為抽出したサンプルを対象として2005年9月-10月に「政治と社会における男女の役割に関する意識調査」を実施した。第3部は,この全国ジェンダー・サーベイを活用して政治参画の調査分析を行う諸論文から構成されている。すなわち,有権者が望ましいと考える女性議員比率がどのような要因によって規定されているかを明らかにする研究(川人論文),政治参加のジェンダー・ギャップの要因を明らかにする研究(山田論文),男女共同参画に関連する諸政策への市民の選好の違いがいかなる要因によってもたらされるかを明らかにする研究(平野論文),選択的夫婦別姓制度を中心として政策選好の違いを探求する研究(岩本論文),女性の政治家志望が低い要因を明らかにする研究(増山論文),女性政治家に対する有権者の態度を規定する要因を分析する研究(相内論文)が収録されている。
本書の諸論文の研究が,わが国における政治参画とジェンダーに関する理論的・実証的研究の進展および規範的・政策的な問題の解明に多少なりとも貢献することができれば幸いである。
最後になるが,本書は,編集作業の過程での池田丈佑氏(COE研究員)の尽力なくしては,このように順調に刊行されることはなかった。この機会を借りて,同氏に深い謝意を表する次第である。
川人 貞史
山元 一