東北大学法科大学院メールマガジン

第67号 10/29/2010

◇平成23年度(2011年度)入学試験出願者数のお知らせ

 平成23年度(2011年度)東北大学法科大学院入学試験に出願をいただきまして、誠にありがとうございました。志願者総数は290名(うち、法学既修者コース希望217名、法学未修者コース希望73名)でした。

 なお、第1次選考の結果については、11月2日(火)にホームページ上で発表します。

◇トピックス —連続講演会その3

 さる7月8日(木)に片平キャンパス法学研究科第4講義室において、本法科大学院の卒業生である盛岡地方検察庁の佐藤奈津検事をお迎えして開催された、第2回連続講演会「刑事実務最前線」の概要をお送りします。

 ご講演では、検事の仕事や法科大学院での学び方について、佐藤奈津検事ご自身のご経験も踏まえて、詳しくお話いただきました。

刑事実務最前線

本学2007年修了生 佐藤 奈津 検事

<はじめに>
 ただいまご紹介を頂きました盛岡地検の検事の佐藤といいます。よろしくお願いします。

 2年目の駆け出しの検事の私を、このような席に呼んでくださった先生方に感謝しています。また、ついこの間までは、私も学生の皆さん側に座っていました。1人の東北ロースクールの先輩として、ちょっとだけ先輩の法曹の話を聞く機会があるのは学生の皆さんにとってとても良いことだと思います。私の学生時代には無かったので、うらやましく思っています。

 先程ご紹介して頂いた通り、私は東北大学の出身です。東北大学の法学部で4年間過ごしました。学生時代は、国際法の模擬裁判サークルに入っていて、国内法をそっちのけで、国際法ばかり勉強していました。そのせいか、刑事訴訟法のテストは2回連続で単位を落としています。それでも、何とか検事になれましたので、皆さんも希望を持って勉強に励んでくださいね。

 大学卒業後、仙台で1年間浪人をして、2期既習者として東北大学ロースクールに入学しました。ロースクールでの生活はものすごく楽しくて、今日片平キャンパスに足を踏み入れた時に「ああ懐かしい」と充実していた学生時代を思いました。皆さんも、今は忙しくて大変かもしれませんが、何年か経ったときに「あの時は楽しかった」と思ってもらえるといいなと思います。

<検事になってから>
 ロースクールをなんとか卒業し、司法試験にもなんとか合格しました。1年間の司法修習を経て、検事に任官しました。私のときは、新任検事は、まず東京地検に配属されました。その後、それぞれ、仙台、札幌、名古屋、大阪等の大規模庁に配属されました。私は、東京地検立川支部に配属されました。立川支部は大きな支部で、検事が30人くらいいました。私は、現在、盛岡地検に勤務していますが、岩手県内には検事は8人しかいません。

 大規模庁では、捜査担当の検事が起訴までの捜査を担当し、公判担当の検事が起訴から後の公判を担当します。逆に、中小規模庁では、主任立会、つまり、自分で起訴した事件について自分で法廷に立ちます。私は、東京地検で公判部3か月、立川支部で公判担当4か月、捜査担当8か月、盛岡地検では主任立会です。

 主任立会ですと、私と被告人との間で、お互いのキャラクターがわかっているので、法廷で私の顔をみてニヤッとする者もいます。取調べ時には、反省の態度をあまり見せずにひょうひょうとしていた被告人が、公判では、法廷の厳粛な雰囲気を感じて、急に動揺したり、反省の態度を示すということもあります。主任立会でなければ、法廷に行って初めて被告に会うことになります。記録を読んで想像していた被告人のイメージと、実際法廷で会った被告のイメージが全然違うこともあります。主任立会もそうでない場合も、それぞれに魅力があります。

 ところで、皆さんは法曹のバッチは全部見たことがありますか?弁護士さんの金色のバッチはよく見ますよね。検事のバッチは見たことがあるでしょうか?検事のバッチは白色と赤色と金色の3色が使われていて、ちょっと派手かもしれません。検事のバッチは「秋霜烈日のバッチ」と呼ばれていて、「秋におりる霜と夏の厳しい日差しを意味していて、刑罰や志操の厳しさをたとえている」そうです。私は、このバッチが一番カッコいいと思っていて、任官して胸に初めてつけた時にはとても感動しました。

