東北大学法科大学院メールマガジン

第49号 10/30/2009

◇平成22年度(2010年度)入学試験出願者数のお知らせ

 平成22年度(2010年度)東北大学法科大学院入学試験に出願をいただきまして、誠にありがとうございました。志願者総数は274名(うち、法学既修者コース希望195名,法学未修者コース希望79名)でした。

 なお、第1次選考の結果については、11月4日(水)にホームページ上で発表します。

◇特別講演会

 東北大学法科大学院では、証券等監視委員会から講師をお招きし、法科大学院・公共政策大学院の在学生、修了生、法学部生を対象に講演会を開催することになりました。
 内容については、証券取引等監視委員会の活動状況、昨今の金融証券市場の情勢、弁護士を含む市場参加者に期待される役割などについてのお話とともに、金融庁(同委員会)への就職についてもお話頂く予定です。
 金融証券市場に関心がある方、公的なセクターへの就職を考えている方は、是非ご参加下さい。

12月3日(木) 16:20〜17:50
「証券取引等監視委員会の活動と市場参加者の役割」
講師:証券取引等監視委員会事務局証券検査課長 其田修一氏
場所:片平キャンパス法科大学院棟第2講義室
http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/gaiyou/access.html

◇トピックス−連続講演会 その4

 今回は、去る7月22日(水)に、鎌田健司弁護士をお迎えして行われた講演会「近時の消費者問題について」の概要をお送りします。鎌田先生は、日本弁護士連合会の消費者問題対策委員会の委員もされており、ご講演では、具体的な事例を元に近時の消費者保護関連法の改正の内容も含めて、大変興味深いお話を頂きました。

近時の消費者問題について

鎌田 健司 弁護士

○はじめに
 ただ今ご紹介頂きました弁護士の鎌田健司と申します。平成8年に弁護士になり、現在仙台で事務所を開業しています。今日は、消費者法の実務ということでお話をさせて頂きます。

 消費者法といっても、皆さん方はなかなかピンと来ないかもしれませんが、非常に幅の広い分野で、日本弁護士連合会の消費者問題対策委員会の中にある部会は12くらいあり、私はその中の消費者教育部会の委員ですが、それ以外にも、例えば、多重債務の部会、クレジット関係を扱う信用法部会、消費者契約を取り扱う契約法部会、欠陥住宅の問題を扱う土地住宅部会等があり、非常に幅広い分野になります。

 消費者保護関連法は現在いろいろ動きのある分野です。先日国会が解散されましたが、その直前に消費者庁が設置され、秋からスタートします。そういった消費者行政の面でも非常に動きがあり、法制度の面でも非常に動きがあります。今日のお話の中では、特定商取引法、割賦販売法という法律を扱います。昨年の6月に改正され今年の12月から施行される予定ですが、皆さんが実務につく頃には、改正された特定商取引法(略称「特商法」)、割賦販売法が適用されることになるので、現行法がどうなっていて、改正されるとどうなるのかの辺りまでお話します。今日は、事例を2つほど用意しましたので、事例に即してどういう使い方ができるのかをざっとみていこうと思います。

<事例1>
 中学1年生の子の母親であるXは、自宅を訪問してきた販売業者Yの勧誘員から、「当社の学習教材を3年分購入すると、指導員が電話やFAXで丁寧に子供に指導します。」という勧誘を長時間に渡り受けた。Xは、途中、「夕食の支度をしなければならないので、また今度にしていただけませんか。」と勧誘員に伝えたが、同人は、「こんなに長く説明させておいてそれはないでしょう。こちらも遊びで来ているわけではないんですよ。」と言い、勧誘を続けた。Xは、契約しなければ勧誘員が帰りそうにないし、3年間指導を受けられて子どもの成績が上がるならば安いものだと思い、学習教材を購入することにした。学習教材は3年分で合計72万円だったが、Xはとても一括で支払えなかったので、勧誘員が用意していた信販会社Zのクレジットを利用し、36回の分割払いとした。

