東北大学法科大学院メールマガジン

第34号 06/12/2008

◇入試説明会のご案内

 東北大学法科大学院では,下記のとおり,平成21(2009)年度東北大学法科大学院入試説明会を開催いたします。

日時:2008年6月25日(水)18:00〜

会場:東北大学法科大学院・さくらホール
http://www.bureau.tohoku.ac.jp/sakura/newpage1.html
http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/gaiyou/access.html

プログラム:
1.開会の挨拶 坂田 宏(東北大学法科大学院院長)
2.東北大学法科大学院の概要
坂田 宏(東北大学法科大学院院長)
3.2009年度東北大学法科大学院の入試について
小粥太郎(東北大学法科大学院教授)
4.閉会の挨拶 坂田 宏(東北大学法科大学院院長)

※ 説明会終了後,希望者を対象に,図書室,法廷教室,講義室などの施設見学を予定しております(所要時間は10分程度です)。

説明会の詳細については,下記サイトをご覧ください。
http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/info/080625-notice.html
http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/info/index.html

◇トピックス−連続講演会

 東北大学法科大学院では,5月末から8月にかけて,連続講演会を企画・開催しております。今回は,5月29日(木)18:00〜19:00,日本司法支援センター宮城地方事務所(法テラス宮城)所長・鈴木宏一弁護士をお迎えして行われた「法テラス説明会」の概要をお送りします。

法テラス説明会
日本司法支援センター宮城地方事務所所長 鈴木宏一弁護士

 皆さんこんばんは。いまご紹介いただきました,日本司法支援センター宮城地方事務所,通称「法テラス」の鈴木です。私は40年ほど前に東北大学の法学部を卒業し,1972年に司法試験に合格,仙台弁護士会に所属しまして,今年で33年になります。今年の3月からは,法テラスの所長をしております。それではレジュメに沿って,法テラスの説明をさせていただきます。

1.日本司法支援センター・法テラスとは

 日本司法支援センターをご存知の方は手を挙げてみてください…皆さん知っておられるようですね。一般の方にアンケートをとりますと,80%の方が全く知らないようですが,始まったばかりですから仕方ないと思います。日本司法支援センターは,国民が司法にアクセスしやすくするため,平成18年4月10日,総合法律支援法に基づいて設立された法人です。平成18年10月に全国で業務を開始して,ちょうど1年半になるところであります。法テラスとは日本司法支援センターの愛称ですが,「法で社会を明るく照らしたい」という意味と,「日当たりのよいテラスのような場所にしたい」という意味が込められています。

2.法テラスの組織について

 本部事務所が東京・市ヶ谷にあります。そのほか,中野坂上に分室があります。全国50か所,地裁所在地に地方事務所が,全国12か所の地裁支部所在地に支部事務所があります。また,地域事務所というのもあります。全国87か所に本部事務所,地方事務所,地域事務所等があり,まさに全国的な組織です。

3.法テラスの業務内容について

 これまで残念ながら,司法・法律家というのは国民から敷居の高い存在でした。司法に対するアクセス障害として,①トラブルに巻き込まれてもどこに相談していいか分からない,情報がないという障害,②法律家に依頼したくても依頼のためのお金がない,という障害,③自分の住んでいる地域に法律家がいない,という地理的障害があります。これら三つのアクセス障害を改善して,司法を一般市民にとって利用しやすいものにする,そのための総合法律支援に関する組織が法テラスです。

 総合法律支援法に基づく法テラスは,法科大学院制度や裁判員裁判制度と並んで,司法制度改革の三本柱のひとつであり,そのような意味では大変重要な組織です。その業務内容として,①情報提供業務,②民事法律扶助業務,③国選弁護関連業務,㈬司法過疎対策,㈭犯罪被害者支援及び㈮受託業務という,6つの大きな柱があります。これらの業務内容は総合法律支援法30条に規定されています。

