東北大学法科大学院メールマガジン

第53号 01/29/2010

◇新司法試験,合格体験談

 去る平成21年10月13日(火)(第1回)に開催されました「新司法試験合格者の講演会」における講演概要の第2弾です。今回は、山崎夏彦さんの合格体験談をご紹介いたします。

合格体験談

山崎 夏彦さん

○自己紹介
 こんにちは。山崎夏彦です。昨年新司法試験に失敗しましたが、今年合格しました。

 簡単に自己紹介をしますと、出身は神奈川県の小田原ですが、東北大学の教育学部に入学し4年間教育学部で学んだ後に、東北大学のロースクールの未修者コースに入りました。いわゆる純粋未修者になります。

 ロースクールに入ろうと思ったきっかけをお話しますと、高校時代に進路を決める時期に、少年事件にすごく興味をもちました。私が中学生のときですが酒鬼薔薇事件が起きて、少年事件が大きく取り上げられていまして、そのとき少年事件はどうしたらなくなるのだろうかと素朴に思っていました。大学進学の際、法学部に行くか教育学部に行くか悩み、最終的に教育学部に行って学ぶことにしましたが、大学2〜3年生のときに、やはり法律の勉強をしたいと思い、ロースクールを受験することに決めました。

○ロースクールでの勉強
 私は、ロースクールに入るまでは全く法律を勉強していませんでしたし、入学の前に読むべき参考書も紹介されていましたが、それも全く読んでいませんでした。小粥先生の民法の講義で初めて六法を触ったというくらい、六法の引き方も全然わからない状態からスタートしました。

 ロースクール一年目は何もわからない状態からスタートしたのですが、未修者コースでもかなり法学部出身者の方がいらっしゃるので授業がどんどん進んでしまい、最初は本当に困ってしまいました。それで、最初の1か月は、特に民法について、民法全体を知らないと各論の話についていけないと気付き、基本書をとりあえずざっと読み、六法をひたすら引き、わからない言葉は法律用語辞典で調べたり、ウィキペディアで調べたりしていました。民法における、危険負担という言葉は最初に聞いたときは全くわからなかったし、瑕疵担保責任の法定責任説と契約責任説の話があっても、法定責任説も契約責任説もわからないし、そもそも瑕疵担保の意味もわからなかったので、民法はまず全体を見通すことが大事だということに気づき、基本書をたくさん読みました。

 授業の受け方ですが、予習をしないと授業についていけない状態でしたので、完璧な予習型で、予習ノートを作成し、復習も予習ノートや授業のノートを見直すという方法をとりました。予習型のメリットとしては、予習しているときにわからないところが出てきますが、それを授業で解決できる、授業中に触れられなかったとしても授業が終わった後に先生に質問すれば解決するので、極力その授業の内容のことであれば、その授業中に解決するという方向で勉強していました。

 L2のときもほぼ同じような勉強方法をとっていましたが、L2の後半頃から、授業とは別の試験対策のための勉強をするようになり、L3では、基本的な知識がついてきていると思ったので授業の予習時間は減らして、試験対策のための勉強時間を増やしていきました。

 しかし、授業を軽く扱っていたわけではなく、例えば、私は、民事の発展演習、刑事の発展演習等たくさんの演習をとりましたが、その演習で深く色々なことを考えたことが試験でも活きたと思っています。また、そのとき選択科目で何をとるか決めていませんでしたが、友達に誘われて国際私法の授業をとり楽しいと思ったので、国際私法を選択科目にすることに決めました。ですから、今L3の方は授業をあまりとっていないかもしれませんが、気晴らしに色々な授業を受けてもいいのではないかと思います。

○試験対策
 試験対策についてお話しますが、基本的には自分に合った方法を選択するのが一番いいと思いますので、私の話は、あくまで一例として聞いて下さい。

 まず、皆さんの多くは自習室で勉強されていると思いますが、私は自習室で勉強できない性質だったので、学校の自習室に1時間もいたことがなく、「カフェ・ベローチェ」(注:喫茶店)等で勉強していました。