 契約後、教材が届き、初めのうちはY社の指導員がXの子の質問に丁寧に指導していたが、指導員が次々と交代してしまい、対応も悪くなっていったので、Xの子は次第に教材を利用しなくなった。

 Xは、最初に受けていた説明と違うので、Y社に契約の解除を申し出たが、Y社は、「この契約は教材の販売であり、指導はあくまでサービスとして行っています。教材がそちらに届いている以上、解除は認められません。」と言って、解約を拒否した。Xは改めて契約書を確認すると、教材の販売のことしか記載されておらず、愕然とした。

 Xは、信販会社Z社に電話をし、口座からのクレジット代金の引き落としを止めるようお願いしたが、同社は、「この契約は教材の販売契約です。商品の教材は届いてますよね。指導については当社は聞いておりません。引き落としを止めることはできないので、販売業者と話し合ってください。」と回答してきた。

 Xは、Y、Zに対し、どのような主張ができるか。

○民法的な対処
 まず、民法でどういった対処ができるかを、販売業者Yに対する主張と、信販会社であるZ社に対する主張とを分けて考えてみようと思います。

 販売業者Y社に対する主張としては、売買契約についての詐欺取消がまず考えられると思います。最初の勧誘での説明では、「当社の学習教材を3年分購入すると、指導員が電話やFAXで丁寧に子供に指導します」という説明をしていますが、実際には「指導員が次々と交代してしまい、対応も悪くなっていったので、Xの子は次第に教材を利用しなくなった」ので、Xは「最初に受けていた説明と違う」という印象を持っています。しかし、実際に実務で詐欺の主張を裁判でしようと思えば、まず立証が求められます。詐欺という違法行為について、勧誘員がどういう風に言ったのか、実際これを立証しようとしても、テープをとっているわけではありませんし、目撃者もおそらくいないでしょう。そういう中で立証しようとしても、X本人の供述しかありません。おそらく、勧誘員は、「これは教材の販売で、指導はサービスだと言いました。指導にそんなに重きを置いていたとは思いませんでした。」と言うでしょう。仮に立証できたとしても、要件該当性の問題があります。詐欺の要件である欺罔行為というためにはそれなりの言動が必要になるかと思いますが、この場合に本当に欺罔行為とまでいえるのかというハードルの高さがあります。

 それから錯誤無効の主張が考えられますが、動機の錯誤の場合は、動機が表示された場合に限って無効の主張ができます。今回の事例では、動機の錯誤だと思われます。しかし、動機が表示されているかについて、事例1をみると、動機は「3年間指導を受けられてこどもの成績が上がるならば安いものだ」ということになりそうですが、これが表示されているかというと、この問題文からは少なくともはっきりしないし、むしろ表示されていない可能性が高いと思います。仮に表示されていても、詐欺と同じように立証は難しいです。また、錯誤については重過失の場合に無効の主張はできません。仮にこの動機の錯誤が表示されていたとしても、契約書をみると販売のことしかなく指導については一切書かれていないとすると、指導を重大な動機にしてしまったのは、重過失があったのではないかと認定されかねないという問題があります。

 次に、強迫による取消ができるのではないか、Xは「夕食の支度をしなければならないので、また今度にしてくれませんか。」と述べていますが、それに対して勧誘員は「こんなに長く説明させておいてそれはないでしょう。こちらも遊びで来ているわけでないんですよ」と言っています。勧誘員の言い方次第ではやはり怖いでしょう。しかし、先程の詐欺の場合と同じで、立証の問題があります。それから、この程度の言い方では強迫に当たらないのではないかという、要件該当性のハードルの高さがあると思います。

 意思表示の瑕疵を問題にできないとなると、債務不履行解除ができないかと考えられると思います。最初の説明と違い、実際に指導が十分にされていない、債務が履行されていないと主張をすることが考えられると思いますが、これに対しては、販売業者Yからは、「この契約は教材販売です。売主の債務は教材という商品を引き渡すことで終了するのであり、指導はせいぜいサービスであって契約に基づく債務ではありません。」と主張される可能性があります。実際に、そういう主張をする業者も多いのです。そのようなときに債務不履行になるかですが、契約の解釈、債務の内容の解釈によるのかもしれませんが、難しさがあります。