4.情報提供業務について

 法的トラブルの解決に役立つ情報や,公的機関の相談窓口等に関する情報等を無料で提供しています。法テラス本部の中野坂上分室にコールセンターが設けられ,約50人のオペレータが待機しており,全国からの問合せに対応しています。コールセンターの電話番号は,0570−078374(お悩みなし)です。コールセンターのオペレータは,消費生活相談員の資格を持っています。オペレータで対応できない困難な問合せに備えて,常時2名の弁護士も配置しています。

 また,全国の地方事務所,支部事務所には,専門の窓口職員を配置しています。法テラス宮城の場合,常時2名の専門職員がいます(コールセンターと同じように消費生活相談員です)。当初,コールセンターに相当程度の問合せが来るものと予想されていましたが,コールセンターへの問合せが年間22万件くらいなのに対し,地方事務所の窓口に来るものは15万件ほどであり,市民にとっては地元の地方事務所における情報提供の方が使われやすいようです。以上が,情報がないというアクセス障害の改善に資する業務です。

5.民事法律扶助関連業務

 従来は,財団法人法律扶助協会が行っていました。これは弁護士が中心になって設立したものですが,平成18年10月の法テラス業務開始により全面的に引き継がれました。民事法律扶助とは,資力の乏しい方に対して無料で法律相談を行い,弁護士や司法書士への依頼も,報酬や費用の立替えが必要な場合には後から少しずつ返済してもらうものです。法テラスでは,弁護士や司法書士と契約を結んでおり(契約弁護士・契約司法書士),契約弁護士に無料法律相談をお願いしています。そのうえで,裁判等の代理が必要な場合には代理援助を行ったり,裁判所への提出書面を作成する場合に書類作成援助を行ったりしています。これらは,お金がないというアクセス障害の改善に資する制度です。

6.国選弁護関連業務について

 法テラスの業務開始前は,事件が起訴されると裁判所が地元弁護士会等に連絡を取り,国選弁護人を確保してきました。平成18年10月の法テラス業務開始と同時に被疑者国選弁護制度が,昨年11月からは国選付添人制度(少年事件の国選弁護に相当)が始まり,さらに来年からは,法定合議事件に制限されている被疑者国選弁護事件が,必要的弁護事件にまで拡大されます。そうすると,現在の約10倍の事件に対応することになりますが,このような新たな刑事司法制度に対応して,法テラスは,契約弁護士の名簿を用意しておき,裁判所からの国選弁護人・国選付添人の指名通知の要請を受けて,契約弁護士の中から国選弁護人・国選付添人の候補を通知することにしています。

 また,国選弁護人に対する報酬の支払いも,従来は裁判所が行っていたのですが,法テラスで行うように変わっております。被疑者国選弁護事件については接見回数,被告人国選弁護事件については公判回数を基礎として算定することになっていますが,国選弁護に関する予算は増やされていません。国選弁護の報酬の増額は絶対に必要な,重要な課題であると認識しています。以上,資力に乏しい方のアクセス障害に対する制度ということで,民事の法律扶助に対する刑事での法律扶助的な意味合いを持つ制度でもあります。

7.司法過疎対策について

 地域に法律家がいないという地理的なアクセス障害への対策です。地方裁判所の支部は全国で203ありますが,平成18年4月の段階で,弁護士が全くいないゼロ支部が9か所,一人しかいないワン支部が34か所ありました。今年4月でも,ゼロ支部が2か所,ワン支部が22か所残っています。このような地域は早急になくしていかなければならず,日弁連でもその一日も早い解消に向けて取り組んでいます。法テラスとしても,ゼロ支部・ワン支部の解消のため,司法過疎地域に法テラス地域事務所を設置し,法テラスに勤務するスタッフ弁護士に常駐してもらっています(スタッフ弁護士については後ほど説明します)。平成18年には新潟県佐渡市,長崎県壱岐等に,また平成19年には埼玉県秩父市,岐阜県可児市,鹿児島県奄美市等9か所に司法過疎地域事務所を設置し,スタッフ弁護士を配置しました。

