東北大学法科大学院メールマガジン

第23号 10/05/2007

◇オープン・キャンパスのご案内(既報・プログラム更新しました)

 東北大学法科大学院では,オープン・キャンパスを以下の要領で開催いたします(ホームページにも掲載しております。)。
 http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/opencampus/

 開催日時:2007年10月14日(日)13:00-17:00(受付12:30〜)

 会場:東北大学片平キャンパス,法学研究科第1号棟(法科大学院棟)
 http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/gaiyou/access.html
 (JR仙台駅から片平キャンパスまで徒歩約15分)

 プログラム:(当日,資料を配布いたします。)
 13:00-13:15 法科大学院案内
  法科大学院長  坂田宏 教授

 13:15-14:15 法科大学院入試・カリキュラム・新司法試験の説明
  法科大学副院長  佐藤隆之 准教授

 14:30-15:30 模擬講義
  1) 「民事法」(既修者対象)
      久保野恵美子 准教授(民法)
  2) 「刑法」(未修者対象)
      成瀬幸典 准教授(刑法)

 15:30-17:00
  1) 施設見学(希望者のみ)
  2) 個別相談・懇談会
    ・実務家教員:石井彦壽 教授
    ・研究者教員:未定
    ・修了生(新司法試験合格者を予定)

 参加を希望される方は,opencampus@law.tohoku.ac.jp 宛,住所・氏名・電話・模擬講義のクラス希望(既修者クラス/未修者クラス)を明記の上,事前にご連絡いただけると幸いです。

 ご連絡の際に,質問等あらかじめございましたら,お書き添えください。質問を提出していただいた場合には,できる限り資料等を用意したうえで,プログラム「個別相談・懇談会」等でお答えすることができます。

 東北大学法科大学院の受験を希望される方はもとより,法曹の仕事に関心のある方,法科大学院への進学を考えている方など,たくさんの方のご参加をお待ちしています。
 事前の申込をなされていない方も,当日のご参加を心から歓迎いたします。

◇教員エッセイ

 今回は,民法㈼,民事特別法を担当している小粥太郎教授のエッセイをお送り致します。

 民法の世界・補遺

 先日、商事法務という出版社から、「民法の世界」という本を世に送りました。功成り名を遂げた民法学者のエッセイ集かと思わせるような書名ですが、実際は、民法の演習書(設問と解説の形式をとる学習参考書)です。今回の教員エッセイでは、本の宣伝も兼ねて、出版の経緯や教師の生活の舞台裏を、少しだけ紹介したいと思います。

 この本が出来上がるきっかけは、2003年の秋にまでさかのぼります。法学教室という月刊誌(学習法律雑誌というのがタテマエです)の編集部から、演習コーナーの執筆依頼を受けたのでした。1回分2頁(4000〜5000字)で、2年間24回の連載という条件でした(連載期間は1年だけでもよいとか、数人で分担してもよい、ともいわれたような気がします)。

 たしかに民法の教師をしてきたとはいえ、2年間にわたって、毎月、違うテーマで設問を用意して、小さなスペースで解説を書くことは、かなりの負担です。依頼を受けたときの第一感は、引き受けたら何もできなくなってしまうかもしれない、というものでした。つまり、翌2004年春には法科大学院開設が予定されており、労働条件(?)が厳しくなることは目に見えていましたから、演習コーナーの連載を引き受ければ、ただでさえ進まない研究活動(ちゃんとした論文を書く、ということに尽きます)が、ますます進まなくなる、と感じたのです。立派な学者になるためには、引き受けてはいけない仕事だったのかもしれません。

