中央省庁の再編　……　その狙いと残された課題

藤　田　宙　靖　　　　　　　　　　　
（平成１２年（２０００年）２月１１日
　関西大学講演）　　　　　　　　　　

はじめに　……　論点の限定

　司会の池田教授から、先に、今回の中央省庁の再編について話をして欲しい旨のご依頼がありまして、取り敢えず本日の演題を、標記のようにさせていただきました。しかしいうまでもなく、この演題は、甚だ広範囲の問題を含んでおりまして、与えられました４５分の中で、それらの問題を全て語り尽くすというのは、到底不可能であります。そこでここでは、取り敢えず、今回の中央省庁の再編につき、マスコミ等でもしばしば問題とされております、いわゆる「巨大省庁」の誕生、という問題に絞って、その背景、今後の問題、等について、私が理解しているところをお話ししてみることとしたいと思います。

一　「巨大省庁」誕生の背景

　俗に「巨大省庁」といわれておりますのは、主として国土交通省でありますが、その他、総務省、そして内閣府等にも、こういった意味での注目が集められております。

　１）そもそもこういった省庁（府省）が誕生するようになったのは、ご承知のように、橋本前総理大臣が、現在の省庁を大括りしてその数をほぼ半減する、という政治的公約をされたことに始まります。もっとも、橋本氏から行政改革会議に委託された検討課題においては、この「大括り・半減」ということ自体は、正面には現われておりませんでした。すなわち、同会議で橋本氏から直接に示された検討課題は、「①２１世紀において国家が果たすべき機能は何かを検討する。②その検討結果を踏まえて中央省庁を再編する。③内閣機能（官邸機能）の強化方法について検討する。」という三点であったのですが、実際には、総理の公約としての「大括り・半減」という目標は、この②の課題の検討の過程で、大きな意味を持ったと思います。私自身は行政改革会議においては、正式に委託されたこの三つの検討課題に照らしても、「始めに大括り・半減ありき」ではいけないのであって、仮に結果として「大括り・半減」ということになったとしても、それは、第一課題である２１世紀における国家機能についての検討の結果そうなったというのでなければならない、旨を強調しまして、そのこと自体は、橋本総理を始めとする殆どの委員に理解していただいたのですが、ただ、最後の大詰めになりますと、結局政治的に大きくものをいったのは、総理の先の政治的公約、ということであったように思います。

　２）さてそれでは、そもそも何故に現在の省庁数（１府１２省２４庁）を半減するのか、ということですが、そこにはいくつかの考え方の筋があったように思います。その一つは、いうまでもなく、「国家行政組織のスリム化」ということであり、今一つは、いわゆる「縦割り行政の排除」ということであります。しかしそれと同時にまた、もう一つ重要なのは、既存の各省庁が、それぞれの所管する分野の様々の既存利益と結びつき、その利益を代弁する役所になってしまっているのではないか、例えば、大蔵省ならば金融業、建設省ならばゼネコン、農水省は農家、厚生省は医薬業、通産省は産業界、そして労働省は労働界、等のそれぞれ利益代弁をすることになってしまっていて、広く一般国民の利益を考え、国家全体の将来を考えることをしていないのではないか、といった問題意識でありました。これはつまり、例えば俗に「護送船団方式」とか「官業癒着」等の表現で批判されてきたところの問題でもあります。

　３）ところで、この最後の観点は、必ずしも、それ自体では、省庁大括りということに当然に結び付くことにはならないわけで、重要なのはむしろ、省庁の編成のあり方を、こういった既存の利益集団のあり方にそれぞれ対応するのではなく、それとは違った見地に立つもの、つまり、特定のグループの利益ではなく、国民全体の利益を達成する見地からするものに変える、ということになる筈であります。先に見た行政改革会議の課題設定に際しては、省庁再編の問題は、むしろ主としてこういった見地から考えられていたのでありまして、「２１世紀における国家機能のあり方について検討し、その結果を踏まえて、中央省庁の再編成をする」というのはつまり、何が本当に国民のために必要な国家機能であるかを考え、そういった見地から省庁の編成のあり方を根本的に考え直す、ということであったのです。このことだけであるならば、現在の編成を変えること自体が重要であることになるわけですから、必ずしも、省庁数を半分にするとか、大括りにする、といったことに理論必然的に結び付くわけではありません。ただ、こういった見地から考え直して行けば、本当に必要な国家機能というのは、現在よりももっと縮小されるのではないか、従って、国家行政組織も現在よりもずっとスリムなもので済むことになるのではないか、そうすれば、当然、省庁数も、現在よりずっと少なくて済む筈ではないか、というのが、行政改革会議において議論が進められた際の、少なくとも基本的な考え方の方向でありました。これが、同会議の最終報告で述べられている「目的・機能に即した省庁編成」ということの意味であります。