 それから、販売契約の解消が難しく代金を払わなければならないとなったら、せめてその分を損害賠償として返してくれという主張が考えられるかもしれません。しかし、債務不履行や不法行為を主張する余地があるかもしれませんが、そもそも立証とか要件該当性の問題がありますし、仮にそれをクリアし販売業者Yに対して損害賠償請求が認められたとしても、実務では回収ができるかという問題があります。実際の実務では、判決がとれたとしても、その業者が倒産したあるいは行方不明になったということが多いです。実務では常に回収可能性を意識しながら事件処理をしますが、販売業者Yのような業者は、すぐに倒産して名称を変えて他県に行ってまた同じようなことを繰り返したりで、回収がなかなか難しくなります。

 次に、信販会社Z社に対してどういう主張ができるかをみていきます。通常、販売契約の他に信販会社との間でクレジット契約を交わしますので、信販会社に対してはクレジット契約についてどういう主張ができるのかが問題となります。まず、販売契約が取消、無効、解除により効力を失ったときに、クレジット契約は販売契約を前提ないし条件にしているようなものですから、販売契約がなくなったらクレジット契約もなくなるのではないかということが思いつくと思います。しかし、販売契約の無効や解除が認められたとしても、クレジット契約は販売契約とは別個独立の契約だから、販売契約とは別に有効になるという考え方が主張されることになります。実際、最高裁もその考え方を前提にしておりますので、これを覆すのはなかなか難しいです。販売業者がいかに悪くても、信販会社はそれとは別であることから、販売会社への効果をクレジット契約に及ぼすのは簡単にはいかないです。

○現行の消費者保護関連法による対処
 以上のような民法による限界を踏まえて、次に、消費者保護関連法でどのようなことが主張できるのかを、販売業者Yに対する主張と、信販会社Zに対する主張とに分けて検討します。

 まず、販売業者Yに対してどういう主張ができるかということですが、最初に考えるのはクーリングオフです。クーリングオフとは、訪問販売など一定の類型の場合に、立証の必要がなく無理由での解除が可能となる制度です。民法における詐欺取消、強迫取消、債務不履行解除の場合は理由が必要ですが、クーリングオフはそういった理由は一切必要ありません。根拠条文としては、特定商取引法の9条に規定されております。ただ、クーリングオフの場合は、法律で定められた一定の書面を受領した日から8日以内に行使しなければなりません。契約した日からではなく、法律で定められた事項を完備した書面を受領した日からなので、そういった書面の交付がなければ、永久にクーリングオフは可能となります。何らかの書面が交付されていても法定の記載事項を1つ欠いていれば、永久にクーリングオフの行使が可能になりますので、まずはクーリングオフを考える、契約書面の記載事項をチェックするという、そういう作業が大事になります。

 クーリングオフの効果としては解除ということですが、消費者の負担が一切いらないということが重要です。消費者の負担なくして契約前の状態に戻すことができます。例えば、商品が届いていたときには、業者が送料を負担し、消費者の負担は一切ありません。また、工作物のような場合でも、消費者の負担なく業者の負担で撤去となります。ですから、業者の方もわかっていて、8日過ぎてから作るようなこともしたりします。クーリングオフの問題としては、行使期間が8日以内ということがあります。依頼者が弁護士のところに来る前に経過していることも多く、使えないことも多いです。また、業者が作成する書面の記載事項もそれなりに網羅されていたりします。

 次に考えられるものとして、特商法9条の2にある不実の告知によって誤認した場合の契約の取消の規定です。この「不実の告知」とは、事実と違うことを説明・告知して消費者が誤認した場合に契約を取り消すことができるという制度です。どのような事項について不実の告知があればいいのかですが、特商法6条1項に告知すべき事項が規定されています。この事項について業者が虚偽の事実を言ってしまい消費者が誤認すると、取消が可能になります。民法96条1項の詐欺を緩和したような規定で、詐欺に比べると立証は容易になり、要件該当性も認められやすくなります。今回の事例1の場合、クーリングオフが仮にできない場合でも、「指導」についての説明が実際の指導体制と異なっている場合は「不実の告知」があったということで、取消が可能になります。ただ、これも行使の期間制限があり、追認できるときから6月以内にしなければならないとされています。追認できるときとは、誤認が解消されたときからです。この事例の場合、Xがいつ気づいているのか、いつ弁護士に相談しているのかということが問題となります。また、契約から5年以内でなければなりません。

