東北大学法科大学院メールマガジン

第36号 08/11/2008

◇平成21(2009)年度の募集要項が発行されました

 平成21(2009)年度東北大学法科大学院学生募集要項が,ホームページに掲載されております。出願書類の資料請求は,テレメールWebから行ってください。(請求方法の詳細は移動後のページ内の指示に従ってください。)

(募集要項)
 http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/info/boshuyoukou.html
(資料請求)
 http://telemailweb.net/web/?420005

 また,新しいパンフレット(PDF)が,ホームページに掲載されております。ご覧ください。
 http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/download/index.html

◇トピックス−メンタルヘルス講座・今年度も開催

 東北大学法科大学院では「心理学的法曹実務教育プログラムの構築」と題して様々な取り組みを行い,教育水準の向上を図り,法曹実務教育に還元することを目指しています。この取り組みの一環として,昨年度より,メンタルヘルス講座を企画しています。

 平成20年度のメンタルヘルス講座は,第1回が7月10日(木)夕方(講師:岩手医科大学健康管理センター・藤澤美穂先生),また,第2回が7月23日(水)夕方(講師:臨床心理士・スクールカウンセラー・鈴木直子先生),いずれも片平キャンパスにおいて開催されました。

 このうち,第2回においては,当校の学生心理相談室にてカウンセリングを担当している鈴木直子先生をお迎えし,「青年期の心理的特徴と課題」という演題のもと,ご講演を戴きました。

 講演では,乳児期から青年期までの心理的発達の特徴に関しご説明いただき,さらに,これまでスクールカウンセラーとして,実際に鈴木先生が扱った様々な事例をご紹介いただくなど,とても貴重なお話を聴くことができました。講演終了後には,多くの学生から積極的に質問が飛び,本講演会に対する関心の高さが窺われました。

(駒込記)

◇トピックス−連続講演会 その3

 今回は,去る7月7日(月)14:40〜16:10,鈴木覚弁護士をお迎えして行われた講演会「欠陥住宅問題への法的対応」の概要をお送りします。仙台弁護士会の消費者問題特別委員会は,欠陥住宅問題についても様々な取り組みを行い,各種の提言を行ってきました。鈴木覚弁護士はその中心的なメンバーであり,欠陥住宅問題の専門家として法的な対応について講演していただきました。

欠陥住宅問題への法的対応

鈴木 覚 弁護士

○はじめに

 弁護士の鈴木覚といいます。東北大の出身で,弁護士になって13年くらいになります。今年はゼミ同窓会(民訴法の林屋礼二先生のゼミでした)があったばかりで懐かしく思っていたところ,佐藤裕一先生から,講演の話があり,喜んで参加した次第です。司法修習生のとき,消費者問題をやりたいと思うようになり,いろいろ取り組む中で,住宅問題にも取り組むようになりました。興味で取り組んでいるうちに,どんどんのめりこんでいったという次第です。皆さんも,将来自分自身の家を持たれる際には何かの役に立つかもしれませんので,お聞きいただければ幸いです。

○欠陥住宅問題とは

 欠陥住宅という言葉は,最近ではよく耳にすると思いますが,比較的メジャーになったのは,阪神・淡路大震災以降ではないかと思います。地震の被害に遭われた住宅をみると,筋かいがないとか,基礎が基準に適合していない等の例が結構多かったそうです。裁判例になっているものもあります。最近,中国の四川省で大地震がありましたが,学校の建物が倒壊し,保護者が行政を相手に抗議をしている状況が報道されておりました。このように,地震をきっかけとして,住宅に所定の性能が保たれていないという欠陥の問題が,クローズアップされています。

