« christmas | メイン | mochi pounding »

2012年12月27日

truck industry

某オンラインショップで商品を購入したところ,一部毀損した状態で,その商品が配送されてきた。そのショップにクレームを連絡したところ,どうやらショップで配送を運送会社に委託した時点では,その毀損はなかったらしい。他方,運送会社にも連絡したところ,どうやら,その運送会社のドライバーが毀損させてしまったらしいことが判明した。ショップの方は,それは運送会社の責任だって言っているんだけど,どーなのよ?

という,比較的簡単な法律問題。

ショップと購入者との間で売買契約が締結されているわけだけれども,ショップの引渡債務の履行場所は,購入者の自宅だから(別段の特約のない限り),自宅で引き渡した時点で毀損があれば,それは債務不履行であってショップが責任を負う。あるいは,運送会社は,ショップの履行補助者なのだから,履行補助者の故意過失による責任については,債務者たるショップが責任を負う。ショップは,その損失について,運送会社に対して求償することになる。

このようなリスク配分の合理性は単純で,どのような運送会社を選択するかについては,ショップの側に裁量があり,ショップとしては,高価だけれども信頼のできる業者を選ぶか,それとも,安かろう悪かろうの業者を選ぶかを選択できる。だから,ショップは,運送コストとリスクとのバランスが最適になるような運送業者の選択をするインセンティヴを持つわけだ。
そして,最終的には,ショップが運送業者に求償していくから,実際に事故発生確率をコントロールできる運送業者が事故の発生を抑えようとするインセンティヴを持つ。

ここまでなら普通の話なのだけど,ちょっとおもしろいのは,国内のトラック運送業者というのは,ちょっと特殊(?)な構造を持っていることだ。

トラック運送業というのは,需要に季節変動のとても大きい業種だ。たとえば,今のような年末なんかは,運送需要が大きく増加する。他方で,閑散期には,需要がぐっと減る。こういう場合にどうやって需給調整をしているのかというと,伝統的には,多重下請けという形で対応してきた。
つまり,繁忙期に多くの注文を抱えて自社ドライバーだけで対応できなくなった運送業者は,下請けに出す。この下請けを受けた業者が,さらに自分でさばききれないとなると,さらに孫請けに出す。このように多重下請けをすれば,自社で閑散期から多数のドライバーを抱えることなしに,需要の季節変動の大きさに対応できることになる。
こういった需要変動の吸収方法が行われてきたのは,別にトラック業界だけではなくて,たとえば港湾荷役なんかでも活用されて来た,っていうことは宮崎学「近代ヤクザ肯定論」に描写されている(ちなみに,港湾荷役の世界では,そこが山口組の発展の場だった――トラック業界もヤクザがコントロールしているのかどうかは知らない)。

で,今回のケースでも,運送会社は,自社で運送を行っていたのではなくて,孫請け会社に運送を委託していた。この孫請け会社は,以前からトラブルを頻繁に起こしている会社で,この元請け運送会社としては,孫請けを切りたいのだけれど,何らかのしがらみにより切れないでいて,大変困っているらしい。

もちろん,下請けに出すということは,元の運送契約からすれば履行補助者を使うということであり,ショップから求償を受けた元請け運送会社は,下請け運送会社,さらに孫請け運送会社に対して求償していくことになる。
真っ当な運送会社であれば,こういった事故の発生については,賠償責任保険(損害保険)を購入しているはずだから,それでカバーされる。もちろん,一律に保険を販売したら,保険会社がモラルハザードでとんでもないことになるので,保険会社としては,前年度の事故率に応じて次年度の保険料を決めるなどの形で(ちょうど自動車保険の等級制度みたいに),インセンティヴを設定する。このインセンティヴ・スキームがうまく機能すれば,それぞれの運送会社は,自らの注意レベルを適切な水準に設定することになるだろう。

...のはずなんだけれど,そうすると,この,以前からトラブルが多いのになかなか改善されない孫請け会社っていうのは,どうしてそんなのが発生するんだ?という疑問がわく。
きちんと求償がされていれば,この孫請け会社は,そのコストを直接,あるいは,保険料を通じて間接的に内部化して,注意水準を高めていくから,次第にトラブルが少なくなっていくことが予想できる。しかし,そうなっていないようだとすると,なんでこのメカニズムがうまく機能しないんだろうか?というわけだ。

可能性はたぶん2つくらいあって,
a) 何らかの理由により,元請け運送会社から孫請け運送会社に求償がされていない
b) 孫請け運送会社のドライバーのレベルがあまりに低く,どんなに保険料が高騰しても,ドライバーを教育することの方がはるかに高いコストがつく
あたりじゃないか,と考えられる。b)はなかなか悲しいシナリオだけど,a)の方も,今度は元請け運送会社の行動に合理性がないから,何か怪しい事情がありそうだなーという気にさせられる話だ。

それに,保険でカバーされるのは物損だけで,「あそこのサービスは質が悪い」といったレピュテーションの毀損についてまではカバーされないっていうのも,元受運送会社が孫請けを切りたい(けれど,切れないのはなぜ?)な動機だろうなぁ。

トラックバックURL

このエントリーのトラックバックURL:
http://www.law.tohoku.ac.jp/~hatsuru/cgi-local/mt/mt-tb.cgi/2702

コメントする

(初めてのコメントの時は、コメントが表示されるためにこのブログのオーナーの承認が必要になることがあります。承認されるまでコメントは表示されませんのでしばらくお待ちください)