友から学び自ら考える 時代の先駆者の信念

安齋あんざい たかし

日本の銀行家、実業家。1963年に東北大学法学部を卒業。日本銀行理事、日本長期信用銀行頭取、アイワイバンク銀行(現・セブン銀行)代表取締役社長を歴任。2018年からセブン銀行特別顧問、東洋大学理事長を務める。

30㎏の小麦運びの手伝いに喜んでくれた祖母 今の自分の原点に

 自分が小さかった頃は戦後間もない頃で物が十分にありませんでした。しかし、学校でも家庭でも本当に良い教育を受けられたなと思うんです。特に印象に残っているのが、小学4年生の時(1950年)に経験した「模擬国連」です。生徒一人ひとりが世界中の国々の代表者となって日本に対して意見を述べるという取り組みで、私はセイロン(現在のスリランカ)の代表という役割でした。「茶畑でいっぱいのスリランカのように、戦争で多くの緑を失った日本も、自然豊かな国になって欲しい」と話したのを覚えています。小学生ながら「外」に目を向ける機会を設けてもらったと感じます。私の小学校は福島の田舎の学校で、しかも戦争がまだ終わったばかりの頃。この授業は先進的な授業だったなあと思います。家ではお手伝いに励んでいました。6月頃になると祖母に頼まれて30kgもある小麦を自転車に乗せて製粉所に運んでいました。とても大変でしたが、祖母が喜んでくれる様子を見て、「他者の役に立つ喜び」を感じました。これは日本銀行で国民のために、セブン銀行でお客様のために、そして今は東洋大学で学生のために、と取り組んできた私にとって原点となる経験です。

武器は「自分で考える力」 独学で大学受験

 中学生の頃はあまり勉強しておらず、最初は大学まで行けるような学力ではなかったんです。しかし、高校入学後、大学進学を目指す周りの友人たちに感化され、自分も大学に行きたいと思うようになりました。勉強を本格的に始めたのは高校2年生の時です。今も自分の作成した解答を添削してくれる通信教育がありますよね。それを利用しながら、ほぼ独学で勉強しました。その結果、「自分で考える力」が身につき、徐々に成績が向上して東北大学を受けることにしました。当時私には同じ高校にライバルがいて、彼もまた東北大学を目指していました。彼は「理工学系の学部を受ける」と言ったので「同じ学部では面白くない」と思い、私は法学部を選択しました。

名だたる教授陣のもと 法学部での学びに没頭

 法学部では様々な授業を受けましたが、私は法哲学を学ぶのが特に好きでした。高校時代に身についた「自分で考える力」が、法学部での学びを通してさらに伸ばされたと思います。読書をする際も、「自分ならこう考える」という視点で味わってました。また、ありがたいことに著名な教授の講義を受けることもできました。当時「三羽烏」と呼ばれた中川善之助先生、木村龜二先生、清宮四郎先生の全員の最終講義を受けることができたんです。清宮四郎先生は片平で開催された学生のコンパにも足を運んでくださいました。素晴らしい本を書かれた著名な先生に実際に会えるなんて、と感動しました。とても良い先生方に恵まれ、大学4年間は人生で一番勉強しました。図書館に足繁く通って勉強し、自分専用の席ができていたくらいでした。哲学系や文学系の本を読んだり、マックス・ウェーバーの勉強会に参加したりもして、非常に充実した学びを得ることができました。

「時に友人は自分の恩師になる」 現在も続く交流

 大学時代は授業の他にも、課外活動として模擬裁判に取り組んでいました。大学2年生の時は役をもらって劇に出演しました。大学3年生の時には劇のシナリオを担当しました。みんなで「ああでもない、こうでもない・・・」とアイデアを出し合って書いたのを覚えています。大学時代は、友人との日々の会話も学びにつながっていました。講義や本だけではなく、友人の存在も学ぶ上で非常に重要です。友人とは今でも「八朋会」という同級会で交流しています。メンバーは、「八朋会」では、各自が自由にテーマを設定して定期的に記事を書き、大学時代のように活発な議論を交わしています。メンバーそれぞれ現役時代はメーカーやインフラ、商社など全く異なる業界で活躍していました。異なる進路を選んでもなお当時の同級生との関わりを何十年にも渡ってこうして続けるというのは、なかなかない貴重なことだと感じます。

「八朋会で議論していると大学生に戻った気分になる」

友人との出会いを糧に 自分で考える力を

 大学生の皆さんに伝えたいことは「自分で考えることの大切さ」です。物事をただ暗記するのではなく、「自分の頭で考える」という過程を大事にして欲しいです。また、大学の講義や本だけではなく、友人との関わりも多くの学びをもたらしてくれるということを是非心に留めてください。何かを学び、自己研鑽をするというのはもちろん自分のためでもありますが、それが「他者の役に立つ」ことにつながりますし、とても気持ちの良いものに感じると思います。是非、大学の時に「自分で考える」ことを意識しながら、様々な人と関わって皆さんも自分を磨いてください。

「暗記するだけではなく、自分の頭で考えてこそ深く学べる」

※八朋会のメンバーは以下の方々。(五十音順・敬称略・元職)

飯吉猛(住友金属)、今西康之(日本鋼管)、岩橋量生(日立製作所)、宇野宏志(三井物産)、及川嘉雄(東北電力)、岡林勇(八幡製鉄)、堀内岳(三菱電機)

聞き手:野崎達行(3年)
    大槻周平(4年)
    能美寧々(4年)