 それから、私は純粋未修だったので、法律の知識は既修者の方や隠れ未修者の方に比べたら全く足りていないことを自覚していたので、まず択一対策をしようと思い、肢別本を用いて勉強しました。勉強方法ですが、まず、肢別本で問題を解き、合っていても間違っていても、基本書に戻るというスタイルで勉強していきました。ここでの一つのポイントは、合っているところも基本書に戻るということです。肢別本の解説を読むと理解したような気になってしまいますが、本当に理解しているのかというと結構怪しいところがあったので、そこも含めて基本書に当たるということを繰り返していました。

 次に、論文対策ですが、友達と自主ゼミを開いて勉強しました。刑事では、「法学教室」で連載されていた西田先生の「事例で学ぶ刑法」を毎週やりましたし、民事では、「民法総合・事例演習(第2版)」を勉強しました。答案を書く練習ももちろんですが、問題を深く考える癖をつけるように意識していました。1年目の試験を失敗した後は、択一対策については昨年と基本的に同じことをやっていましたが、論文対策としては、「受験新報」の問題を解いて採点してもらったり、予備校で論文対策のものをやりました。

 1年目のときに何故失敗したのかを後から考えてみると、まず、一番間違っていたのは、年間を通しての勉強のスケジュールがたっていなかったことだと思います。例えば、試験の直前期に、論文を3時間かけて書く勉強をしていたのですが、それが失敗の原因の一つでした。択一試験は直前期に見直すべきことがとても多いので、論文対策で3時間かけて答案を書いている場合じゃなかったと思います。今年は、択一対策のために見直す量が半端ではないので、最後の1〜2か月くらいは、論文の勉強はほとんどやらずに、択一の勉強ばかりしていました。結局のところ、それが、論文の論点の確認にもなり、論文の対策にもなると割り切っていました。論文の直前期の勉強の仕方としては、答案の書き方を忘れてしまうと困るので、1か月に1度は時間をかけて書きますが、あとは、新しい問題をみたら例えば30分の時間を区切って、まず問題を読んで、答案の構成を箇条書き程度に下書きをするという練習だけを、1日1回していました。

 あとは、皆さんやっていると思いますが、情報を一元化しておくことが大切です。試験の直前期は時間が本当に足りなくて、特に試験の最中は、試験が夕方5〜6時くらいに終わるとしたら、そこから家に帰って次の日の見直しをするとなると、見直せる量が非常に限られます。ですから、前もってこの日はこれを見直せばいいと自分の中で決めておくと、効率よくできると思います。

 次に、論文ですが、新司法試験の論文は、過去問をやった方はわかると思いますが、典型論点はそれ程出題されません。何が出題されるかというと、私なりに考えたのですが、基本的なことを本当に理解しているのかということです。例えば、今年の民法の問題ですと、錯誤が成立するか否かの問題が一問目に出題されました。この問題は、錯誤について本当に理解していないと解答できない。皆さんは錯誤についてわかっていると思いますが、それを生の事実から拾って本当に成立するのか否かを説得的に書く必要がありました。基本的なところをしっかり押さえているということも大事ですが、基本的なことでも深く考えるようにする癖をつけておくことが大事だと思います。

 民事系でいえば、特に民法は、要件事実で考えることがすごく重要だと思います。例えば、私は気になるとのめりこんでいくタイプで、詐害行為取消権を要件事実で書くとどうなるかとか、抵当権の妨害排除の要件事実を書くとどうなるのかを考えて自分なりにまとめて、先生に聞いてみるという感じでやっていました。ですから、深く考えるということが非常に役にたつので、今の時期はまだ時間的にも余裕がありますから、是非、ゼミでも演習でも授業でもいいと思いますので、基本的なところを深く考えるということをしてみるといいと思います。