 もう1つ考えられるのが、「不退去による困惑に基づく契約の取り消し」という制度があります。これは、消費者契約法4条3項に規定されているもので、退去を述べたのにもかかわらず退去をしないため困惑して契約をしてしまったときに、あとから取消ができるものです。この制度は、民法96条の強迫を緩和したような規定といわれております。強迫の場合は相手方に恐怖や畏怖を与える言動、状況が必要ですが、この規定では、帰ってほしいとの意思や態度を示したのに実際帰らなかったという客観的事実があればいいということです。事例1も「夕食の支度をしなければならないのでまた今度にして頂けませんか」と態度で示しています。この規定も期間制限があり、追認できるときから6月以内、契約から5年以内の行使が必要です。

 次に、信販会社Z社に対して、どのような主張ができるのかですが、クレジットについて規制をしている割賦販売法の30条の4に抗弁の対抗という規定があります。これは、販売業者に対して何らかの抗弁事由があったとき、詐欺取消でも債務不履行解除でも、特商法上の取消、消費者契約法上の取消等の抗弁事由が販売会社にあるときに、その抗弁事由を信販会社にも対抗できるという規定です。その効果は、未払いのクレジット代金の支払いの拒絶が可能となります。今回の事例1では、72万円の代金とクレジット手数料のいくらかは払っているとして、その残りの分の支払拒絶ができるということです。

 なお、抗弁事由については、制限説、無制限説の対立がありますが、裁判所は現時点では無制限説的な考え方を採用しており、特にクレジット契約書に書かれていなくても販売契約上認められるものであれば、それも抗弁事由になると認めています。事例1では、教材のことしか契約書に書かれていないのですが、指導についても説明があったと認定されれば、抗弁事由として主張できるということになると思います。

 この割賦販売法の抗弁を使うことで、かなりの程度の救済はされてきました。しかし、限界があって、既払金を返してもらうという効果は与えられません。裁判例でも、割賦販売法30条の4はそこまでの効果は付与していない、未払金の拒絶までとなっています。

○改正割賦販売法による対処
 こういった限界を踏まえて、割賦販売法が昨年改正されて、クレジット契約自体についてもクーリングオフが可能となりました。クレジット契約を理由なく、立証なく解除できるということです。改正割賦販売法の35条の3の10に規定されております。法定書面の受領から8日以内に行使しなければならないのですが、クーリングオフするとクレジット契約がなくなり、それに基づいて払っていたものに法律上の原因がなくなりますから、不当利得により返還が求められる、既払金まで返還が可能になるということです。仮にこの行使期間8日が過ぎていたとしても、不当勧誘行為があればクレジット契約を取り消せるという規定も整備されました。これが改正法の35条の3の13です。ただ、これにも限定があり、個別クレジットでなければなりませんし、特商法5類型に限られます。特商法5類型とは、訪問販売、電話勧誘販売、連鎖販売取引、継続的役務提供、業務提供誘因販売取引であり、かつ、個別クレジットその場合に限るとされています。

<事例2>
 80歳で1人暮らしのX女は、自宅を訪問してきた販売業者Yの勧誘員より再三にわたり布団販売の勧誘を受け、1年間で6枚もの羽毛布団を購入させられた。購入代金は合計で500万円を超え、年金暮らしで支払いができないXは、A社、B社、C社の3社のクレジットを利用して契約をした。

 Xは、当時すでに判断能力も衰えており、契約も望んでしたものではなかったが、販売業者Yの勧誘員による巧みな勧誘により契約を断り切れず、次々と契約をさせられた。購入した羽毛布団については、最初の1枚だけ使用し、残りは押入れにしまっていた。

