日本の大都市都心地域の交通及び駐車に関する法令及び条例の現況

             東北大学 藤田宙靖      
(平成14年4月21日)                
(韓国大田大学校法学研究所ならびに大田特別市西区合同開催
 に係る国際講演会における講演)



一 概説


(1)報告対象の限定

 本日の演題は、主催者の側から私に与えられたものでありますが、お話を始めるに先立ち、その内容に、いくつかの限定をさせていただきたいと思います。

 1.第一に、表記の主題の中で、とりわけ、「交通」の問題に関しては、文字通りにこれを見ると、例えば道路騒音・排気ガス規制等、広く交通公害の防止に関する法令も含まれることになりそうでありますが、ここでは、同時に「駐車」が挙げられていることから、恐らくは、大都市都心地域において、自動車が過剰に乗り入れることにより、交通渋滞等都市生活上の弊害がもたらされることに対して、こういった事態を防止しまた排除するために、どのような法的措置が執られているのか、ということが、関心の対象とされているものと考えられます。そこで、ここでは、お話の対象を、そういった法令に限ることといたします。

 2.第二に、その際更に、交通渋滞等の防止という見地からは、道路の整備・管理に関する法制も問題になり得ますが、本日は、時間の制限もあり、また対象の拡散を防ぐためにも、お話の対象を、専ら自動車の利用に関する法制に絞ることといたしたいと思います。

 3.また第三に、大都市地域における交通及び駐車問題に対する施策としては、必ずしも法令による直接的な規制によるのでなく、補助金等の財政的措置、或いは、税制上の特例措置等、経済的な手法によって目的を達成する途があり、現実には、むしろこれらが、大きな機能を果たしていると言えるのでありますが、この点についても、私のお話の中では、触れないこととし、ここでは専ら、それ以外の法的措置のみを対象とすることといたします。


(2)当該分野における日本法の概観

 詳細な制度の説明に入る前に、この分野における日本法の構造はどのようになっているかについて、概観をしておいたほうが、良かろうと思います。

 1.現在の日本における、交通渋滞等の防止及び排除という見地からする、自動車の利用に関する法令は、大きく分けて、都市計画法系統のものと、道路交通法系統のものに分けられます。前者は国土交通省(昨年1月に従前の建設省と運輸省等四省庁が統合されて誕生しました)が所管し、後者は国家公安委員会そしてその下にある警察庁(国家公安委員会は、昨年1月の省庁再編で、従前総理府の外局であったものが、新たに生まれた内閣府の外局として位置づけられることになりました)が所管しております。この所管省庁の違いからも分かりますように、都市計画法系統のものは、本来、公共施設の適正な整備を促進しようとするものであるのに対して、後者の道路交通法系統のものは、交通手段を利用する者(自動車を運転する者)に対する警察的な取り締まりを目的とするものであります。この両者が密接に協同することによってはじめて、適正な自動車交通の確保という目的は達成されることになるわけで、例えは駐車問題に対しても、一方では、不適切な駐車を取り締まる(警察行政)と共に、他方で、こうして路上から閉め出された自動車を収容するための受け皿としての駐車場を整備すること(都市計画行政)が必要となるわけです。ただ、この分野での警察行政と都市計画行政との間には、密接な協力関係が必要であり、したがって、両者間の連絡調整のシステムを確立することが重要になると主に、それぞれの活動内容の違いも、一部ではかなり相対的なものとなる側面があることを否定できません。

 2.このような国の法令に加えて、地方公共団体の条例にもまた、この問題に関連するものがあります。

 条例の中には、国の法令によって委任された事項を定めるいわゆる「委任条例」と、法令の委任によらず、地方公共団体が独自に定めるいわゆる「自主条例」とがあります。この場合、前者については、あまり問題はありませんが、後者については、地方公共団体が、法令の委任を受けずに、どこまでの事項を独自で定めうるのかについて、過去、さまざまの議論がありました。

 まず出発点として、現在の日本国憲法の下では、国の法令の定めるところに違反しない限り、地方公共団体に広範に自治が認められていることを理解していただきたいと思います(憲法94条)。このことは、条例の制定についても同様であります。この点からすれば、まず委任条例の場合は、規律の内容が委任の範囲を超えない限り、問題は無いことになります。自主条例の場合についても、基本的に言えば、その内容が憲法および法令によって地方公共団体の行うべき事務とされた事項についてのものであって、また、国が全国的な見地から一律なものとして定めた基準に違反しないものである限りは、問題が無い、ということになります。

