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東北大学法科大学院メールマガジン

第75号 05/06/2011

◇東北大学法科大学院メールマガジンご購読者の皆さまへ

東北大学法科大学院長 佐藤 隆之

 皆さまにおかれては,東北大学法科大学院メールマガジンをご購読下さいまして,誠にありがとうございます。

 3月11日(金)に発生した東日本大震災により,東北大学法科大学院は,片平キャンパスにある校舎(エクステンション教育研究棟)の外壁剥落や窓ガラスのひび割れなどの被害を受けましたが,14日(月)までに電気,水道が復旧しましたことから,15日(火)以降は,安全確認の上,自習室及び法政実務図書室の利用を再開するなど,学習環境の再建に努めてまいりました(その後,全国の法科大学院から,新修了生に対して,学習場所ご提供のお申出を受け,大変励まされました)。

 また,4月4日(月)には,修了生の弁護士の方のご協力も得て,震災により中断していた学習支援を再開し,教員によるオフィス・アワー(学生から質問や相談を受ける時間)も,在学生のみならず,修了生をも対象として行っております。

 そして,本日5月6日(金),東北大学法科大学院は,入学式を挙行して,77名の新たな仲間を迎え入れ,9日(月)からは,通常の授業を開始いたします(例年に比べ,前期授業の終了時期は若干遅くなりますが,授業の回数に変わりはありません)。

 今回の大震災を経て,私たちは,在学生,そして修了生とともにある法科大学院として,これからも学習環境の再建と学習支援の充実に努める所存です。

 このメールマガジンにおいても,そのような私たちの取組みをご報告してまいります。

 皆さまにおかれては,引き続き東北大学法科大学院にご関心をお持ちいただき,私たちの取組みを見守って下さいますようお願い申し上げます。

◇東北大学法科大学院新入生の皆さまへ

東北大学法学研究科長 水野紀子

 4月から法学部長・法学研究科長をつとめております水野紀子です。今年度は,まず東日本大震災のことから話を始めざるを得ません。新入生の皆さんにも,この大震災により被災された方,あるいはそのご親族,ご友人に被災された方がおられるかもしれません。被災された皆様に衷心よりお見舞い申し上げます。また東北大学に対し,多くの皆様から物心両面にわたる心温まるお見舞いを頂戴し,心より厚く御礼申し上げます。多くの方にご心配をいただきましたが,本学法学部・法学研究科・専門職大学院の在学生,教職員全員の人身被害はありませんでした。建物などの物的な被害はありましたが,学生が安全に勉学にいそしめるよう,目下,全力を挙げて復旧に取り組んでいます。さらに未曾有の被害を出した被災地にある国立大学法人として,被災された方々のためにできることを探りながら,地域社会の再生のために努力しております。

 昨年の夏に完成した新しいエクステンション棟もわずかな表層クラックは生じましたが,安全に利用できることが確認されています。ここで,法科大学院の新入生をお迎えできたことを,大変嬉しく思います。東北大学法科大学院は,全国的にも屈指の優れた研究者,実務家のスタッフを擁しています。法科大学院のコミュニティを構成する一人として,優れた,そして信頼できる法律家となるために研鑽を積む仲間として,新入生の皆さんを歓迎いたします。

 法律学は,大人の学問だとよく言われます。青少年があこがれるような美しい理想を追求するものではなく,人間社会のどろどろとした紛争をとりあえず解決するための,つまり人間が共生するための妥協の学問であるからです。私の専攻は民法ですが,たしかに民事法は,共存のルールを提供し,紛争が生じたときには,そのルールに従って解決する基準を与えるもので,妥協と共生の秩序です。

