2021(令和3)年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について

一般選抜(後期)

第2次選考:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)
問題 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法
出題趣旨 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法

第2次選考:3年間での修了を希望する者(法学未修者)に対する小論文試験
問題
出題趣旨

出題趣旨

<公法(憲法)>
 本問は、プライバシー権と幸福追求権に関する基本的な知識と理解を問うものである。通説はプライバシー権を自己情報コントロール権として捉えているが、問1では、その権利の内容と性格の記述を求めた。問2では、いわゆる新しい人権がどのような考え方にしたがって憲法解釈により憲法上の権利として認められるかの説明のあと、自己情報コントロール権としてのプライバシー権がこれに当たることの説明を求めた。
 基本的なことをきちんと理解した上でわかりやすく説明できるかどうかを確かめるのが、出題の狙いである。

<民事法(民法)>
 知識の正確性とともに、事例問題に答えるための枠組み(要件を提示してから事実を当てはめて結論を導く)を身につけているかを試すため、4題を出題した。
【第1問】
 抵当権の効力の及ぶ範囲(民法370条にいう不可一体物)についての理解を確認するとともに(なおいわゆる「抵当権登記の公示の衣」の問題は生じないことに注意)、即時取得の要件に照らして結論を導くことができるかを問う。
【第2問】
 債権譲渡の対抗要件がもつ特徴を問う(特徴とは他の制度と対比する中で浮かび上がるものである)。その際、第三者への対抗だけを考えればよい物権と異なり、債権では債務者への対抗の問題が生じること、第三者に対する公示手段として物権では登記(公の帳簿)が用いられるのに対して、債権譲渡では債務者をインフォメーションセンターとしていることの説明が期待されている。
【第3問】
 危険負担における債権者主義(536条2項)の適用の可否について、そこでいう「債権者の責に帰すべき事由」の判定について413条の2第2項(なお、こうした条文表記の仕方も正確に行うこと)という別条文を踏まえて行うことができるかを問うものである(なお解答としては567条2項という構成によるものでもよい)。
【第4問】
 詐害行為取消権について、遺産分割協議が「財産権を目的としない行為」(424条2項。なお「一身専属性」は債権者代位権について問題となる要件である)に該当するか否かを検討するものである。判例を、結論だけでなくその理由まで(相続放棄と対比して)説明することができれば高評価となる。

<民事法(商法)>
第1問
 監査役の独立性を確保することで監視監督機能を発揮することを目指していることを,理解できているかを問う出題である。
第2問
 代表取締役の権限濫用の場合に,取引の効力がどのように処理されるのかを問う出題である。なお,利益相反取引と誤解している答案が非常に多かった。
第3問
 新株予約権の公正価格は,オプション理論等によって算出されること,そして,それから乖離していることが有利発行に該当することを理解しているかを問う出題である。
第4問
 株主総会における意思決定の適正さを確保するために,自分自身に対する招集手続に瑕疵がなくとも,株主総会決議取消の訴えを提起できることを理解しているかを問う出題である。
第5問
 株式会社の組織再編は,基本的には事業や株式の売買としての性格を持っており,売主・買主の双方にとって適正な価格となっていなければいけないことを理解しているかを問う出題である。

