2019年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について

追加募集

第2次選考:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)
問題 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法
出題趣旨 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法

第2次選考:3年間での修了を希望する者(法学未修者)に対する小論文試験
問題
出題趣旨

出題趣旨

<公法(憲法)>
 人権総論の論点の1つに「人権の主体」論がある。本問はそのうちから、ほぼすべての教科書で取り上げられている公務員に焦点を当てる。
 第1問は、伝統的に論じられてきた「特別権力関係」論の理解とそれに対する批判の論拠を問うものである。「日本国憲法の下では」という条件が付いているので、日本国憲法がどのような原理に立っていかという点についても言及することが求められている。
 現在の法制では、公務員の争議行為は全面禁止されているが、この状況を確定したのが、全農林警職法事件最高裁大法廷判決(最大判昭和48・4・25刑集27巻4号547頁)である。
 第2問(1)は、この判決がどのような論拠を挙げて、公務員の争議行為の全面禁止を合憲と判断したのかを問うている。公務員にかかわる労働基本権の基本的理解に欠かせない論点である。全農林警職法事件最高裁大法廷判決は、都教組事件最高裁大法廷判決(最大判昭和44・4・2刑集23巻5号305頁)から判例変更をしたことでも知られている。そこで第2問(2)は、憲法39条とのかかわりで、「判例変更」の意義を問うた。
 第3問は、公務員の政治活動の自由を問うものである。いわゆる堀越事件と宇治橋(世田谷)事件では、ほぼ同等の行為が問題となったが、前者は無罪、後者は有罪となった。その論理はどのようなものなのか、判例の的確な理解がここでは求められている。

<民事法(民法)>
【第1問】
 胎児には権利能力がないことが原則であることを根拠条文と共に指摘したうえで、不法行為及び相続の分野に置かれている、胎児の権利能力についての例外規定の内容及びその趣旨を説明することが求められる。
【第2問】
 動産物権変動における対抗要件、動産の即時取得の制度趣旨、動産の即時取得が成立する要件といった点についての理解を、具体的な事案を通じて問うものである。
【第3問】
 賃貸借の目的物が第三者に譲渡された場合の、賃貸借の対抗力に関して問うものである。原則としては、賃貸借は第三者に対抗できないことから、目的物が譲渡されれば譲受人からの明渡し請求に賃借人は応じなくてはいけないという点を指摘したうえで、例外規定である民法605条及び借地借家法10条の内容を説明することが求められる。
【第4問】
 直接の加害者以外の者が、他人の行為について不法行為責任を負う場面について、使用者責任や監督義務者責任などの具体的な条文を1つ挙げながら、責任を負う理由、責任を負う要件について説明することが求められる。
【第5問】
 実親子関係の成立における嫡出子と非嫡出子の扱いについて、母子関係については分娩の事実により成立するという共通点があること、父子関係については、嫡出子は原則として嫡出推定により父子関係が成立するが、非嫡出子については認知により成立するという相違点があることを説明することが求められる。

<民事法(商法)>
第1問
 株式発行無効事由が何か(基本的には,本来的に発行できないはずの株式である場合と,事前の差止の機会を奪った場合との2つ)を理解しているかを問う出題である。
第2問
 合併無効事由が何かについて,第1問で取り上げた株式発行無効事由に比較して狭くなることを踏まえつつ,理解できているかどうかを問う出題である。
第3問
 取締役には,他の取締役に対する監視監督義務があり,その履行の手段として取締役会招集請求権が与えられていることを理解できているかどうかを問う出題である。
第4問
 代表訴訟の趣旨からして,どの範囲の株主に提訴権を与えるべきかについて,濫用の危険性と衡量しつつ,理解できているかどうかを問う出題である。
第5問
 譲渡制限株式の相続は,「譲渡」に該当しないから取締役会等の承認なくして包括承継が発生してしまうため,非公開会社としての閉鎖性を維持するためには売渡請求が必要になることを理解できているかどうかを問う出題である。

<民事法(民事訴訟法)>
 1.は、主張責任とその分配の知識を問う問題であるが、その基本は、証明責任及びその分配とパラレルに論じられていることを理解しているかが重要である。
 2.は、所有権を主張するものが具体的に主張・証明しなければならない事実は所有権の取得事由であり、それのみで足りるとするのが判例である。現時点での所有権のありかについては、所有権取得事由を主張・証明した当事者の相手方が「所有権喪失の抗弁」として主張・証明しなければならない。
 3.は、弁論主義の第1原則(主張原則)は、読み替えれば、証拠資料による訴訟資料の代替禁止ということを指すのであるから、大阪地方裁判所には、訴訟資料=主張がされない事実を証拠資料=Bの証言のみで認定するという弁論主義違反をおかしたという問題がある。

<刑事法(刑法)>
 本問は、簡単な事案を素材にして、
①問題となる行為を的確に捉える能力の有無、
②知識を活用して事案を適切に解決する能力の有無、
③個々の問題に関連する判例の知識・理解の有無、
④共同正犯に関する正確な理解の有無、
⑤刑法における因果関係に関する正確な理解の有無、
⑥強盗殺人罪(特に、その着手時期)に関する正確な理解の有無、
⑦監禁罪に関する正確な理解の有無、 等を確認することを目的としたものである。

<刑事法(刑事訴訟法)>
 第1問は,刑訴法87条1項の「勾留の理由」及び「勾留の必要」につき,刑訴法60条1項各号に明記されている事情及び実務上一般に考慮されているその他の要素の内容を明らかにしつつ,各々の具体的な位置づけを行うことを求めるものである。
 第2問は,接見指定権限が「公訴の提起前に限り」(刑訴法39条3項)認められることの意義につき,刑訴法39条1項の接見交通権が保障されている趣旨(憲法34条前段との関係を含む)を踏まえつつ論ずることを求めるものである。
 第3問は,憲法38条1項が自己負罪拒否特権を保障する一方,それを超えて,刑訴法311条1項・198条2項が被疑者・被告人に包括的黙秘権を保障している構造を踏まえたうえで,両者の差異につき検討することを求めるものである。
第4問は,判例上,先行手続の違法と違法収集証拠排除法則の適用に関して従来から併存してきた違法性の承継論と毒樹の果実論の関係につき,検討することを求めるものである。

<小論文>
 東北大学法科大学院は、法的思考に対する適性と正義・公正の価値観を備えた者を学生として受け入れることを理念としている。小論文試験では、法的思考を身に付けるために必要不可欠な能力、すなわち、資料を正確に理解し、整理・分析してその要点をまとめ、それを文章へと構成する力を評価することを目的としている。
 本問は、医学研究倫理に関する論考を素材として、そこに記された内容及び筆者の見解についての説明を求めるものである。いずれの設問も、筆者の論旨を正確に理解したうえで、設問において説明が求められた内容に対し的確に対応できているかどうか、指示された分量の範囲内で、内容を適切に整理して説明できているかどうかを中心に評価した。また、あわせて、文章構成力を評価した。

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