東北大学大学院法学研究科教授 三好信俊
「地球の温暖化の現状と対策」

1.問題の概要

地球の温暖化の現状と対策 図
地球が温暖化するメカニズム

 地球温暖化は、二酸化炭素、メタンなどの温室効果ガスが、産業革命以降の化石燃料(石炭、石油等)の利用等人間活動の拡大に 伴って大量に大気中に排出されることで、その温室効果が強まって地球が過 度に温暖化することによる地球規模の環境問題である。 このうち、二酸化炭素はその人為的な排出量 が膨大であり、温暖化への寄与度は全 世界で産業革命以降の累積で約64%を占めている。また、大気中 の二酸化炭素の濃度は、1750年の280ppmから2000年の370ppmに増加している。(地球が温暖化するメ メカニズム

 世界各国からの有識者により構成される気候変動に関す る政府間パネル(IPCC)の2001年(平成13年)の報告によると、全球平均地上気温は1861年以降上昇 しており、20世紀中に0.6±0.2℃上昇したとされる。 また、同報告の予測によると、1990年から2100年 までの全球平均地上気温の上昇は、1.4~5.8℃とされており、この ような気温の上昇は、過去1万年の間 にも観測されたことがないほどの大きさである可能性が かなり高いとされている。

 このことから、地球温暖化による気候や生態系への影響が懸念されている。例えば、海面の上昇に関し ては、気温の上昇による海水の膨張、極地及び高山地の氷の融解の結果として、1990年から2100年までの 間に9~88cm 上昇することが予測されている。この場合、海岸線の後退により多大な影響が生じると考え られ、IPCCによれば、2080年までに海面水位が40cm上昇する場合、沿岸の高潮により水害を 被る世界の 人口は、年平均で7500万人から2億人の範囲で増加すると予測されている。

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世界各国の二酸化炭素排出割合

 このような地球温暖化の影響を防止するためには、大気中の温室効果ガスを一定レベルで安定化させる ことが必要である。ある試算では、二酸化炭素の大気中の濃度を550ppm(産業革命の二倍の濃度)に安定 化させるためには、世界全体の排出 量を21世紀末には半分以下にすることが必要とされている。なお、 1999年の世界各国の二酸化炭素の排出割合をみると、上位5カ国は、アメリカ、中国、ロシア、日本、 インドであり、この上位5カ国とEUなどの先進国(OECD加盟国であるメキシコ、韓国を含む)で約3/4 となっている。

2.国際的な取組の進展

国際的な取組の進展 図
なお、途上国からの排出量の目標設定のあり方については引き続き 議論されてきている。京都議定書の概要

 1992年に、その後の国際的な取組のベースとなる気候変動枠組条約が採択された。この条約は、 その目的を、気候系に対して危険な人為的干渉を及ぼすこととならない水準において大気中の温室効果ガス の濃度を安定化させることとし、先進国について、2000年末までに温室効果ガスの排出量を1990年レベルに 戻すことを目指した政策を実施することを規定していた。しかしながら、条約の目標がいわば「努力目標」 であることや、2000年以降の取り組みについて規定が無いことから、引き続き交渉が行われ、1997年12月 に京都で開催された気候変動枠組条約の第3回締約国会議(COP3:COPはConference of the Partiesの略。)において京都議定書が採択された。本議定書では、いわゆる先進国の温室効果ガス排出量について、法的拘束 力のある数量化された約束を設定した。

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現在の国際的動向

 京都議定書の発効要件は、 ①55カ国以上の国の締結及び②締結した附属書Ⅰ国(いわゆる先進国)の合計の二酸化炭素の1990年の排出量 が、全附属書Ⅰ国の合計の排出量の55%とされている。このうち、前者については、既に要件を満たしてい るが、後者については、2003年の1月現在43.9%であり、米国がブッシュ政権になって以降京都議定書からの 離脱を表明した現状においては、ロシアの動向が京都議定書の発効にとって極めて重要になっている。

3.我が国の対応

我が国の対応 図我が国の対応 図
二酸化炭素排出量の部門別内訳及び排出量の推移

 わが国の温室効果ガスの排出量についてみてみると、2001年度では、温室効果ガスのうち二酸化炭素排出 量は12億9900万トンで、京都議定書の基準年に対比して、概ね5.2%の増となっており、京議定書の目標である6%削減達成のためには、一層の削減が必要な状況である。なお、これを部門別にみると、運輸部門が22.8%、民生(業務)部門が30.9%・民生(家庭)部門が19.4%増加している一方、産業部門については5.1%減少している。

 2002年3月に、内閣総理大臣を本部長とする地球温暖化 対策推進本部において、新しい「地球温暖化対策推進大綱」を決定し、100種類を超える対策・施策のパッケ ージを取りまとめ、京都議定書の6%削減約束を履行するための具体的裏付けのある対策の全体像を明らかに した。また、同じく3月には京都議定書の国内担保法として「地球温暖化対策の推進に関する法律の一部を改 正する法律案」が閣議決定の上、国会に提出された。同法の成立を踏まえ、同年6月に我が国は京都議定書 を締結した。

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地球温暖化対策推進大綱

 地球温暖化対策推進大綱ではステップ・バイ・ステップのアプローチが採用されている。 これは、京都議定書が2008年から2012年と将来の排出量に関する約束であることから、その終了期間である 2012年までを3つに分け(第一ステップ2002年~04年、第二ステップ05年~07年、第三ステップ08年~12年 )、大綱の実施状況の定量的評価・見直しを行ったうえで、柔軟に対策・施策の見直しを行うものである。

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地球温暖化対策税について

 このため、現在第二ステップ以降に備えて様々の施策の検討が行われている。このうち、いわゆる環境税 (炭素税)については、欧州諸国で既に導入され、環境と経済の両立(統合)を進める政策手法としてその効果が  期待されている。2003年8月に環境省から、たたき台として温暖化対策税制の具体的な制度の案が公表されており、  今後国民的な検討・議論が進むことが望まれる。