　４）さて、こういった基本的な筋の上に、行政改革会議においては、「２１世紀における国家機能のあり方は何か」という問題について、いくつかの議論の筋が出てくることになりました。その一つは、まず、国の行政は、本来どの程度の守備範囲を持つべきか、という問題であります。これはつまり、霞ヶ関の省庁は、これまで、余計なことをやりすぎていたのではないか、ということであります。そこにも問題は二つあって、まず、本来国が自らやるまでもない業務分野、つまり本来地方公共団体とか或いは民間業者にやらせれば済む分野にまで、国が出しゃばっていたのではないか、という、本来国がやるべき業務の間口の広さに関わる問題であります。因みに私は、これを、国家行政の「水平的減量」の問題と名付けました。例えば、道路の設置管理・河川管理等について、どこまでの範囲のものを国が直轄としてやらなければならないのか、とか、或いはまた、国による様々の事業活動は、本当に国自らがやらなければならないものなのか、といった問題であります。ただ、この地方分権の推進とか、或いは規制緩和という問題は、行政改革会議に先行して設けられていた地方分権推進委員会、そして行政改革委員会が、既に検討を行っていたところでありましたので、行政改革会議としては、自ら検討をすることはせず、これらの委員会の議論の結果を前提とすることに致しました。霞ヶ関の守備範囲についてのもう一つの問題は、私が「垂直的減量」と名付けたところの問題でありまして、それはつまり、その分野から国が全く手を引くということはできないにしても、霞ヶ関が、何から何まで自分でやらなければならないということはないのではないか、という問題であります。これが、行政改革会議の最終報告では、「企画立案機能と実施機能の分離」という表現で述べられているところの問題でありまして、霞ヶ関は、一定の業務分野、例えば道路交通網の整備、といった問題について、道路交通網整備計画といった企画立案は行うにしても、その実施については、地方公共団体とか民間、或いは、いわゆる独立行政法人等、国以外のものに広く任せる、といったことが、考えられて良いのではないか、ということであります。

　５）さて、「２１世紀における国家機能のあり方」という問題について、省庁再編との関係で避けて通ることのできないもう一つの問題は、このように様々の見地からの減量をしてみてもなお残る国の行政事務について、これを、先に見たような意味での「目的・機能」別に分類し直す、ということであります。つまり、先に見たように、既存の利益集団の保護、という見地ではなく、国民一般にとって本当に必要な国家行政とは何か、という見地から、行政のあり方を考え直してみる、ということであります。こういう見地から、行政改革会議では、具体的な省庁再編案を検討する前にまず、国民にとって本当に必要な国のサービスは何か、という見地から、二十余に及ぶ具体的な目的・機能を選出いたしました。そして、こういった目的・機能の中、相互に共通するものは一つに括り、また、相互に相容れないと考えられる機能、例えば国土開発と環境保護等は、別にする、といった見地から、具体的な省庁の再編を考えることにしたのであります。従って、行政改革会議での議論、とりわけ、１９９８年８月に行われた、中間報告作成に向けての集中審議（この集中審議が、行政改革会議での議論の中核を成した、と言って良いように思われます）では、その議論の極めて多くの部分が、この意味での、各種機能・目的の相互関係についての議論、つまり、どのような機能とどのような機能を、共通する目的を持つものと考え、どのような機能とどのような機能とが、お互いに相容れないものと考えるか、についての議論に当てられたのです。こういった議論の結果導き出されて来たのが、中間報告での省庁再編案でありました。

二　省庁再編の現実　……　とりわけ「巨大省庁」問題を巡って

　さて、行政改革会議の中間報告で示された省庁再編案は、１２月に出された最終報告では、様々の修正を受けたものとなりました。その結果が、極めて忠実な形で、来年１月から発足する新たな省庁編成となって、現実に法制化されたわけであります。そこで、先に見たような、行政改革会議での本来の狙いに照らして、現実の法制化されたところの省庁編成をどう考えるか、という問題につき、とりわけいわゆる「巨大省庁」の出現ということを中心として、私なりの見解を述べさせて頂きたいと思います。ただ、これから述べますことは、全く私個人の考えでありまして、行政改革会議全体としてのものでないことはいうまでもなく、また同会議の他の委員がどのようにお考えになっているかということとは、全く無関係であることを、予めお断りしておきたいと思います。