 フランス語で判決のことをアレと言いますが,これは,アレテ,つまり止めるという動詞の名詞形です。紛争が生じると,とかくエスカレートします。人間は自分が被害者だと思い,自分に正義があると思ったときに,もっとも残酷な加害行為をしがちです。当事者がそうなってしまった紛争のエスカレーションを,判決はともかく止めます。止めることそのものに,大きな意義があります。しかしそれだけなら圧倒的な力の持主が,つまり国家権力が力づくで止めたのと変わりないでしょう。たしかに判決の背景には,裁判所が体現する国家権力があります。けれども判決が権威をもち,人々がそれに従って行動して社会を構築していこうと振る舞うのは,その基準になる法が正義を体現するものとして,信頼できる基準として,客観的に存在しているからです。

 法律学は,言葉の学問です。人間は,言葉がなければ,対象を認識すること自体ができません。言葉に縛られ,言葉で世界を認識する,言葉の奴隷である存在です。たとえば自由という言葉,平等という言葉が人々に共有されることによって,世界はどれほど変わったでしょうか。しかしこのような短い言葉だけでは,社会は構築できません。人間のかたちづくる社会は非常に複雑で,そこに存在する様々な価値は,きわめて多様でアンビバレントなものです。法は,これらの価値に調和を保たせる,多様で豊かな内容をもつ存在であり,人類の蓄積してきた知恵を凝縮させたものです。

 また法は,固定したものではありません。法は,現実に適用されることによって生きる存在です。条文が変わらず,たとえ判例の文言も変わらなくても,事実とのフィードバックを通じて不断に変容しています。人間が,たえず細胞が入れ替わるけれども,その人としての同一性を一貫して保つように,法もそのようにして,日々,生きています。またたとえば人間の身体が,どこかに故障が生じたらそれに代替して補償する働きを生じる,いわゆる複雑系の体系であるように,法も,複雑系の存在です。不都合な部分が生じたら治療ならぬ修正をしなくてはいけませんが,その修正のもたらす作用を十分に考えなくてはなりません。おそらく法が体現している人間の社会そのものが,複雑系の存在だということなのでしょう。

 このように考えてくると,法律学は,大人の学問だといっても,実はもっとも理想を追求する学問であるように思います。さまざまな矛盾や限界を内包した人間社会を,それでもあくまでも肯定的に抱え込んで,その哀しみすら消化して,より平和な将来につなげていこうと努力する学問であるからです。

 法曹の実務家は,このような法の作用の最前線にいます。法の言葉,法のルールは学んで自分のものにしなくてはなりませんが,それを機械的に適用することは,よほど固まった領域でなければ,そもそも原理的に不可能です。そのような領域はごく限られており,実際に裁判には現れてこないでしょう。定型的ではない新たな事態に適用したときに,その法が生きるのであり,それは法曹というプロフェッショナルであってはじめて可能な創造的な作業です。法曹は,法の言葉に盛り込まれた価値とその限界を熟知したプロフェッショナルであるからです。

 法科大学院に入学した皆さんは,これからそういうプロフェッショナルを目指して努力されるわけです。その過程は,決して楽な道ではないでしょう。でも周囲には,仲間がいます。人間は,一人ではとても弱い生物ですが,集団で協力することによって,地球上で最強の生物になりました。被災地に寄せられる連帯にその力を改めて感じます。このたびの災害もきっと乗り越えていけるでしょう。同じ東北大学の仲間として,われわれ教員一同も皆さんに協力しようと待機しています。長年,東北大学は,素晴らしい法曹を養成してきました。先輩たちの優れた伝統を受け継いで,そしてできれば改良して,次の後輩たちに手渡してほしいと思います。

◇平成24(2012)年度東北大学法科大学院入試説明会の開催について

東北大学法科大学院では,本学の学生を対象として,下記の通り,入試説明会を開催します。

 日時: 5月13日(金) 12:00〜12:50
 場所: 東北大学川内南キャンパス 法学部第1講義室
 内容: 東北大学法科大学院の概要
   平成24(2012)年度法科大学院入学者選抜の概要

事前の申し込みは必要ありません。

東北大学法科大学院の受験を希望される方はもとより,法曹の仕事に関心のある方,法科大学院への進学を考えている方など,多くの方のご参加をお待ちしています。

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発行:東北大学法科大学院広報委員会

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