2019年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について

一般選抜(後期)

第2次選考:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)
問題 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法
出題趣旨 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法

第2次選考:3年間での修了を希望する者(法学未修者)に対する小論文試験
問題
出題趣旨

出題趣旨

<公法(憲法)>
 本問は,学問の自由および大学に関する判例を理解できているかどうかを問う問題である。
 第1問では,ポポロ事件最高裁判決(最大判昭和38年5月22日刑集17巻4号370頁)が学問の自由および大学の自治をどのように捉えたのかを,当該事件の事案も踏まえつつ,的確に説明できることが求められている。
 第2問では,旭川学力テスト事件最高裁判決(最大判昭和51年5月21日刑集30巻5号615頁)が,学問の自由(憲法23条)に含まれるとした「教授の自由」をどのように捉えたのかを的確に説明できることが求められている。
 第3問では,大学における単位授与認定行為が司法審査の対象となるか否かについての富山大学事件最高裁判決(最三小判昭和52年3月15日民集31巻2号234頁)の判旨を的確に説明できることが求められている。なお,富山大学事件は,一般に,「部分社会の法理」を採用したものとして理解されているが,この「部分社会の法理」については,学説上,部分社会という一般的・包括的な枠組みで論じるのではなく,大学であれば大学の自律性・自主性を支える憲法23条の性質を考慮に入れて検討するべきであるとの見解が唱えられていることに注意されたい(但し,本問では,この点に触れることまでが求められているわけではない)。

<民事法(民法)>
【第1問】
 不動産の譲渡担保権者が被担保債権の弁済期前に目的不動産を処分した場合の法律関係について、具体的事例に即して分析させる問題である。設定者から処分の相手方への請求の可否が問われているので、設定者が譲渡担保の設定によって(被担保債権を弁済するまで)物権的請求をなしえなくなるかを検討し、それを踏まえて、譲渡担保権者が被担保債権の弁済期前にした処分が請求の可否に影響するかを論ずることが求められる。ここでは、まず処分の効力を検討した上で、これを有効と解するのであれば、処分が設定者の地位にいかなる影響を与えるかを検討し、これを無効と解するのであれば、民法94条2項を類推適用できるかを与えられた事実関係に即して検討することが求められる。なお、最判平成18年10月20日民集60巻8号3098頁が傍論で被担保債権の弁済期前における譲渡担保権者の処分権能につき判示しているが、その傍論に従って解答することを要求する趣旨ではない。
【第2問】
 契約法・債権総論・相続法の知識を用いて事例を分析させる問題である。事例は債権者代位権に関する最判昭和50年3月6日民集29巻3号203頁の事案を単純化したものであるが、代位の可否を論ずる前提として、不動産売主に共同相続が生じた場合の売買代金債権及び所有権移転登記手続義務の帰趨及び両者の同時履行関係に関する分析が必要となるので、小問(1)(2)ではそうした分析を求めている。(3)では、それを踏まえて、同時履行の抗弁を除去するための他の共同相続人に対する請求の法律構成を検討し、特に買主の登記手続請求権の代位行使については、債務者(買主)が無資力とはいえないことを意識しつつ、保全の必要性という要件を充足するか否かを論ずることを求めている。
【第3問】
 「和解と錯誤」に関する説明問題である。いわゆる動機の錯誤(改正民法95条1項2号)の一般論を踏まえつつ、和解契約締結の意思表示について錯誤の主張を特別に制約すべきか、それはなぜなのかを簡潔に論ずることが求められている。
【第4問】
 夫婦間の子から不貞行為の相手方への慰謝料請求の可否について簡潔に論じさせる問題である。一見すると、親子関係・不貞行為・離婚など家族法の問題という色彩が強いが、慰謝料請求の法的根拠が不法行為であることを踏まえ、家族法的な考慮を不法行為法の枠組み(保護法益・因果関係等)に乗せて問題を分析することが求められている。