8.犯罪被害者支援について

 法テラスでは,犯罪被害者専用の電話番号を設けて,被害者やその家族に対する情報提供をしたり,犯罪被害者支援に精通した専属弁護士を直接紹介したりしています。法テラス宮城には20名の専属弁護士が名簿登録されています。犯罪被害者専用の電話番号は,0570−079714(泣くことないよ)です。警察や検察庁のOB,犯罪被害者支援に一定の経験がある方がオペレータになっています。犯罪被害者というのは,ただでさえ大きな被害を被っているので,法律相談の際に,法律家の不用意なひと言がダメージになってしまうことがあります。たとえば,「頑張ってください」という言葉には注意が必要です。自分がつらい目に遭っているのに,これ以上自分に「頑張れ」とは何だ,ちっとも自分のことを理解していない,ということになってしまう。だから,犯罪被害者の支援には一定の知識・経験が必要ということで,専属弁護士を紹介するという制度を設けているわけです。

9.受託業務について

 法テラスが行っている受託業務の中心となるのは,日弁連からの委託・委任業務であります。これは従来,財団法人法律扶助協会がその実施事業として行っていたものです。民事法律扶助業務,国選弁護関係業務,犯罪被害者支援業務,それぞれ対象となるものはそれぞれの制度によって救済されるわけですが,その条件を満たさないので対象とならない,そういう事件のときに,資力が乏しい,という方に費用を援助するというものであります。国選弁護の対象となっていない被疑者に対する援助,被疑少年に対する付添いの援助,犯罪被害者援助,難民認定の申請や国籍取得の援助,高齢者・障害者に対する援助等を,受託業務として行っております。

10.スタッフ弁護士について

 法テラスと契約している弁護士には,一般の開業弁護士もありますが,法テラスに勤務するもの(スタッフ弁護士)もあります。スタッフ弁護士は,全国の地方事務所,支部事務所及び地域事務所(扶助・国選対応地域事務所と,司法過疎地域事務所とがあります)に配属されます。このうち,地方事務所,支部事務所及び扶助・国選対応地域事務所のスタッフ弁護士は,民事法律扶助事件,国選弁護事件及び国選付添事件が中心で,一般の事件は扱わないことになっています。これに対して,司法過疎地域事務所のスタッフ弁護士は,民事法律扶助事件,国選弁護事件,国選付添事件に加えて,有償で行う一般の事件もしています。もともと弁護士がいないところですから,一般の事件も受けることになっているわけです。

 スタッフ弁護士は,法テラスと雇用契約関係にあり,同期の裁判官,検察官と同等の給与が支給されることになっています。(ちなみに,今年修習を終わって裁判官になった場合,初任給が月30万円,これに地域手当がプラスされ,賞与が150万円で,年収500万円くらいと予想されています。)事務所の賃料や事務所員の給料,事件処理等の諸経費は法テラスが負担することになります。事件の中には時間も手間もかかるがお金にならないものもありますが,スタッフ弁護士の場合は,給与も支払われるし,事件処理の経費も法テラスが負担するということで,採算のことを気にせず,事件に一生懸命打ち込んでいただくことができます。

 法曹人口がどんどん拡大していますが,弁護士の偏在は全く解消されておらず,地域格差は依然広がったままです。弁護士一人当たりの人口でみると,東京は700-800人ですが,地方では5万人という地域もかなり存在します。司法過疎地域以外でも,そのような地域が存在するわけです。こうした偏在,地域格差といったものは,そのまま放置していても解消されません。スタッフ弁護士が各地の法テラスに常駐して,採算を気にすることなく必要とされる事件に一生懸命取り組んで戴くことが必要とされています。「スタッフ弁護士志望動機文集」というものがありますが,そこには,弁護士としての使命を果たしたいという,若々しい,情熱あふれる声がたくさん記載されています。

