2020年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について(一般選抜(前期))

一般選抜(前期)

第2次選考:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)
問題 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法
出題趣旨 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法

第2次選考:3年間での修了を希望する者(法学未修者)に対する小論文試験
問題
出題趣旨

出題趣旨

<公法(憲法)>
(1),(2)および(4)は,非嫡出子に関する3つの判例を理解できているかを問うものである。(1)では合憲とされた理由を,(2)と(4)では違憲とされた理由を,それぞれ的確に説明できることが求められている。
(3)は,一部違憲(部分違憲)の手法について,その意義も含めて理解できているかを問うものである。

<民事法(民法)>
第1問 物権的請求権の相手方について、その理解を事例問題の形で問うものである。原則としては現在の妨害者または妨害のおそれを生じさせている者を相手方とするものであるが、例外として建物の登記名義人を相手方とすることができるか否かについて、判例(最判平成6年2月8日民集48巻2号373頁)を念頭に置きながら論じることが求められる。
第2問 留置権と同時履行の抗弁権という類似する2つの制度について、それぞれの制度の概要を問うとともに、その共通点(効果として物の引渡しを拒絶できること等)と相違点(目的物が第三者に譲渡された場合の主張の可否等)の理解を問うものである。
第3問 不法行為における使用者責任の要件の一つである「事業執行性(事業の執行につき)」についての理解を問うものである。判例法理を踏まえた説明が求められる。
第4問 親権者の法定代理権の行使に関して、利益相反行為及び代理権濫用について、その理解を事例問題の形で問うものである。利益相反行為に該当するか否か、(必要に応じて)代理権濫用に該当するか否かについて、判例(最判平成4年12月10日民集46巻9号2727頁)を念頭に置きながら論じることが求められる。

<民事法(商法)>
 本年も、未修者が学ぶべき事項の共通水準であるところのコア・カリキュラム(第二次修正案)の内容を出題の水準とした。コア・カリキュラムの内容は、既修者として求める資質に近いものと判断できるため、その内容をそのまま事例として出題したほか、コア・カリキュラム(第二次修正案)の公表された2010年以降、重要とされるようになってきた概念・制度についても出題した。
第1問
平成26年会社法改正〔コア・カリキュラム未収録〕に関する出題である。
平成26年会社法改正で整理されたキャッシュ・アウトの手続としての株式の併合(会社法180条)は、単元株式制度と比較して、少数派株主保護のルールが用意された点の理解を問うた。
〔解答例〕
株式の併合はキャッシュ・アウト(少数派株主の締め出し)の手段となりうることから、単元株式制度の導入以上の少数派株主保護のための制度が用意されている。たとえば、反対株主の端数株式の買取請求権(会社法182条の4)、事前の情報開示(181条, 182条の2)や法令定款違反の株式併合への差止請求権制度(182条の3)などである。
第2問
コア・カリキュラム3-2-3をそのまま事例にして出題した。
株式会社の機関構成の自由と制限について、公開会社と非公開会社の異同、公開会社のうち指名委員会等設置会社の特色などを理解しているかを問うた。
〔解答例〕
指名委員会等設置会社は、社外取締役が中心となった指名委員会(会社法400条3項)が株主総会に提出する取締役選解任の議案を作成することでモニタリングを実行することに期待しているのであるから、特定の株主に役員の選任権を排他的に認めることはできないからである。公開会社は、株式譲渡自由の原則の下、経営者と何らチャネルのない外部者の株式保有を認める制度であるところ、特定の株主に経営支配権の固定化を認めると、外部株主が害されるおそれがあるからである。
第3問
コア・カリキュラム3-2-2-4の2つの項目を並べて出題した。
株主総会決議取消の訴え(会社法831条1項1号)と株主総会決議不存在確認の訴えのうち規範的不存在の場面の相違と近接性について理解を問うた。
〔解答例〕
ともに招集手続の法令違反であり、株主総会決議取消(会831I①)をXはY社に対して提訴することができる。さらに②の場合は、80%もの株主に招集通知を送付しなかったという瑕疵は非常に大きく、当該株主総会はもはや適法な株主総会が開催されたとは評価できない規範的不存在ともいうべき状況にある。この場合は、Xは株主総会決議賦存財確認の訴えを提訴することができ、提訴期間の制限(株主総会決議取消の訴えの場合は3カ月、不存在確認には規制なし)や形成訴訟性などに違いがある。
第4問
コア・カリキュラム3-4-5-5-2をそのまま事例にして出題した。
会社法の重要論点とされる「登記簿上の取締役」の対第三者責任の議論の運用能力を問うた。
〔解答例〕
Yは、A社の取締役ではなく、Yを取締役とする登記は不実の登記となる。Yは登記を承諾しており、不実の登記に加功した者といえることから、会社法908条2項の類推適用によって善意の第三者に取締役でないことを対抗できない。よって、Xは、債権者であるYに対して会社法429条責任の対象となる。ただし、Yは、何らの業務を行っていないため、任務懈怠とそれに対する悪意・重過失が認定されるとしても、仮に監視義務を履行した場合であっても、実質的なワンマン企業のA社の経営者Bの経営判断の抑止が可能であったとは思えず、損害との間の因果関係がなく、429条責任は成立しないと考えられる。
第5問
コア・カリキュラム3-4-4-2に関連する出題である。
2010年以降、裁判例〔東京地判平成30・3・29金判1547号42頁(控訴審:東京高判平成30・10・4労働判例ジャーナル82号24頁)、東京地判平成29・1・26金判1514号43頁、東京地判平成27・6・29判時2274号113頁、横浜地判平成24・7・20判時2165号141頁〕が増え、重要性の増した会社法339条2項について理解を問うた。
〔解答例〕
株主総会によって正当な理由なく解任された役員は、会社法339条2項によって、会社に対して損害賠償の請求が認められている。これは、役員の任期への信頼と株主の会社支配権とのバランスをとったものであり、株主はいつでも役員を解任する代わりに、残りの任期分の報酬という経済的利益を保障したものである。このことから、正当な理由とは、役員の病気や法令違反行為があった場合など、客観的に役員の職務を果たすことのできないような事情に限られ、経営判断の誤りは含まれない。よって、Xの解任に正当な理由はなく、残りの任期8年分の報酬8000万円の請求が認められる。

