法学未修者コースに合格された方へ

東北大学法科大学院
第1年次科目担当教員一同

 東北大学法科大学院への合格おめでとうございます。皆さん、新たな目標に向け、意欲に満ちていることと思います。

 さて、法学未修者の皆さんの法学の勉強歴は様々だと思いますが、特に、今まで法学を専門的に勉強したことのない、全くの未修者の皆さんにとって、4月からの講義の内容を短時間のうちに理解することは、相当な負担になるものと思います。具体的には、第1年次で開講される、憲法、行政法、民法、刑法、商法、民事訴訟法、刑事訴訟法の科目について、これまでの大学学部教育において、2〜3年をかけて講義されていた内容を、1年間で、それも、わが国の司法制度や法解釈学に関する知識がほとんどない状態から勉強を始めて、修得しなければならないのです。

 そこで、講義が開始されるまでの間に、ぜひ読んでおいてもらいたい本を下記に挙げておきました。これらの本には、入門から応用まで、さまざまなレベルのものが含まれていますが、いずれも4月からの講義に必要な前提知識を身につけ、よりスムーズに法科大学院での学習を始めるためには格好のものだと、私たちは考えています。これらの本を読み、講義に向けて、ウォーミングアップを行っておいてください。

 それでは4月にお会いするのを楽しみにしています。

(憲法)

 法律学の各科目について法学部卒業程度の理解を持つためには、どんな勉強をすればよいか。それは、各科目について自分の基本書を1冊決めて、そのメインとなる教科書を繰り返し読みその内容をよく理解することに尽きます。但し、もう1冊、サブとなる教科書も一応通読して、メインとなる教科書を絶対化するのを防ぎ、またその足りない所を補うことが必要です。
 L1科目「憲法」では、1年間かけて、高橋和之『立憲主義と日本国憲法・第2版』(有斐閣、2010年、3,045円)を講読します。授業で扱うことのできる教科書はこの書物だけですが、世間的に憲法のもっとも標準的な教科書とされているのは、芦部信喜(高橋和之補訂)『憲法・第五版』(岩波書店、2011年、3,255円)です。入学後にどのみち読むことになるこの2冊ですから、入学前にどちらか1冊を通読しておいてください。とにかく読み通すことが重要であり、分からない所は分からないことを確認するので十分だ、という心構えで。

(行政法)

 ・藤田宙靖『行政法入門(第5版)』(有斐閣、2006年、1900円)…行政法の基本をやさしい語り口で解き明かしてくれます。行政法の世界への第1歩として推薦します。
 ・芝池義一編『判例行政法入門(第5版)』(有斐閣、2010年、2100円)…基本判例に即して行政法の基礎知識を整理したものです。判例にも触れながら行政法の門をくぐりたい方にお薦めします。
 ・宇賀克也編『ブリッジブック行政法(第2版)』(信山社、2012年、2500円)…様々な具体例を用いて行政法の基本的な考え方を丁寧に説明するもので、L1・行政法の授業への導入として好適です。
 ・曽和俊文=山田洋=亘理格『現代行政法入門(第2版)』(有斐閣、2011年、2400円)…行政法を初めて体系的に学ぼうとしている学生等を意識して書かれた入門書で、重要判例をやさしく解説する「ケースの中で」やレベルアップを図る「発展問題」もあります。

(民法)

 民法は、あらゆる法学の分野に共通する概念や考え方を学ぶ場にもなっている重要な科目であるうえ、条文だけでも千条を遙かに超えており、必要な学習量は六法科目の中でも群を抜いたものです。
 そんな民法の学習は、さながら螺旋階段を上りながらより高みに登っていくように、何度も全体を学習する必要があります。入学してから講義とともに初めて民法を勉強するのでは、全体像がつかめずに非常に苦労するでしょう。
 入学までに、必ず次の3冊を読んでおいてください。まず、①星野英一『民法のすすめ』(岩波新書、1998年、660円)。民法という法律の位置づけを考えるための必読書です。次に、②道垣内弘人『プレップ法学を学ぶ前に』(弘文堂、2010年、1000円)。法学における議論の特徴や法解釈の方法、判決の読み方など、民法を学ぶ前提となる基礎的知識を予め修得しておいてください。最後に、③道垣内弘人『ゼミナール民法入門(第4版)』(日本経済新聞社、2008年、3360円)。民法で学ぶことの具体的内容に触れるとともに、入学後当面の間取り組むことになる財産法の見取り図を、少しでも描いておいてください。

