2020(令和2)年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について

追加募集

第2次選考:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)
問題 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法
出題趣旨 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法

第2次選考:3年間での修了を希望する者(法学未修者)に対する小論文試験
問題
出題趣旨

出題趣旨

<公法(憲法)>
 憲法25条生存権規定に関する解釈学説を問う問題である。
 生存権規定の法的性質につては、「抽象的権利説」が通説であるが、裁判実務上の保障の効果はプログラム規定説と径庭がない。学説の主たる関心は、25条が国の法的責務を定めたものとする「抽象的権利説」に立ちつつ、具体的な立法をてがかりに、裁判実務で容易に承認されてきた立法裁量や行政裁量を統制することに向けられてきた。こうした事情の理解を前提に、学説の内容とその限界に関する基本的な知識を問うのが、出題趣旨である。いずれも体系書の記述の中で説明されている事項である。
 1は、プログラム規定説の内容理解を問う問題である。
 2の設問で記された見解は、いわゆる「制度後退禁止原則論」である。小問1で、この見解の基本的理解を問い、小問2で、この見解が登場した背景を問い、小問3で、その限界を問うている。
 3の設問で記された見解は、25条1項と2項を峻別する立場から、1項の「最低限度」に着目して、具体的な事情の下では一定の基準が確保されているとみることで、1項の規範性を高めようとする意図がある。小問1では、この見解は国の責務を定めるとするものの、施策の内容を具体的に定めるものではなく、立法者の裁量に委ねられるという抽象的権利説のバリエーションであるという理解ができているか、問われている。小問2は、この見解が主張される背景を問うもので、司法審査の厳格度を上げることがその意図である。

<民事法(民法)>
【第1問】
 無権代理人を相続した本人が、本人の資格によって追認を拒絶できるか否かという問題(いわゆる「無権代理と相続」)について、事例問題の形で問うものである。さらに、無権代理人の責任の成立要件(特に民法117条2項2号本文・ただし書)についても言及が求められる。
【第2問】
 民法210条の隣地通行権(いわゆる囲繞地通行権)と民法280条により設定される通行地役権の異同を問うものである。いずれも、土地通行権としての内容は同一であるが、前者が法定の(要件がそろえば当然に発生する)権利であるのに対して、後者は当事者の設定契約によって成立するという点に大きな違いがある。また、これに対応して、権利の内容や償金の支払についても差が生じることを説明する必要がある。社会的に類似の機能を営む制度について、法律上の要件・効果にどのような違いがあるかを対比しながら学習しているかを試す問題である。
【第3問】
 債権者代位権が、一方で責任財産保全制度として総債権者の利益のための制度と位置付けられながら、他方で代位債権者が事実上の優先弁済効を受けられると言われることについて、その法的構成を説明し、制度趣旨に照らした論評を行うものである。「事実上の」優先弁済効である以上、債権者代位権の制度そのものが優先弁済効を認めているわけではないことを普段の学習から意識しているかが問われている(代位債権者が債務者に対して負う受領金銭の償還義務を受働債権とした相殺という法的構成がとられる)。
【第4問】
 損害賠償の場面で、賠償請求権者が損害賠償の発生原因によって利益をも得たときの損害額調整の制度である損益相殺について、具体例も含めて説明させる問題である。損益相殺される典型例は、不法行為によって死亡した被害者の逸失利益を算出するに際して、将来の生活費を免れることによる利益を損害額から差し引くもの(生活費控除)である。

<民事法(商法)>
第1問
 いわゆるモニタリングボードについて理解しているかどうかを問う出題である。
第2問
 金銭と違い価値評価の余地がある現物に基づいて株式が配分された場合,出資者間の平等が害されかねないことを理解しているかどうかを問う出題である。
第3問
 キャッシュフロー権やコントロール権の配分について,既存の(普通)株式と異なる種類の株式を創設すると,既存の株式の地位が変更されることになるため,その者の同意(株主総会特別決議)が要求されていることを理解しているかどうかを問う出題である。
第4問
 非業務執行取締役の任務から,責任限定の必要性と許容性とを理解しているどうかを問う出題である。
第5問
 社債における集合行為問題と合理的無関心問題とを理解しているかどうかを問う出題である。

<民事法(民事訴訟法)>
 1.は、「証明責任」及び「証明責任の分配」について、その定義から基礎的な知識を取得できているかを問う問題である。「証明責任」の定義には2種類があるが、学説の定義と実務の定義いずれにしても、統一的に定義されていればよいものとして採点した。
 2.は、判例実務における所有権の来歴経過が争われた訴訟で、所有権を主張する当事者が具体的事実として何を主張したらよいのかについて問うている。答えは、所有権取得原因(売買、時効取得など)である。
 3.は、証明責任を負う当事者(本問ではX)が所有権取得原因を主張・立証したとして、それ以降の現在に至る時間の中で何らかの所有権の来歴経過が生じた場合、それを証明するのがYであること(所有権喪失の抗弁)、そして、このことに尽き弁論で主張されていないにもかかわらず事実認定した裁判所は、弁論主義の第1原則に違反していることを説明すべきである。

<刑事法(刑法)>
 設問1は、窃盗罪における不法領得の意思のうちのいわゆる利用処分意思の理解を問うものであり、最決平成16・11・30刑集58巻8号1005頁を念頭に、事案の相違が結論に影響し得るかに留意しつつ、検討することが求められる。
 設問2は、いわゆる承継的共犯の問題についての理解を問うものであり、最決平成29・12・11刑集71巻10号535頁を念頭に、その議論が他の犯罪類型においても妥当し得るかに留意しつつ、検討することが求められる。

<刑事法(刑事訴訟法)>
 今回の問題は,強制処分と任意処分の区別(設問1),逮捕に伴う無令状の捜索・差押え(設問2),訴因変更命令の形成力(設問3),起訴状記載の公訴事実に関する証明の水準(設問4),必要的弁護(設問5)につき,関連する刑訴法の条文及びこれらの問題に関する判例の立場を踏まえつつ,ごく簡潔に論ずることを求めるものである。

<小論文>
 東北大学法科大学院は,法的思考に対する適性と正義・公正の価値観を備えた者を学生として受け入れることを理念としている。小論文試験では,法的思考を身に付けるために必要不可欠な能力,すなわち,資料を正確に理解し,整理・分析してその要点をまとめ,それを文章へと構成する力を評価することを目的としている。なお,この試験は中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会「法科大学院法学未修者等選抜ガイドライン」(平成29年2月13日)において「小論文・筆記試験」に含まれるとされる内容を網羅するよう作成されている。
 本問は,社会におけるリスクに関する議論をもとに社会保険制度について論じる論考を素材として,そこに記された内容及び筆者の見解についての説明を求めるものである。いずれの設問も,筆者の論旨を正確に理解したうえで,設問において説明が求められた内容に対し的確に対応できているかどうか,指示された分量の範囲内で,内容を適切に整理して説明できているかどうかを中心に評価した。また,あわせて,文章構成力・文章表現力を評価した。

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