 刑事系でいいますと、今年の試験では、横領と背任の区別が出ました。皆さんも知っていると思いますが、横領というのは法律上の占有でも占有有りとするのが通説だと思います。例えば、預金通帳を持っているだけで占有があると解釈すると、例えば、銀行に私がお金を預けている場合、現実にはお金の占有は銀行にありますが、法律上の占有も占有有りとすると、銀行に入っているお金は私の占有下にあるという話になります。横領罪の場合、利益横領の類型はないので、利益横領の場合は背任として扱うというパターンになると思いますが、今回の試験で問題となったのは、銀行のATM操作で帳簿上のみ移ったというだけで、横領が成立するか否かというところです。法律上の占有が横領罪の占有に当たるというところまでは皆さん絶対押さえていると思いますが、帳簿上動かした場合に横領したかといえるか否かは、あまり考えていないと思います。ですが、素直に考えると、法律上の占有があるとすれば、銀行にあるお金は私の占有下にあるのだから、帳簿上動かしたということだけでも横領になるのではないかということになります。解説を読むと、このことを説得的に書けば今回の試験ではよかったのではないかと思います。

 ですから、知っている知識で満足するのではなく、そこからさらに進んで普段から考え、納得する、ということを今の時期にやっておいた方がいいと思います。それが、本番の試験のときに、たとえ、知らない問題が出ても、対応できる1つのきっかけになると思います。

 未修者コースの方、特に、純粋未修者の方へですが、法律の知識量だけでいうと、既修の方や今まで法律を勉強した方には絶対に勝てないと思いますが、未修者には未修者のよさがあります。それは、自由な発想ができる、通常思いつかないような発想ができるということです。今回の論文試験では、そういう発想を用いて、基本的な知識を使いながら、答案を説得的に書けるかどうかというところをみていると思います。ですから、知識の量では勝てなくても、勝負の仕方はあると思うので、頑張って下さい。

○最後に
 最後に、先輩としてアドバイスをしたいと思います。本番の試験中というのは、本当にストレスがマックス状態になります。また、直前期、1か月くらい前からも、ドキドキしたりします。ですから、普段からストレスを溜めないようにする、ストレス解消の方法を自分なりに見つけることが大切になります。私の場合はお酒が好きでしたので、深夜に出かけて、お酒を飲んで、そこで知り合った人と話をして、ストレス解消していました。直前期は、お風呂に参考書を読みながら2時間くらい入ったり、また、いわゆる“鼻先に人参作戦”で、試験が終わったらこれをしようとか、旅行の計画をたてたりして、気を紛らわせていました。

 また、周りを頼ることも大切です。例えば、知らない知識を自分で一から探すとなると結構時間がかかりますが、それを既修者の人に聞いたり、先生に聞いたりすれば、時間的には圧倒的に早くなります。ですから、それほど大事そうではないところは周りに頼って聞いた方がいいと思います。特にこのことは、浪人生活のときも役に立ちました。先生方にメールで相談したり、合格した友達にいろんなことを聞いたりしましたが、このことはストレスを溜めないという意味でも、時間を節約するという意味でもよかったと思います。

 最後に、私が先輩から聞いたすごくいい言葉を皆さんに伝えて終わりにしたいと思います。
 「ダラダラの3時間は集中の1時間」

 勉強するときにダラダラ3時間勉強するのは、集中して1時間するのと効率的には同じです。もし辛くなったときには、集中して1時間やったのなら3時間分やったと自分に言い聞かせて、寝る、これが直前期には結構効きますので、皆さんもお試し下さい。

 ありがとうございました。

◆編集後記

 寒中お見舞い申し上げます。
 来年度の入学試験が終了する一方、在学生の後期試験が始まりました。卒業生にはその後も新司法試験に向けて大変な日が続きますが、着実に歩を進めてほしいと思います。

 今回は新司法試験の合格体験談・第2弾をお送りしました。掲載にご快諾いただいた山崎さんに、心から御礼申し上げます。

(杉江記)

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発行:東北大学法科大学院広報委員会

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