第12回  (2001/7/11)
懲罰的損害賠償法理の限界-----Honda事件判決(1994)

[初出]2001/7/11
[最新更新]Thursday, 24-Jun-2004 22:17:51 JST

アメリカ法のpunitive damages (懲罰的損害賠償)制度は、日米法文化摩擦論の中でも、 わが国において、特に拒否反応が強くあらわれる領域です。 1990年代には、いわゆる萬世工業事件最高裁判決 (平成9年7月11日第二小法廷判決)が、 カリフォルニア州裁判所の出した確定判決の、わが国における承認執行を、 懲罰的損害賠償部分について認めなかったことを契機として、日本の法学者・実 務家の論調の中に、改めて懲罰的損害賠償批判論があらわれました。

この制度を批判する前提として、 アメリカ法が、 このような実損害を超える損害賠償制度を、民事手続制度の中で広く認めること にいかなる合理性があるかを検討することがまず必要です。 確かに、 懲罰的損害賠償の制裁機能や違法行為の抑止効果(一般予防機能) は、刑事手続の目的・効果と共通する一面があります。 しかし、このことから、懲罰的損害賠償は、 原告の損害補償を目的とする民事手続制度の基本理念と相反するという結論が導けるでしょ うか。少なくとも、民事手続の目的・機能には刑事手続の目的・機能と共通する一 面があることを認め、その上で、両者の調整をはかるという方針を立てるほうが より生産的なアプローチであるように思われます。 懲罰的損害賠償制度は、アメリカの民事手続がその法体系の中で期待されてい る中心的な役割、すなわち、法の実現(enforcement)のために果たしている核心的な役割を象徴していることは確かです。

この制度に一定の合理性があることを認めたとしても、 懲罰的損害賠償額の過大化、行きすぎ傾向が見られることも確かです。 アメリカ法において、 懲罰的損害賠償の過大化ないし行きすぎの傾向は、 どのように制御されているのでしょうか。 懲罰的損害賠償法改革は、 製造物責任法改革(不法行為法改革) の重要な一部として進行してきました。それは、州の判例法、州の制定法、連邦法の 三つの局面で行われています。( → 第9・10・11回 アメリカ製造物責任法理の変容)

今回は、このうち、過大な懲罰的損害賠償が連邦憲法違反になるということを 示した、連邦最高裁の Honda事件判決(1994)を中心に、懲罰的損害賠償法改革 の動きを紹介してみましょう。


 

[キーワード]

  1. compensatory damages(填補的損害賠償)
    punitive damages (懲罰的損害賠償)
  2. multiple damages(二倍・三倍賠償)
    double damages(二倍賠償)
    treble damages (三倍賠償)
  3. willful and wanton act (故意の安全無視的行為)
    reckless disregard (未必の故意による無視、認識ある過失による無視)
  4. remittitur(損害賠償額縮減決定)
    additur(損害賠償額増額決定)
  5. enforcement([法の]実現、執行、強制)
  6. Law and Economics (法と経済学)
  7. Common Sense Product Liability Reform Act of 1996[大統領の拒否権行 使により立法されなかった連邦法案]
  8. Eighth Amendment/Excessive Fine Clause(憲法第8修正/過大罰金条項)
  9. Fifth Amendment/ Due Process Clause(憲法第5修正/ デュープロセス条項)
  10. Fourteenth Amendment/Due Process Clause(憲法第14修正/ デュープロセス条項)
  11. procedural due process (手続的デュープロセス)
    substantive due process (実体的デュープロセス)



[判例]

  1. Browning-Ferris Industries of Vermont, Inc. v. Kelco Disposal Inc., 492U.S.257(1989)
  2. Pacific Mut. Life Ins. Co. v. Haslip, 499 U.S. 1 (1991) ; 浅 香吉幹、紹介 [1992]アメリカ法125頁
  3. TXO Production Corp. v. Alliance Resources Corp., 509 U.S. 443 (1993)

  4. Honda Motor Co. v. Oberg, 512 U.S. 415 (1994)
    [判決原文]

  5. BMW of North America, Inc. v. Gore, 517 U.S. 559 (1996) ;木下毅評釈 『英米法判例百選[第三版]』100事件(1996)
  6. Cooper Industries, Inc. v. Leatherman Tool Group, Inc., 121 S.Ct.1678(2001)
    [判決原文]
  7. State Farm Mut. Automobile Ins. Co. v. Campbell, 538U.S.---(2003)



[参考文献]

  1. 田中英夫・竹内昭夫『法の実現における私人の役割』133-172頁(1987)
  2. 田中英夫「二倍・三倍賠償と最低賠償額の法定」法学協会雑誌89巻10号(1972), 90巻8号(1973):『英米法研究3ー英米法と日本法』28,44頁(1988)
  3. 松下満雄『アメリカ独占禁止法』395頁-(1982)
  4. 石黒憲一『ボーダーレス・エコノミーへの法的視座』133-54頁(1992)
  5. 小林秀之・吉田元子「アメリカの懲罰的損害賠償判決の承認・執行(上)(下)」 NBL629号6頁,630号42頁(1997)
  6. 河野俊行「アメリカの懲罰的損害賠償判決と国際民事訴訟法上の若干の問題 について---ドイツ・スイスにおける最近の状況を手がかりとして」法政研 究58巻4号867頁(1992)
  7. Norman T.Braslow, The Recognition and Enforcement of Common Law Punitive Damages in a Civil Law System:Some Reflections on the Japanese Experience, 16Ariz.J.Int'l & Comp.L.285(1999)
  8. Kerry A.Jung, Comment, How Punitive Damage Awards Affect U.S. Business in the International Arena, The Northcon I v. Mansei Kogyo Co. Decision, 17 Wis. Int'l L.J. 489(1999)
  9. A.Mitchell Polinsky & Steven Shavell, Punitive Damages:An Economic Analysis, 111Harv.L.Rev.869(1998)



[参考リンク]

  1. [参考資料]萬世工業事件最高裁判決 (平成9年7月11日第二小法廷判決)

 

 

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芹澤英明
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