 施主(建築主)が家を建てるとき,施工業者に頼んで建築施工するという点のみ意識されがちです。しかし,現在の日本の建築生産システムでは,本来的には,建築士に依頼して設計・監理契約を結び,施工を監理し,これに行政の検査・確認が入ることになっています。また,耐震偽装問題を契機として,住宅の瑕疵担保責任が履行されない状況が問題化して強制保険制度が創設され,今後は,保険会社は,自社の保険事故を回避するためのチェックが加わります。したがって,民間のチェック,行政のチェック,更に保険会社のチェックという,異なる立場からの厳重なチェックがあるので,欠陥住宅問題というものは本来起こらないはずです。しかしながら,現状では,チェックが十分に機能していないということがあります。

 また,建築における設計・監理・施工の各々は,三権分立になぞらえられて互いに分離独立しているべきであり,せめて「設監分離」といって,設計・監理と施工とは離れていたほうが,チェック・バランスが取れていることになります。しかしながら,現状では,施工業者が設計も監理も引き受けていることが多いのです。

○解決のための基礎知識

 法的には,戸建て住宅の購入は売買契約,注文建築の場合は請負契約,マンションの場合は売買契約となります。そして,売買契約の場合は,売主の瑕疵担保責任(民570条)が中心となり,請負契約の場合は,請負人の瑕疵担保責任(民634条)についてみることになります。請負契約における瑕疵担保責任の発生については,建物が未完成であれば債務不履行,完成であれば瑕疵担保責任になり,判例上は「予定された最後の行程の終了」についてみることとなっていますが,実務的には相当悩ましいところでもあります。また,住宅品質確保法が平成12年4月より施行されており,新築住宅については瑕疵担保責任の強化がなされています。その他,性能表示制度も定められています。

○解決のための法的構成

 問題解決のための法的構成としては,瑕疵担保責任が真っ先に思い浮かびますが,一番大事なのは不法行為構成です。実際の欠陥住宅の事例というのは,まさに「手抜き」,それも故意・過失によるものです。したがって,欠陥住宅問題の場合には,不法行為構成を必ず一本立てる,というのが,最近の手法です。契約責任の問題なのに不法行為構成を立てることについては違和感もありましたが,被害者の保護に合致したメリットがありますし,最近の最高裁判例でも是認されているところです。もちろん,各法的請求により,相手方や時効・除斥期間,損害の範囲等が異なります。

○欠陥(瑕疵)の判断基準

 欠陥現象と欠陥原因とを区別することが重要です。欠陥現象のみを羅列していても,請求原因としては不足であり,欠陥原因が特定できれば,その修繕等を求めていくことが可能になります。欠陥(瑕疵)の判断基準としては,①通常有すべき品質・性能を欠いていること(客観的瑕疵),もしくは②当事者が契約で定めた内容に適合していないこと(主観的瑕疵),とされております。このような整理は,近年使われるようになっています。客観的瑕疵は,建築基準法等の法令による要求を満たしているかどうかや,標準的な技術水準に合致しているかどうかを基準に判断します。いっぽう,主観的瑕疵は,当事者が契約で定めた内容の適合性が問題となりますので,設計図書,契約図書等のとおりの建築物となっているかどうかにより判断します。

○請求できる損害賠償の範囲

 まずは,補修費用相当額が中心となります。欠陥が著しい場合,取り壊し立替え費用についても認められています。また,引越しを伴う場合には引越費用,補修期間中の仮住居の費用,建築士の調査費用,場合によっては慰謝料や弁護士費用の請求も考えられます。慰謝料については,欠陥住宅の場合には精神的被害という側面がありますので,最終的に認容されるかどうかはさておき,項目として立てる場合が多いようです。

○欠陥住宅問題に関する最高裁判決の流れ

 最高裁平成9年7月15日判決は,損害賠償請求との相殺後の報酬残債務について,「相殺の意思表示をした日の翌日から履行遅滞による責任を負うものと解するのが相当である」としました。実務的には,相殺後に残代金が残るような事案において,相殺の意思表示を安易にしてしまうと,遅延損害金がその時点から発生してしまうことになるので,相殺の主張は安易にしない方が良いということになります。

