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ジェンダー法・政策研究叢書第1巻
『世界のポジティヴ・アクションと男女共同参画』(辻村みよ子編)
はしがき
このたび東北大学21世紀COEプログラム「ジェンダー法・政策研究叢書」の第1巻として,本書『世界のポジティヴ・アクションと男女共同参画』を上梓する運びとなった。
本書のテーマである「ポジティヴ・アクション」とは,歴史的に形成された不平等を是正するための暫定的な「積極的差別是正措置」のことであり,アメリカなどではアファーマティヴ・アクションと呼ばれている。女性差別撤廃条約やEU指令が,男女平等推進のためにポジティヴ・アクションを推奨していることをうけて,近年では,欧米諸国やアジア・アフリカ諸国でクォータ制などの積極的な措置がとられ,とりわけ政策決定過程への男女共同参画の推進に大きな成果がえられている。
これに対して,日本では,1999年の男女共同参画社会基本法や翌年の男女共同参画基本計画で格差是正のための「積極的改善措置」の実施が認められているが,具体的方策の検討はなお将来の課題にとどまってきた。ところが最近,国連女性差別撤廃委員会勧告(2003年7月)で政策決定過程における暫定的特別措置が要請されたほか,内閣府男女共同参画会議基本問題調査会『女性のチャレンジ支援策』(2003年4月)でもポジティヴ・アクション推進の必要性が指摘され,内閣府男女共同参画局に「ポジティヴ・アクション研究会」も設置されて(2003年7月),導入にむけての具体的な検討が始まった。
また,これらの動向にさきだって,2001-2002年度の福島県男女共生センター公募研究で,「国・自治体等の政策・方針決定過程への男女平等参画一世界のポジティヴ・アクションと日本の実践的課題」(研究代表・辻村みよ子)が採択され,ポジティヴ・アクションに関する共同研究が実施された。10名のメンバーからなる共同研究では,国連,EU,フランスをはじめとするヨーロッパ諸国,アメリカ,南アフリカ・中国・韓国等における政策決定過程への男女共同参画のための施策を調査・研究するとともに,クォータ制の合憲性など理論的な諸課題をも明らかにすることをめざした(本福島県男女共生センター公募研究の研究成果は,総ページ450頁にわたる研究報告書にまとめられ,2003年9月に刊行されて全国の地方自治体や男女共同参画推進施設に配布された)。
しかし,テーマの大きさからしても共同研究をさらに継続する必要性が痛感され,その課題は,本COEプログラム「男女共同参画社会の法と政策ジェンダー法・政策研究センター」にもひきつがれた。
そこで上記福島県公募研究に参加したメンバーの大半が本COB拠点の事業推進担当者もしくは研究協力者としてこのCOE研究拠点にも関わることになり,2003年11月に開催された「政治参画」クラスター主催のCOE公開研究会では,ストラスブール第3大学のジュアンジュアン教授と関東学院大学の糠塚康江教授(COE研究協力者)を招いて,フランスのパリテ政策と平等をめぐって議論した(本書第4章皿に講演の翻訳等を掲載)。そのほか,本書では,フランスのパリテ政策の背景にある社会保障政策等について検討するとともに,イギリス・ドイツ・アメリカやアジア・アフリカ諸国の最新の動向や理論的課題について,福島県公募研究の成果をふまえた諸論文を掲載した。第1章の総論(辻村論文)およびドイツに関する第5章1の齋藤論文は,上記の内閣府男女共同参画局「ポジティヴ・アクション研究会」での報告を契機としたものでもある。
こうして,本COE「ジェンダー法・政策研究叢書」第1巻『世界のポジティヴ・アクションと男女共同参画』では,政策決定過程を中心とするポジティヴ・アクションの現状と理論的課題をふまえて,国連・世界銀行,欧州連合,フランス・ドイツ・イギリス・アメリカ・AA諸国等についての最新情報と法学理論的課題を検討した。(上記福島県公募研究成果報告書に掲載していたスウェーデン・中国・韓国・オーストラリアに関する資料を本書では割愛したこともあり)北欧・アジア・オセアニア諸国についての検討不足は否めないが,COE研究協力者の協力を得て,今後の研究で補ってゆくことにしたい。対象国のみならず,内容的にも不十分な点が多々あるにせよ,政策決定過程を中心とした世界のポジティヴ・アクションに関する研究は,これまでに類書がないこともあり,日本の男女共同参画推進政策や,女性のエンパワーメント促進のために,お役に立てることを念じている。
2004年3月
執筆者を代表して
辻村みよ子