 最後の契約から3か月経過したころ、Xの長女がX宅を訪れ、たくさんの布団があることに不審を感じ、タンスの引き出しの中を確認したところ、上記6枚の布団に関する契約書が見つかった。Xの長女は、Xに事情を確認したが、Xは当時の事情をほとんど覚えていなかった。

 Xは、Y、A、B、Cに対し、どのような主張ができるか。

○民法による対処
 まず、販売業者Yに対する主張ですが、まず考えられるのは意思無能力で契約が無効であるとの主張です。しかし、裁判所で立証するとなったときに、判断能力、記憶能力の衰えをどうやって立証するのか、医師による痴呆気味だという診断書で立証できるのか、あるいは鑑定みたいなものが必要なのか。また、最初の契約から1年3月くらいたっています。1年3月前はどうだったのかという話になったときに非常に立証が難しいです。また、仮に立証できたとしても、意思無能力という概念に該当するか否かとなったときに、裁判所も、判断能力は劣っているが意思無能力とまではいえないのではないか、と判断するかもしれないです。

 それから、公序良俗違反、民法90条で無効ではないかという主張が考えられます。この販売業者Yは悪質で、1年間で6枚も羽毛布団を、判断力の衰えたXに売りつけ、暴利を貪っている、そういった実態がみえてきます。しかし、これにもやはり立証の問題があります。6枚買わせるという客観的事実からは、公序良俗違反と認められる可能性もありますが、ただ、Xがほんとに望んでいなかったのかどうかが問題となります。6枚買ったという客観的事実のみから、公序良俗違反とするのは立証とか要件該当性の面から必ずしも簡単ではありません。しかも、Xは当時の事情をほとんど覚えていないし、何も証拠が残っておらず、残っているのはきちんとした契約書だけですから、そういう状況では非常に難しいです。

 それから、不法行為について、これも立証とか要件該当性の問題もありますが、先程述べたように、仮に認められたとしても、この販売業者Yに資力があるか、もしかしたら資力がなくて回収は難しいかもしれないという問題があります。

 次に、信販会社A、B、Cに対してどういう主張ができるかですが、販売契約が取消や無効になったときに、クレジット契約も失効することが民法的には考えられますが、やはり、クレジット会社からは、販売契約とは別個独立で有効であると主張されるでしょう。では、クレジット契約自体、販売契約自体と同様にクレジット契約自体が意思無能力で無効、公序良俗違反で無効であるとの主張が考えられますが、これも要件該当性のハードルの高さの問題があると思います。

○現行の消費者保護関連法による対処
 次に、現行の消費者保護関連法でどういった対処ができるのかをみていきます。販売業者Yに対する主張としては、まずはクーリングオフです。実務的には消費者契約の場合は必ずクーリングオフからスタートしていきます。しかし、行使期間の問題があり、完備された契約書類が受領されてから8日以内に行使しなければならない。事例2では、最後の契約から3月経過しております。そうすると、契約書をチェックしてみて不備があればクーリングオフの主張が可能ですが、書類が完備していた場合には行使期間が既に経過しております。

 次に、特商法上の不実告知による取消が考えられます。Xに1年間に6枚も買わせるからにはよほどの説明をしていると思われ、その中に不実の告知があっても不思議ではありません。ところが残念ながら、Xは勧誘内容について全く覚えてないです。それから不退去についても、もしかしたらXは「前に買ったからもういいです。今日は帰って下さい。」みたいなことを言っているかもしれないですが、その記憶もないです。業者の側でもそれを認めようとしないでしょうから、不退去による取り消しというのも無理だと思われます。従いまして、この事案は現行の消費者保護関連法によってもなかなか難しい事案です。

 次に、信販会社A、B、Cに対してどういう主張ができるかですが、抗弁の対抗で行くことが考えられます。しかし、販売契約についてどういう抗弁事由があるか、販売契約についての抗弁事由があってはじめて信販会社に対して抗弁として対抗できるわけですから、この事例では、クーリングオフ、不実告知、不退去いずれも難しいとなったときに、抗弁事由がないのではないか、抗弁事由を主張するのに難しい事案です。また、仮に公序良俗違反や意思無能力が認められて、それが抗弁事由になったとしても、未払金の拒絶はできますが、既払金の返還は無理です。現行法では、そういった限界があります。

