北海道大学夏期特別講義 「アメリカサイバースペース法(2001)」 
−サイバースペースの法的構造ー

東北大学大学院法学研究科 (英米法・トランスナショナル情報法)芹澤英明

[初出]2001/8/3
[最新更新]Thursday, 07-Jun-2007 11:55:49 JST

(注意)このテキストの利用はインターネット上に限る。それ以外の利用について は、 著作者の明示の許諾を得ること。また、講義期間中(及びそ の後も)、 頻繁に改訂されているので、常に最新版を利用すること。


(1)はじめに----アメリカ著作権法の最近の判例からサイバースペースの法構造を探る

サイバースペース上における著作権保護について、最近のアメリカ法の判例には、 ある方向性が見られます。それは、外面的には伝統的な著作権概念が確認され、その侵害に対する法的保護を貫徹する過程のように見 えながら、その実、これまでどおりの「著作権法」による 規制には根本的な限界があることが露呈されつつあるということ です。 サイバースペースでは、「法」、あるいは、「法 的規制」の意味や機能も、さらには基本的な「法的概念」さ えも再考をせまられているように思われます。

この講義では、主にアメリカ著作権法の最近判例を分析しますが、 サイバースペース上で生じている高速の技術的な進歩と、そのビ ジネス社会における応用が法的規制につきつけている課題は、 この狭い領域を超え、さらに、 電子取引やプライバシー権保護といった、他のサイバースペース法の 領域において生じている問題と何らかの共通性があるのではないでしょうか。 受講者のみなさんとともに考えをめぐらせることができれば、望外の幸せです。


(2)Tasini事件最高裁判決(2001)

2001年6月に連邦最高裁で出されたTasini判決は、 オンラインデータベースに著作物を組み込む場合に、 元の著作権者の明示的な許諾を要求することを明かにしました。

サイバースペース上では、 共同著作物や派生的著作物といった複数の著作権者の 権利関係を、オンライン・ライセンスの自動的な増殖過程によって 規律するという試みがなされています。

オーソドックスな著作権の判決例と見られるTasini判決は、 オンライン・ライセンスの自動増殖という観点から 見るとどのようなことを示しているでしょうか。

[判例]

  1. N.Y. Times Co. v. Tasini, 121 S. Ct. 2381 (2001)

[文献]

  1. 梅谷真人「紹介: Tasini v.The New York Times,972 F.Supp.804(S.D.N.Y.1997)」[1999]アメリカ法333頁
  2. 蘆立順美「紹介:Matthew Bender & Company, Inc. v. West Publishing Co., 158 F.3d 693(2nd Cir.1998)」[1999]アメリカ法339頁



(3)Napster事件第9巡回区控訴裁判所判決(2001)

Napster事件は、Peer To Peer技術がもたらした、ファイル共有によって、 伝統的な著作権概念が大きな変貌を余儀なくされることを示す 真に分水嶺的な事件です。 まだ、係属中の事件であり、この講義の段階では、仮処分的差止命令についての 判断しかでていませんが、 今回は、この事件をとりあげて、 伝統的な著作権概念を維持する判例の方向性が果して有効なのかという問題や、 Digital Millennium Copyright Act of 1998(DMCA)の 「ISP責任制限規定」の機能低下についても考察してみた いと思います。

[判例]

  1. A & M Records, Inc. v. Napster, Inc., 2000 U.S. Dist. LEXIS 6243, 54 U.S.P.Q.2d 1746(N.D.Cal. 2000)[被告勝訴のsummary judgment の否定]
  2. A&M Records, Inc. v. Napster, Inc., 114 F. Supp. 2d 896 (N.D. Cal. 2000)[地裁の元の仮処分的差止命令(2000年4月10日)]
  3. A&M Records v. Napster, Inc., 239 F.3d 1004 (9th Cir. 2001) [元の仮処分的差止命令についての上訴審判決(2001年2月12日(4月3日に修正))]
  4. A&M Records, Inc. v. Napster, Inc., 2001 U.S. Dist. LEXIS 2186(N.D.Cal. 2001)[差戻判決後に出された仮処分的差止命令(2001年3月 5日)]
  5. A&M Records, Inc. v. Napster, Inc., 284F.3d 1091(9th Cir. 2002) [修正された仮処分的差止命令の上訴審判決(2002年3月25日)]
  6. MG Recordings, Inc. v. Hummer Winblad Venture Ptnrs, 377F.Supp.2d 796(N.D.Cal. 2005)[被告のsummary judgment申立否定]

  7. MGM Studios, Inc. v. Grokster, Ltd., 259 F.Supp.2d 1029(C.D.Cal. 2003), 380F.3d 1154(9th Cir. 2004)[被告勝訴のsummary judgmentの肯定]
  8. MGM Studios, Inc. v. Grokster, 125 S.Ct. 2764(2005)[破棄差戻判決]

[文献]