(商法)

 商法を履修するには、民法、特に民法総則や債権法と呼ばれる部分の基礎的な理解が前提になります。カリキュラム上も第1年次の商法は後期に開講されますので、とりあえずは民法をしっかり学んでください。
 商法の中核を成す会社法については、条文が多く内容も複雑で、また学生の日常生活とは関係が薄く、なじみにくい、分かりにくいという声をよく聞きます。おおよその輪郭をつかむために、薄い新書ですが、内容の濃い一冊として、神田秀樹『会社法入門』(岩波書店 2006年)を挙げておきます。その上で、教科書(前期終了時までに指定します)・概説書を読み始めるとよいでしょう。

(刑法)

 今まで刑法を専門的に勉強したことのない方は、下記の本のいずれかを読んでおいてください。
 ・井田良『基礎から学ぶ刑事法(第4版)』(有斐閣、2010年、1890円)
 ・高橋則夫『刑法の考え方』(信山社、2009年、2310円)

 すでに刑法を大学の講義などを通じて専門的に勉強したことのある方は、これまで自分が使用してきた本を再読しておいてください。

(司法制度)

 わが国の司法制度(裁判手続の概要とそれに関与する人々)に関する理解は、法律学を学ぶ上で、欠かすことはできません。下記の本を、入学までに、必ず読んでおいてください。
 ・市川正人=酒巻匡=山本和彦『現代の裁判[第5版]』(有斐閣、2008年、1785円)

(民事訴訟法)

 まずは、司法制度の項に掲げられた『現代の裁判[第5版]』をしっかり読んでください。その次は、第1年次後期に開講される民事訴訟法の教科書である山本弘=長谷部由起子=松下淳一『民事訴訟法』(有斐閣、2009年、2520円)にチャレンジするのがよいでしょう。ただし、同書が難しく感じるのでしたら、より平易な中野貞一郎『民事裁判入門[第3版補訂版]』(有斐閣、2012年、2310円)か、さらに平易な山本和彦『よくわかる民事裁判―平凡吉訴訟日記[第2版補訂]』(有斐閣、2008年、1785円)で民事訴訟の具体的なイメージをつかむことから始めることをお薦めします。

(刑事訴訟法)

 刑事訴訟法の学習は、刑法の基本的な理解が前提となりますので、特に、今まで刑法・刑事訴訟法を専門的に勉強したことのない方は、まず、刑法をしっかり勉強してください。なお、罪数論(多くの刑法総論の教科書では、最後の部分に記述があると思います)についての理解は、刑事訴訟法を学ぶうえでも必須です。ひととおり刑法総論を学習したあと、夏休みに取り組んでいただければよいだろうと思います。
 第1年次後期に開講される刑事訴訟法では、教科書として、長沼範良=田中開=寺崎嘉博『刑事訴訟法[第3版]』(有斐閣、2008年、2310円)を用います。時間のある夏休みを使って、この本を読み進めておいてください。さらに、余裕のある方は、法学教室(有斐閣、月刊)に連載された、酒巻匡「刑事手続法の諸問題」、長沼範良、大澤裕ほか「対話で学ぶ刑訴法判例」(隔月)、現在同誌に連載中の酒巻匡「刑事手続法を学ぶ」、「演習(刑事訴訟法)」を読んでみてください。内容は相当高度ですが、概説書では説明が十分尽くされていない、基本的で重要な問題について、理解を深めるうえで非常に有益です。なお、刑事訴訟法に関する専門的知識の有無にかかわらず、刑事訴訟の現実に触れ、これから皆さんが学ぶ「法」の持つ厳しさを知るため、いくつかの刑事裁判を実際に傍聴することを強く勧めます(裁判傍聴のしかたについては、前掲『現代の裁判[第5版]』74〜75頁を参照してください)。

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