<民事法(民事訴訟法)>
 1.民事訴訟法133条2項2号の意味を問う問題である。同条2項自体は、訴状の必要的記載事項の条文とされ、訴訟物の特定のための規定である(訴訟物は。請求の趣旨及び原因の記載から判断する。)。同条2項1号にいう「請求の趣旨」とは、原告が求める判決主文、つまり救済内容をいう。同じく「請求の原因」とは、その救済内容を論理的に導く権利(あるいは法律関係)の法律要件にあたる事実で、訴訟物が特定される程度の記載を必要とする(民事訴訟規則53条1項の「請求を特定するのに必要な事実」である。ちなみに、請求原因(請求原因事実)とは、請求を理由づける事実であって(同条1項参照)、「請求の原因」とは厳密な意味で異なる。)。なお、これら「請求の趣旨及び原因」の記載にかけがある訴状は、裁判長の訴状審査により、原告に不備を補正することが命じられ(民訴法137条1項)、不備が補正されないときは、裁判長が命令で「訴状」を却下しなければならない(裁判長の訴状却下命令。同条2項)。
 2.民事訴訟法142条の具体的適用の意味を問う問題である。142条の適用にあたっては、「当事者の同一性」と「審判の同一性」の視点からチェックが必要であるが、本問のように、債務不存在確認訴訟に次いで、別訴で同一の請求権に基づく給付訴訟が提起された場合には、請求の趣旨に違いはあるが、「裁判所に係属する事件」の解釈として、審判の同一性を肯定することができ、後行の給付訴訟が重複起訴(二重起訴)にあたり、訴え却下判決がされる(訴訟判決)。なお、先行の債務不存在確認訴訟の確認の利益から切り込んでゆく考え方も魅力的ではあるが、裁判所を異にする場合において、そのように柔軟に対処する実務・裁判例はない。
 3.民事訴訟法142条の射程距離の限界事例を問う問題である。ただし、反訴の要件について、場合分けを必要とする。民事訴訟法146条1項柱書を素直に読めば、本問について、反訴の要件は満たしているとは言えず、反訴自体が不適法却下となる。その場合、本訴請求に対する抗弁として提出された相殺の抗弁は可能である。ただし、反訴の併合要件を欠くとはいえ、反訴自体が独立の訴えとしての要件を備えるなら、Yが提起した別訴として扱われ、典型的な「訴訟先行型・抗弁後行型」となり(142条に関するリーディング・ケースである最判平成3・12・17民集45巻9号1435頁参照)、後からされた相殺の抗弁は、不適法となる可能性もある。
 これに対して、反訴要件が満たされていた場合はどうか(たとえば、相手方が同意し、または、応訴する場合は、適法となる。最判昭和30・4・21裁民18巻359頁)。そのような事例として、最判平成18・4・14民集60巻4号1497頁がある。同一の債権につき、被告が反訴原告として反訴し、その後に本訴請求に対する抗弁として「相殺の抗弁」を提出した事例である。形式的に見れば、先行する反訴の訴訟物たる債権を、本訴請求に対する相殺の抗弁で主張しており、これは、前掲・最判平成3・12・17の判例の事例と同じ訴訟先行型・抗弁後行型にあたる。本来「訴え」ではない相殺の抗弁について、「更に訴えを提起することができない。」という142条の文言に該当するという論理があるにもかかわらず、判決釈明として、抗弁に先んじる反訴を予備的反訴と解して相殺の抗弁を先行させた事例判決である。これに従えば、同じく相殺の抗弁は適法であり、本訴請求棄却となろう(予備的反訴請求は、相殺の抗弁が本訴請求の判断に際し考慮されたので、もはや問題とならない。)。

<刑事法(刑法)>
 本問は、簡単な事案を素材にして、
①問題となる行為を的確に捉える能力の有無、
②知識を活用して事案を適切に解決する能力の有無、
③個々の問題に関連する判例の知識・理解の有無、
④刑法における占有の意義に関する正確な理解の有無、
⑤窃盗罪、占有離脱物横領罪、事後強盗(致死傷)罪といった財産犯に関する正確な理解の有無、
⑥故意や錯誤に関する正確な理解の有無、
等を確認することを目的としたものである。

<刑事法(刑事訴訟法)>
 設問1は,接見指定の要件に関する指導的判例である最大判平成11・3・24民集53巻3号514頁の理解を問うものである。
 設問2は,福岡高判平成23・7・1判時2127号9頁を素材とし,接見内容の聴取の適法性を問うものである。

<小論文>
 東北大学法科大学院は、法的思考に対する適性と正義・公正の価値観を備えた者を学生として受け入れることを理念としている。小論文試験では、法的思考を身に付けるために必要不可欠な能力、すなわち、資料を正確に理解し、整理・分析してその要点をまとめ、それを文章へと構成する力を評価することを目的としている。なお、この試験は中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会「法科大学院法学未修者等選抜ガイドライン」(平成29年2月13日)において「小論文・筆記試験」に含まれるとされる内容を網羅するよう作成されている。
 本問は、ケアと家族に関する論考を素材とするものであり、問1では、筆者が別の論者の主張をどのように理解しているか、問2では、筆者による規範的主張を論じる前提として、当該主張の内容がいかなるものであるかを問うている。いずれも、素材に示されている内容を理解するとともに、問いに答える形で必要に応じて再構成して説明することを求めるものである。

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