  1. 田村善之 「インターネット上の著作権侵害行為の成否と責任主体」同 編 『情報・秩序・ネットワーク』 189(1999)
  2. 山本隆司「解説 Napster(ナプスタ-)事件」 コピライト41巻17-25頁(2001.7)
  3. 夏井高人「ナップスター問題――はっきり言って音楽産業は歴史的使命を 終えたのだ(特集 多発するネット紛争)」 エコノミスト2000年11月14日、 58頁
  4. 芹澤英明「P2Pファイル共有ソフトの宣伝行為を伴う頒布が著作権の寄与侵 害(contributory infringement)に該当するとされた事例---MGM Studios Inc. v. Grokster, 125 S.Ct.2764(2005)」L & T 30号143頁(2006).
  5. Niels Schaumann, Intellectual Property in an Information Economy:Copyright Infringment and Peer-To-Peer Technology, 28Wm.Mithcell L.Rev.1001(2002)
  6. Special Feature, The Napster Litigation, 89Ky.L.J.781-(2001)
  7. Robert E. Litan, Law and Policy in the Age of the Internet, 50 Duke L.J. 1045, 1068(2001)
  8. Joseph P. Liu, Owning Digital Copies:Copyright Law and the Incidents of Copy Ownership, 42 Wm.& Mary L.Rev. 1245, 1351(2001)
  9. Damien A. Riehl, Peer-to-Peer Distribution Systems:Will Napster, Gnutella, and Freenet Create a Copyright Nirvana or Gehenna?, 27Wm.Mitchell L.Rev.1761(2001)
  10. Michael Einhorn, RIAA v. Napster:Sympathy for Which "Devil"?, 32 U. West. L.A. L. Rev. 171 (2001)
  11. Karen M. Lee, Comment, The Realities of the MP3 Madness: Are Record Companies Simply Crying Wolf?, 27 Rutgers Computer & Tech. L.J. 131 (2001)
  12. Sarah D. Glasebrook, Comment, "Sharing's Only Fun When It's Not Your Stuff":Napster.com Pushes the Envelope of Indirect Copyright Infringement, 69UMKC L.Rev.811(2001)
  13. Note, Exploitative Publishers, Untrustworthy Systems, and the Dream of a Digital Revolution for Artists, 114Harv.L.Rev.2438(2001)
  14. Sarah H. McWane, Comment, Hollywood vs. Silicon Valley: DeCSS Down, Napster to Go ?, 9 CommLaw Conspectus 87 (2001)
  15. Jeremy U. Blackowicz, Legal Update:RIAA v. Napster: Defining Copyright for the Twenty-First Century?, 7B.U.J.Sci & Tech.L.182(2001)
  16. Alfred C. Yen, A Preliminary Economic Analysis of Napster:Internet Technology, Copyright Liability, and the Possibility of Coasean Bargaining, 26 Dayton L. Rev. 247(2001)
  17. Stacey L.Dogan, Perspectives on Intellectual Property: Is Napster a VCR? The Implications of Sony for Napster and Other Internet Technologies, 52Hast.L.J.939(2001)
  18. Stephen M. Kramarsky, Copyright Enforcement in the Internet Age:The Law and Technology of Digital Rights Management ,11 J. Art & Ent. Law 1, 27(2001)
  19. Rebecca J. Hill, Comment, Pirates of the 21st Century: The Threat and Promise of Digital Audio Technology on the Internet, 16 Computer & High Tech. L.J. 311, 312 (2000).



(4) 理論的考察

Tasini判決やNapster諸判決からみて、これから、 インターネット上の著作権の変容はどのような軌跡をたどることが予想されるで しょうか。著作権法の第三の波論(田村教授)をもとにして 理論的な考察を行ってみます。

ここでは、特に、 オープンソース運動のGnu GPL(General Public License)やLGPL(Lesser General Public License)を素材として、 サイバースペース上に増殖する契約による共同著作権管理の性格と、その限界に ついて、理論的に論じてみましょう。

[文献]

  1. 田村善之 「著作権法の将来像」法哲学年報2001『情報社会の秩序問題』 38頁(2002)
  2. 田村善之 「インターネット上の著作権侵害とプロヴァイダーの責任」 ジュリスト1171号69頁(2000)
  3. 芹澤英明「インターネット上のファイル共有とアメリカ著作権法---Napster 事件の意義」コピライト489号2頁(2002)
  4. 芹澤英明 「アクセス・コントロールとPreliminary Injunction」ジュ リ スト1173号86頁(2000)
  5. Symposium, Taking Stock: The Law and Economics of Intellectual Property Rights, 53 Vand. L. Rev. 1727-2254 (2000)
    [オンライン版] [law.vanderbilt.edu]
  6. Rod Dixon, When Efforts To Conceal May Actually Reveal: Whether First Amendment Protection Of Encryption Source Code and the Open Source Movement Support Re-Drawing The Constitutional Line Between the First Amendment and Copyright,1 Colum. Sci. & Tech. L. Rev. 3 (Sep. 28, 2000)
    [オンライン版] [www.stlr.org]