 実際に、平成15年に、埼玉県のふじみ野市で、2人暮らしの高齢の認知症の姉妹が、悪質なリフォーム業者に、必要もないのに次から次へとリフォーム工事の契約をさせられた事件がありました。何千万円もの契約をさせられて、当初預貯金がそれなりにあったのですが全部払ってしまい、さらに姉妹の自宅に競売の申立がされてしまったのです。この事件では、未払金の拒絶はできるということで競売は止められましたが、現行法では既払金の何千万円は戻ってこないということになります。明らかに悪質な詐欺業者で、刑事的に立件されたような業者ですが、それにもかかわらず信販会社は既払金を返還しない、このような事件があり、割賦販売法及び特商法が改正されることになります。

○改正特定商取引法、改正割賦販売法による対処
 改正特定商取引法、改正割賦販売法による対処について、まず販売業者Yに対してどういう主張ができるかですが、過量販売解除という規定ができました。改正特商法の9条の2に規定されています。不実告知による取消が現行特商法の9条の2だったのですが、改正法では9条の3に繰り下がりました。この過量販売解除ですが、訪問販売によって日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える商品等を購入した場合に契約の解除が可能となるものです。「商品等」というのはサービスも含みます。この「日常生活において通常必要とされる分量を著しく超える」というのはどれくらいなのかの判断は非常に難しく、今後の裁判例の集積によるといわれています。客観的に分量として著しく超えればよく、例えばこの事例のXの主観は問わないのであり、特別な事情があれば業者側で立証しなければならないということになります。ですから、立証が公序良俗違反に比べると容易ですし、客観的に分量を超えるだけでいいということなので要件該当性のハードルも低くなっています。

 さらに、信販会社であるA、B、Cに対しても、この過量販売ということに基づいて、クレジット契約自体の解除ができるようになりました。すなわち、販売契約の過量販売が認められ販売契約の解除ができるとき、これを利用したクレジットについても自動的に解除できるようになりました。今までは抗弁事由があってはじめて未払金の拒絶ができたのですが、今度は未払金の拒絶だけではなく、クレジット契約の解除までで可能になりましたので、既払金の返還まで認められることになりました。また、信販会社に過量販売の認識は要求されず、あくまで通常必要とされる分量を超えればいいとされています。

 なお、今回の割賦販売法の改正で、信販会社に信用情報調査義務が課されることになりました。信販会社は、通常、信用情報、借主がどういう信用状態か、他からどういう借入をしているのか、他にどういうクレジットの契約をしているのかというのを調査し、クレジット契約をするか否かを判断します。今までは、信用情報調査について権利行使的な利用がされてきましたが、今回の改正によって、信用情報調査はクレジット会社の義務であり、もしクレジットが過剰であるときは取引はやめなさいというように信用情報調査義務を課されますので、過量販売解除が主張されても仕方がないということになりました。この改正により、先程の埼玉県ふじみ野市のお年寄りのような事件の被害者を救済できるように法が完備されたということになります。

 今日のお話は以上で終わりです。消費者保護については、民法をスタートにして限界があって法を整備し、法整備をしてもまた限界がきて、さらに法を整備するというような感じになっております。やはり、業者は法改正をしてもそれを乗り越えてきます。業者はすさまじいパワーをもっていますので、我々もパワーを持って対抗していかなくてはなりません。今日のお話で、少しでもこの分野に関心を持ち、実務についた後にこの分野をやってみたいなと少しでも思うようになって頂ければ嬉しいです。どうもありがとうございました(拍手)