 地方公共団体の行う事務としては、従来から広範な事務が認められていましたが、とりわけ平成11年(1999年)に大改正された現行の地方自治法の下では、普通地方公共団体は、広く「地域における事務」を処理することとされております。都市計画また道路交通の警察的取締りについても、それが「地域における事務」と考えられる限りでは、地方公共団体が、自主条例を定め得ることになります。例えば警察行政活動について言えば、第二次大戦後の警察制度改革により、早くから、都道府県の自治事務とされてきました。

 また、国の法令による全国的な基準との関係については、いかなる場合に条例が「上乗せ」をしたと認められるかについて、過去多くの議論がありましたが、結論的に言えば、現在では、学説判例上、各地域の特殊事情に応じた上乗せを行うことは、比較的緩やかに認められるところとなっていると言って良いと思います。


二 交通渋滞を防止するための施設の建設・管理に関する法令及び条例

(1) 都市計画法系

1.都市計画法および駐車場法

 まず、都市計画法は、都市計画で定める「地域地区」の一つとして、「駐車場整備地区」を定め得ることとしています(法8条1項八号)。この「駐車場整備地区」は、別に、都市計画法の付属法としての駐車場法という法律(1957年制定)が定めている制度で(同法3条)、都市計画上の一定の地区内にあって、「自動車交通が著しく輻輳する地区」あるいはその周辺の地区で「道路の効用を保持し、円滑な道路交通を確保する必要があると認められる区域」について定め得ることとされます(同法3条)。都市計画を定める主体は、原則として普通地方公共団体(都道府県および市町村)ですが、駐車場整備地区については、市町村にこれを定める権限が与えられています。

 駐車場整備地区が定められますと、地方公共団体に、駐車場整備のためのさまざまな義務が生じることになります。具体的には、市町村の駐車場整備計画の策定義務(駐車場法4条)、地方公共団体による当該駐車場整備計画に基づく路上駐車場の設置(同法5条)、建設大臣、都道府県知事または市町村の路外駐車場に関する都市計画決定努力義務及び地方公共団体の都市計画駐車場整備義務(法10条)等が挙げられますが、更に、地方公共団体が、後に説明いたします付置義務条例を制定(同法20条、20条の2)することができるようになることが注目されます。

 ここで、これらの法律が言っている駐車場の中にいくつかの種類がある、ということがお分かりになると思います。これを整理してみると、次のようになります(別添図参照)。

 詳細は省きますが、まず、「路上駐車場」と「路外駐車場」の違いがあります。この区別は駐車場法が行っているもので、前者は、「駐車場整備地区内の道路の路面に一定の区画をを限って設置される自動車の駐車のための施設であって一般公共の用に供されるもの」(法2条1号)であり、後者は、「道路の路面外に設置される自動車の駐車のための施設であって一般公共の用に供されるもの」(法2条2号)のことを言います。一般のパーキングビル等は、この後者に入ることになります。駐車場法では、こういった各種の駐車場について、そのタイプの違いに応じ、その設置場所や構造、また料金のあり方等々についての規制を行っています。

 実は、路上の駐車場については、古くから別に、道路法という法律が、一般に、道路の管理者(国・都道府県・市町村)が、道路付属施設としてこれを設け得ることを定めて来ました(法2条2項六号)。駐車場法による右の「路上駐車場」は、道路法のそれだけでは駐車需要を賄いきれない地区において、地方公共団体(市町村)が、上記の「駐車場整備地区」を都市計画決定することにより、さらに、駐車場を設けることを可能にしたものであるところに、意味があります。しかし、駐車場法が、都心における駐車問題の解決のための本来の狙いとしているのは、「路外駐車場」の整備であって、路上駐車場の方は、そういった整備が進むまでの暫定的な制度と位置付けられております。

 「路外駐車場」には、それ自体都市計画法上の都市計画施設(法11条1項一号)として都市計画決定されるものと、そうでないものとが存在し、後者については、設置に際して届け出を必要とするもの(都市計画区域内において、自動車の駐車の用に供する部分が500平米以上のものである有料駐車場)とそうでないものとの違いがあります。また、路上の駐車可能性については、更に、道路交通法が定める「パーキング・メーター等の設置」がありますが、これについては、後に簡単に触れることとしたいと思います。

