東北大学法科大学院メールマガジン

第96号 04/07/2014

◇東北大学法科大学院 新入生オリエンテーション開催

 新年度を迎え、4月2日(水)に東北大学法科大学院において新入生オリエンテーションが開催されました。
 法学研究科長・法学部長の渡辺達徳教授によるご挨拶をメルマガ読者の皆様にもお届けします。

法科大学院オリエンテーションご挨拶

東北大学大学院法学研究科長・法学部長 渡辺 達徳

 オリエンテーションに先立って、2014年4月、東北大学法科大学院に入学された皆さんに、歓迎のご挨拶を申し上げます。

 2004年(平成16年)に法科大学院が全国で開設されて満10年が経過しました。そして、皆さんもご承知のとおり、この10年間で、法科大学院そして司法試験制度を取り巻く環境は、大きく、そして厳しい方向へと変わってきました。

 しかし、この間において、何らかの情勢の変化があって、優れた法曹が不要になったわけではありません。東北大学法科大学院が掲げるところの、優れた法曹が持つべき資質と能力、すなわち、(1)現行法体系全体の構造を正確に理解していること、(2)冷静な頭脳と温かい心をもって社会を観察し、そこに問題を発見することができること、(3)具体的な問題について広い視野から多様な視点を設定して考察することができること、(4)緻密で的確な論理展開をすることができること、(5)他者とコミュニケーションをするための高い能力(理解力・表現力・説得力)を持つこと、そして、(6)知的なエリートとしての誇りを持ち、それに伴う責務を自覚していること、といったことが、複雑化、多様化、国際化の速度を増す今後の社会において、ますます求められていることに変わりはありません。

 これから皆さんは、法律学の中でもいわゆる実定法解釈と呼ばれるものを中心として、学修を重ねていくことになります。それは、即物的にいえば、それが司法試験の受験科目だからというに尽きます。しかし、その学修だけでは、先に触れた東北大学法科大学院が掲げる、優れた法曹に達することはできません。法科大学院のカリキュラムが、法律実務の実践や法曹倫理の修得を通じて法曹としての責務を体得し、また、法と哲学、歴史学、社会学、経済学、政治学といった隣接学問領域を学ぶことにより、広い視野と専門性を身に付けることを求めているのは、そのためであるといえます。いいかえれば、法曹としての責務を体得するための研鑚、そして隣接学問領域の学修は、いわば実定法解釈の前提ないしは下支えとして不可欠な知的営みであるということです。

 言い換えれば、私たちが歴史的に経験してきたことを、人文学・社会学・経済学その他の隣接学問の知見というフィルターを通して観察すると、そこからは、新たに生起してくるであろう問題の萌芽・兆しや、それへの法的対応のあり方を汲み取ることができます。実定法解釈の前提ないしは下支えとなるべき多様な学修は、こうした意味における優れた法的知見を獲得するために重要であることが理解されなければなりません。

 法科大学院に入学した皆さんに対して、今お話をすることが適切なのか、多少の迷いを覚えつつ、司法試験の論文式試験を採点した考査委員が述べている採点実感の中から、1つの意見をご紹介したいと思います。これは、毎年、法務省のウェブサイトに掲載されているもので、ご紹介するのは、昨年の試験結果を踏まえて、民法の考査委員が述べているところです。

 そこにいわく、司法試験の「論文式試験で出題される事項は、画一的な思考で解決が得られるようなものではなく、あえて解答を見いだすことが困難な課題を与えるなどして、受験者の法的思考能力を試そうとしているのであり、採点者は、いわば出題において提示した課題を受験者が共に悩んでくれたであろうか、というような気持ちで一枚一枚を読む」のだ、というのです。

 論文式試験で出題されるのが、「画一的な思考で解決が得られるようなものではな」く、また、「あえて解答を見いだすことが困難な課題を与え…、受験者の法的思考能力を試」すというのは、東北大学法科大学院が掲げる法曹の資質と能力のうち、「社会を観察しそこに問題を発見すること」、そして「具体的な問題について広い視野から多様な視点を設定して考察すること」という要素と重なって見えます。司法試験の採点といえば、きわめて技術的・現実的な作業であるとの印象を持つかもしれませんが、司法試験においては、あくまでも、そして当然のことながら、優れた法曹となるべき資質と能力が問われていることが分かります。

 新入生のオリエンテーションという場で、あえて法科大学院修了後に皆さんが受験する司法試験というもの、そして、その論文試験の採点という現実的・技術的な話題を取り上げると、ともすると、法科大学院が、司法試験受験の準備的・予備的な場であるとの誤解を招きそうです。しかし、ここでお話をしたことの本意がそこにないことは、きっと理解していただけるであろうと思います。

 歓迎のご挨拶としては、やや風変わりなものになってしまったかもしれませんが、皆さんが、東北大学法科大学院における学修を通じて、優れた法曹としての資質と能力を身に付け、2年後または3年後に巣立っていって下さることを切に願って、ご挨拶とさせていただきます。

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 http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/

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発行:東北大学法科大学院広報委員会

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