仙台弁護士会 弁護士 小野寺 友宏
ヤミ金融対策法とヤミ金融被害に対する実務的対応

1.はじめに

 近時、出資法の上限金利をはるかに上回る超高金利で貸付をし、本人のみならず親、兄弟、果ては職場にまで脅迫まがいの電話をかけ、執拗に取り立てを迫る、いわゆるヤミ金融業者の被害が続出している。本報告では、このようなヤミ金融による具体的な被害実態を報告すると ともに、昨年(平成一五年)国会で成立した、いわゆる「ヤミ金融対策法」(貸金業規制法と 出資法の改正)の概要を解説する。また、これまでにヤミ金融対策として行われてきた、返済 金の不当利得返還請求訴訟、ヤミ金融が開設している銀行口座の仮差押え、刑事告発などの法 的手続きについてもあわせて報告する。

2.ヤミ金融とは

 ヤミ金融業者にもいろいろな種類があるが、代表的なものとしては、トイチ金融(一回に つき数万円程度を貸付け、一週間から一〇日ほどで三~一〇割程度の利息を取る暴利金融で、 業者の多くが、「都(1)~」という登録番号(東京都知事登録で、登録後三年未満のもの) を持つ登録業者であることから、トイチ金融と呼ばれる)や、090金融(電柱やガードレー ルへの張り紙などに携帯電話の番号と業者名しか書かず、正体を明かさないまま、違法な高金 利で小口の融資を行う)などがあげられる。

3.被害の実情

 ヤミ金融業者による被害は、平成一三年頃からで急激に増加しており、これまでに全国で五〇~一〇〇万人が被害にあったと言われている。仙台弁護士会でも、平成15年に入ってから平日に実施している法律相談に、ヤミ金融被害の相談者が一日約一五人前後訪れており、相談者全体の三割程度を占めるまでになっている。ヤミ金融業者の手口は、小口の現金を貸し付けて法外な金利を要求するというものであり、期限までに支払いがないときは、本人のみならず、身内や職場近所などへ取立の電話をし、ひどい事案になると、お悔やみ電報を送りつけたり、寿司・ピザなどの出前を配達させるというものである。最近ではその嫌がらせがエスカレートし、子供の通っている学校に取立の電話をかけたり、家が火事だと消防署に電話して消防車を出動させた例まである。

4.ヤミ金融対策法の制定(貸金業規制法及び出資法の一部改正)

 このような被害を受けて、平成一五年七月に、国会において、ヤミ金融被害に対応するために、貸金業規制法及び出資法の一部が改正された。改正のポイントは、以下の通りである。

  1. 貸金業登録拒否要件の厳格化・・・登録要件として財産保有義務を課すとともに、暴力団排除条項を創設し、貸金業務取扱主任者の設置を義務づけた(貸金業規制法六条一項五~一四号)
  2. 行為規制の強化・・・無登録業者の広告・勧誘行為を禁止するとともに(貸金業規制法一一条)、取立行為の規制に関する規定を新設して、具体的な行為類型を挙げ禁止行為を明確化した(同二一条)。
  3. 契約無効制度の導入・・・「貸金業を営む者が業として行う金銭を目的とする消費貸借の契約において、年一〇九・五パーセントを超える割合による利息の契約をしたときは、当該消費貸借の契約は、無効とする」との規定が置かれた。この「消費貸借の契約は無効」という文言から明らかなように、利息契約のみが無効なのではなくて、契約全部が無効であり、したがって元本部分も含めて貸金請求権は存在しないことになると解される(貸金業規正法四二条の二)。
  4. 罰則の強化・・・出資法違反の高金利及び貸金業規制法違反の無登録営業、取立規制違反などについて、刑事罰則を強化した(貸金業規制法四七~四九条、出資法五条)。

5.ヤミ金融被害に対する弁護士の実務的対応

(1)ヤミ金融被害事件に取り組む基本方針
 ヤミ金業者の貸し付けは、それ自体が公序良俗に反するものであり、不法原因給付に該当するから元本部分も含めて全額返す必要はなく、支払いを済ませてしまった部分は、法律上の原因がない弁済となるので不当利得として全額返還請求できるというスタンスで取り組む。
(2)具体的な対応
 まず、連絡先の住所やFAX番号が分かっている業者には、直ちに弁護士名で支払の拒絶と既払い金返還を求める通知を発送する。送付先の分からない業者には、直接電話をして弁護士が委任を受けた旨伝えるとともに、通知書面の送付先のFAX番号を聞き出す。既払い金の返還を求めても応じない業者に対しては、返済金の振込先として指定された銀行口座を仮差押えしたり、不当利得返還請求の訴訟を提起するなどの取り組みも行われている。

 また、悪徳業者の根絶のために、刑事告発や営業停止等を求める行政処分申立も活用されている。

6.ヤミ金被害をなくすための諸活動

(1)預金口座の取引停止
 仙台弁護士会をはじめ各地の弁護士会等で、銀行協会等に対し、ヤミ金口座の解約や利用停止措置を求める要請がなされており、各金融機関においてもしかるべき対応がとられるようになっている。
(2)脅迫電報の配達阻止
 各地でNTT各社に対する要請がなされるとともに、被害者らにより、脅迫電報を配達したNTTに対する損害賠償請求訴訟が起こされている。
(3)宮城県ヤミ金融連絡会議
 宮城県産業経済部経営金融課が、弁護士会、司法書士会、県警本部、県・市の消費生活センターなどに呼びかけ、平成一五年秋にヤミ金融対策を検討する機関を設立した。

むすび

 ヤミ金融による被害は、法改正及びその後のヤミ金融上層部の摘発等により一時よりは減少傾向にある が、まだ悲惨な被害は少なくない。今後も、弁護士会をあげて、この問題に積極的に取り組んでゆく所存である。