第7回  (2001/5/30)
現代型訴訟への対応(1)----Matsushita事件判決(1986)

[初出]2001/5/30
[最新更新]Thursday, 19-Jun-2003 00:27:05 JST

 

第4・5回連邦問題管轄権のところでとりあげた、 Loral Fairchild Corp. v. Sony Corp.判決(1999) で見たように、特許権侵害訴訟のような専門技術的な争点をかかえる民事訴訟で は、法律上の争点や事実 に関する争点を明確にするために、 trial(正式事実審理)の準備としてのpretrial(正式事実審理前) 段階が長期化する傾向があります。

アメリカ法において、伝統的な当事者対抗主義の民事手続では、 裁判官は受動的なアンパイヤの役割を果してきましたが、 それでは、訴訟の長期化は避けられません。 そこで、現代型訴訟ないし複雑訴訟(complex litigation)においては、 case management(事件管理)のために、裁判官が一定のイニシアティブをとるこ とがどうしても必要になります。

pretrial段階の手続が肥大化することに対する対策の一つ として、summary judgment(正式事実審理を経ないでなされる判決)のように、 正式事実審理前に裁判官限りで法律問題についての判断を行い、 手続を終了させる手続が改めて注目されるようになりました。 これは、単に訴訟の長期化を避ける手段というだけでなく、 正式事実審理による事実認定を必要とするような genuine issue of fact(事実に関する真正な争点)を限定し、法律問題 の領域を広げることで、法的安定性を高める方策とみることができるでしょう。

本日は、日本企業が当事者となった反トラスト法事件訴訟で、 summary judgmentの要件を明確化することに貢献した有名な事例をとりあげてみましょう。 Matsushita Electric Industrial Co. v. Zenith Radio Corp.(1986)は、日本の企業法務の産みの親とも評されるべき 画期的な最高裁判決でした。 この、1970年代から1980年代にかけて行われた十数年に及ぶ反トラ スト法訴訟の経験から、私たちは、 アメリカ法における現代型訴訟の特徴について、何を学んだらよいのでしょうか。


 

[キーワード]

  1. federal personal jurisdiction(連邦対人裁判権・連邦対人管轄)規定
    Federal Rules of Civil Procedure, Rule 4(k)
  2. pretrial(正式事実審理前) /trial(正式事実審理)
  3. jury trial(陪審審理) /bench trial(非陪審審理)
  4. adversary system(当事者対抗主義)
  5. discovery(開示)
    Federal Rules of Civil Procedure, Rule 26-
  6. pretrial conference(正式事実審理前協議)
    Federal Rules of Civil Procedure, Rule 16
  7. genuine issue of fact (事実に関する真正な争点)
    summary judgment(正式事実審理を経ないでなされる判決)
    Federal Rules of Civil Procedure, Rule 56
    judgment as a matter of law(法律問題判決)
    Federal Rules of Civil Procedure, Rule 50
  8. Sherman Act, §1, §2
    15 U.S.C.§1, §2
    predetatory pricing(略奪的価格設定)
  9. act of state doctrine(国家行為の法理)
  10. treble damages(三倍賠償)

[判例]

  1. Matsushita Electric Industrial Co. v. Zenith Radio Corp., 475U.S.574(1986) 芹澤英明評釈『英米法判例百選[第三版]』第73事件 (1996)
    [判決原文]
  2. Zenith Radio Corp. v. Matsushita Electric Industrial Co., 402 F. Supp. 262 (E.D.Pa. 1975)[対人裁判権等の肯定]
    In re Japanese Elec.Prods.Antitrust Litg., 494F.Supp.1161(E.D.Pa. 1980) [域外適用等について被告のsummary judgmentの申立否定]

  3. United States v. Nippon Paper Indus. Co. Ltd., 109 F.3d 1(1st Cir. 1997)
  4. Hartford Fire Ins. Co. v. California, 509 U.S. 764(1993)
  5. United States v. Aluminum Co. of America, 148 F.2d 416 (2nd Cir. 1945)

[参考文献]

  1. 松下満雄『国際経済法』88-91頁、388頁(改訂版 有斐閣1996)
  2. 松下満雄「ファックス・ペーパー反トラスト事件差戻審判決〜米反トラス ト法域外適用の最近の動向」国際商事法務29巻1号(2001)
  3. 松下満雄「日本独占禁止法の域外適用の最近の事例」国際商事法務26巻11号(1998)
  4. 白石忠志 「自国の独禁法に違反する国際事件の範囲」ジュリスト1102号、 1103号(1996)
  5. 石黒一憲『国際民事訴訟法』13頁-(1996)

 

 

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芹澤英明
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