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November 30, 2010

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商事法務の最新号(11月25日号)に,

会社分割に伴う労働契約承継手続と同手続違反の効果
 ―日本アイ・ビー・エム上告事件―
  □岩出 誠 千葉大学客員教授・弁護士

というのが載っているのを見て,ぱらぱらと眺めていたんだけど(学部の会社法の授業で解説予定の判例なので),これは「判例評釈」としてはかなりびみょーだ。

判例評釈の一般的な作法としては(もちろん「判民型」「民商型」という違いはあるのだけれども),普通は,①その判決が何を言っているのか(いわゆる「準則」)を明らかにした上で,②その準則をそれまでの判例や学説の流れの中に位置づけた上で,③その判決がもたらす影響(いわゆる射程)についても可能(必要)であれば言及する,という流れで行う。

で,これらのうちの一番大事なのが①の部分で,それに続いて③・②のパート,っていうことになる。なぜなら,その判決が出たことによって,以後,同種の事件は同様の基準で処理される蓋然性が高くなるのだから,これからの実務がどう動くのか,ということを考えるためには,まずは①の分析――判決が言っていることは,通常,必ずしも一義的に明確ではない――が必須だからだ。その上で,類似の事案がどう処理されるのかを予測するためには,③のパートが有益になる。②の部分は,①や③の判断のための基礎資料として活用することとして,まず役立つが,その他に,その判決が「いい」判決かどうかについての評価の理由として使うことになる。

これに対し,学部のゼミなんかで学部生にレポートを書かせると,たいてい,②の部分がやたら長々と冗長で,①や③についての分析がまともになされてないことが頻繁にある。本当は,①の分析がキチンとされていないと,②さえ本来できないはずなのにもかかわらず。おそらく,②の部分というのは,「調べれば分かること」なのに対して,①や③っていうのは,その判決文と真摯に向き合って自分の頭で考えなければ書けないことだからなんだろう。

で,最初に戻って岩出「評釈」だけれども,まず①の分析が弱い。最高裁の判旨をそのままコピペしたに近いんじゃないかという感じで,そのコピペ部分で最高裁が,どのような準則を打ち出そうとしているのかについて突っ込んだ分析があまりなされていない。
その上で,②の部分もかなり不親切だ。一応,これまでの学説と裁判例とが一応紹介されてはいるんだけれど,基本的には,「最高裁は私見(に近い考え方)を採用した」という書き方になっていて,この最判が実務に対してどのような影響を与えるのかについて知りたい読者からは「だからどうしたの?so what?」と言われても仕方がなさそうだ。つまり,これだと,判決について評釈を行うというよりは,自説の開陳(・宣伝?)に主目的があると受け取られてしまいそうな恐れがある。

まぁもちろん,岩出「評釈」が,「これは評釈ではない。タイトル通りに会社分割に伴う労働契約承継手続と同手続違反の効果について分析しただけで,日本IBM事件判決はただ単にきっかけに過ぎない」っていうんだったら,それでいいのかもしれないけれど,それだと,このタイトルはちょっとミスリーディングだよねぇ,と思う。

あ,ちなみに,僕のテクモのやつは,はじめから判例評釈のつもりでは書いていないし(それは太田弁護士の評釈ですでに扱われている),そのことが分かるようなタイトルにしてる(つもりな)ので,セーフじゃないかな,と。

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