●kiting
『支払決済法』解題シリーズ・その4。
今回のお題は「融通手形」。β版からちょっとだけ記述を書き換えた部分がある。
融通手形ってなかなか初心者には分かりにくい(けれども,銀行実務上はとても大事)。使い方を実感するためには,クレジットカードの名義貸しと対比しながら考えるとわかりやすい(118ページ)。
クレジットカードの名義貸しは,自分ではクレジットカードをもてない(あるいは,クレジットカードの利用可能枠を使い果たしてしまった)人に対して,カード保有者が自分のクレジットカードを「このカード使っていいよ」って貸してしまうこと。
この場合に,カード保有者は,カード会社に対して,「○○のカード利用は,自分でカード使ったんじゃなくて,第三者が使ったものだから,支払いません」と言うことはできない(というふうに,クレジットカード約款に書いてある――クレジットカードはネットワーク・システム型の支払手段であることに注意)。カード保有者としては,名義貸しをした相手に対して,クレジットカードの支払期限までに利用額を支払ってもらい,それをカード会社への返済に充てるしかない。名義を貸した相手が利用額を支払ってくれないリスクは,カード保有者が負担することになる。
そのような約款になっているのは,カード会社が信用情報を持っているのは,あくまでカード保有者についてのみであって,名義を貸した相手の信用情報はカード会社は保有しておらず,相手の信用リスクをもっともよく判断できるのは,カード保有者だからだ。だからこそ,カード保有者にリスクを負担させ,名義貸しの範囲をコントロールするインセンティヴを与えている(実際の約款は,「名義貸し禁止」っていう条項になっていることが多いけど)。
融通手形も,基本的にはこういったクレジットカードの名義貸しと基本的に同じ。自分の信用では銀行からお金を借りられない融通手形受取人に対して,融通手形振出人が自分の名義を貸していることになる。だから,融通手形受取人の信用リスクは,割引を行った銀行ではなくて,融通手形振出人が基本的に負担するような形へと,人的抗弁に関する手形法の原則(いわゆる河本フォーミュラ)が融通手形については修正されることになる。