一 基本的方針
○ 国内外の政治・経済・社会的情勢の変化に鑑み、21世紀において国が果たすべき機能は何かを改めて問い直し、従来の省庁の編成はこのような機能に適合したものかどうかを再点検した上で、今後あるべき姿を検討する(行政改革会議の検討課題I及びII)。
行政改革会議の検討結果を広く説得力を備えたものとするためには、具体的な再編案の検討(検討課題I)に入る前に、この意味での機能論を行うこと(検討課題II)が、不可欠である。
○ 国家機能論(検討課題I)については、二つの問題が区別されなければならない。
その第一は、国家が果たすべき機能の範囲に関わる問題であり(例えば、「官」「民」間での分担の在り方、地方分権の在り方)、第二は、こうして国に残された機能の在り方についての、捉え直しの問題(例えば、「所掌」を越えた「目的」、「縦割り」に代わる「横割り」等)である。
この第二の作業を踏まえること無しには、国家機能論と省庁再編論とは必ずしも適切に結びつかない。
二 国家機能論に関し今後行わるべき作業
○ 出発点として、行政改革会議では、これまで、以下の諸原則がおおむね了解されているものと理解する。
1.上記の第一の問題(国家が果たすべき機能の範囲)については、行政改革委員会の検討結果(規制緩和)並びに地方分権推進委員会の検討結果(地方分権)を踏まえる(水平的減量)ほか、「企画・立案機能」と「実施機能」とを原則的に区別し、後者については、アウトソーシング(外局化、独立行政法人化、民営化)を図る(垂直的減量)。
2.上記の第二の問題(国の機能の在り方についての捉え直し)については、「大括り」によって対処することを考える。
○ 但し、以上の出発点のそれぞれについては、なお残された、次のような問題がある。
1.について
イ)規制緩和関係
・ 規制緩和が行われても、民間活動を対象とした国家機能の必要が全く無くなるわけではない(例えば、市場の条件整備、市場の失敗に対する対処等)。これらは、全て、公正取引委員会や、裁判所の機能に委ねられるか? 仮に、各省庁の機能として残るものがある場合、それは、どのような機能であるか?
・ 「特定の産業の保護・育成」を通じて、一定の行政目的の達成を図る、という構造になっている分野が、しばしば存在する(大蔵、厚生、農水、通産、運輸、郵政、建設各省等による関連業界への介入)。これらの場合、仮に、こういった介入行政の手法からは撤退するにしても、達せらるべき行政目的(機能)そのもの(例えば、金融秩序の維持、公衆衛生の確保、食糧の安定的供給、交通運輸システムの確保、通商の振興調整・産業の育成、社会資本の整備、等々)は、果たしてまたどの程度、国が果たすべき機能として、別に残るか?
ロ)地方分権関係
・ 現段階では、地方分権推進委員会の検討結果は、主として「機関委任事務の廃止」に止まっており、国の直轄事務の大幅な地方移譲にまでは到っていない。このような状況の下で、行政改革会議としてこの問題にどこまで踏み込める(踏み込むべき)か?
・ 地方分権が現実に進まない場合の手当をどうするか?