<事件処理について>
 では、検事の日常業務はどういうものなのかを2つの視点からお話したいと思います。1つは、事件処理、つまり、1つの事件についてどのように時間が流れて、どのように処理がなされていくかをお話します。もう1つは、検事が、複数の事件を並行的にこなしながら、1週間をどのように過ごすかという視点です。

 まず、事件処理について。これは、まさに刑事訴訟法の世界です。酔払いが暴れて誰かを殴ったとか、マンガを万引きしたとか、家に火をつけたとか、世の中にはいろいろな事件があります。例として、酔払いが暴れて誰か殴ったとか、怪我させたという事件を考えてみましょう。まず、通報を受けた警察官が現場にかけつけて、被疑者を逮捕します。そして、警察官が検察庁に事件を送ります。

 では、事件が送られて来たらどうするでしょうか?刑事訴訟法に何か決まりがありましたよね?被疑者を逮捕した場合には、法律で決められた時間内に検察庁に送致しなければいけませんし、弁解録取もしなければなりません。

 私が事件の配布を受けたときの状況を再現してみましょう。事件係の事務官が「新件です。」と事件記録を持ってきます。「どんな事件だろう。」と記録を読みながら、逮捕手続きに違法がないか、時間制限がちゃんと守られているか、そういったことを確認していきます。そして、被疑者から弁解を聞くために、事務官に被疑者を呼んでもらい、警察官に連れられた被疑者が私の部屋にやってきます。人定の確認や黙秘権の告知、弁護人選任権の告知などをして、事実についての弁解を聞きます。

 さて、弁解録取をした後、次に何をするでしょう?勾留請求をするかどうかを決めます。勾留請求をしようと思えば勾留請求書を書くし、勾留請求をしないなら被疑者を釈放します。勾留請求をするのであれば、刑事訴訟法60条1〜3号の要件に当てはまるかどうかを検討しなければなりません。皆さん、60条1号、2号、3号って何かわかりますか?

 私は、勾留請求の要件なんてL2のときはわかりませんでした。L3のときに参加した田子先生のゼミで、勾留請求書や冒頭陳述、論告、弁論等を実際に書きました。それは、すごく勉強になりました。実際に法律を使うというのはどういうことなのかを学ぶことができました。今検事になってみて、田子先生のゼミで勉強したことはすべて使えることだったと実感しています。何一つ無駄になっていません。

 さて、皆さんに質問です。勾留期間は、最初の請求で10日間、延長してさらに10日間ですね。では、勾留期間の起算日はいつでしょうか?答えは、勾留請求をした日です。択一試験で出そうな細かい問題ですが、検事になった私には切実な問題です。勾留期間の最終日が、金曜日なのか、木曜日なのか。1日の違いが大きな違いです。

 被疑者を勾留している事件では、原則として、10日又は20日の間で最終的な処分を決めます。最終的な処分をするには上司の決裁が必要です。上司に、「この被疑者を起訴します。こういう内容の事件で、問題点はこれこれですが、こういう捜査をしており、問題はありません。」などと説明します。あっさり納得してもらえればよいのですが、経験豊富な上司から色々質問をされて、しどろもどろになることも度々です。時には「お前の説明は、聞いていても全然わからない」と叱られることもあります。そういうときには、他人に説明することの難しさを実感します。

 皆さんは答案を書きますよね?答案というのは採点官が読むものです。ですから、採点官が読んでわからないことを書いても仕方がありません。採点官が読んでわかることを書かなければいけません。普段勉強をするときにも、誰かに読んでもらって、ちゃんと意味が通るか、理解できるか、説得されるかということを確認してもらってください。相手に伝わる文章を書く、相手に伝わる説明をするということは、将来、検事になっても裁判官になっても弁護士になっても必要なことですし、答案の作成はそのための訓練ではないかと思います。

 さて、被疑者を起訴したら今度は公判です。公判では、書証を提出したり、証人尋問をしたり、意見を述べたりして、裁判所に有罪の判決を書いてもらえるように訴訟活動をおこないます。

