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ジェンダー法・政策研究叢書第7巻
『国際法・国際関係とジェンダー』(植木俊哉・土佐弘之編)

はしがき

 本書『国際法・国際関係とジェンダー』は,東北大学大学院法学研究科を拠点とする文部科学省21世紀COEプログラム「男女共同参画社会の法と政策──ジェンダー法・政策研究センター──」が刊行するジェンダー法・政策研究叢書の第7巻として刊行される。本21世紀COE プログラムでは,6つのクラスターに分かれて研究を推進しているが,本書は,このうちの「人間の安全保障クラスター」(Eクラスター)における研究成果を中心に編集したものである。
 「人間の安全保障」(human security)とは,国家を中心とした従来の安全保障概念に代わる又はこれを補完する新たな概念であり,1994年に国連開発計画(UNDP)が「人間開発報告書」の中で提示して以来,1990年代後半以降国連をはじめ国際社会で広く用いられるようになった。この概念は,国家中心ないし権力中心の従来の国際社会観の転換を迫るものである一方で,日本政府の外交戦略の重要な柱としても用いられるなど,多義的な意味内容を含むものである。Eクラスターでは,国際法や国際関係論・国際政治学の専門家が,ジェンダーをめぐる法的・政治的な諸課題につき国際的な視座から多角的に検討を行ってきたが,その際に「人間の安全保障」という視点はジェンダーの問題について新たな知見を提供するものであり,本書に収録された諸論文の内容から,その研究成果を読み取っていただくことができれば幸いである。
 本書では,第1部で国際法,第2部で国際関係と地域研究という2つの分析の方法論に立脚して,それぞれの立場からジェンダーをめぐる最新の研究成果を提示した。まず,第1部「国際法とジェンダー」では,国際法理論,国際人権法,国際人権・刑事法,国際組織法といった国際法学の各分野でのジェンダーをめぐる法的・政治的な諸課題が詳細に検討されている。第2部「国際関係・地域研究とジェンダー」では,国際関係・安全保障理論,人間の安全保障,地域研究というそれぞれの分析の視座から,ジェンダーをめぐる現代的な諸課題が考察されている。
 本書に収録した諸論文は,Eクラスター主催の研究会や各種の国際シンポジウムなど,本21世紀COEプログラムのさまざまな研究の成果を集大成したものであると同時に,最新の研究成果を書き下ろしていただいたものも含まれている。ご多忙の中,貴重な論稿をご寄稿いただいた執筆者の皆様に心より厚く感謝申し上げたい。
 本書に収録されたジェンダーをめぐる国際法及び国際関係に関する最先端の研究成果が,今後のこの分野における研究のさらなる発展のための礎となるものであれば,編者としては誠に幸いである。

植木 俊哉
土佐 弘之