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2011年06月14日

probabilistic effect and causation

先日,

アメリカのたばこ訴訟なんかで,肺がんになる原因ってたばこだけじゃなくて他の原因もいろいろあるはずなのに,何で因果関係が肯定できるの? たばこが肺がんになる確率を高めるのは確かだけれども,でも,一人一人の患者が,直接にたばこによって肺がんになったかどうかまでは分からないでしょ。

っていう相談を受けたのだけれども。

僕は,アメリカのたばこ訴訟について詳しく調べたことはないのだけれど,想像できるものの一つは,次のようなメカニズムだ:

法学における普通の因果関係っていうのは,確かに,「あるか・ないか」っていう極端な判断枠組みなので,たとえば民法で言えば「証拠の優越」という閾値(たとえば50%の蓋然性)をクリアしないと,因果関係あり,って認定してくれない。そうすると,一人一人の被害者(である可能性のある人(以下同じ))を分析して,一人一人については,たばこが原因となっている確率の立証が50%未満までしかできなければ,全員について賠償責任なし,っていう結論になっちゃう。

でも,被害者を一人一人観察するんじゃなくて,たとえば被害者1000人とか1万人とかをグループにして観察してみよう。そうすると,その被害者のうちのどのくらいの割合が,たばこによってがんを発症したのか,そしてどのくらいの割合が,たばこ以外の原因によってがんを発症したのかを,計算することができる。ちなみに,素敵なことに,被害者のグループの規模が増えるにしたがって,数学的にこの推定のブレは小さくなる(←LLN)。こういう風に,集団ベースで考えると,「この人たちのうち,○○%は,たばこによってがんを発症した」ということが,「証拠の優越」基準によったとしても,言うことができる。

もちろん,クラスアクション(集団訴訟)には,いろいろな欠点があることは確かだけれども,こういうところをうまくクリアできるのは,クラスアクションを導入することのメリットの一つではあるよね,と。不法行為法は,不法行為の抑止を主要目的とすべきだという発想(森田=小塚NBLペーパー)からすれば,「証拠の優越」基準に満たないような確率的な損害であっても,加害者の側に内部化させないと,社会的に最適な行動を採用するインセンティヴを設定できないわけだから(※)。

※ ちなみに,不法行為法は損害填補が主要目的だ,っていう人たちは,こういうケースは,そもそも「損害」でないから,賠償させるべきでない,って考えることになるのかなぁ?

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コメント

相談者本人ではないので本当の意図はわかりませんが...

この問題は
要因A(タバコ),B(食生活)、C(過労)、D(遺伝による身体の性質)の4つを結果R(肺がん)の原因と仮定した場合に
一定の喫煙者肺がん患者母集団Yの中に

1.Rの原因がAなのか、Bなのか、Cなのか個別にはわからないが、Yの中でRの原因がAである集団25%、Bが25%、Cが25%、Dが25%という場合に損害賠償をどのように仕組むか、という問題

2.AとBとCとDの4つそろって初めてRという結果が発生する場合の、Aに寄与した集団に損害賠償をどのように仕組むか、という問題

の2つがあって、この2つの問題が錯綜しているのではないですかね?

後者の問題は、Xが街中を歩いていたらビルの4階にいるYが花瓶を落として、丁度真下にいたXが怪我を負った場合に、「Yが花瓶を落としたこと」と「Xが街中を歩くこと」の2つが原因といえば原因なのですが
後者はXに当然に認められている行為であるので損害を負担させるべきではない
というある種のリスク分配的な考慮(ここで経済分析を使うか権利の呪文を唱えるかは問題ではなく)が当然の前提となっている、
といった不法行為法でこれまたよくある話なんだと思います。
ですが、

これがタバコの場合のA,B,C,Dとなると、このリスク分配的な考慮として
乱れた食生活を送る自由があるのか、自分の好きなだけ働く自由があるのか、遺伝的な体質(?)を理由に活動の自由が区別されてはならないかどうか
それに対して、タバコ会社がそういった情報から警告すべきかどうか
をするのではないかと。
そして、個人によって、B,C,Dの程度が異なるのにAに寄与した者への損害賠償の範囲はどうなるの?
というのが御質問の趣旨ではないでしょうか?
これは、大数的に処理するというよりあえてどんぶり勘定にすることで実効的な抑止・救済を図っていくことになる点では同じだと思いますが。


んー,たばこによる癌のケースって,1でも2でもない(というか,エントリに書いたとおり)なのではないかという気が。

つまり,癌って,確率の問題なわけで,人間の体内では遺伝子が傷ついてしまった細胞っていうのは日常的に大量に生まれていて,その中で,運良く成長力があって,かつ,免疫システムから異物と認識されないものが癌として成長するわけであって,発がん性物質っていうのは,そういう以上を引き起こす確率が他の物質よりも高い物質のことなわけでしょ。
だから,1の場合のように,ABCDの4つのいずれかが原因で癌が発生しているという区分もできないし,2の場合のように複数がそろったから癌が発生するという問題でもない。Aという物質の投入によって,other things equalであってもxx%発がん確率が上がった,という確率的なことしか言えない状況,というのがこのケースではないかと。

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