2021(令和3)年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について(一般選抜(前期))

一般選抜(前期)

第2次選考:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)
問題 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法
出題趣旨 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法

第2次選考:3年間での修了を希望する者(法学未修者)に対する小論文試験
問題
出題趣旨

出題趣旨

<公法(憲法)>
本問は,職業の自由についての重要判例である薬事法違憲判決(最大判昭和50年4月30日民集29巻4号572頁)および関連する判例についての理解を問う問題である。本問では,できるだけ各判例の判旨に即した説明を行うことが求められている。

<民事法(民法)>
第1問 本問は、特に、無権利者であるAから動産を購入したCが、占有改定時に善意無過失であったが、その後、現実の引渡しを受けた時点で悪意であったという場面で、即時取得が成立するかどうかについて、最判昭和35・2・11民集14巻2号168頁を念頭に置きながら論じることが求められる。
第2問 本問は、債権譲渡の対抗要件の基本構造(民467条2項、最判昭和49・3・7民集28巻2号174頁)を理解しているかどうかと、債権譲渡の対抗要件としての確定日付のある証書による通知が同時に到達し、譲受人間に優劣を認めがたい場面をどう考えるかを問う。問題文中では、①一方の譲受人が全額の支払を求めうるとする見解や、②その支払を受けた譲受人に対して、支払を受けていない譲受人が一部を自己に支払うよう求める権利を持たないという見解の当否が問題となっているが、それらの見解の論拠の妥当性や、それとは異なる見解(①につき債権が分割されるとする見解や②につき一部の支払を求めうるとする見解等)およびその論拠の適否といった観点から、最判昭和55・1・11民集34巻1号42頁や最判平成5・3・30民集47巻4号3334頁を念頭に置きながら、論じることが求められる。
第3問 損害賠償額を減額する根拠として、身体的特徴を理由とする民法722条2項(過失相殺の規定)を類推適用することができるかどうかについて、最判平成8・10・29民集50巻9号2474頁を念頭に置きながら、論じることが求められる。
第4問 相続の放棄は民法915条1項の「自己のために相続の開始があったことを知った時」、すなわち相続人が相続開始の原因たる事実とこれにより自己が相続人となった事実を知った時から3か月以内にしなければならない。本問では、一定の場合に、その期間を過ぎた後であっても放棄することを認めることができるとする最判昭和59・4・27民集38巻6号698頁を念頭に置きながら、論じることが求められる。

<民事法(商法)>
第1問
 いわゆる詐害的事業譲渡が導入された趣旨(譲渡会社は,譲渡した事業に相当する対価を受け取るはずなので,譲渡会社に残る債権者は保護する必要がないはずだが,実際には必ずしもそうではない)を問う出題である。
第2問
 資本金が,分配可能額に制限を加えることによって,債務超過に陥りにくくなるようなバッファーを設け,債権者を保護する機能を持っていることを問う出題である。
第3問
 種類株式の発行は,他の種類の株主の利害に大きな影響を与えるので,定款変更(定款への記載)という形で他の種類の株主の利益を保護する必要があることを問う出題である。
第4問
 株主の出席が拒まれた場合に,株主総会決議取消事由があるかどうか,裁量棄却が認められるかどうか,を問う出題である。
第5問
 本来であれば親会社による子会社の役員の責任追及やコントロールがなされるはずだが,それが適切に機能しない場合に備えて特定責任追及の訴え(いわゆる多重代表訴訟)が認められていることを問う出題である。