 最高裁平成14年9月24日判決は,「建築請負の仕事の目的物である建物に重大な瑕疵があるためにこれを立て替えざるを得ない場合には,注文者は,請負人に対し,建物の建て替えに要する費用相当額を損害としてその賠償を請求することができる」としました。この判決が出されるまでは,請負契約の瑕疵担保責任において解除が認められていないこととの関係で,立替費用相当額の損害賠償が認められるかどうかについては争いがありましたが,本判決が積極説をとることにより,消費者保護の判断が示されました。将来的には,民法635条但書の解釈に関連して注目されるところです。

 最高裁平成15年10月10日判決は,主観的瑕疵を正面から認めた判決です。原審では,建築基準法上の違反がなかったことから,瑕疵を認めなかったのに対し,本判決では,地震に強い建物を建てるために,約定で特に定められた太さの支柱を使わなかった点について,その主観的瑕疵を認める判断を出しました。

 最高裁平成15年10月10日判決は,いわゆる名義貸し(監理放棄)建築士の不法行為責任を容認した裁判例です。従前は,名義貸し建築士の不法行為責任は棄却されていた裁判例が多かったのですが,この本判決においては,建築士による管理の重要性が指摘され,名義貸し,監理放棄に対する不法行為責任を認容しました。

 最高裁平成19年7月6日判決は,最高裁が建築瑕疵問題に関する不法行為責任の成立を是認した判決といってよいと思います。原審では不法行為責任を限定的に解釈していたのに対し,最高裁は,建物の建築に携わる設計者,施工者及び工事監理者は,契約関係にない居住者等に対する関係でも,建物の基本的な安全性が欠けることがないように配慮すべき注意義務を負うとしたうえで,居住者等の生命,身体又は財産が侵害された場合には,特段の事情がない限り,瑕疵によって生じた損害について不法行為による損害賠償責任を負うとしました。

○その他

 以上申し上げたように,欠陥住宅問題は,種々の法的構成を駆使し,また裁判例を引用しつつ取り組むことになりますが,その際,建築についてのプロフェッショナルである建築士とタッグで対応することが必要です。建築士による調査を先行させて,その報告書を私的鑑定書として用いることになるわけです。また,弁護士だけでなく裁判官にとっても素人領域でありますので,模型や写真等の工夫や,用語辞典の活用等により,素人でも分かるような立証を行うことになります。また,民事裁判における専門委員制度や,付調停が活用されることも多いです。

 私の方からは以上とさせていただきます。どうもありがとうございました。(拍手)

(質疑応答)

問:弁護士と建築士とが連携するということでしたが,依頼者側の費用負担はどのようになるのでしょうか。
答:当然,弁護士費用に加えて,建築士に対する費用も依頼者に負担していただくことになります。初回調査であたりをつけて,裁判となれば,本格的な鑑定書の作成をお願いすることになります。初回調査では数万円程度ですが,本格的な鑑定書作成となると,数十万円程度,場合によっては100万円を超えることもあります。事案によりますが,依頼者に納得していただいた上で費用負担していただくことになります。また,条件的な制約はありますが,法律扶助により,弁護士費用だけでなく建築士の費用を受けることもできますので,これを活用することも可能です。なお,裁判では,実際にかかった費用を相手方に請求しますので,弁護士費用に加えて建築士費用も請求することになろうかと思います。

◆編集後記

 今回は,先月行われましたメンタルヘルス講座の模様をお伝えしました。また,鈴木覚弁護士による講演会「欠陥住宅問題への法的対応」の概要をお伝えしました。講演概要の掲載にご快諾いただいた鈴木先生に,心から御礼申し上げます。

 平成21(2009)年度東北大学法科大学院学生募集要項が,ホームページに掲載されております。新しいパンフレット(PDF)も掲載されております。出願書類の資料請求は,テレメールWebから行ってください。(請求方法の詳細は移動後のページ内の指示に従ってください。)

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(平塚記)

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発行:東北大学法科大学院広報委員会

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