<民事法(商法)>
第1問
 表見代表取締役の制度について,理解できているか否かを問う出題である。
第2問
 自己株式取得規制に違反した場合,および,利益供与規定に違反した場合についての役員等の責任について,理解できているかどうかを問う出題である。
第3問
 間接取引については,会社法356条1項3号に規定されているが,同項2号の直接取引とどのように違うのかについて理解できているかどうかを問う出題である。
第4問
 公開会社においては,基本的に取締役会が株式発行による資金調達について決定することができるが,取締役会の裁量に委ねられないような場合(たとえば,いわゆる主要目的ルールなど)について理解できているかどうかを問う出題である。
第5問
 株式交換においては,事業の移転がなされるわけではなく,株式が移転するに過ぎないので,会社債権者にとっては基本的にリスクの大きな変化が発生しないことを理解できているかどうかを問う出題である。

<民事法(民事訴訟法)>
 1.は、債務不履行による(全損害1 億円の内)金3000 万円の損害賠償請求権である。 新訴訟物理論を採る場合は、それなりの解説を経たうえで(全損害1 億円の内)金3000万円の損害賠償請求権となろう。
 2.は、一部請求が全額認容された場合に、当該(前訴)判決が「3000 万円を超える損害賠償請求権の不存在」という既判力の双面性をもつことになるのか、つまり残部請求に前訴判決は及ぶかどうかが問題となる。判例及び多数説は、本問のように明示で一部請求をしている場合には、前訴判決の既判力は残部請求訴訟に及ぶことはないとする。つまり、あたかも訴訟物が分断されたかのような取扱いを肯定している。したがって、Yの主張は正しくない。
 3.は、同じく明示の一部請求がされても、それが棄却または一部棄却されていた場合の問題である。判例の「明示の一部請求理論」では、一部請求訴訟に対する判決の既判力は及ばないのであるが、判例は、一部請求訴訟が(一部)棄却された場合には、実体法の請求権がもはや残存しないという信頼が生じており、特段の事情のない限り、残部訴訟を提起することは(類型的に見て)信義則に違反するものであるとする。学説では、これをも既判力の問題としつつ、判例と同様の帰結を説く見解もある。

<刑事法(刑法)>
 本問は、簡単な事案を素材にして、
①問題となる行為を的確に捉える能力の有無、
②知識を活用して事案を適切に解決する能力の有無、
③個々の問題に関連する判例の知識・理解の有無、
④現住建造物等放火罪の成立要件に関する正確な理解の有無、
⑤不能犯に関する正確な理解の有無、
⑥中止未遂に関する正確な理解の有無、
等を確認することを目的としたものである。

<刑事法(刑事訴訟法)>
 設問1は,最決平成6・9・16刑集48巻6号420頁を念頭に置き,強制採尿令状による採尿場所への強制連行の可否を問うものである。
 設問2は,最決昭和56・4・25刑集35巻3号116頁を念頭に置き,覚せい剤の自己使用の訴因につき,日時,場所及び方法の概括的記載の可否を問うものである。

<小論文>
 東北大学法科大学院のアドミッション・ポリシーが,豊かな人間性や感受性,幅広い教養と専門的知識,柔軟な思考力,社会や人間関係に対する洞察力,国際的視野などを求めていることに鑑み、中井久夫『新版・分裂病と人類』(東大出版会、2011年)に収められた文章(初出・1975年)から出題した。著者は、著名な精神科医であるが、その幅広い教養と多分野にわたる造詣の深さにより著述家としても抜きん出た存在であり、課題とした著作は、名著の誉れ高いものである。
 引用は「執着気質的職業倫理」に関して論じた文章であり、著者は、この言葉によって日本人と日本文化の傾向を分析する。この「執着気質的職業倫理」のもたらす指向が、中国文化圏や欧米においてみられる指向とどのように異なる特徴を持ち、日本社会においてどのような役割を果たしてきたかを、豊富な例と対比によって描き出す文章である。問題文は、筆者の凝縮したかつ豊穣な文章から、筆者の分析内容を抽出する読解力をみる出題となっている。

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