　１）まず第一に、今回の省庁再編とりわけ「巨大省庁」の出現ということについては、マスコミ等から、「本来国の行政の減量を行った上で残った業務について、省庁の再編を行うべきなのに、まず始めに再編ありき」となったのは間違いである、との批判があります。この点については、いくつかのことを述べたいと思います。まず、先に述べましたように、そもそも行政改革会議においては、まさに「減量」が理論的前提であることをはっきりと認識しておりました。ただ、この「減量」作業の中、先に見た「水平的減量」については、その作業は、選考する他の二委員会の検討に委ねることとしていたのですが、現実には、これらの委員会から期待していた具体的な結果が必ずしも示されないままに、具体的な省庁再編案を考えなければならなかった、という時間的な制約の問題がありました（また実際、例えば地方分権推進委員会では、その後、国の直轄公共事業の地方移管ということを中心として、大変な努力をして下さったのですが、上手く行かなかった、という事態もありました。同委員会第五次勧告参照）。そこで、行政改革会議としては、結局「減量」に向けての対策と省庁再編作業とを、同時平行で進めざるを得ず、次のような考え方をすることに致しました。

企画立案・機能と実施機能を分離し、霞ヶ関は専ら前者だけを行うとすれば、そのことに必要な人員・組織は、必ずしもそれほど多くはならない。従って、垂直的減量を進めることによって、省庁の巨大化に伴う弊害は、相当程度避けられる。

組織・人員の全体の枠をはめてしまえば、各省庁は、自らその事務の減量を図らざるを得なくなる。つまり、例えば家を建て直すに当たり、本来ならば、身の回りの家財を整理し、残った物を入れるのに必要なだけの容積の家を建てるのが筋だ、ということになるが、先に家の大きさを決めてしまえば、そこに入り切らない家財については、おのずから自分で整理せざるを得なくなる。

　この中まず、１．については、実施事務の民営化・独立行政法人化・更に実施庁化を推進する、ということによって、霞ヶ関が自ら行う事務を減らす、というのが、行政改革会議の戦略でした。その後の状況を見ますと、民営化については、極くわずかな事業が民営化されることになったに過ぎませんが、独立行政法人化については、例えば、郵政事業、造幣・印刷事業等を始めとして、多くの事業が独立の法人格を持った組織に移行することが既に決まっています。現在大きな問題となりつつあるのが、国立大学ですが、これについては、未だ、最終的な結論は出て居ないものの、その独立行政法人化の可能性はかなり強い状況となっています。ただ、私から見ると、大学とか研究所・博物館といった非権力的な或いは文化的な事業を中心に独立行政法人化を進めるということが、この制度の本来の趣旨にあっているか否かは、かなり問題で、むしろ、本来は、許認可事務等大量反復的な事務の実施を霞ヶ関の直接的な支配からはずす、というところにこそ、垂直的減量の目的はあった筈なのであります。こういった種類の事務としては、今のところ、一定の検査・検定事務の独立行政法人化が決まっているに過ぎません。もっとも、こういった公権力の行使に当たる事務を広範に国以外の法人に委ねるということには、問題がないではないのですが、しかしそうであるとすれば、新たに設けられた実施庁の制度が、より積極的に利用されなければならないことになる筈なのです。しかし今のところ、政府に、こういった方向での動きを見ることは必ずしもできません。

　それから上記の２．の点については、行政改革会議では、省庁を大括りすると共に、現存の１２８という法定の局数をほぼ９０に減らすこと、また、公務員の定員を１０年間で１０パーセント削減すること、を提言しました。実は、この局数９０とか１０パーセントとかいう数字に何か理論的な根拠があるかというと、別に確たる根拠があるわけではないので、私などは、根拠が明確でないのに、このような具体的な数字を挙げて良いのか、とかなり逡巡したのですが、経済界出身の委員からは、こういったことは理屈の問題ではなく、ともかく決めてしまえば、役所は、それを達成するために一生懸命努力するものだ、という意見を頂きまして、最終的に報告中に書き込むことにしたものです。その結果現実はどうなったかと申しますと、例えば、昨年末の総務庁の査定におきまして、例えば、局数については平成１２年度において１２７から９６へ減少、また公務員数については平成１２年度において純減数４７６５となっており（配付資料参照）、かなり忠実にスリム化が進められているように思います。

