2022(令和4)年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について

一般選抜(前期)・法曹基礎課程特別選抜(開放型)

第2次選考:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)
問題 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法
出題趣旨 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法

一般選抜(前期)

第2次選考:3年間での修了を希望する者(法学未修者)に対する小論文試験
問題
出題趣旨

出題趣旨

<公法(憲法)>
本問は、人権の限界に関する基本的な知識と理解を問うものである。問1では、通説であるいわゆる一元的内在制約説について、理論的側面と条文解釈論的側面に分けて説明することを求めた。問2では、選考する2つの説と比べてこの説がどのようにすぐれているかの説明を求めた。
基本的なことをきちんと理解した上でわかりやすく説明できるかどうかを確かめるのが、出題の狙いである。

<民事法(民法)>
第1問 制限行為能力を理由とする取消し(5条等、120条以下)と意思無能力を理由とする無効(3条の2。表意者のみを主張権者とする相対的無効とされる)を取り上げ、関連する制度を対比しながら知識を整理できているかを問う問題である。表意者の判断能力が十分でないという観点に基づいた法律行為の効力否定要件であるなどの共通点、行為の効力の否定に表意者の意思表示を要するか否かなどの相違点を説明することが求められる。
第2問 裁判による共有物分割方法(258条)についての基本的知識を問うものである。民法は、現物分割を原則としつつ、現物分割が不能であるときなどについて代金分割を定めている。さらに判例は、全面的価格賠償の方法による分割も認めている。
第3問 数量指示売買(土地の面積不足)における代金減額請求権(563条)と損害賠償請求権(415条)の成否に関する事例問題であり、条文に定められたルールを示すとともに、それを満たす事実の有無を問題文に即して判断することができるかを問うものである。さらに最判昭和43・8・20民集22巻8号1692頁、最判昭和57・1・21民集36巻1号71頁といった判例に関する知識や、損害の算定方法次第では損害賠償請求権と代金減額請求権で救済の重なりが生じるため一方しか請求できなくなることに言及しているものは高く評価している。
第4問 日常家事債務の連帯責任を定める民法761条に関連した事例問題であり、判例法理として示されたルールを整理するとともに、それを満たす事実の有無を問題文に即して判断することができるかを問うものである。同条が夫婦が相互に代理権をもつことをも規定したものであり、同条による代理権を基本代理権とする民法110条の表見代理の適用は否定されるものの、一定の場合には110条の趣旨の類推適用を認めるという最判昭和44年12月18日民集23巻12号2476頁を正確に理解し、説明することが求められる。

<民事法(商法)>
第1問 株主の議決権行使に対し,Quoカードを進呈することが,利益供与(会社法120条)に該当するか否かを検討してもらうための出題である。
第2問 最判昭和40年9月22日民集19巻6号1656頁は,「代表取締役は株式会社の業務に関して一切の裁判上又は裁判外の行為をする権限を有することにかんがみれば、 代表取締役が取締役会の決議を経ないでした重要な業務執行に該当する取引も、 内部的な意思決定を欠くにすぎないから、 原則として有効であり、 取引の相手方が取締役会の決議を経ていないことを知り又は知り得べかりしときに限り無効になると解される」とする。この判例の理解を問う出題である。
第3問 報酬額は,会社・取締役間の委任契約の内容であり,会社側から一方的に変更することは原則としてできないことを理解しているかどうかを問う出題である。
第4問 支配株主の異動を伴う募集株式発行は,実質的には,組織再編などの会社の基礎的変更に近い性質を持っていることから,取締役会だけによる決定を許さず,株主の意思を問うことが求められていることを理解しているかどうかを問う出題である。
第5問 会計帳簿は,会社の事業活動に関して細かい部分について記録するものであり,これを閲覧することによって,場合によっては営業秘密や事業活動上の優位性をもたらすような情報が取得できてしまう。これを防止するために,権利行使に厳格な要件が設定されていることを理解しているかどうかを問う出題である。

<民事法(民事訴訟法)>
問1 所有権確認訴訟における訴訟物を問うもの。
問2 口頭弁論期日における被告の主張につき、その意味を問うもの。被告は、先行する原告の発言内容(ある時点において原告が係争物の所有権を有すること)を認めつつ、それを「もらった」と主張しており、これら2つの要素を踏まえて回答することが求められる。
問3 確定判決が「既判力」を有することを理解したうえで、問題文にある「前訴確定判決」の既判力が及ぶ人的及び物的範囲を正確に記述することが求められる。
問4 所有権確認訴訟(前訴)に勝訴した原告と基準時後に係争物を譲り受けた訴外第三者との間に係争物の所有権をめぐる後訴が係属した場合を念頭に、前訴確定判決の存在が後訴の審理及び判決にどのように影響するかを問うもの。問3の解答を踏まえつつ、設問の第三者がいわゆる固有の攻撃方法を有していることを意識して解答することが求められる。

<刑事法(刑法)>
本問は、簡単な事案を素材にして、
①問題となる行為を的確に捉える能力の有無、
②知識を活用して事案を適切に解決する能力の有無、
③個々の問題に関連する判例の知識・理解の有無、
④窃盗罪及び強盗罪に関する正確な理解の有無、
⑤財産上の利益に関する正確な理解の有無、
⑥共同正犯の個々の要件(特に、共謀〔共犯者間の故意に齟齬がある場合の処理〕)に関する正確な理解の有無、
等を確認することを目的としたものである。

<刑事法(刑事訴訟法)>
本問は,東京高判平成27・3・13東京高等裁判所(刑事)判決時報66巻1~12号28頁を素材として作題したものであり,刑訴法324条2項,321条1項3号の解釈・適用を問うものである。

<小論文>
東北大学法科大学院は,法的思考に対する適性と正義・公正の価値観を備えた者を学生として受け入れることを理念としている。小論文試験では,法的思考を身に付けるために必要不可欠な能力,すなわち,資料を正確に理解し,整理・分析してその要点をまとめ,それを文章へと構成する力を評価することを目的としている。なお,この試験は中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会「法科大学院法学未修者等選抜ガイドライン」(平成29年2月13日)において「小論文・筆記試験」に含まれるとされる内容を網羅するよう作成されている。
本問は,リスクの医学の登場とその問題点についてメタボリックシンドロームを代表的実例として取り上げつつ検討する論考を素材として,そこに記されている内容及び筆者の見解について説明を求めるものである。問1,問2では,傍線部が指し示す内容及びそれに関連する筆者の見解を正確に把握し,それを自分の言葉で整理し,指示された分量の範囲内で文章にまとめることができているかどうかを評価した。問3では,筆者が問題点として主張する内容を簡潔に要約できているかどうかを評価した。いずれも,素材に示されている内容を理解するとともに、問いに答える形で必要に応じて再構成して説明することを求めるものであり,文章構成力・文章表現力も評価した。

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