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2014年04月02日

preface

「法律家のための実証分析入門」の書籍化計画のために,はしがきを書いてみました:

 本書は,法学セミナーに連載(681-707号)した「法律家のための実証分析入門」を加筆修正の上で1冊にまとめたものなので,同連載を始めた由来から話を始めた方がよさそうだ。
 2010年頃,筆者の同僚(当時)の小粥太郎さんが法学セミナーに連載を持っていたこともあって,小粥さんから「同誌編集長の上村真勝さんがテーマは何でもいいから森田に連載してもらえないかと言っている」との相談を受けた。「ん? 今,何でもって言ったよね?」と聞いたら,「そう,『森田果のお料理教室』でも『森田果の食べある記』でもいいらしいよ」との返事が返ってきたので,ふーんと受け流していたところ,6月頃になって上村さんが本当に仙台にやってきた。
 他人がやっていないことでないとやる気が起きない天邪鬼な筆者としては,University of Chicago (UofC)滞在時から計量経済学を中心とする計量分析の手法を学び続けてきた一方で,日本では計量分析を使った法学研究が少ないことや裁判実務での計量分析の扱われ方に疑問を抱いていたので,法学セミナーの読者には需要がないだろうなと思いつつ「実証分析なんてどうですか?」と提案したら,上村さんからなんとOKが出た。そこで,上村さんの勇気ある決断に敬意を表して,連載を引き受けることにした。
 連載を開始するにあたっては,2006-2008年に東北大学法学部・大学院法学研究科で開講していた実証分析ゼミをベースにして,最近の実証分析の主流になりつつあるにもかかわらず,日本語でそれを紹介する入門書があまり見当たらなかった因果推論(causal inference)を追加することにした(本書16章以降)。ゼミにおいては,数式の展開の仕方やプログラミングの仕方を手取り足取り教えることができる。しかし,法学学習誌でそれを行うと読者層とのミスマッチが激しくなりすぎるので,実証分析手法のより直感的な理解や,実証分析を行う・読む際のノウハウを提供することを主目的に設定した。
 その後,連載開始準備中の2011年3月に東日本大震災に襲われたが,何とか7月に連載初回を脱稿することができた。連載中は,毎月やってくる原稿締め切りに追われる――特にサブタイトルを考えるのが本当に重労働――生活になったけれども,連載途中で声援をおくってくれた「法の経済分析ワークショップ」の研究者(特に家田崇さん・江口匡太さん・久保大作さん・胥鵬さん)や蟻川靖浩さんのおかげで何とか乗り切ることができた。また,理系で実証分析を使う者としての立場から毎回原稿を読んでくれた秋月祐子さんにも多くを助けられている。
 以上のように,本書のセールスポイントは,①因果推論の世界の紹介,②実証分析の直感的な理解,③実証分析のノウハウ,という普通の教科書や授業ではなかなか取り上げられないテーマを扱っている点にある。この意味で,本書は,(法学に限らない)実証分析の学習にあたっての副読本として活用すると最も役立つのではないかと考えている。もちろん,そこまで本格的に実証分析を学ぶつもりのない読者が,本書だけを読んで実証分析の「ツボ」をつかもうとすることも,本書のもう一つの利用方法だ。
 他方で,本書があえて取り上げなかったテーマもある。まず,本書は,時系列データの処理については基本的に取り上げていない。これは,時系列データの分析における問題関心にはやや特殊なものがあるし(たとえば単位根unit rootなど),時系列データの変化(variation)は,クロスセクションデータやパネルデータのそれに比べると今ひとつの感があり,因果推論に使う(そして,法学的政策的インプリケーションを導き出す)ことにはやや難があると筆者が感じているからだ。もちろん,ファイナンスの一部など,株価データのような時系列データを使わざるを得ない場合もあるけれども。
 もう一つ,筆者のこれまでの興味関心が計量経済学に偏ってきたため,社会学や心理学で多く扱われる手法については,本書はほとんど取り上げていない。たとえば,分散分析(ANOVA/MANOVA)や構造方程式モデル(SEM)などは,本書では取り上げていない。ただ,数学的なメカニズムには共通するところがあるので,本書の後にそれらの分野の教科書を読めば,比較的簡単に理解できるだろう。
 また,統計学の基本的な手法も,本書は多くを取り上げていない。これは,統計学の入門書にはこれまでに多くの優れた書籍が公刊されてきており,そこに本書が追加するものは特にないと考えたからだ。統計学の基本的な手法を学びたい方は,入門書にあたってみるとよいだろう。

 本書がなるにあたっては,前述したように連載の途中で助けてくれた方々のほか,筆者に実証分析を教えてくれた多数の先生方(UofC・ICPSR・ECPR・Causal Inference Workshopなど)や友人の指導・助言に多くを負っている。また,法学セミナー連載中においては,上村さん,そして,途中から編集長となった柴田英輔さんには,数式や図表の多い,法学らしからぬ特殊な原稿の組み版で多くの迷惑をおかけした。さらに,書籍化にあたっては,日本評論社第2編集部で経済書を専門とする吉田素規さんにも追加的に編集の労をとっていただいた。これら多くの方々に深く感謝申し上げたい。
 筆者は,UofC滞在時以来,一見無意味な数字の羅列の中から世界の姿が立ち上がってくることの美しさ・楽しさに魅せられて,実証分析に取り組んできた。読者の方にも,この美しさ・楽しさに触れていただくことができれば,本望である。

※ 本書で使用したデータや統計ソフトウエア用のソースコードは,http://sites.google.com/site/empiricallegalstudy/にて配布しています。

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