2.付置義務条例

 先にも触れましたように、駐車場法では、地方公共団体に、先に見た駐車場整備地区が指定された場合に、一定の規模の建築物の新設の際に、建築主に駐車施設の設置を義務付ける条例を定めることを認めており(法20条)、この規定に基づき、東京都・大阪市を始め、駐車場設置条例を定めている地方公共団体が既に数多く存在いたします。

 この制度には、二つの意味があって、一つは、都市における駐車需要の増大をもたらす最大の原因が、大規模ビルの新築・増築にあるということから、これによって直接に増加する駐車需要をすべて納税者の負担において地方公共団体が処理することは、適当でないためその原因者である建築主自身において処理させることが適当である、という見地であります。もう一つは、こういった駐車施設を付置させる必要性については、都市における自動車交通量の状況、道路の整備状況、付置義務を課すべき地域の市街地の構成、建築密度等の諸条件によって左右されると考えられるため、国の法令によって一律に規定するのではなく、地方公共団体が地域の実情に応じて条例で定めることができるようにした方が、合理的である、ということであります。

(2)道路交通法系

1.自動車の保管場所の確保等に関する法律

 路上駐車問題に対する道路交通法系の規制として何よりも注目されるのは、自動車の保管場所の確保等に関する法律であろうと思われます。この法律は、1962年に定められたもので、当時、マイカーが増えるにつれ、路上を駐車のための場所として利用する者が増えてきたことに鑑みて、道路上の場所を自動車の保管場所として使用することを禁止すると同時に、自動車の保有者に対し、当該自動車の保管場所を確保することを義務付け、保管場所を確保していることを証する書面を提出しないときは、自動車の登録を受けることができない(ナンバープレートの交付を受けられない)こととしたものであります。制定当時、画期的な制度として外国からも注目されましたが、その間さまざまな脱法行為も行われたため、1900年の改正によって、概ね次のように、規制が強化されました。

 第一に、保管場所の要件を明確化し、自動車の保有者が確保しなければならない自動車の保管場所は、自動車の使用の本拠地との間の距離その他の事項について、政令で定める要件を備えるものに限ることとしたことであります(現行法3条)。政令(自動車の保管場所の確保等に関する法律施行令)では、距離(自家用車の場合2キロ)の他、保管場所の大きさ等(法令の規定により通行できないこととされる道路以外の道路から当該自動車を支障無く出入りさせることができ、かつ、その全体を収容することができるものであること)、保管場所についての権原(当該自動車の保有者が当該自動車の保管場所として使用する権原を有するものであること)、について定められております(令1条)。

 第二に、法定の保管場所を有していることの証明は、警察署長が交付する保管場所証明書によりますが(法4条1項)、警察署長は、その交付の際、同時に法定の保管場所標章を交付します(法6条1項)。そして、自動車の保有者は、これを、当該の自動車に表示しなければならないこととされます(法6条2項)。

 第三に、保管場所標章が表示されていないことその他の理由によって、道路上の場所以外の場所に保管場所が確保されていないおそれがあるものと認めたときは、警察署長は、この旨を、都道府県公安委員会に対し通知するものとされ(法8条)、公安委員会は、その事実を認定したときには、自動車の運行供用の制限を命ずることができるものとされております(法9条)。

 なお、保管場所の確保の義務(法3条)自体については、罰則は存在せず、この要件を充たさないときは車両の登録が受けられないという行政法上の不利益が課されているだけですが、関連するさまざまの行為について、罰則による担保がなされております(法17条)。とりわけ、道路上の場所を自動車の保管場所として使用することの禁止(法11条)、また、公安委員会による上記の運行供用制限命令に対する違反については、三月以下の懲役刑の可能性も存在する(法17条一号)ことが注目されます。

2.交通需要マネージメント(TDM)の問題

 なお、大都市都心における交通渋滞を防止する施策としては、一般に「交通需要マネージメント」の問題があります。これは、一口で言えば、都心に自動車で乗り込もうという需要自体を減らそうという行政政策で、例えば、「バスレーン・公共車両優先システム」、「フレックスタイム、時差通勤・通学の推進」、「パーク・アンド・ライド」、「ロードプライシング」等々があります。今日、各方面で試みられ、またその導入が模索されていますが、現在までのところ、これらを可能にするための特別の法令・条例というものが、特に定められているわけではありません(東京都で、現在、ロードプライシングの導入につき検討中であると聞きます)。