<民事法(民事訴訟法)>
第1問
訴訟における当事者(本問では被告)の主張が訴訟上どのような意味をもち、それがどのように判決に反映されるかを問うもの。前半は原告の主張を認めるものであり、裁判上の自白として裁判所を拘束する。後半は原告の主張を踏まえつつ、その請求を斥けるために主張されるものであり、抗弁にあたる。そして、本問では同時履行の抗弁が問題となっているため、裁判所は引換給付判決を下すべきことになる。 
第2問
裁判所が審理を尽くしても当事者の主張する事実が存在するかどうか明らかにならない場合の処理を問うもの。問題文で指示された「証明度」とは、ある事実の存在を認めるために必要とされる裁判官の心証(内心の判断)の程度をいい、判例によれば「高度の蓋然性」が要求される。本問では、売買契約の成立を基礎づける事実に係る裁判官の心証がこの証明度に達しなかったものとして、原告の請求を棄却する判決を下すべきことになる。
第3問
訴訟において当事者から提出された文書の取扱いを問うもの。文書は「その成立が真正であること」の証明を要するが(民訴228条1項)、問題文で支持された「形式的証拠力」はこの証明に成功した場合に認められる効力である。本問では、文書の作成名義人とされた原告が文書の成立の真正を否定していることから、その証明が必要となる(方法について、民訴229条1項参照)。被告がその証明に成功するかどうかによって、裁判所が文書を証拠として用いることができるかどうかが左右される。

<刑事法(刑法)>
本問は、簡単な事案を素材にして、
①問題となる行為を的確に捉える能力の有無、
②知識を活用して事案を適切に解決する能力の有無、
③個々の問題に関連する判例の知識・理解の有無、
④未必の故意に関する正確な理解の有無、
⑤窃盗罪(特に、死者の占有)に関する正確な理解の有無、
⑥横領罪(特に、盗品の処分代金に関する所有の帰属や、横領罪における委託信任関係の意義)に関する正確な理解の有無、
等を確認することを目的としたものである。

<刑事法(刑事訴訟法)>
 本問は,退去強制と検面調書の証拠能力に関する最判平成7・6・20刑集49巻6号741頁と,同判決の判断枠組に即して検討を行った東京地判平成26・3・18判タ1401号373頁を素材として作題したものである。

<小論文>
 東北大学法科大学院は、法的思考に対する適性と正義・公正の価値観を備えた者を学生として受け入れることを理念としている。小論文試験では、法的思考を身に付けるために必要不可欠な能力、すなわち、資料を正確に理解し、整理・分析してその要点をまとめ、それを文章へと構成する力を評価することを目的としている。なお、この試験は中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会「法科大学院法学未修者等選抜ガイドライン」(平成29年2月13日)において「小論文・筆記試験」に含まれるとされる内容を網羅するよう作成されている。
 今年度は、社会学という学問領域をテーマとした論考の中から「社会的事実」について論じた箇所を取り上げた。問1、問2ともに、文章の内容を正確に把握したうえで、筆者の見解に即してそれを説明することを求めたものである。傍線部の差し示す内容を正確に把握しているかどうかに加え、その内容を自分の言葉で整理し、指示された分量の範囲内で文章にまとめることができているかどうかを評価した。

< 前のページに戻る

△ このページの先頭へ