11.おわりに

 いま,司法の世界は大きく変わっています。いろんな弁護士の在り方があります。任期付の公務員になる,弁護士から裁判官になる,企業内弁護士になる人もいます。結局,社会にどう貢献したいのか,法律家として社会に何を還元するのか,皆さんの考え方でそれぞれの道を選んでほしいと思います。企業法務なら大都市でしょうが,地域密着で市民に近いところで活躍したいのであれば,ぜひスタッフ弁護士を魅力ある選択肢のひとつとして考えてほしいと思います。スタッフ弁護士でなくとも,法テラスとぜひ契約をしていただいて,民事法律扶助事件,国選弁護事件,国選付添事件の担い手となってほしいと思います。法テラスと契約しないと,これらの事件を担当することができません。報酬は決して高くはありませんが,法的救済を必要としている人たちのために働くという,法曹としての最低の務めを果たして,そのうえで自分のやりたいことに挑戦してみてほしいと思います。

 簡単ですが,私からのご説明にしたいと思います。どうもありがとうございました。(拍手)

(質疑応答)

問1:任期中に結婚・出産ということがあった場合は,どのような扱いになるのでしょうか。
答1:休職という扱いになると思います。
問2:仙台事務所には,今後スタッフ弁護士を置く予定はあるのでしょうか。置くとすれば何人程度となるでしょうか。
答2:スタッフ弁護士については,青森,秋田のように絶対数が少ないところは優先的に配置されています。仙台弁護士会の場合には,人数的には全然対応できないという状態ではない,ということで,一般弁護士が力を合わせて被疑者国選等に対応するとうことが伝統的に行われていますが,法テラスとしては,スタッフ弁護士を置きたいという要請があれば積極的に対応したいと考えています。
問3:法テラスの司法過疎地域事務所と,日弁連のひまわり基金における過疎地域の公設事務所との役割分担,棲み分けは何でしょうか。
答3:機能としては同じでありますので,一緒に力を合わせてやっていく,ということになります。
問4:スタッフ弁護士に応募した場合,採用倍率はどのくらいですか。また,任地を自分で選ぶことはできますか。
答4:いまのところ倍率については心配することなく,喜んで採用されるという状況だと思います。法テラスでは300人くらい配置したいと考えていますが,いまのところ100人で,まだ200人の枠が残っているという状況です。また,任地については,ぜひ欲しいというところがいくつかありますので,そうしたところが優先となっていますけれども,希望を聞いた上で検討します。
問5:スタッフ弁護士の任期についてですが,長くても10年ということのようですが,期間が終わった後のキャリア形成についてどのように想定されているのでしょうか。
答5:最初の1年は研修,その後任期が3年で,2回更新できますから,全部で10年間ということになります。更新の際は,別の場所に移ることになります。任期終了後は,元の養成事務所に戻る可能性もあるでしょうし,任期の間に地元との信頼関係ができれば,そこで開業ということもあります。それが一番望ましい形ではないかと考えています。
問6:なぜ任期に上限があるのでしょうか。
答6:ひとつには,国選弁護事件等のような限られた事件だけを何年も続けることは望ましくない,という考え方があるのかもしれません。
問7:最初の1年間研修ということですが,その後は自発的に研修等に参加することになるのでしょうか。
答7:最初はOJTとして先輩弁護士について研修を受けることになります。その後は,スタッフ弁護士に限らず,日弁連が主催する研修が常時行われていますから,それに参加するということになります。
問8:司法過疎地域事務所で採用されると,一般事件も担当するということですが,それは法テラスで担当することになるのでしょうか。
答8:そういうことになります。

◆編集後記

 六月に入りましたが,ここ数日は梅雨明けのような晴天が続いています。気温の変化が大きく体調管理が難しいですが,それでも東京に比べるとまだまだしのぎやすい環境。ありがたきかな,杜の都。

 今回は,法テラス宮城所長・鈴木宏一弁護士をお迎えして行われた「法テラス説明会」の概要をお送りしました。講演概要の掲載にご快諾戴いた鈴木先生に,心から御礼申し上げます。

 平成21(2009)年度東北大学法科大学院入試説明会(6月25日(水)18:00〜,東北大学法科大学院・さくらホール)の詳細については,下記サイトをご覧ください。
http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/info/080625-notice.html
http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/info/index.html

(平塚記)

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発行:東北大学法科大学院広報委員会

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