三 交通渋滞を招く行為の規制に関する法令及び条例

 この見地からする規制は、いうまでもなく、道路交通法系(警察行政法系)のものであります。

1.駐停車の禁止

 駐停車の禁止に関しては、既に早くから、道路交通法(及びその前身としての、道路交通取締法)上、多くの規制がなされておりますが、それらは、基本的に、駐停車の禁止区域(場所)に関するものと、駐停車の方法に関するものとに分けられます。前者は、一定の区域(場所)を、原則的に駐停車禁止とし、例外的にこれを緩和する方式でありますが、後者は、駐停車そのものは禁止しないが、一定の方法による駐停車を禁止する、というものであります

 後者については例えば、「車両は、駐車するときは、道路の左端に沿い、かつ他の交通の妨害とならないようにしなければならない」とする道路交通法(47条2項)の規定が挙げられますが(違反した場合は、十万円以下の罰金。法119条の三第四号)、更に、こうした場合であっても、当該車両の右側の道路上に3.5メートル以上の余地を確保しなければならないものとされている(法45条2項)ことが注目されます(違反は、十五万円以下の罰金。法119条の二1項一号)。

2.違法駐車防止条例

 違法駐車の防止に関しては、少なからざる市町村が、いわゆる違法駐車防止条例を、自主条例として制定しております(2000年末現在、196市10特別区142町14村)。これらの条例は、概ね、一定の態様の駐車(法令上違法駐車となるものに加え、「市民の日常生活又は一般交通に著しい支障を及ぼす自動車の駐車」…大阪市の例… といったように、いわゆる「迷惑駐車」にまで、規制対象を拡大しているものが多く、それ故、しばしば迷惑駐車防止条例と銘打たれることがあります。いずれも、問題が生じている地域を、長が「重点地域」として指定したり、迷惑駐車をしている者に対して助言・勧告を行ったり、或いは、迷惑駐車の防止のために活動する公共団体に対して、長が助成その他の支援を行い得ること、等を定めるものであります。こういった事項は、特別の強制力を持った措置を定めるものではありませんから、理論的には、法令或いは条例の定めが無くとも、各自治体において実行できる事柄なのでありますが、現実には、こういった条例が定められることの効果は、無視することができないといわれ、警察庁が2000年に全国81都市を対象に行ったサンプル調査では、行った調査では、路上駐車車両は、条例制定前に比べ、平均で44.9%減少した、とのことであります。


四 現に行われている違法な駐停車に対する方策

 既に生じた事態の解消に関する法令及び条例上記のような諸規制にも拘わらず、事実問題として、違法駐停車が行われることは避けることができません。こういった、現に生じている違法な駐停車に対し、どのようにして対処するかが、次の問題であります。この点に関して注目されるのは、○○年の道路交通法改正によって導入された、車両の強制的移動と、車止め装置取り付けの制度であろうと思います。

1.車両の強制的移動

 道路交通法は、昭和○○年の改正によって、違法駐車に対する措置、として、新たに次のような強制移動措置を導入しました(法51条)。

 まず、警察官等は、違法駐車と認められる場合には、運転者等(当該車両の運転者その他当該車両の管理について責任がある者)に対して、駐車の方法を変更し、或いは移動することを命ずることができるものとされます(法51条1項)。そしてその際、車両の故障その他の理由によって当該車両の運転者等が直ちにこの命令に従うことが困難であると認められるときは、警察官等は、道路における危険を防止し、その他交通の安全と円滑を図るために必要な限度において、(自ら)当該車両の駐車の方法を変更し、又は当該車両を移動することができるものとされます(同2項)。また、現場に運転者等がいないために、第一項の命令をすることができないときは、警察官等は、当該車両の所有者又は利用者に対して、直ちに当該車両の方法を変更し、若しくは移動すべき旨及びこれらの措置を執ったときは速やかに警察にその事実を申告すべき旨を告知する標章を当該車両の見やすい箇所に取り付けることができる、とされています(同3項)。そしてこの場合更に、警察官は、道路における交通の危険を防止し、又は交通の円滑を図るため必要な限度において、当該車両の駐車の方法の変更その他必要な措置を執り、又は当該車両が駐車している場所からその距離が五十メートルを超えない道路上の場所に当該車両を移動することができるものとされます(同6項)。五十メートル以内に適当な場所がないときには、その旨の報告に基づき、警察署長が、それ以外の場所に当該車両を移動することができます(同8項)。こうして保管された車両については、その旨の公示から三ヶ月を経た後に売却し、その代金を保管するか、あるいは、売却が費用倒れになるときには、車両の廃棄をすることも認められております(同11項、12項)。

