2019年度 東北大学法科大学院入学試験問題及び出題趣旨について(一般選抜(前期))

一般選抜(前期)

第2次選考:2年間での修了を希望する者(法学既修者)に対する法学筆記試験(法律科目試験)
問題 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法
出題趣旨 憲法民法商法民事訴訟法刑法刑事訴訟法

第2次選考:3年間での修了を希望する者(法学未修者)に対する小論文試験
問題
出題趣旨

出題趣旨

<公法(憲法)>
 本問は、「報道の自由」・「取材の自由」・「取材源秘匿権(狭義)」に関する基本的な憲法の知識と理解を問うものである。問3と問4で、「取材源秘匿権(狭義)」の憲法的保障に関して、理論的見地からと判例法の現状という見地から、説明を求めた。問1と問2では、その前提として、「報道の自由」・「取材の自由」の憲法的保障に関してと、「表現の自由」の憲法的保障についての「萎縮効果」論に関して、説明を求めた。
 基本的なことをきちんと理解した上でわかりやすく説明できるかどうかを確かめるのが、出題の狙いである。

<民事法(民法)>
第1問 簡単な事例を素材に検討させることにより、法律行為の取消しの場面において転得者が出現した際の静的安全と動的安全との調和に関し、いわゆる絶対的構成と相対的構成の内容とその優劣の論述を通じて、その理解を問うものである。一つの考慮要素(例えば取引の安全)だけを挙げて単純に論じるのではなく、自分が支持する構成の短所への手当てを意識して論じていることが重要である。
第2問 物権法上の基本概念である「承継取得」と「原始取得」に関する基本的理解を問うものである。具体例を挙げるだけでなく、どうして両者の区別がされるか(所有権への制約を引き継ぐかどうかという観点)を踏まえて、説明をすることが求められる。
第3問 典型担保物権である質権と留置権についての比較を行わせることにより、典型担保物権の性格や特徴についての理解を問うものである。それぞれの基本的な性格を踏まえつつ、共通点と相違点という指示に従って整理することが求められる。
第4問 制限種類債権について、種類債権と対比して説明させることにより、物の引渡し債務について、債務の内容の確定、履行不能となる場合、物の保存に求められる注意義務の程度といった問題についての理解を問うものである。制限種類債権は解釈上の概念であるため、唯一の答えが求められるわけではないが、目的物が「制限」されているということの意味、そのことにどのような効果を結びつけることが考えられるかについての理解が問われる。
第5問 当事者の死亡により消滅する権利義務関係の例を挙げさせることで、各条文の個別の理解を離れた民法全体への視点を試そうとした問題である。代理権の消滅のほか、委任、使用貸借等の典型契約類型の中で死亡が終了事由となっているもの、扶養請求権のような一身専属権のうちの二つを挙げることが期待される。

<民事法(商法)>
第1問
 自己株式の取得は,配当と並ぶ会社財産の株主への分配行為であるが,持ち株割合に応じてなされる配当と異なり,会社に対して株式を売却した株主に対してのみ分配がなされることになるため,分配機会の平等を確保することが,株主平等原則から要求されることを説明してほしい。
第2問
 取締役の善管注意義務の一部として,他の取締役に対する監督義務があり,これに違反すると対会社責任(423条)を負う可能性があることを説明してほしい。
第3問
 略式合併等以外であれば,その承認のための株主総会特別決議が必要とされ,対価が不相当な場合は,特別利害関係人の関与した著しく不相当な決議(831条1項3号)として承認決議取消訴訟によって,対価の相当性を争う可能性が残されている。これに対し,略式合併等の場合には,株主総会特別決議の承認が不要とされているため,対価の相当性を争う可能性が差止請求以外のルートに残されていないことを説明してほしい。
第4問
 業務監査は,取締役の職務の執行が法令・定款を遵守して行われているかどうかを監査することであり,会計監査は,定時株主総会に提出される計算書類およびその附属明細書を監査することである。業務監査については,適法性監査にとどまり,妥当性監査までは基本的に要求査定ないことも説明されればなおよい。
第5問
 金銭以外の現物については,その価格の評価が必ずしも不明確ではないため,過大評価がされてしまうと,出資者間の不公平が生じることや,会社財産が確保されないことを説明してほしい。

<民事法(民事訴訟法)>
 問題1は、前訴確定判決の訴訟物(代金債権)と後行訴訟の訴訟物(代金債務=代金債権)とが既判力関係にあることに気づいたうえで、前訴で取消権の存在を知って裁判所が判決した内容が、その基準時以降に取消権の行使によって影響を受けるか否かを問う問題である。判例は、実体法上の形成権それぞれにこの問題を解くという姿勢を示してはいるものの、取消権については、判決の基準時後の主張は許されないとしている。
 問題2は、1と同じく、判決の基準時後の形成権行使という、既判力の時的限界(範囲)の問題である。建物買取請求権について判例は、基準時後の行使を認めている。
 問題3は、2の展開問題であり、時機に後れた攻撃防御方法の規定の適用の有無を問う問題である。建物買取請求権の行使という主張と同時履行の抗弁権の行使という主張それぞれにつき解答すべきである。

<刑事法(刑法)>
 本問は、簡単な事案を素材にして、
①問題となる行為を的確に捉える能力の有無、
②知識を活用して事案を適切に解決する能力の有無、
③個々の問題に関連する判例の知識・理解の有無、
④窃盗罪の成立要件(特に、不法領得の意思)に関する正確な理解の有無、
⑤強盗殺人罪に関する正確な理解の有無、
⑥中止未遂に関する正確な理解の有無、
等を確認することを目的としたものである。

<刑事法(刑事訴訟法)>
 本問は,共犯者の自白と補強法則の適用につき問うものである。解答に際しては,この問題に関するリーディング・ケースである最大判昭和33・5・28刑集12巻8号1718頁に即して検討することが求められる。

<小論文>
 東北大学法科大学院は、法的思考に対する適性と正義・公正の価値観を備えた者を学生として受け入れることを理念としている。小論文試験では、法的思考を身に付けるために必要不可欠な能力、すなわち、資料を正確に理解し、整理・分析してその要点をまとめ、それを文章へと構成する力を評価することを目的としている。なお、この試験は中央教育審議会大学分科会法科大学院特別委員会「法科大学院法学未修者等選抜ガイドライン」(平成29年2月13日)において「小論文・筆記試験」に含まれるとされる内容を網羅するよう作成されている。
 今年度は、社会学という学問領域をテーマとした論考の中から「社会的事実」について論じた箇所を取り上げた。問1、問2ともに、文章の内容を正確に把握したうえで、筆者の見解に即してそれを説明することを求めたものである。傍線部の差し示す内容を正確に把握しているかどうかに加え、その内容を自分の言葉で整理し、指示された分量の範囲内で文章にまとめることができているかどうかを評価した。

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