　２）「巨大省庁」の出現に関して、マスコミその他からなされているもう一つの批判は、今回の省庁再編は、結局、従来の省をいくつかづつくっつけただけのことで、省庁数を半減するという公約に合わせて、いわば単なる数合わせをしているに過ぎない、というものであります。そしてこの点については、残念ながら、私自身もまた、それを認めざるを得ない面があるように思っております。とりわけ目に付きますことは、今回の再編において、従来の省庁組織相互間で、合体した部分は様々にあるけれども、分離ないし切り離された部分というのは殆ど無い、ということであります。これは、中間報告の段階では、やや様子が違ったのですが、最終報告になりますと極めて顕著になります。結果として既存の組織につき一部の切り離しが行われたのは、厚生省の廃棄物行政に関する部分が新たに省となった環境省に移されたケースのみ、と言って良いでしょう。

　先に申しましたように、今回の省庁再編の当初の目的は、特定の利益の代弁者となってしまっているのではないかと疑われる従来の各省庁につき、本当に国民全体のためになされるべきことは何か、という見地から、行政の目的・機能を整理し直し、それに応じた省庁編成を考える、ということでした。そのためには、いわば、従来の組織と行政の対象との組み合わせについての、新規蒔き直しが必要となるわけですが、こういった状況では、その目的は、殆ど達成されていないことになります。では、一体どうしてこのようなことになったのでしょうか？

　その一つの原因は、いうまでもなく、各省庁の、組織解体に対する強力な防衛活動であります。これは、いわゆる族議員を巻き込んでの、極めて大きな政治的なムーヴメントともなったものでありまして、「中間報告」と「最終報告」との間の違いは、まずその殆どが、こういった政治的抵抗の結果によるものであると言っても良いでしょう。

　しかし今一つ、より理論的な見地からしても、従来の編成を根本的に変えるについては、かなり困難な側面があることを否定できません。それは、次のような問題です。つまり、先に見たように、「既存の利益の保護を行う行政ではなく真に国民の利益を考えた行政を行うための組織編成」、つまり、いわゆる「目的・機能」の別という観点からする省庁再編を、というのが、今回の改革の主たる狙いであったわけですが、実は、従来の行政活動についても、何故特定の利益の保護を行ってきたかといえば、それは詰まるところ、そのことによって、最終的に国民全体の利益がもたらされるからだ、という理屈が用意されているからなのです。例えば、大蔵省の金融業に対する護送船団行政は、金融秩序の安定のため、という理屈があったし、通産省のかつての産業保護行政もまた、わが国の国際的競争力を付けるため、ということが、最終的な目的とされていればこそのことでありました。今日、例えば、農水省が管轄するウルグアイラウンド対策費が地方におけるレジャーセンター建設費に化けている、というような問題が指摘されますが、これもまたどういうことかというと、農水省が目的としているのは、本来国民全体のための食料の安定的供給ということなのであるが、しかしそのためには、農業生産の安定化が必要であり、そしてそのためには、農業人口の減少を防ぐことが必要であり、またそのためには、農村への人口定着が必要であり、そのためには、農村生活に魅力を与えることが必要であり、そのためには、農村にもレジャーの可能性がなければならず…といった、殆ど「風が吹けば桶屋が儲かる」式の理屈で、正当化されることになるのです。従っておそらく、「目的・機能」の別に即した編成、というだけでは、従来とそう違ったものは出てこないことになる可能性が強いので、問題はむしろ、そういった「目的・機能」同士の組み合わせの如何にあることになるでしょう。そこで、私自身は、橋本総理に作成を依頼されました、私の「座長試案」において、例えば、「食料・エネルギー省」とか「交通・通信省」といったものを提唱いたしました。前者については、食料・エネルギーの安定的供給ということは、如何に規制緩和が進んだとしても、やはり国家行政の関心の外にあって良いというものではない、ということは、行革会議の皆さんの考えであったので、国民が生きて行くのにどうしても不可欠な条件の整備を図るという見地から、これを一つの省にやらせてはどうか、という考えだったのですが、この案は、既に集中審議の段階で、現存の組織のあり方と余りにもかけ離れることになるから、という理屈で、否定されてしまいました。また、交通・通信省の方は、今後、情報通信手段が発達して行くと、それはある面では交通手段に代替する機能を果たすことにもなるであろうし、これらのシステムを総合的に考えることが必要になってくるのではないか、ということであったのですが、これは昔の逓信省の復活である、として、中間報告の段階で既に否定されてしまいました。行政改革会議では、私は省庁再編問題についての実質的座長でありましたので、ともかくも意見の集約を図ることが第一次的な目標であり、自分の意見を強力に押し通すということはしなかったのですが、私の座長試案については、官界・政界から、中間報告に対するほどの反発はなかったので、先程来見てきた省庁再編の本来の狙いからすれば、行革会議でもう少しがんばれば良かったかな、と、ちょっと残念な気も致しております。

