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May 4, 2010

preface to "law of payment"

教科書『支払決済法』のはしがきを書いてみました。共著なので,この後,こづやんによる大幅な加筆修正が見込まれます。とはいえ,β版について「何であの順序になってるの?」っていう疑問は多く寄せられていたので,ご参考までに解説をば。

あ,ちなみに,出版予定日は,このまま順調に進めば8月のお盆明けです。是非とも教科書採用orお買い上げよろしく。

(以下,はしがき)

 本書は、電子マネー・クレジットカード・銀行振込・手形・小切手といったさまざまな支払手段をめぐる法ルールのあり方を統一的に、かつ、機能的に説明しようとする教科書である。従来、手形法小切手法、あるいは、有価証券法という名称で講義された来た分野に加えて、手形小切手以外に支払手段として活用される銀行振込やクレジットカード、さらには近時利用の進んでいる電子マネーなどもカバーしている。本書の教科書としての特徴は、 ①法ルールの機能的な説明に焦点を絞っていること、および、②さまざまな支払手段法について統一的な説明を与えていること、である。
 まず、本書が支払手段法の機能的な説明に特化している点(①)は、従来の手形法あるいは有価証券法の教科書とは大きく異なっている。これまでの典型的な手形法の教科書は、手形上の権利関係の発生に関するいわゆる手形法理論(契約説・発行説・創造説など)を採用した上で、その手形法理論から個別の論点に関する解釈を演繹的に導こうとする傾向があった。その副次的な結果として、実務にとっては必須である判例法ルールの紹介が十分になされずに、個別の学説から導かれた帰結のみが記述されるというケースも一部に見られた。また、それらの解釈を展開する際に、「取引安全」「手形の流通保護」といったキーワードが安易に使用されすぎる傾向があった。このためたとえば、「取引安全」をなぜどの程度保護する必要があるのかについては、十分な説明が与えられず、手形法学習者にとって親切な説明が提供されているとは言いがたい面があった。
 これに対して本書は、手形法を含めた支払手段法について、法文・契約(約款)と判例法とに基づいて、その法ルールの具体的な内容を記述した上で、「なぜ」そのような法ルールが採用されているのかを機能的に説明しようとするアプローチを採用している。このような本書のアプローチには、次のような利点がある。第一に、法文と判例法は、特定の手形法理論に依拠して形成されているわけではなく、利益衡量(と判例法は法文)に基づいて形成されている。本書のアプローチの方が、法文や判例法が、なぜそのようになっているかをより自然に説明できる場合が多い。法文や判例法が依拠していない手形法理論のバイアスを排除することによって、法ルールの理解がより正確になるだろう。この意味で、本書は、実務家を目指す者にとって有用な入門書となることを目指しており、手形法理論に関する説明は意図的に排除している。
 第二に、手形法を含めた支払手段法を機能的に理解することは、新たな支払手段を創設する際にどのように法ルールを設計していくことが望ましいのかについて、有益な見取り図を与えてくれる。本書で扱っている支払手段は、現存している支払手段だけである。しかし、情報技術の発展に伴って、将来新たな支払手段が出現してくることは十分に考えられる。そのような場合に、どのようなリスク負担を実現することが望ましいのかは、手形法理論によっては回答することが難しい。これに対し、本書の採用する機能的アプローチを身につけていれば、どのような法ルール設計をすれば、有用な支払手段を作り出せるかについて指針を得ることができる。この意味で、本書は、立法担当者や制度設計者にとって有用な入門書となることを目指している。
 本書のもう一つの特徴である、さまざまな支払手段法を横断する統一性(②)は、このような機能的アプローチの副産物でもある。手形や小切手も支払手段の一つである以上、支払手段として期待される役割やさまざまなリスクの発現の仕方には、共通する部分がある。そして、それらへの法ルールの対処の仕方にも、一定の共通性が見られることになるし、あるいは、支払手段ごとの違いによって差違が出てくることもある。そのような異同がなぜ生ずるのかは、本書の採用する機能的アプローチによって初めて説得的に説明できるものである。