 こうした強制措置を巡っては、行政法上いくつかの理論的な問題があります。一つは、この強制措置の理論的性質は何か(強制執行か即時強制か)ということでありますが、この点、詳細は省略いたします。次に、法は、車両の強制的移動及び保管の措置を、警察が自ら行うのではなく、「指定車両移動保管機関」(民法上の公益法人であって、当該事務を適正かつ確実に実施することができると認められるものとして公安委員会が予め指定する者)に行わせることができることとしているのですが(法51条の三)、これは、いわゆる「指定法人」による行政、ひいては「私人による行政」として、昨今日本の行政法学上大きな注目を集めているシステムであります。理論的には例えば、こうした「指定法人」は、いわゆる「行政主体」と言えるのか、そうでないとしたならば、私人に公権力の行使を委任するということが、果たしてまたどこまで法的に(憲法上)許されるのか、といった問題があることが指摘されております。

2.車止め装置の取り付け

 公安委員会は、違法駐車行為が常態として行われている道路の区間であって、車止め装置の取り付けの措置によってその防止を図ることが適当なものを、車止め装置取り付け区間として指定することができるものとされます(法51条の二第1項)。そして、この区間における違法駐車行為を防止するためやむを得ないと認められるときは、警察署長が、当該区間における違法駐車車両に、車止め装置を取り付けることができることとされております(同2項)。

 この車止め装置については、違法駐車防止には有効であろうことは、早くから指摘されていましたが、一方、警察行政の観点からするならば、違法駐車車両は、その場から排除することこそが必要なのであって、その場を動けなくするということは、理論的に矛盾ではないか、という議論もありました。しかし、広い目で見れば、違法駐車防止により役立つものとして、敢えて法制度化されたものであります。


五 終わりに


 さて、以上見てまいりましたさまざまの法制度は、基本的には、自動車の過剰乗り入れによって路面が車両で溢れることによる交通渋滞等の問題に対処しようという見地から導入されたものであります。ところが今日、大都市都心における交通法制には、これとはやや異なった方向からの問題が生じていることが指摘されるようになっております。

 1.例えば、都市計画法的見地からする駐車場の法的規制については、今日、いわゆる都市中心部の空洞化減少への対処、という課題が負わされるようになっております。すなわち、今日、広大な駐車場を備えた郊外の大規模店舗に客が殺到し、古くからの都心の商店街がどんどん衰退して行く、という傾向が、とりわけ地方都市を中心として、全国的に生じております。こうして失われた客を呼び戻すためには、都心における駐車場の整備が益々必要となる、ということであって、これは、かつてのように、都心に溢れる自動車をどうさばくか、という問題とは、方向がやや異なるものであります。こういった問題に対処して、近時法令上にも、若干の工夫がなされるようになって来ているのですが(例えば、1998年の中心市街地における市街地の整備改善及び商業等の活性化の一体的推進に関する法律の制定、1998年の建築基準法一部改正、1999年の駐車場法施行令一部改正、等々)ここでは、詳細は省略いたします。

 2.また、道路交通法系の規制について見ますと、今日では、本当に必要なのは交通のボトルネックに駐車する車両を無くすことなのであって、必要以上の過剰規制をしてはならない、という考え方が、正面から唱えられ、こういった見地から、規制の態様をよりきめ細かなものとすることが図られるようになっております。これは、いうまでもなく、駐停車禁止区間の設定のあり方、また、駐停車の例外的許可のあり方、等、法の現実の運用のあり方によって達成される部分が多いわけですが、法令上も、これらの政策を支援するパーキング・メーター或いはパーキング・チケット発給設備を設置することが有効であります。そこでための規定が設けられるようになっております。例えば、都市部の商業地域等の、短時間駐車需要が多く、かつ無秩序な駐車が問題となっている地域では、時間制限駐車区間規制を行うことが必要となるわけですが、こういった規制の実効性を図るには、道路交通法も、○○年の改正によって、都道府県の公安委員会がこれらの施設を設置することを認めるところとなりました(法49条以下)。これは、公安委員会という警察機関が、「取締り」という消極的な警察活動に止まらず、その一環としてではあるにしても、こういった施設を自ら積極的に設置することを定めるものとして、その意味でも注目されます。


fujita@law.tohoku.ac.jp
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