(5)おわりに

サイバースペースで生じている未曽有の技術革新と、その利用 に係わる新しい取引の登場により、 既存の法制度の機能変化、法概念の根本的な見なおしが生じていることについて、 私達はどのように考えたらよいのでしょうか。 この講義では、著作権を一例にとりあげましたが、 ここでは、みなさんとともに、 電子取引やプライバシー権保護といった、他のサイバースペース法の 領域についても同じような根本的な変化が生じているのではないかという ことについて議論してみたいと思います。

[文献]

  1. Lawrence Lessig, The Future of Ideas (2001); 『コモンズ---ネット上の所有権強化は技術革新を殺す』(山形浩生 訳 2002)
  2. Lawrence Lessig, Code and Other Laws of Cyberspace (1999); 『CODE--インターネットの合法・違法・プライバシー』( 山形浩生 柏木亮二 訳 2001)
  3. ローレンス・レッシグ(白石忠志訳) 「創造を育むコモンズ」NBL752号21頁(2003)
  4. リチャード・ストールマン『フリーソフトウェアと自由な社会』(長尾高弘訳 2003)
  5. Mark Stefik, Shifting the Possible:How Trusted Systems and Digital Property Rights Challenge Us to Rethink Digital Publishing, 12 Berkeley Tech.L.J.137(1997)
    [オンライン版] [www.law.berkeley.edu]
  6. Peter Huber , Law and Disorder in Cyberspace:Abolish the FCC and Let Common Law Rule the Telecom(1997)
    平嶋竜太、紹介、[1999]アメリカ法267頁
  7. 平嶋竜太「第2章 オープンソース・モデルと知的財産法---序論」相田義明・ 隅蔵康一・平嶋竜太『先端科学技術と知的財産権』57頁(発明協会 2001)
  8. 越智貢・土屋俊・水谷雅彦編『情報倫理学:電子ネットワーク社会のエチカ』 (2000)
  9. 長谷部恭男「通信と放送」ジュリスト1192号106頁(2001)
  10. 本多正樹「金融資産の移転に関する法制--カネとモノの横断的考察」民商 123巻6号1頁(2001)
  11. 森田宏樹「電子マネーをめぐる私法上の諸問題」金融法研究15号 51〜90 頁(1999)



(6)参考リンク集

お忙しいところ、しかも、休日だったにもかかわらず、 拙い講義に参加してくださったみなさん、本当にどうもありがとうございました。 特に、このようなすばらしい機会を提供してくださった 田村善之先生 のお心遣いには感謝の言葉もありません。

さて、最後に、今回参加してくださった方関係のWebページとともに、 講義のテーマに関連したWebページへの参考リンク集を掲げておきます。 もし、このようなことに興味がおありでしたら、下記のページをご覧になって、 何が問題になっているのか、じっくり考えてみることをお勧めいたします。

それでは、またお会いできる日を楽しみに---。

  1. たむたむるーむ [www.juris.hokudai.ac.jp]
  2. 小樽の知財ゼミ [www.edu.otaru-uc.ac.jp]


  3. Napster事件:合衆国政府のAmicus Brief [www.loc.gov]
  4. Napster Archive (C-SPAN) [www.c-span.org]
  5. FindLaw Investigations--Napster [news.findlaw.com]
  6. アメリカレコード協会(RIAA) [www.riaa.com]


  7. P2P United [www.p2punited.org]
  8. Yahoo! Japan--ファイル共有 [dir.yahoo.co.jp]
    Yahoo!---Peer to Peer File Sharing [dir.yahoo.com]


  9. GNU Project
    GNU General Public License(GPL)その他のLicense類 [www.fsf.org; www.gnu.org]
  10. Open Source Initiative (OSI) [www.opensource.org]
    Open Source Group Japan(OSG-JP) [www.opensource.gr.jp]
  11. Richard Stallman氏のページ [www.stallman.org]
  12. Eric Raymond氏のページ [tuxedo.org]
    "The Cathedral and the Bazaar"/ (邦訳『伽藍とバザール』)
    "Homesteading the Noosphere"/ (邦訳『ノーアスフィアの開墾』)
    "The Magic Cauldron"/ (邦訳『魔法のお鍋』)
  13. フリーソフトウェアイニシアティブ(FSIJ) [www.fsij.org]
  14. Creative Commons (CC) [www.creativecommons.org]


  15. Lawrence Lessig氏のページ [cyberlaw.stanford.edu]
  16. 山形浩生氏のページ [www.post1.com]


  17. 東北大学法学部 インターネットと法/知的財産法プロジェクトのページ [www.law.tohoku.ac.jp]
  18. 東北大学法学部 2001年度前期、「英米法I アメリカサイバースペース法入門」 講義 [www.law.tohoku.ac.jp]
  19. 芹澤英明のページ [www.law.tohoku.ac.jp]





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