東北大学法科大学院メールマガジン

第88号 04/05/2013

◇東北大学法科大学院 新入生オリエンテーション開催

 新年度を迎え、4月3日(水)に東北大学法科大学院において新入生オリエンテーションが開催されました。
 法学研究科長・法学部長の渡辺達徳教授による挨拶をメルマガ読者の皆様にもお届けします。

法科大学院オリエンテーション挨拶

東北大学大学院法学研究科長・法学部長 渡辺 達徳

 オリエンテーションに先立って、2013年度、東北大学法科大学院に入学された皆さんに、歓迎のご挨拶を申し上げます。

 今年度は、2004年(平成16年)に法科大学院が全国で開設されて10年目にあたります。そして、皆さんもご承知のとおり、この9年余りの間、法科大学院そして司法試験制度を取り巻く環境は、大きく、そして厳しい方向へと変わってきました。

 しかし、この間において、何か社会の変革その他の情勢の変化があって、優れた法曹が不要になったわけではありません。東北大学法科大学院が掲げるところの、優れた法曹が持つべき資質と能力、すなわち、(1)現行法体系全体の構造を正確に理解していること、(2)冷静な頭脳と温かい心をもって社会を観察し、そこに問題を発見することができること、(3)具体的な問題について広い視野から多様な視点を設定して考察することができること、(4)緻密で的確な論理展開をすることができること、(5)他者とコミュニケーションをするための高い能力(理解力・表現力・説得力)を持つこと、そして、(6)知的なエリートとしての誇りを持ち、それに伴う責務を自覚していること、といったことが、複雑化、多様化、国際化の速度を増す今後の社会において、ますます求められていることに変わりはありません。

 これから皆さんは、法律学の中でもいわゆる実定法解釈と呼ばれるものを中心として、学修を重ねていくことになるといえましょう。それは、即物的にいえば、それが司法試験の受験科目だからというに尽きます。しかし、その学修だけでは、先に触れた東北大学法科大学院が掲げる、優れた法曹に達することはできません。法科大学院のカリキュラムが、法律実務の実践や法曹倫理の修得を通じて法曹としての責務を体得し、また、法と哲学、歴史学、社会学、経済学、政治学といった隣接学問領域を学ぶことにより、広い視野と専門性を身に付けることを求めているのは、そのためであるといえます。いいかえれば、法曹としての責務を体得するための研鑚、そして隣接学問領域の学修は、いわば実定法解釈の前提ないしは下支えとして不可欠な知的営みであるということです。

 こうした知的営みを体験することは、東北大学法科大学院が掲げる、優れた法曹が持つべき資質と能力のうち、社会を観察しそこに問題を発見すること、また、具体的な問題について広い視野から多様な視点を設定して考察すること、といった要素と密接に関連するでしょう。私たちが歴史的に経験してきたことを、人文学・社会学・経済学その他の隣接学問の知見というフィルターを通して観察すると、そこからは、新たに生起してくるであろう問題の萌芽・兆しや、それへの法的対応のあり方を汲み取ることができます。実定法解釈の前提ないしは下支えとなるべき多様な学修は、こうした意味における優れた法的知見を獲得するために重要であることが分かります。

 その一例と思われる場面を挙げたいと思います。
 東日本大震災の後、様々な場面で、「想定外」という言葉が多用されました。そして、今後わたしたちが経験するかもしれない大規模自然災害の被害予測がメディアで報じられる際は、今でもこの「想定外」という言葉が繰り返し使われています。
 翻って、あるプロ・ドライバーが、クルマを運転するために最も必要とされる能力は、上手なハンドルさばきでもなく、アクセル・ブレーキのテクニックでもなく、身体能力・動態視力でもなく、「想像力」である——“creation”の「創造」ではありません——という趣旨の記事を書いているのを読んだことがあります。

 これは意外な言葉かもしれませんが、その意味するところは、自分の知識・経験に照らして、いま自分が置かれた運転の状況の下で、次に起こり得るのはどのような事態かを適切に想像し、かつ、自分の運転技術・クルマの性能や特性を見極めた上で、起こり得る事態に対応可能な運転をする、ということであろうと思います。つまり、危険の現実化は、「想像力」の欠如に起因するということです。
 とすると、東日本大震災の後に喧伝された「想定外」とは、想像力の欠如を意味するものであり、いいかえれば、その言葉を発する人たちが歴史や経験から何も学んでこなかったこと、そこから新たな問題の萌芽や兆しを感知する能力を欠き、その結果、適切な対応を採れなかったことを自認するにすぎないのではないでしょうか。

 ここから何らかの教訓を読み取ることができるとすれば、それは、社会を観察して問題を発見し、多様な角度から分析・検討を加え、その問題の生起を未然に防止し、現実に発生してしまった問題を適切に解決する、という一連の知的作業と軌を一にするように思われます。そして、それは、優れた法曹が持つべき資質と能力とも同根であるといえます。

 歓迎のご挨拶としては、やや風変わりなものになってしまったかもしれませんが、皆さんが、東北大学法科大学院における学修を通じて、優れた法曹としての資質と能力を身に付け、2年後または3年後に巣立っていって下さることを切に願って、ご挨拶とさせていただきます。

◇東北大学法科大学院を目指す皆様へ

 平成25(2013)年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨が公表されました。
 詳細については、以下のURLをご覧ください。

 http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/admission/kakomon/2013/

◇東北大学法科大学院ウェブサイトにアクセスしてみてください!

 東北大学法科大学院についての各種情報を見やすく掲示しています。
 アドレスは以下のURLです。ぜひご覧ください。

 http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/

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発行:東北大学法科大学院広報委員会

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