 私が受けた司法試験で、冒頭手続きにおける、人定質問、起訴状朗読、黙秘権告知、罪状認否の順番を回答させる問題が出ました。皆さん、この4つの順番を並べ替えられますか?これは、今挙げていった順番が正しい順番です。皆さんは試験に出るといわれると、「えーっ」と思うかもしれませんが、実際に自分が裁判をやることになったら、当然知らなければいけないことです。

 皆さんは、裁判官が入ってきて「それでは開廷します」と言った後に、誰が何を言うのかわかりますか?私が刑事模擬裁判に参加したとき、そんなことは最初のうちまったくわかりませんでした。刑事模擬裁判を受講したメンバーは、毎日のように裁判所に通って、法廷傍聴して、裁判官、検察官、弁護人の言葉を一言一句書き取ったりして、手続きを一から勉強しました。「それでは開廷します」と言ったら「それでは開廷します」と書き取る、「被告人前に」と言ったら「被告人前に」と書き取る。本当に、一つ一つ真似をしながら模擬裁判を作り上げていきました。

 一度模擬裁判をやると、先程の冒頭手続きの順番は間違いようがなくなります。自分の体で覚えたことですから。教科書でする勉強も間違いなく大切ですが、実際に模擬裁判をやって体で覚えるのもいいことだと思います。手続きを逐一条文を見て確認しながら勉強するとうんざりしますが、実際の公判の多くは約1時間で終わりますから、勉強のためにも是非一度見に行ってみてください。

 少し長くなりましたが、被疑者の逮捕から始まった事件は裁判官の判決を受けておしまいです。もちろん、起訴しない、起訴できない事件もあります。いろいろな法律の手続きに従って、1つ1つの事件を処理していきます。

<ある一週間の生活>
 事件処理はそのような感じで日々忙しく過ごしていますが、次に、一週間をどのように過ごすかということをお話したいと思います。レジュメは、私のある一週間のスケジュールです。

 朝は午前8時半に登庁します。終業時間は一応5時15分ですが、定時で帰ることはまずありません。就業時間内は、被疑者を取り調べたり、公判に行ったり、決裁を受けたりしています。就業時間後は、事件の記録を読んだり、調べ物をしたり、書類を作成したり、時々は警察署に行って取り調べをします。帰宅するのは、私の場合大体午後11時くらいです。仕事が速い人はもっと早く帰宅します。わたしはそんなに仕事が速くないので、きっと、私は仕事が好きなんだと思っていますが、いつも遅くまで仕事をしています。

 月曜日はたまたま出張がありました。関係者がいるとなると、岩手県から関東まで出張に行くこともあります。また、お医者さんから話を聞かなければと医大に行くこともあります。

 火曜日は検察審査会の選任手続きに立ち会いました。検察審査員を有権者から選任する手続きです。選任のときには、検察官と裁判官が立ち会うことになっています。検事の仕事は色々だなあと思って興味深く思っています。

 少し変わったところでは、金曜日の解剖立会でしょうか。解剖に行くのも検事の仕事の一つです。解剖を見たことある人はいませんよね?私も修習生の時に1回、検事になってから1回と、まだ2回しか行ったことがありません。遺体の状況によっては、検事が解剖に立ち会って、何が死因なのか、どういう怪我をしているのかを見ます。司法修習では解剖に立ち会う機会があることが多く、立会時に具合が悪くなる修習生も時々いるようです。でも、私は、具合が悪くなるよりも怒りを感じました。致命傷となる怪我を見ます。からだを切り開いて臓器を取り出すところも見ます。本当に殺人だとしたら、命を奪った上に、亡くなった後にもこんなひどい目に遭わせるなんて許せないという強い怒りを感じました。

 特別なことがなければ、最初に説明したように、取調べをしたり、公判に行ったりして、一日が過ぎ、一週間が過ぎていきます。

<検事の仕事のやりがいについて>
 次に、検事のやりがいについて少しお話したいと思います。私は女性ですが、夜遅くに、夜道を歩くのが怖いと思っています。世の中が安全であれば、夜道を歩くのは怖くないのかもしれないと想像しています。

