2020年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について

一般選抜(後期)

第2次選考:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)
問題 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法
出題趣旨 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法

第2次選考:3年間での修了を希望する者(法学未修者)に対する小論文試験
問題
出題趣旨

出題趣旨

<公法(憲法)>
 本問は、憲法76条1項の定める「司法権」に関する基本的な知識と理解を問うものである。問1では、「司法権」の定義の記述を求めた。問2では、民衆訴訟(である住民訴訟)を法定することが、「司法権」に当たらない権限を裁判所に与える意味を持つのではないか、という論点それ自体の記述を求めた。
 基本的なことをきちんと理解した上でわかりやすく説明できるかどうかを確かめるのが、出題の狙いである。

<民事法(民法)>
【第1問】
 時効の援用権者について、改正後民法145条は「当事者」以外にカッコ書において保証人等を列挙するが、そこに挙げられていない後順位抵当権者をどう評価するかを問う。
【第2問】
 (1)は、解除にかかわる基本的な学説の対立の知識を問う。(2)については、直接効果説を前提にしながら解除後に登場した第三者と解除権者との関係を177条の対抗関係として処理する判例の立場への批判的検討を加えることが求められる。
【第3問】
 弁済の提供の効果について改正前民法のもとで論じられていたものが、改正後民法のもとでどのように整理されたのかを問う。413条の2等への言及が期待される。
【第4問】
 賃借人が死亡すると賃借権は相続の対象となるが、使用借権は、別段の合意がないかぎり、借主の死亡によって消滅する(597条3項)。この違いを指摘したうえで、賃借権が共同相続された後の法律関係(賃料支払債務の帰属等)を論じることが求められる。

<民事法(商法)>
第1問
 全ての株主に対して持株数に比例して平等に行われる配当とは異なる,自己株式特有の規制の趣旨の理解を問う出題である。
第2問
 株主代表訴訟の和解において,一部の株主と役員等との間で馴れ合い訴訟が行われる危険性を防止することを理解できているかを問う出題である。
第3問
 「公正な価格」については,いわゆる「ナカリセバ価格」と「公正な価格」とがあるが,それぞれがどのようにして決まり,事業譲渡の場合にはどのように使われるのかについての理解を問う出題である。
第4問
 取締役の退職慰労金も取締役に対する報酬(会社法361条)に当たると解されているが,そうだとすると,取締役会による裁量的決定を行わせないためには,退職慰労金の決定のための一定の基準があり,かつ,それが株主に推知できることが必要であることが理解できているかを問う出題である。
第5問
 取締役会における決議を要求することによって,合議による慎重な意思決定を確保し,他の取締役からの監視を確保することによって,会社の利益の確保を実現するということが理解できているかを問う出題である。

<民事法(民事訴訟法)>
 1.既判力は、訴訟の当事者たる原告・被告間に生じ、原則として、その他の第三者に及ばない(民事訴訟法115条1項1号)。これは、既判力の主観的(主体的)範囲を考える際に重要な原則である。その訴訟において当事者として実体法上の権利義務を争うことができた者以外は。その訴訟の結果に拘束されるのは不合理だからである。既判力の主観的拡張の条文(民事訴訟法115条1項2号ないし4号)は、これの例外である。これらの「第三者」に既判力が及ぶ根拠は、各号によって異なっている。
 2.民事訴訟法115条1項3号の「口頭弁論終結後の承継人」規定が適用されるかどうかを問う問題である。この事例においては、前訴と後訴で訴訟物の客観的側面が同一であり、甲地の占有の移転により当事者適格が承継されたとみることも可能であり、実体法上の依存関係・従属関係からも承継があったものと考えられ、加えて「紛争の当事者たる地位」の承継を認めることができる事案である。
 3.本問では、口頭弁論終結前に、2で述べた「承継」が生じており、被告YがZの承継の事実を主張すれば、Xの訴えは請求棄却となってしまう。もちろん、新たにZを相手取って別訴を提起することも考えられるが、これは迂遠であり、弁護士がついている場合には採用されないのが常であろう。民事訴訟法50条1項により、Xは、Yとの訴訟にZを巻き込むことができる。これを訴訟引受けといい、訴訟承継の一形態である。すなわち、XはZに訴訟を引き受けさせる決定を裁判所に申し立て、その要件たる事実(承継)が存在すれば、裁判所は、決定で、Zに訴訟を引き受けさせることができる。

<刑事法(刑法)>
 本問は、簡単な事案を素材にして、
①問題となる行為を的確に捉える能力の有無、
②知識を活用して事案を適切に解決する能力の有無、
③個々の問題に関連する判例の知識・理解の有無、
④身体に対する罪に関する正確な理解の有無、
⑤共同正犯に関する正確な理解の有無、
⑥共犯関係からの離脱に関する正確な理解の有無、
⑦刑法207条に関する正確な理解(とその前提としての同条の適用が問題になる場面か否かを的確に判断する能力)の有無、
等を確認することを目的としたものである。

<刑事法(刑事訴訟法)>
 設問1は,訴因変更の可否を問うものであり,いわゆる狭義の同一性と単一性の区別を論じたうえで,本問で問題となる後者につき,最判昭和33・2・21刑集12巻2号288頁を念頭に置きつつ検討することが求められる。また,設問2は,訴因変更の要否を問うものである。この問題に関する指導的判例である最決平成13・4・11刑集55巻3号127頁の3段階の判断枠組に即して検討することが求められる。

<小論文>
 東北大学法科大学院は、法的思考に対する適性と正義・公正の価値観を備えた者を学生として受け入れることを理念としている。小論文試験では、法的思考を身に付けるために必要不可欠な能力、すなわち、資料を正確に理解し、整理・分析してその要点をまとめ、それを文章へと構成する力を評価することを目的としている。なお、この試験は中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会「法科大学院法学未修者等選抜ガイドライン」(平成29年2月13日)において「小論文・筆記試験」に含まれるとされる内容を網羅するよう作成されている。
 本問は、科学技術の不確実性に関する論考を素材として、そこに記された内容及び筆者の見解についての説明を求めるものである。いずれの設問も、筆者の論旨を正確に理解したうえで、設問において説明が求められた内容に対し的確に対応できているかどうか、指示された分量の範囲内で、内容を適切に整理して説明できているかどうかを中心に評価した。また、あわせて、文章構成力・文章表現力を評価した。

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