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ジェンダー法・政策研究叢書第3巻
『ジェンダー法学・政治学の可能性 ─東北大学COE国際シンポジウム・日本学術会議シンポジウム─』(辻村みよ子・山元一編)

はしがき

 2003年から2004年にかけて,法学・政治学の分野でジェンダーに関連して新たな動きがあった。2003年12月に,法学研究と実務の架僑をすることをめざしてジェンダー法学会が設立された。2004年4月には法科大学院(ロースクール)が開校し,ジェンダー・センシティヴな問題意識をもった法曹実務家を育成するために「ジェンダーと法」などの科目が開設され始めた。また,2003年秋から私たちの東北大学21世紀COEプログラム「男女共同参画社会の法と政策一ジェンダー法・政策研究センター」の研究教育拠点がスタートしたことも,この動向と連動している。この研究教育拠点は,「男女共同参画」実現のための理論的課題を法学・政治学を中心に解明し,「ジェンダー法・政策」研究・教育の成果を具体的な政策実践に反映させることを目的としている。
 これらの3つの取り組みは,それぞれ,研究と実務,実務と教育,教育と研究の連携をめざすもので,研究・実務・教育の連携の輪を形成するものである。

 以上のようなジェンダーと法学・政治学をめぐる動きは決して偶然ではない。欧米諸国では,あらゆる分野でジェンダーの視点を重視する「ジェンダーの主流化」が叫ばれている。日本でも,1999年に男女共同参画社会基本法が制定され,国や地方公共団体のみならず,学術分野においても男女共同参画推進の取り組みが行われている。これと平行して,各分野でジェンダー視点からの学問の捉えなおしが起こりつつある。法学分野ではジェンダー法学という新たな学問の確立がめざされ,ジェンダー法学会の年報『ジェンダーと法 No.1』(日本加除出版)も刊行を開始した。政治学会でも,日本政治学会編「(年報・政治学2003)「性」と政治j(岩波書店)が刊行されるなど,ジェンダー視点からの検討が進んでいる。
 私たちのCOEプログラム拠点の目的も,男女共同参画の理論的課題を法学や政治学の視点から明らかにし,「ジェンダー法学」「ジェンダー政治学」という新たな学問分野を確立することである。

 このような「ジェンダー法学・政治学」研究の展望のもとで,私たちは,2003年秋以降40回近い研究会やシンポジウムを開催してきた。その中のメイン・イヴェントが,2004年11月4-5日に「ジェンダー法学・政治学の比較的展望(Comparative Perspectives on Gender Law & Politics)」と題して開催した国際シンポジウムである。
 このシンポジウムの目的は,欧米とアジア諸国のジェンダー法学・政治学の動向と課題を明らかにし,ジェンダー問題を解決するための法学・政治学のあり方について比較検討することで,日本にとって有効な解決策を模索することであった。そのためアメリカのフェミニズム法学の第一人者フランシス・オルセン教授をはじめ,アメリカ,フランス,韓国,日本のジェンダー法学,政治学,教育学の第一人者8名を報告者に招き,パネリストやコメンテーターに日本全国から専門家を招いた。この国際シンポジウムでは,世界各国のジェンダー法学・政治学の現状について多くの貴重な知見を得,今後の課題を明らかにすることができた(概要は第1章を参照されたい)。
 また,日本のジェンダー法学・政治学の現状と課題を明らかにするために,2004年9月27日に,日本学術会議で「ジェンダーと法学・政治学一ジェンダー法学・政治学の可能性」と題するシンポジウムを開いた。これは,日本学術会議第1部(人文科学)「ジェンダー学」研究連絡委員会・第2部(社会科学)「21世紀の社会とジェンダー」研究連絡委員会と東北大学ジェンダー法・政策研究センターの共催で実施したものである。このシンポジウムでは,ジェンダーと憲法学・刑事法学・労働法学・民事法学・国際政治学の課題についてそれぞれを専攻する研究者から報告があり,日本のジェンダー法学・政治学の現状と課題について熱心な議論が行われた(概要は第4章を参照されたい)。

 本書はCOEプログラム「ジェンダー法・政策研究叢書」第3巻として,上記のような国際シンポジウムの成果を第一部に,日本学術会議シンポジウムの成果を第二部に掲載することによって,世界と日本におけるジェンダー法学・政治学の現状と課題を比較の視点から明らかにするものである。今後のジェンダー法学・政治学の課題を展望し,その可能性を問うことで,日本のジェンダー法学・政治学の発展に寄与できることを願っている。
 なお,第一部では各報告者の原稿を和訳して掲載するとともに,シンポジウム当日の質疑討論者にコメントを執筆していただいた。シンポジウムでは,仏文とハングル文のペーパーはそれぞれ和訳するだけでなく英訳もして参加者の便宜をはかったが,これらの外国語原文については,欧文研究年Gender Law and Policy Annual Review (2004) vol.2に掲載している。また,パネル討論等も「研究年報(2004)vol.2-II』(国際シンポジウム等特集号)」に掲載しているため,これをご覧頂きたい。
 第二部の日本学術会議シンポジウムについては,報告者の皆さんに寄稿をお願いしたほか,さらに国際法とジェンダーに関する論文を新たに執筆して頂いた。
 ご多用中,シンポジウムの報告に加えて本書のために寄稿してくださった報告者・討論者・翻訳者の皆さんに心からお礼を申し上げるとともに,2つのシンポジウムに参加して熱心に議論に参加して下さった多くの皆さんに感謝を申し上げる次第である。

2005年3月
東北大学21世紀COEプログラム
「男女共同参画社会の法と政策」拠点リーダー
辻村みよ子