 私が1つの事件を処理して、すぐ世の中が安全になるわけではありません。でも、1つ1つの事件を処理していくことで、悪いことすれば捕まって処罰を受けるというメッセージを世の中に伝えていく仕事なのだと思っています。刑法には、人を殺してはいけないとか、人を傷つけてはいけないとか、盗んではいけないとか書いてありますが、法律に書いてあるだけでは意味がない。悪いことをしても結局処罰をされないのであれば、法律に書いてあるだけになってしまいます。私の仕事は、1つ1つの事件を通して、悪いことをすれば処罰されるというメッセージを伝えて、犯罪を抑制し、世の中の安全を守るという仕事なのだと思っています。

 検事になった理由として、起訴猶予という処分ができることをあげる人もかなりいます。起訴猶予というのは、事件の内容や被疑者の反省の程度、再犯の可能性、監督者の有無などを考慮して、犯罪は成立するけれど起訴はしないという処分です。悪いことをした、構成要件に該当する行為をした、だけど許すことができるというところに魅力を感じて検事になる人もいます。

<検事の他の仕事について>
 検事の仕事は様々です。先程お話したように解剖に立ち会うこともありますし、少年院の運動会に行くこともあります。少年院の運動会で、一度は悪い道に進んでしまった子供たちが一生懸命走ったりしているのを見ると、更生への希望を感じますし、立ち直ってほしいなあと心から思います。

 他にも、いわゆる検事の仕事を飛び出して、訟務検事、国の代理人となる仕事があります。民事や行政法の世界です。また、留学して外国の法制度を勉強してくる人がいたり、裁判官になったり、弁護士になったり、官公庁で公務員、官僚として法律を作る人もいます。検事の仕事も色々あるので是非興味を持って頂ければと思います。

 以前のメルマガで、牧原秀樹先生の特別講演会の記事が掲載されていましたが、その中で「みなさんの可能性は無限にある」という文章をみて、私も希望を持ちました。私自身も色々な道があるのかな、私も検事だけではなく色々な仕事が出来るのではないかなと思ったからです。もちろん、検事をやめるつもりはありませんが。

<検事の目からみた刑事弁護について>
 次に、検事の目から見た刑事弁護のお話をします。皆さん、被疑者国選弁護制度ができたのは御存じですよね?今までは被告人にならないと国選弁護人をつけてもらえなかったのですが、今ではある特定の犯罪については被疑者の段階から国選弁護人をつけてもらうことができます。例えば、傷害罪とか、窃盗罪の場合が該当しますが、これはとても有意義な制度でもっと拡大してほしいと私は思っています。

 起訴前の弁護活動によっては、被疑者が起訴猶予になる可能性があります。例えば、被疑者の厳重な処罰を求めていた被害者が、謝罪文を受け取ったり、示談をしたりして、被疑者を許すということがあります。事件の内容にもよりますが、検事は、本人が反省して被害者も許しているのであれば、あえて起訴せずに起訴猶予にするかもしれません。考え方は人それぞれで、悪いことをしたら絶対に処罰すべきだという人もいるかもしれませんが、私は必ずしもそうではなく、きちんと本人が反省してお互いに納得ができれば起訴猶予にすることもあり得ると思います。ですから、弁護士さんを通して被害者に謝罪するということが、被疑者国選弁護制度のおかげでやりやすくなったのではないかと感じています。

 被告段階の刑事弁護について。裁判はだれのためのものかということを考えます。私は、被告人のための裁判だと思っています。法廷の場では、裁判官も弁護士も検事も、被告人がやったことについてやっただけの責任を取ってもらうために、本当に犯罪を犯しているならきちんと反省させるために仕事をしているのだと思います。

 私は、弁護士というのは、被疑者や被告人の言い分に沿うだけの仕事ではないと思っています。時には、被疑者や被告人にきちんと反省をさせて、自分の犯した罪について正直に話をさせることも必要ではないでしょうか。嘘を付き続けて終わった事件と、本当のことをきちんと話して終わった事件とでは、その人の将来にどのような影響があるのかを考えると、私は後者の方がいいと思うのです。弁護士さんの中には色々な立場や色々な考えの方がいると思いますが、私は、法曹三者みんなで被疑者被告人の更生に取り組みたいと思っています。