 しかし、所詮、私の学者稼業など中途半端なもの。画期的な研究書、スカッとするような論文を書けそうな気配はありません。他方で、これまでの講義や演習での経験から、法科大学院や法学部の学生さんたちに伝えたいことは、あれこれと思い浮かびました。それらは、ある論点について、A説とB説が対立しているところで、自分はC説が正しいと思う、C説の正しさを伝えたい、というようなことではありません。私の関心は、もう少しメタ・レベルにあったような気がします。多少、具体的にいえば、法的思考とはどのようなものか、というような根本問題を、民法の具体的な問題にそくして、できるだけわかりやすく伝えることで、読者に思考の素材を提供したい、とでもいうことになるかと思います。

 ところで、いわゆる演習書は、典型論点を事例問題の形に整えて簡潔明瞭な解説を付けるのが正統派といえるでしょう。過去の法学教室の演習コーナーから生まれた演習書には、そのようなものが少なくありませんでした。しかし、とりわけ、内田貴先生の教科書(東大出版会から公刊されている民法Ⅰ㈼㈽㈿)が登場して以来、民法の分野では、親切な教科書が目白押しです。そうした事情もあって、従来型の演習書によって担われてきた典型論点の事例にそくした解説という職分は、かなりの部分が教科書に移管されているように思います。このような状況では、従前同様の演習書をまとめることに大きな意味はありません。これに対して、私の作戦では、法的思考とはどのようなものであるかを、民法の具体的なテーマにそくして考える、いままでにないような演習コーナーになるはずです。私の気持ちは高揚し、執筆依頼を受けてしばらくの後、24回の連載を引き受けたのでした。

 私は、2003年の暮れ以降、大いなる希望をもって、24回分のテーマを考えていました。できるだけ民法全体にまたがるように、しかも、法的思考がどのようなものであるかを考える素材になりそうなもの、というのがリスト・アップの基準でした。民法総則、物権、債権、親族、相続と各分野を合計して40個ほどの仮テーマを並べ、過去に自分の授業で取り扱ったことがあるテーマについては、何を書きたいかが比較的はっきりしているので、比較的早い時期に原稿を書き、そうでないテーマについては、全体の配分(たとえば民法総則のテーマばかりにならないように)もにらみつつ複数のテーマを同時並行で少しずつ勉強をしつつ、書けそうだな、ということになった時点で次回の原稿にする、という段取りで毎回の原稿を出していました。

 毎月の原稿提出の〆切は、法学教室の場合、前々月の20日ですから、第1回の2004年4月号であれば、同年2月20日が〆切となります。はじめのうちは、毎月の〆切日に編集部に原稿を送っていたのですが、だんだん、遅れる悪い癖がつきます。その結果、原稿校正の時間も十分にはとれず、自分で自分の首をしめることになります。さらに私の場合は、コンピュータ組版で1頁あたりの字数が柔軟に調整できるであろうことに期待して、毎回、本来の字数制限を軽くオーバーするような原稿を送っていたのですが、当然のことながら、スペースには限度というものがあります。編集部から、「○行分減らしてください」、というメモが返ってくることも少なくなく、その度に、どこを削ればいいのだろうと頭を抱えました。

 2年間、毎月の連載というのは、私にとってはじめての経験でした。さすがに最後の方はかなりつらかったのですが、中盤までは、法科大学院や法学部での授業で取り扱うテーマと重なっていることもあって、授業の準備の延長のような気分で、予想したほどには苦しまずに原稿を出せたような気がしています。実際、24回の連載に書いたことの7割方は、どこかの授業で話したことがある内容です。

 思い返してみますと、連載生活にまだ慣れていないころ、私がやっとの思いで3回目か4回目の原稿を送ろうとしたときに、編集部から、「○法の演習コーナーを担当されている○○先生は、もう、24回分の原稿を入稿されているんですよ」と聞かされたこと、そして、河上正二先生が、法学セミナー誌上に、数年間休みなく(5年間で1度だけ、先生のお父様が亡くなられたときに休載があったと記憶しています)、長年の研究と講義の裏付けがなければ決してできない重厚な連載(前半は「民法学入門」として日本評論社から出版されており、後半の「民法総則」も間もなく出版されることでしょう)をされているご様子を間近で見せていただいたことで、自分は自分の能力に見合ったことを自分のペースでするしかない、と、割り切る(あきらめる)ことができたのも、私にとってはよかったのかもしれません。

