省庁再編案作成に向けての覚え書き(その三)

(平成9年7月23日開催の行政改革会議提出メモ―――前回提出メモの補足)

藤 田 宙 靖


 

五 上記の国家機能を行わせるための、受け皿としての組織の在り方(補遺)

 ○ 整理分類された各種の国家行政機能のそれぞれを、どのような組織単位によって行わせるかは、先に行った機能分類論とは一応別に検討されなければならない。その場合、今回の省庁再編の最も主要な目的が、「縦割り行政の弊害の排除」にあるとするならば、組織論においても、この観点、すなわち「調整の在り方」が、中心的な手掛かりとなる筈である。

 ○ 「縦割り行政の弊害の排除」を目的とする「調整システム」の在り方としては、例えば次のような方式が考えられる。

  1.内閣の強力な調整機能によるもの。
  2.省庁の大括りによる、調整の省庁内部化によるもの。
  3.特定機能についての省庁間での横断的調整システムを、恒常的に設置することによるもの。
  4.省庁間での個別的な意見調整のためのプロセスを、一般ルール化することによるもの。

 行政改革会議では、これまで、主として上記1.及び2.を頭に入れた議論がなされてきたが、7月16日の本会議で「横串」論が正面から議論されたように、上記の3.及び4.の可能性についても、十分な検討がなされなければならない。そして、このような「横串」の作り方によっては、後に見るように、省庁再編の在り方にも重要な影響が生じるものと思われる。

 ○ まず、上記4.については、個別的には、現行法上でも、例えば、総務庁設置法・経済企画庁設置法・科学技術庁設置法・環境庁設置法・沖縄開発庁・国土庁設置法等にその例が見られるところであって、これらはいずれも、他省庁所管の事務であっても自省が所管する事務に関係のある事務については、当該他省庁に対し、必要な資料の提出及び説明を求め、また、勧告を行い、更に当該勧告に基づいて執った措置について報告を求めることができる、とするものである。また、これらのケースにおいては、最終的に内閣の調整を受けるべく、内閣総理大臣に対し、当該事項について内閣法6条の規定による措置が執られるよう意見を具申することができるものとされている。
 今後の問題として、例えば、こういった制度を一般化して、特定の省庁に限らず省庁一般につき適用されるものとすること、またその際、このような他省庁に対する資料の提出・説明の要求権限、勧告(ないし意見の申し出)に対する応答・説明義務、等を明示することの可能性及び妥当性等につき、検討がなされるべきである。また、こういった調整のプロセスが、対外的に公表されるシステムを設けることが重要である。

 ○ 多くの省庁に関係しており、それ故、相互間での調整の必要が始めから明らかであるような、典型的な事務(機能)については、調整を、より包括的・制度的なシステムによって行うことも考えられて然るべきである。これが、上記3.のパターンである。
 このような調整システムの中には、これまでにも数多く設定されてきた、各省庁間の合意による非公式ないし非定型的な「話し合いの場」のようなものも、当然考えられることとして、更に、より定型的・恒常的な制度、すなわち例えば、一定の行政機能につき、各省に受け皿となる部局(課・室等をも含む)を設け、これをベースとして、それら相互間の調整を図る横断的な組織としての「○○機構」ないし「○○会議」といった組織を、公式の組織として制度化する、といった方法も考えられよう。こういった公式の「横串」組織を恒常的に設けるについては、このような組織の在り方・人事・予算・意思形成の方法、等について、更に詳細に検討しなければならない点も数多く、また、国家行政組織法の改正等も射程に入れて考える必要があるものと思われるが、いずれにせよ、仮にこのような組織の設置が可能であるとすれば、上記四において整理分類された各機能の中でも、いくつかのもの(例えば、「防災」「情報通信」「男女共同参画社会の建設」等々が考えられようか?)については、必ずしも新たに編成される独立の省に委ねるのでなく、このような「横串」組織にこれを委ねることも可能となる筈である。

 ○ 行政改革会議の課題の一つとして、「内閣機能の強化」が挙げられているが、内閣機能の強化ということは、内閣の組織を徒らに膨張せしめ、調整機能をできるだけ広く内閣に委ねようとすることとは、同じではない。調整機能における内閣の負担を減らし、内閣が、真に必要な調整機能に専念することが可能であるようにするためには、省庁間での調整ができる限り進むようなシステムが整備されるのでなければならない。「省庁の大括り」と並び、上記3.及び4.のシステムの整備について検討することは、この意味においても、極めて重要なことである。

fujita@law.tohoku.ac.jp
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