 検事の立場から見て、弁護士の仕事は本当に大変だと思います。被疑者や被告人のために被害者と交渉をしたり、監督してくれる人を呼んできたり、それに、被告人には接見に行かなければ会えません。そういう状況の中で、「監督してくれるこういう雇用主がいます。」と裁判の日にきちんと法廷に監督者をつれてきてくれる弁護士さんや弁論で的確に被告人に有利な事情を指摘される弁護士さんは、本当にすごいなあと思っています。

<法科大学院で何を学んでおくべきか>
 さて、法科大学院で何を学ぶか。実務家になってみて、あれもしておけばよかった、これもしておけばよかったと後悔ばかりしています。ロースクールの勉強は、仕事を始めた後にも使えるものです。

 特に、L2の勉強はすごく良かったと思っています。L2のときの勉強というのは、一通り基本をマスターしたという前提で、判例の意味を理解し、異なる事実についても適切に規範をあてはめて妥当な結論を導けるようにするという勉強をしていたのだと思います。条文、判例等の基本的なことをきちんと覚える、判例の背景事情まで踏まえて判例の規範の意味を考える、じっくり腰を据えて勉強する、それができるのはロースクールのときだけです。あれもこれもと手を出すのではなく、授業で取り上げられた事件、判例を骨の髄まで味わいつくして、身につけてほしいと思います。

 司法試験には、知っている問題や解いたことのある問題なんて出ません。それは実務家になってからも同じで、見たことのある事件なんてありません。同じ窃盗でも、被疑者が違えば事件は全然違います。知らない問題、見たことのない事件に出会ったときに、妥当な結論を導くことができるのは、法的思考力があるからです。たくさんの規範、たくさんの事例を知っている上で、事案や事実が違っていても、あの事件と似ているからこの規範をつかえるのではないか、この事件の結論は法律家であれば普通はこう考えるだろうということを判断する能力が必要です。

 それは、ただ基本書を読みふけるとか、ただ判例の規範を丸暗記しているとかでは、身につきません。たとえば、私は、判例百選を読むときには、事案の概要を読んだ後、いきなり判決文は読まずに、自分なりに大体の結論や使用される規範などを考えてから、判決文を読んでいました。そうやって、自分の感覚や理論構成が正しいのかを検討していました。また、実際に問題を解いてみたり、友達と議論したりしていました。基本書や参考書を読んでいるだけでは、なかなか良い答案を書くことは難しいと思います。作家や新聞記者のような文章を書くプロだって、編集したり、校正したりする人がいるのですから、プロではない私たちはどんどん他人に見てもらわなければいけないでしょう。

 先程述べたように、答案は採点官が読むものですから、自分にしか分からないこと書いていても仕方がありません。答案を書いて、その答案を友達に見てもらってコメントをもらうと良いと思います。それに、人の答案を見るとかえって自分の悪いところが分かります。ロースクールのいいところは、同じ目標を持つ仲間が周りにたくさんいて、助け合えることだと思います。

 私も、ロースクール時代、たくさん勉強会をやりました。答案を持ち寄って、それぞれの答案を読みあって、お互いにコメントし合ったりしていました。自分では、規範と当てはめと結論を分けて書いているつもりでも、人に読んでもらうと「混ざっているよ」と言われます。自分では、説得的な論述になっているつもりでも、「意味がわかんない」といわれます。読み手にわかるような文章を書く、聞き手が納得するような説明をする、その訓練をしてください。そして、それは、きっと実務家になってからも役に立つことだと思います。

 間もなくロースクールでは前期試験ですね。私も学生時代には試験の成績に一喜一憂していました。でも、もし悪い成績をとったのであれば、いい成績を取った人の答案を見せてもらってください。そして、恥ずかしいけど自分の答案を見てもらってコメントをもらって下さい。何が悪いのかをきちんと認識するのは自分だけではできません。他人に助けてもらいながら、お互いにブラッシュアップしてください。