 毎月の原稿を送ることを繰り返し、2006年の1月に最後の24回目の原稿を提出したので、あたためていた単行本化の作戦をもって、複数の出版社に出版に向けての相談を持ちかけました。結局、商事法務が出版を引き受けてくれることになり、ほんとうに有り難かったと思っています。商事法務の旧知の編集者が、私の原稿を拾ってくれたというわけです。

 単行本にまとめるにあたっては、単に24回分の原稿をまとめるだけでなく、2回分くらいは、書き下ろしを加えること、そして、当然のことながら、過去の原稿のフォローをすることが必要になります。そこで、2006年4月からは、1年間、法学部の民法演習の授業の時間に、学部の3・4年生と、24回分の私の原稿を教材に勉強をしてみました。自分で一度はきちんと考えたはずの問題であっても、学生さんたちと議論をすると、考えさせられることが少なくありませんでした。また、書き下ろしのテーマは、法科大学院の2年次の授業(実務民事法という科目)で取り上げた消費貸借(利息制限法の解釈)と、債権法の全体構造を学習するためのテーマ(試験問題とその講評という形にしました)として、今度は、講義ノートを参考にしつつ、いくらかゆっくりと原稿を書きました。いくつかの原稿については、同業者に読んでもらい、アドバイスをもらいました。もちろん、既存の原稿について、法律改正(多い!)をフォローし、新しい判例を取り込む作業も必要です。書名をどうするかがなかなか決まらなかったのですが、友人のアイデアで難題も解決し、書き下ろし2編とバージョン・アップした分をあわせてすべての原稿を入稿したのは、2007年の3月でした。それから、編集者と私で、文章を読み返し、引用された法律・判例・文献についてチェックする作業を繰り返し、8月末には、文章等をほぼ確定し、9月上旬に装丁などを決め、9月末に、ようやく出版に至りました。

 出来上がった本は、私にとってはじめての著書であり、内容はもちろん、装丁なども、かなりわがままを聞いていただいたので、出版された本をみたときは、大げさにいえば、わが子を見るような気持ちになりました。立派な民法学者の先生方からみたら、学問的価値のない演習書にしか映らないものですが、私なりに、法科大学院・法学部の学生さんをはじめとする民法を学ぶ方々、そして、民法その他諸分野の法学研究者に対して、民法、法的思考、法学などに関するメッセージを発しているつもりです。

 もっとも、わが子と同様、出来の悪いところもあります。本書全体のメッセージについては、これからの読者の評価に委ねられるとしても、入念なチェックをしたつもりであるにもかかわらず、法律改正を見落としてしまったところがありました(102頁の下から4行目の「最低売却価額」は「売却基準価額」に訂正されるべきです。該当条文[民事執行法60条]を引用しなかったことがミスの原因だったように思います)。第7講では、施行されたばかりの金融商品取引法にもふれた方がよかったか、という気がしています。また、127頁冒頭の「昭和35年頃」は、「昭和30年代」とすべきでした。これらを含めて、増刷の機会がもしあるとすれば、少しずつ改良を重ねたいと思います。小さな小さな演習書でさえ完璧に仕上げることができず、自分の至らなさを改めて痛感することになったのも、天の配慮によるものではないかと思います。

 出版された「民法の世界」という本は、すでに私の手を離れたものですから、読み方などについてとやかく申し上げるべきではないかもしれませんが、多少は、楽しい読み方のアドバイスをさせていただくことも許されるでしょうか。