ハ)アウトソーシング関係
アウトソーシングの可能性及び範囲については、多くの検討すべき問題があるが、とりわけ重要であるのは、例えば、次のような問題である。
・ 「民営化」をするとクリーム・スキミングとなり、十分な収益の見込めない地方におけるサーヴィスが不十分となる、という論理をどう考えるか。
・ 「企画・立案機能」と「実施機能」は、明確には分けられ得ず、少なくとも、両者間に密接な連携が取り得るシステムが保障されなければならない、という論理をどう考えるか。
・ 「独立行政法人」の職員の身分は何か(公務員か、準公務員か、非公務員か、etc.)。
2.について
・ 「大括り」については、「始めに大括りありき」という論理の運びにならないよう留意する必要がある。「大括り」が先に立つのではなく、あくまでも「21世紀においてあるべき国家機能は何か」が先にあり、こうして必要となる国家機能を果たして行くためにはどのような組織編成が合理的であるかを検討した結果、「大括り」となる、という論理の運びがなされるのでなければならない。すなわち言い換えれば、「大括り」は、理論的な「出発点」ではなく「結果」である。
・ 「大括り」には、「縦割り行政の弊害」の除去、閣僚(内閣構成メンバー)の数の適正化、といった積極的意義があると共に、他方、「組織の分節機能(組織内部でのチェック・アンド・バランス機能)」の減少、組織の巨大化による、上からのコントロールの可能性の減少、といった消極的側面がある(私の4月2日の発表意見参照)。従って、こういった側面に対する手当が十分になされるのでなければならない。
○ 以上を踏まえ、「国家機能の在り方」に関して、具体的には、以下のような作業が必要となる。
1.現在各省庁が担っている機能を(恐らく、局レヴェルで)総点検し、今後国家機能として不必要なものと残さるべきものとを整理する。
2.残されるべき機能につき、共通性と相反性とを分析整理する。
・ その際「共通性」の基準としては、さしあたり、「橋本四分類」をベースとするが、これを金科玉条とはしない(総点検の課程での細分類や、修正もあり得ることとする)。
・ 「相反性」の基準としては、「生産・創造」と「配分」、または、「自由の保障」と「安全の確保」、といった、「自立」と「規律」との相反が、基本的にしてまた古典的なものであるが、更に、「現存する世代の利益」と「将来の世代の利益」の相反が、今日、とりわけ重要な問題となる。また、「平常時」を想定するか、「危機」を想定するかで、「共通」か「相反」かの判断も大きく異なり得ることに、充分留意する必要がある。
・ アウトソーシングの問題については、先に触れた通りの検討が必要である。
三 現行国家行政組織法上各省庁が担うべきこととされている国家機能についての整理
○ さしあたり、事務局に作業を願う。
四 国家機能の分類に関しての具体的検討(橋本四分類をベースとして)
○ さしあたり、事務局により整理された、橋本四分類をベースとした国家行政機能の分類を手掛かりとするが、私なりの具体的な検討結果は、次回以降逐次提示して行きたい。
五 上記の国家機能を行わせるための、受け皿としての組織の在り方
○ 「機能」論と「組織」論の相互関係
以上に見たような機能分類は、組織の在り方についての、一応の基準とはなるが、それだけで、組織の在り方を一義的に決定し得るものではない。何故ならば、
1.例えば、「防衛」「治安」等のように、機能としては独立性を認めることができるにしても、この機能を担う組織がどのようなものであるべきかについては、専ら組織的な見地から(例えば、民主的なコントロールの確保、etc.)、別の考慮が必要となるケースがある(例えば、独立の「省」とするか、外局たる「庁」とするか、或いは、「行政委員会」とするか、等々)。
2.機能自体としてみた場合には、状況により「共通」もし、また「相反」もする、という関係にあるケースがしばしば存在する(例えば「財政」と「金融」の関係)。このようなケースにあっては、機能論に加え、次に見るような、組織間の調整システムの在り方という別の見地からも、問題を捉える必要がある。
3.どのような組織作りをしようとも、組織相互間での調整の必要は、必ず残る。その場合、
・「大括り」するということは、この調整作業を「局」以下の組織レヴェルで行うことを意味することになるが、その場合、調整の内容は微細にわたることができる反面、問題の所在・調整のプロセスの在り方等が、対外的に必ずしも十分な透明性を備えるものでないものになるおそれが生ずる。他面、「相反」性を重視して別々の「省」立てをすることは、相互間の調整が大臣レヴェルで初めて行われることを意味することになり、まさに上記と逆のことが妥当することになる。どちらを選択するかは、決断の問題である。
このような意味において、それぞれの機能につき、閣議での調整が必要なもの、大臣レヴェルでの相互調整が適当であるもの、局レヴェルでの内部的調整が適当であるもの、等々の整理をする必要がある。
・また、省庁間の調整の在り方について、他省庁に対する意見申し出の手続等を果たしてまたどの程度設けるか、組織的に、独立の「省」立てをせずに、機能別の各省間共同ネットワーク(タスクフォース)を設置する、といった解決は、果たしてまたどの程度可能であるか、等々を考える余地がある。
4.その他、組織論上の問題としては、各省庁間のバランスをどう考えるか(例えば、力の突出した組織を作らない)、国際的なバランス・対外的なPR効果をどう考えるか、といった問題が存在する。
○ 組織単位の在り方についての確認の必要
・府・省にはそれぞれ何を担当させるか。
・外局の在り方。
・いわゆる「エージェンシー」の在り方。
・行政委員会の在り方と位置付け。
六 上記を踏まえた上での、省庁の具体的再編案
○ 現段階では保留
fujita@law.tohoku.ac.jp
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