 ロースクールでよかったと思うことは、まさに苦楽を共にして一緒に議論をした同期の友達ができて、今でも親しくしていることです。最近も、一緒に模擬裁判をやっていた友人と、検察側と弁護側に分かれて、本物の法廷に立つ機会がありました。そういう時に、自分の同期がいい弁論をしているとすごく嬉しいです。

 もちろん、私達はまだ駆け出しですから、ベテランの弁護士、ベテランの検事、ベテランの裁判官には勝つことは難しい。私も、ベテランの法曹を前にして、「知識が足りないなあ」「経験が足りないなあ」と落ち込むことがたくさんあります。でも、経験だけがすべてではありません。自分の事件に真剣に向き合ってどれほど詳しく事件のことを知っているのか、新しい制度の知識をどれくらい身につけているのか、ベテランの法曹に「おっ」と思わせるような何かを身につけていけば良いのではないかと思っています。

 それから、目標設定とタイムマネジメント。きっと弁護士になったら時間の管理は自分できちんとしなければいけないです。いつまでに、こういう請求書を出すとか、いつまでに訴状を出すとか。それは、検事も一緒です。10日、20日の期限がありますから。皆さんは、今時間があります。勉強に追われていてあり余ってはいないとは思いますが、自分でマネジメント出来る時間があるはずです。

 新司法試験まで、残り1年なのか2年なのか3年なのか、皆さんそれぞれ違うと思いますが、試験までにやるべきことを今その場で書き出してみてください。やるべきことを書き出すと、いかに時間がないかが分かると思います。そして、やるべきこと、やりたいことに対してどれだけ時間をかけるのか。そういうことを考えながら勉強しないと勉強は進みません。目標を定めて、残り時間を考えながら効率よく勉強してほしいと思います。それは、試験の答案を書くときも一緒です。なんとなく書いていても終わりませんし、結局いい答案を書くことができません。時間配分を決めて、書くべきことの優先順位をつけて、良い答案を書いてください。

 法科大学院で、私は初めて弁護士、裁判官、検事に会いました。官澤先生の事務所に1週間エクスターンシップに行ったこともありましたし、先生方と一緒に食事をしに行ったこともありました。そういうときに、先生方と話をしていて、なるほど弁護士や裁判官、検事というのはこういう物の考え方をするのだなと感じました。官澤先生がおしゃっていた言葉で今でも印象に残っている言葉が「勉強しないと取り残されるよ。遅れをとるよ。だって時代はいつも動いているのだから。」という言葉です。その通りだと思います。

 私のロースクール時代にも、授業を聞かずに、予備校の答練を受けたり問題集を解いた方がいいという同級生もいましたし、必ずしもその人たちがみんな不合格だったわけではありません。ただ、私は折角こんなにいい先生方がいて、せっかくこんな機会があるのだから、授業できちんと話を聞いて、質問して、答案を見てもらって、有効に使えばいいのではないかなと思っています。しかも、先生方は基本書や論文などを書かれているので、書いた先生方に直接いろいろ質問をできるのは素晴らしいチャンスだと思います。

 東北大は本当にいい先生ばかりいらっしゃると思います。私は先生方からたくさん影響を受けました。自分の将来の選択を考えるときに、相談もできましたし、何より身近に実務家の先生方がいることですごくモチベーションをあげることができました。「あの先生はこうだったな」、「こういう物の考え方をするものなのだな」、「こういう事件を見た時にこういうことを思いつくのだな」とか、先生方の後姿を見て、憧れを抱きながら、私はロースクール生活を送ったような気がします。

<女性検事として>
 私は、女性検事ですが、別に女性だからってどうってことはありません。怖い顔をしていたら自白をとれなかったということはありますが、女性だから自白を取れなかったということはありません。男性だとか女性だとかは関係なく、みんなその人その人の個性で仕事をしています。ですから、今のところ、女性だからということで、どうこうということはないです。強いて言えば、強姦事件の被害者の取り調べぐらいでしょうか。男性にはなかなか言いづらいという人も多いので、そういう時には女性でよかったと思いますが、逆に、被疑者はなかなか話してくれないので、一長一短あります。