問1:民法による対処の問題点として立証の困難性の問題と要件該当性の問題があり、立証の困難性の問題は録音とか目撃者がいないということだったと思います。これに対して、特別法の不実告知等の制度により立証容易になったとの説明がありましたが、法律が変わったとしても録音も目撃者もいないという状況は変わらないと思いますが、どうして立証が容易になったといえるのでしょうか?
答1:ご指摘のとおり簡単な話ではもちろんないのですが、立証の対象事項が、民法では詐欺とか強迫という要件該当性のハードルの高い事項を要求されていたのに比べ、特別法では不実告知でよい、業者がこういう説明をしましたが実際は違いますということを立証すればいいことになり、それの程度であれば、本人の供述だけでもある程度裁判所が認定してくれ易くなると思われます。
問2:事例2で、信販会社の信用情報調査義務のお話がありましたが、これを怠れば契約解除で既払金返還ということになるのでしょうか?
答2:信用情報調査義務違反については民事的な効果は付与されていません。割賦販売法も特商法も規制法からスタートして、現在はクーリングオフや取消の制度が設けられ民事的な効果も付与されていますが、基本的には業者規制法であって、規制違反があったときは、監督官庁からの行政指導、勧告、営業停止とか営業取消等の対象にはなります。ただし、これは信義則や公序良俗違反等の民事的なものに繋げていく1つの根拠規定にはなると思っております。
問3:消費者保護について立法がなされてくると、今度は悪質な消費者によって善良な事業者が被害を受けることもあるのかと思いますが、そういった問題はまだ起きていないのでしょうか?
答3:消費者保護関連法の出発点は、業者と消費者との圧倒的な格差、情報量や知識、資力等の格差からスタートしていて、それを埋めるために、消費者保護関連法により消費者を押し出すような制度であり、それによって消費者と業者がようやく対等になっていると思います。ご質問の例はあるのかもしれませんが、仕方ないと思いますし、その場合に、業者側は、消費者保護関連法の制度の権利濫用的な主張をして対処することになると思います。
問4:以前に企業法務の先生のご講演で、大規模な企業法務事務所で、それぞれの弁護士が専門性を持って対応しているとのお話を聞いたのですが、今後、消費者保護等の一般民事と言われる分野でも、専門的な方向に進んでいくと感じましたが、如何でしょうか?
答4:既に、日弁連の消費者委員会自体がもう専門化しており、多重債務とか信用法、取引法、消費者契約法、欠陥住宅、PL法等に分化していて、正直なところ他の部会がやっていることは非常に高度すぎてわかりません。消費者分野は基礎的な部分であれば弁護士で共有できることがありますが、最先端になってくると本当に難しく、今後分化が起こってくるのかもしれません。
問5:事例1で、債務不履行とか不法行為による損害賠償請求というのは、悪質業者からの回収困難性があるのであまり効果的でないとのお話でしたが、回収可能性がある程度あれば、既払金の返還を不法行為的に請求することは可能でしょうか?
答5:現行法でも、未払金については抗弁対抗により、既払金抗弁対抗により返還してもらえないので、その分を業者に対して請求することはやっています。ただ、多くの場合に、悪質業者は何故か資力がなく、なかなか返してもらえないということが多いです。

◆編集後記

 秋も深まりキャンパス内の木々も色づいてきました。朝夕の冷え込みも厳しくなってきましたので、体調に気をつけてお過ごし下さい。

 今回は、連続講演会「近時の消費者問題について」の概要をお届けしました。講演概要の掲載にご快諾いただいた鎌田先生に心から御礼申し上げます。

 いよいよ、平成22(2010)年度入学試験の季節となりました。入学試験に関する今後の日程は、次のとおりです。

第1次選考合格者発表平成21年11月4日(水)
第2次選考試験平成21年11月21日(土)
第2次選考合格者発表平成21年12月7日(月)
第3次選考試験平成21年12月13日(日)
最終合格者発表平成21年12月22日(火)
入学手続期間平成22年1月5日(火)、1月6日(水)
(追加合格者への連絡)平成22年1月7日(木)、1月8日(金)
(追加合格発表)平成22年1月8日(金)
(追加合格者入学手続期間)平成22年1月25日(月)、1月26日(火)

(杉江記)

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発行:東北大学法科大学院広報委員会

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