 まず、本書は、私のメッセージが込められていると申しましたけれども、本文中には、私の論文や判例評釈などの引用はひとつもありません。くどいようですが、私のメッセージの1つは、論文や判例評釈などで展開される、具体的な紛争解決の方法であるとか、特定の法条の解釈の仕方ではなく、法律家共同体−−実際に法律を使って仕事をする世界−−で通用するような法的思考の内容はこういうものではないか、という次元にあります。たとえば、同じようなものは同じように、しかし、違うものは違った形で取り扱うべきである。有意な違いを見つけ出すことが重要だ、という考え方(区別distinctionの考え方といってよいでしょう)が、あちらこちらに、似ているけれども異なる形で、登場します。これにふれていただきたい、ということは、間違いなく私からのメッセージの1つです。

 もう1つのメッセージは、民法学のみならず法学の面白さを伝えたいというところにあります。本書の25のテーマは、目次の上では、民法(財産法中心ですが)全体にまんべんなく及んでおり、重要な問題をひととおり勉強できるように配慮されています。しかし、民法学へと誘うための裏テーマも、あれこれと隠されているのです。たとえば、本書には、著名な民法学者たちのものの考え方を理解したいという観点から設けられた項目があります(第2講[山本敬三教授]、第7講[道垣内弘人教授]、第18講[大村敦志教授]など)。これらの項目からは、それぞれに個性的な民法学者の発想の方法のようなものを窺い知ることができるのではないかと思います。そして、各項目の解説は、これらの先生方の教科書や論文などを読むときにも役立つのではないかと期待しています。

 なお、些末なことのようにも思われるかもしれませんが、読者が問題についてさらに考える手がかりとなる参考文献の引用の仕方については、偏りが強いとの批判を甘受しなければなりません。本書には、意見や情報の発信者を明示するためのいわば本来の意味での引用もありますが、多くは、学習者に、直接、手にとってほしい、読んでほしいという観点から、文献を選択しているのです。

 さいごに、舞台裏の紹介ということですから、印税のこともお話しておきましょう。本書本体価格(税別)は2300円で、1冊の売り上げごとに、私にはその10%である230円の印税収入があるらしいのです。今回の出版では、実際の売り上げ部数ではなく、印刷された部数×230円が、私の税法上の収入になるということです。しかし、もともと印刷された部数が少ない上に、これまでお世話になったあちこちの大学の先生方、裁判官、弁護士、同僚、友人に謹呈する分をたくさん自分で買い取りました(割引価格ですが)ので、商事法務から実際に私の銀行口座にいったいどれだけのお金が振り込まれるかは、私にはわかりません。本の買取代金に加えて、送料や発送事務の委託手数料なども差し引かれます。担当の編集者は、ちょっと美味しいものが食べに行けるくらいのお金は入るでしょう、といってくれていますが。。。法学者が、教科書や体系書を執筆して豪邸を建てた、などという話も聞いたことはありますが、今回の私の本については、税法上の所得が発生することはともかくとして、1度、美味しいもの(?)を食べられるくらいのお金をいただける「かも」しれない、ということのようです。

 さいごに一言。「民法の世界」は、まったく小さな本で、不備なところもありますが、今の私には、これが精一杯のところです。たとえ1人でも、本書のメッセージをくみとり、共感していただける方があれば、ほんとうに嬉しく思います。

◆編集後記

 今回のエッセイは,小粥太郎先生にお願い致しました。著書出版の経緯や教師生活の舞台裏等,興味深いお話でした。今月から後期授業が始まり,教科書・参考書との格闘が始まっていますが,民法の世界についてもっと知る意味で,この秋の一冊にぜひ加えたいと思っています。

 引き続き,平成20(2008)年度入試関連情報を掲載中です。入学を検討されている方は,ぜひご覧ください。

(学生募集要項)
 http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/info/boshuyoukou.html
(入試関係資料請求(テレメールWeb))
 http://telemailweb.net/web/?420005
(Q&A)
 http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/qa/index.html
(パンフレットPDF)
 http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/download/index.html
(オープン・キャンパス)
 http://www.law.tohoku.ac.jp/lawschool/opencampus/

(平塚記)

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発行:東北大学法科大学院広報委員会

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