三　いくつかの「巨大省庁」について

　いわゆる「巨大省庁」としては、冒頭に見たように、とりわけ「国土交通省」が有名で、また、巨大利権官庁として、問題ともされておりますが、時間の関係で、ここでは、特に総務省を取り上げてみたいと思います。総務省は、むしろ「雑務省」ではないか、といわれるように、実質上、従来の総務庁、自治省、郵政省という、それぞれに全く異なる行政を担当してきた三省庁を合体したもので、先程来申しております「目的・機能」別の省庁再編という旗印とは、全くかけ離れたものになってしまっているのではないか、という問題があるからであります。そして、私自身、こういった批判は当たっている、と言わざるを得ないように思います。

　１）総務省はもともと、内閣府と共に、内閣機能を強化するための補佐機構として構想されたものでありました。つまり、内閣機能の一つとしての総合調整機能ということを考える場合、内閣府は、いわゆる「知恵の場」として、より総合的戦略的な見地からものを考えるけれども、現在総務庁が行っているような、組織管理・人事管理等の、より実務的な問題については、内閣府の性格とは必ずしも適合せず、別に「実務の場」としての総務省を設けよう、というのが、行革会議での本来の考え方であったのです。

　２）ところがその後、既に中間報告の段階で、実は、内閣府の性格自体が、当初考えられたものとは少しずつ変わって参りました。それはなによりも、金融庁、防衛庁そして国家公安委員会という、実施行政を行う外局が、内閣府に置かれることになったからです。こういうことになったのは実は、それぞれの理由から、結局他に置くところが無くなってしまったからなのですが、その結果、内閣機能を補佐する「知恵の場としての内閣府」「実務の場」としての総務庁という基本構想自体が、曖昧なものとなってしまいました。そこに、当初は内閣府の外局たる「自治庁」として構想されていた自治省が、自前の大臣が是非とも必要、という見地から、猛烈な巻き返しを行い、総務省の中に入り込むことに成功いたしました。更に中間報告後、中間報告ではいわば「解体」された郵政省が、猛烈な政治的活動を行い、これまた、独立の省としての復活を求めて、橋本総理に圧力をかけたわけです。結局この政治的動きは成功したわけですが、ただその際、橋本総理は、再編後の省庁の数は、１府１２省に限定されている、という線だけは、頑として譲られませんでした。私などの学者の目から見れば、本当に必要があるというのならば、そういった独立の省を設けても良いので、何も１府１２省という数にこだわる必要はないのではないか、と思われますし、実際行政改革会議自体も、中間報告を出したときには、今後各方面からの指摘で、本当にそれが必要であるという判断に達したならば、中間報告の省庁数に必ずしも固執するものではない、という理解をしていたと思うのですが、ただ、政治的には、あの段階で、１府１２省という枠を曖昧にしたならば、全ての再編構想は崩れ去ってしまう、ということであったようであります。こうして、郵政省にも自前の大臣を認めるけれども、しかし、新たな省を作るわけには行かないので、そうならば、総務省に入れざるを得ない、ということになったようです。「ようです」というのは、いかにも無責任な表現でありますが、この辺のところは全て、政治的レヴェルで決められたことで、行革会議としては、直接にはタッチしていないからです。

　内閣府、そして総務省の、このような性格の曖昧化に対しましては、私や佐藤幸治先生は、会議の席で、ずいぶん抵抗いたしましたが、多勢に無勢ということもあり、最終的には、どうにもなりませんでした。

四　結び

　私は、行政改革会議の審議の過程を、三つの季節に分けて理解しております。平成８年末の発足時から翌年６月までの「事務局の季節」、同年７月に佐藤教授と私とが小委員会の主査となってから９初旬における中間報告発表までの「学者の季節」、そして、そこから同年１２月の「最終報告」に到るまでの「政治の季節」であります。その意味するところは、ご推察いただけると思いますが、省庁再編のあり方については、そのそれぞれの季節において、それぞれの意味において、いくつもの課題が残されました。本日はその一端をご披露致したわけですが、大事なことは、今回の改革を最終的なものとするのではなく、こういった課題の解決のために、今後更なる検討が、各方面において引き続き進められることだ、と思います。本日の私の話が、そのための何らかの手掛かりを与えるものであったとしたならば、真に幸甚に存じます。ご静聴有り難うございました。

fujita@law.tohoku.ac.jp
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中央省庁の再編 …… その狙いと残された課題

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