<民事法(民事訴訟法)>
1.民事訴訟法114条1項の意味するところを問う問題である。非常に簡潔な解答は、「既判力の対象となる法的判断は、当該訴訟の訴訟物(訴訟の対象)に限られ、それ以外の法的判断は、すべて判決理由中の判断として既判力は生じない」となるはずである。もう少し詳細に考えるならば、「主文に包含するものに限り」という文言からは、2つの意味に採ることが可能である。1つは「場所的」意味に捉え、判決主文中に書いてある事柄がすべて既判力の対象となる考え方である。問題3でみるような強制執行の方法に関する判断を既判力対象となろう。しかし、通説・実務は、「論理的」意味から解答を導いている。すなわち、(給付訴訟について言えば)当事者(原告)の求める給付内容の根拠たる実体法上の請求権の有無に関する判断こそが裁判所の必要最小限の応答であり、これがまさに訴訟物についての判断である。この論理的な筋道が通っているかどうかが重要である。
2.既判力の積極的作用および先決関係を理解しているかが問われる問題である。前訴確定判決の既判力は、X・Y間の訴訟で甲土地の所有権はXに帰属するとの判断につき生じている。本件(後行)訴訟は、訴訟物(土地明渡請求権)を異にするものではあるが、これを主要事実(要件事実)に分析すると、①甲土地の所有者はXである、②現在が甲土地を占有している、という原告Xの主張に分かれる。このとき、①に主張内容については、前訴確定判決の既判力が及んでいるのであるから、本件(後行)訴訟では、新しく審理をする必要がなく、前訴確定判決を根拠として判断しなければならない。訴訟物が異なる後行訴訟でも既判力が作用するものとしてこれを先決関係として捉え、かつ、前訴確定判決の既判力に基づいて判断しなければならないという既判力の積極的作用の一事例である。
3.引換給付判決の典型事例につき、その訴訟物・既判力は何かを問う問題である。非常に簡潔な解答は、双務契約たる売買契約に基づく代金支払請求権のみが訴訟物であることを示せばよい。理由づけとしては、反対債権である売買目的物の引渡請求権は、たとえ判決主文が引換給付の対象として記載していても、強制執行の方法を指定するだけの意味しかないのであって、問題1でみたように(民事訴訟法114条1項の論理的意味)、訴訟物を更生しないからである。なお、「訴訟物に準じて」あるいは「既判力に準じて」既判力対象と考えるべきだという考え方は一顧に値するが、本件事例は極めて稀なケースであり、とくに既判力対象と考えなければならない必然性に乏しいことも需要である。

<刑事法(刑法)>
本問は、簡単な事案を素材にして、
①問題となる行為を的確に捉える能力の有無、
②知識を活用して事案を適切に解決する能力の有無、
③個々の問題に関連する判例の知識・理解の有無、
④正当防衛に関する正確な理解の有無、
⑤共同正犯に関する正確な理解の有無、
⑥共犯と正当防衛に関する正確な理解の有無、
等を確認することを目的としたものである。

<刑事法(刑事訴訟法)>
 本問は,共同正犯の訴因の特定(最決平成13・4・11刑集55巻3号127頁),起訴状に対する求釈明の意義,訴因変更が不要な場合における争点顕在化措置の要否(最判昭和58・12・13刑集37巻10号1581頁)につき問うものである。

<小論文>
 東北大学法科大学院は,法的思考に対する適性と正義・公正の価値観を備えた者を学生として受け入れることを理念としている。小論文試験では,法的思考を身に付けるために必要不可欠な能力,すなわち,資料を正確に理解し,整理・分析してその要点をまとめ,それを文章へと構成する力を評価することを目的としている。なお,この試験は中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会「法科大学院法学未修者等選抜ガイドライン」(平成29年2月13日)において「小論文・筆記試験」に含まれるとされる内容を網羅するよう作成されている。
 本問は,グローバル化に伴い生じる排除の問題を親密圏の破壊をもたらす政治的作用として分析する社会学の論考を素材として,そこに記されている内容及び筆者の見解について説明を求めるものである。傍線部の差し示す内容を正確に把握しているかどうかに加え,その内容を自分の言葉で整理し,指示された分量の範囲内で文章にまとめることができているかどうかを評価した。また,あわせて,文章構成力・文章表現力を評価した。

< 前のページに戻る

△ このページの先頭へ