 本書は、叙述の順序においても、従来の教科書とは大きく異なっている。叙述の順序は、基本的に、「簡単な支払手段から複雑な支払手段へ」「身近な支払手段から疎遠な支払手段へ」となっている。すなわち、まず最初に、最も単純なメカニズムを持つ(プリペイド型)電子マネーから説明を始める(第2章)。プリペイド型電子マネーは、あらかじめ資金を払い込んでおいた上でそれを使って支払いを行うものである。プリペイド型電子マネーは、近時、急速に普及してきており、読者に身近な支払手段でもある。そして、電子マネーに類似したメカニズムを持つ、プリペイドカードおよびデビットカードについても、第2章で説明をする。
 続いて、支払の相手方の銀行口座へと資金を移動させる、銀行振込について説明する(第3章)。銀行振込は、電子マネーに比べると、当事者の数が増えて複雑になるが、他方で、わが国では広範に利用されている、読者に身近な支払手段である。銀行振込に付随して、銀行振込や電子マネー等のバックボーンで動いている、銀行間の資金決済システムについても解説する。また、銀行ではない主体が資金の移動を担当する、収納代行・代引き・資金移動業についても、ここで説明する。
 第3章で取り上げた銀行振込を、紙(証券)を使って行うのが、小切手である(第4章)。コンピュータネットワーク上で行われる銀行振込とは異なり、物理的な紙にデータを記載することで資金の移動を行おうとする小切手には、銀行振込にはなかったさまざまなリスクが入り込んでくる。そのようなリスクに小切手法がどのように対処しているのかが、第4章の中心的な内容となる。さらに、国際的な資金の移動については、小切手ではなくて、為替手形が使われることが多いので、続く第5章で為替手形について説明する。
 ここまで取り上げた支払手段は、どれも支払いという資金の移動をもっぱらの目的とする支払手段であった(厳密には、為替手形は支払機能だけを果たすものではない)。これに対し、第6章で登場するクレジットカードは、単に支払いを行うだけでなく、支払いを一定期間猶予してもらうという信用機能(借金)をも有している。借金をするということは、貸手側からすれば、貸倒のリスク(信用リスク)が発生するわけだから、それに対する何らかの対処を法ルール(あるいはクレジットカード契約)が行う必要が出てくることになる。
 コンピュータネットワーク上で処理がなされるクレジットカードと異なり、物理的な紙にデータを記載することで、支払機能と信用機能とを実現しようとしているのが、第7章で扱う約束手形である。物理的な紙を使用し、しかも、信用機能を持っているために相対的に長期間の存在が予定されている約束手形には、小切手やクレジットカード以上に、さまざまなリスクが入り込んでくる。このために、法ルールも、それら多様なリスクに対処するために複雑なものとなっている。
 その上で、第8章においては、このように物理的な紙を利用していた約束手形を電子化することを目的の一つとして立法された、電子記録債権について説明を行う。
 最後の第9章では、本書があえて扱わなかった、手形法理論などの「有価証券理論」について簡単に言及する。第8章まで読み進めてきた読者にとっては、現行の支払手段に関する法ルールが、機能的なアプローチによって既に十分に説明されており、あらためて有価証券理論を持ち出して説明する必要はないことが明らかになっていると思われるが、そのことを再度確認してほしい。
 以上のような本書の叙述の順序は、鈴木竹雄博士の体系書『手形法小切手法』の叙述の順序を再び逆転させるものとなっている。鈴木博士以前の手形法の体系書は、条文の順番に沿って小切手・為替手形・約束手形の順序で叙述されているものが多かった。これに対し、鈴木博士は、日本で利用される有価証券は約束手形が圧倒的に多いことから、約束手形から記述を始めるスタイルを採用し、以後、わが国の体系書・教科書は、このスタイルを踏襲するようになった。これに対し、本書は、約束手形を最後に配置するという鈴木博士以前のスタイルに戻る形となった。これは、約束手形が、最も複雑で最も多様なリスクを伴う支払手段であるという、前述の理由によるものである。
 なお、叙述を進めるにあたっては、前の章で説明された事項で、同じ説明が当てはまる場合には、説明を繰り返すことはせず、参照箇所を指定するようにしている。このため、他の手形法の教科書などと併用して本書を利用する場合には、本書のどこに何が書いてあるか、迷うことがあるかもしれない。その場合には、目次と索引とを利用して、該当箇所を探していただきたい(そうできるようになっている)。

 最後に、本書を執筆するにあたってお世話になった方々に対して謝辞を述べたい。
 我々が教えを受けた多くの先生方や執筆時に参照した論文に対して感謝したいのはもちろんだが、教科書としての本書の完成度を上げるために、本書の未完成版(β版)を授業で実際に利用して、多くの有用なフィードバックをくださった方々、および、未だ誤りの多いβ版を耐えて読んでくれたその学生の方々に特に感謝したい:榊素寛神戸大学准教授、清水真希子東北大学准教授、得津晶北海道大学准教授、そして、β版を教科書・参考書とされた「犠牲者」の学生の方々。その他にも、本書の誤り・改善点などの指摘をくださった方は多数にのぼるが、残念ながら全ての方のお名前を挙げることはできない。この場を借りて御礼申し上げる。本書が少しでも読みやすく、わかりやすくなっているとしたら、それは、それら多くのご指摘のおかげである。もっとも、残された誤りについては、もちろん我々が責任を負う。
 また、資料の提供については、株式会社みずほ銀行、東日本旅客鉄道株式会社、全国銀行協会、株式会社オリエントコーポレーションにご協力いただいた。厚く御礼申し上げる。

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