第1回  はじめに(2001/4/18)
日米法文化摩擦論への招待:ケース・スタディの意義 

[初出]2001/4/18
[最新更新]Friday, 03-Aug-2001 16:57:45 JST

本日は、この講義全体の導入として、 日米法「文化」摩擦研究の意義について説明します。

比較法においてケース・スタディを行うこ とは、巷に流布している外国法についてのステレオタイプを批判するために非常に重要です。 たとえば、日米法文化摩擦論者は、 アメリカの民事裁判制度について、「成功報酬」によって生活している 「弁護士の数の多さ」を指摘し、何でも訴訟によって解決 しようとする「過訴訟社会」であること、素人が過大な損害賠償(「懲罰的損害 賠償」)を算定しがちで ある「陪審制」をとっていること等を指摘してきました。 日本の民事裁判制度に見られないこれらの制度がどのように社会の中で機能して いるかという、個々の制度の合理性についての検討をふまえずに、 いきなりアメリカ「法文化」論を唱えることは、誤解を招くだけでなく、 外国法の制度理解の方法論として端的に誤っています。

この講義では、アメリカ民事裁判制度の特徴的な構成要素を一つ一つ とりあげて、その社会的な機能を理解することに努め、 それらの制度の持っている合理性について個別的に検討していきます。

最初の話題は、「アメリカ法の多元性」です。とりあげるケースは、 自動車のタイヤに関する製造物責 任訴訟の事例。アメリカにおいて、多くの製造物責任訴訟が、 連邦裁判所と州裁判所の双方に係属し、 如何に複雑な経過をたどっているか調べてみましょう。

周知のようにアメリカ合衆国は連邦制をとっています。そしてアメリカ法の最大 の特徴 は、実体法、手続法、及び裁判所組織といった全局面で、州と連邦の二本立て の法体系となっていることです。(アメリカ法の多元性) したがって、製造物 責任訴訟においても、訴えを提起すべき裁判所、そこで適用されるべき手続法、実体法について様々な可能性があることが予想されます。

 

[キーワード]

  1. products liability litigation(製造物責任訴訟) ( →本講義第9・10・11回 参照 )
  2. Federal Courts(連邦裁判所)/ State Courts(州裁判所)
  3. pretrial(プレトライアル、トライアル前) /trial(トライアル、正式事実審理)
  4. Diversity Jurisdiction(州籍相違に基づく裁判権)
    Diversity of Citizenship (州籍の相違)
    28U.S.C.§1332 ( →本講義第2・3回 参照 )
  5. Federal Question Jurisdiction(連邦問題裁判権)
    28U.S.C.§1331 ( →本講義第4・5回 参照 )
  6. voluntary dismissal (訴えの取下げ)
    Federal Rules of Civil Procedure, Rule 41(a)
  7. removal(移管) / remand (差戻し)
    28U.S.C.§1441
  8. class action (クラス・アクション)
    Federal Rules of Civil Procedure, Rule 23 ( → 本講義第13回参照 )
  9. Judicial Panel on Multidistrict Litigation(広域係属訴訟司法委員会)
    consolidation(併合)
    transfer(移送)
    28U.S.C.§1407
  10. forum shopping (法廷地漁り)

[判例]

  1. In re Bridgestone/Firestone, Inc., 129 F. Supp. 2d 1207(S.D.Ind. 2001)[広域係属訴訟でのプレトライアルの方針についての命令]
  2. In re Bridgestone/Firestone, Inc. ATX ATX II & Wilderness Prod. Liab. Litig., 2001 U.S. Dist. LEXIS 1995 (S.D. Ind. Feb. 20, 2001)[広域係属訴訟で、州裁判所での訴訟追行のために、特定の連邦裁判所における訴えの取下げを認めた事例]

 

[参考文献]

  1. 浅香吉幹『アメリカ民事手続法』(2000)
  2. 浅香吉幹『現代アメリカの司法』(1999)
  3. 田中英夫『英米法総論(下)』(1980)

 

[参考リンク]

  1. National Highway Traffic Safety Administration(NHTSA, 連邦運輸省道路 交通安全局)タイヤ・リコールのページ

 

 

「日米法文化摩擦」目次へ


Copyright (c) 2001 by Hideaki Serizawa All Rights Reserved.

芹澤英明
serizawa @ law.tohoku.ac.jp