<最後に>
 司法試験は机に向ってガリガリ勉強しているだけで受かる試験ではありません。このことだけは覚えていてほしいと思います。答案は、採点官に読んでもらうものです。独りよがりな答案では合格できません。ですから、皆で勉強会をしたり、答案を見せ合ったりして、他人に理解してもらえる、他人を説得できる答案を書くようにしてください。1人でがんばっていても、なかなか周りの情報も入って来ません。皆で協力し合って、皆で合格してほしいと思います。

 また、今何を勉強しているのか、それが何の役に立つのかということもよく考えて下さい。目標、目的の無い勉強は意味がありません。それから、嫌なこと、やりたくないことほど、やりましょう。択一が苦手だったら択一をよくやる、論文が苦手だったら論文をよく書く、刑法が嫌いだったら刑法をよく勉強する、刑訴が嫌いだったら刑訴はよく勉強する。嫌なこと、やりたくないことほどやらないと合格しません。「長所を伸ばす」とか呑気なことを言っている場合ではありません。嫌なことほどたくさん向かい合って、早く合格してください。早く一緒に仕事をしましょう。

皆さんと一緒に仕事ができることを楽しみにしています。どうか皆さん頑張って下さい。(拍手)

質1:動き回ることができることを検事になったポイントの一つとしてあげていましたが、検事になるにあたり、他のきっかけはありますか?
答1:やはり生身の被疑者から話を聞けるというのが魅力の一つでした。それから、自分が夜道を安全に歩くためにも世の中は安全であってほしいという気持ちもあって、検事になろうと思いました。弁護士になりたいと思ったこともありましたが、依頼人の利益を考えなければならない弁護士は気の強い私には無理かなと思い、法律と証拠のみに縛られる検事の仕事の方が良いと思いました。
質2:検事にとって、自白を得ることができるかどうかというのは、非常に重要なことなのでしょうか?
答2:本人がやった悪いことなのであれば、きちっと反省をして自分の口から「どうもすみませんでした」と語らせることは、本人の更生のために大事なことだと思っています。また、否認事件は、証人を呼んだりするので証人になる人にも負担をかけてしまいますし、正直に言えば、立証責任を負う検事としては「胃がキリキリ」することも多いので否認事件は大変だと思っています。それに、嘘を付かれているとしたら、「ちゃんと正直に話してよ」と思うのが、素朴な人の感情ではないかと思います。
質3:若手弁護士がベテラン弁護士に渡り合えることとはどんなことでしょうか?
答3:法律は日々新しくなっています。例えば、裁判員制度であれば、ほとんどの法曹にとって初めてのことです。そうすると、少し頑張れば自分が第一人者になれたりします。最近、刑事訴訟法も、民法も改正されましたし、以前は会社法というタイトルの法律はありませんでした。法曹の先輩方には、今の会社法を勉強したことがない方もいるので、色々質問されることもあります。結局、自分自身が体験して得た知識と経験で渡り合っていくということではないかと思います。

◆編集後記

 今年はここ仙台でも、例年にない猛暑の夏で残暑も厳しかったのですが、秋も深まり朝夕の冷え込みも厳しくなってきました。体調管理に気をつけて、お過ごし頂ければと思います。

 今回は、佐藤奈津検事によるご講演「刑事実務最前線」の概要をお届けしました。
 講演概要の掲載にご快諾いただいた佐藤奈津検事に心から御礼申し上げます。

 いよいよ、平成23(2011)年度入学試験の季節となりました。入学試験に関する今後の日程は、次のとおりです。

第1次選考合格者発表平成21年11月2日(火)
第2次選考試験平成21年11月20日(土)
第2次選考合格者発表平成21年12月6日(月)
第3次選考試験平成21年12月12日(日)
最終合格者発表平成21年12月21日(火)
入学手続期間平成22年1月4日(火)、1月5日(水)
(追加合格者への連絡)平成22年1月6日(木)、1月7日(金)
(追加合格発表)平成22年1月7日(金)
(追加合格者入学手続期間)平成22年1月24日(月)、1月25日(火)

(杉江記)

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発行:東北大学法科大学院広報委員会

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